第13話 「初見大会」の「大会」ってなんだよ…。
5月ぅ~!
と言ったらぁ~!?
ゴールデン~!
Weeeeeeeeeek!!!
なんてありませんよーはい全部練習でーすわかってるねんでー。
というわけで早いものでもう5月、俺たちがこの吹奏楽部に入部して一ヶ月が経った。
今月は一回ゲネプロ(といっても音楽室で通し練習)もあるし、中間テストもある。
まぁつまりは練習、テスト勉強とゴールデンウィークだからといってダラダラ遊ぶことはできない。
ん?テスト勉強?全然やってないけど、よ、余裕っしょ?(遠い目)
…
一昨日配られた、5月のゴールデンウィークの予定。
1日:まだ決まっていなかった第一部二曲目とアンコール、まだ楽譜が準備できていなかった曲の配布・初見大会。
2日:二部全般
3日:大会でやる予定の課題曲(マーチ「ブラック・スプリング」)と自由曲(トーマの祀り)。
4日:一部全般
5日:三部全般
だそうだ。
また、随時(主に午後)二部の演出の打ち合わせや練習も入ってくる。
なかなかにいろいろ入ってますね。
…
まず本日5月1日は曲決めと楽譜配布だ。
まだ配られていなかった第二部(太河ドラマ特集)の「軍師Can Do」「幕張殿の9人」、そして3部の「ウエストコースとの情勢」が配られました。
うん、やっぱ邦人曲いいよね、太河曲はテンション上がるよ。特に「軍師Can Do」大好き!!!
でも…俺、初見すんげーニガテなんだよな…。
続いてまだ決まっていない二曲を決める。
まず第一部の2曲目は、今年の課題曲をもう一曲やろう!ということになったので、「ならしのふぁんたじぃ~吹奏楽のための~」「メガドライブ」「ヒヤリハットマーチ」から多数決で決めることになりました(課題曲Vの「うぇ~いの記憶 - 吹奏楽のための」は難しすぎるので除外)が、投票の結果「メガドライブ」に決定。
アンコールは定番の「聖条旗は永遠だね!」と「B鉄道でGO!」の一騎打ち。
先日見た福浦市吹の定演の影響もあり「聖条旗は永遠だね!」が結構な支持率。
ただし「聖条旗」の不安要素は、去年の定演のアンコールでもやってたってこと。
「B鉄道でGO!」の不安要素はアドリブ。
「アドリブ出来る?」「いやいや、急にはできないっすけど…」「でもやってみたいよね?うまくやれたらかっこいいよね?」という不安要素。
ジャズ好きにはたまんないすけど、普通の吹奏楽部員にいきなりアドリブやれ!っていわれてもなかなか難しいものだ。
自由にやれって言われても、どう自由にやっていいのかわかんないっす。
しかし結局「聖条旗」は去年やったよね?という意見がブワーッと広がっていったので「B列車」に決定。
これにより今年の定期演奏会の曲目がすべて決まった。
楽譜係がさっそく楽譜を準備しはじめ、30分後には各パートリーダーに配られた。
楽譜を受け取りパートごとに散っていく面々。
俺らペットパートもシオさんの周りに集合する。
「さてと…!」
なぜかニカニカ笑っているシオさんは、楽譜を見てまたニヤニヤしています。
「このあとは初見大会だねぇ。楽しいよねぇ、初見」
「えー、楽しいですかぁ?必死になってても何かいつの間にか終わっちゃってて、よくわかんないです」
口を尖らせて言うユリを見て、シオさんはまたニカッと笑います。
「それがいいんじゃん!自分が脱落してしまうことによって曲自体が止まってしまうかもしれないスリル、そしてあの「やれるもんならやってみな?これくらいもできないの?」って煽ってくる初見楽譜へ立ち向かう感じ、あぁ、初見大会楽しいよねぇ。私大好き」
グッっと拳を作るシオさんの目はキラッキラ。
うーん…と考え込んでるユリと、「私も結構スリルあって好きでーす!」と両手を上げるカナさん。
俺はというと…
「…はぁ…」
「ん?レージどしたの?ため息なんてなんてついちゃって!」
「あぁ、カナさん。ソーリャため息ダッテツキタクナーリマースヨ」
「今日も初見?明日も初見?きっと明後日も初見?毎日毎日同じことの繰り返しで、レージは生きてる気がしないんだ?」
「…あの頃はよかったっすよね。また復活してくんないすかね、笑○犬…」
「ノリいいなぁ、あんたら」
あー、やっとシオさんのおかげでこの流れが終わった。
「シオさん、俺初見すげーニガテです」
「んー、まぁ得意不得意はあるだろうけど、ありゃー経験で慣れていくものだと思うけど?」
「慣れないですよー(´ε`)」
「うー、そんな顔されても…そうだ!ミズホ、ミズホはどうなん?」
そうか!高校から楽器を吹き始めたミズホさんなら、なんかコツとかわかるかも!
「えっと、私も正直レイジ君と同じであんまり得意じゃないんだ。ゴメンね」
そんなやんわりと言われたら「っはぁ~ぃ!変なこと聞いてすみませんでっしたぁ~」としか言えない。
んー、とりあえず初見ニガテ。
作者もニガテだった。
頭では解ってるんだけど指が反応してくれない。
脳からの命令がうまくいっていない?この年にしての老化現象?
そういえば最近、ものの名前が出なくなっているかも…あーそういや昨日「フレキシブルクリーナー」って名前が数分出てこなかったわ。
※ちなみにフレキシブルクリーナーとは、管楽器の中を洗うブラシです。
掃除を怠っていると、ブラシの先端に灰色に緑っぽいサビのような色が混じったドロッとしたゲル状のものがくっついてくるので注意です。
ちなみに昔、作者の友人が学校のバリトンサックスを掃除していたら、中からご飯粒が出てきたのは今はもういい思い出(遠い目)。
「初見はやっぱ慣れだよ。イヤイヤ言ってないで自分から取り組みなさい!」
「はぁ~い…」
しぶしぶ返事をしつつ目の前に差し出された楽譜を受け取り目を通します。
「げげげげげげ!なんすかこのウエストコースの第三楽章!めっちゃ黒い(音符が多い)じゃないでs」
「これっくらいで黒いとか言わせないから!」
遮られる心の底からの叫び。
びしっ!っと突き出されたシオさんの人差し指が目の前に。
「もうそろそろグダグダ言うのも止めにしないかねぇ…?」
俺は見た…人差し指の奥にかすかに見える鬼の形相を。
これは明らかにシオさんはイライラしてきている!!!
「が、頑張りまっす!オラ初見大好きっす!」
「おっし、その意気その意気!頑張んな!」
途端に優しい笑顔に戻るシオさん。
ギャップが激しい!
「あー!今の笑顔かわいい!もう一回、もう一回こっち見てやってくださ~い!」
と言ってカナさんがシオさんに抱きつこうと近づいてきました。
「だー!もう近づくなっての!」
「なんでレージには優しく微笑むのに私には「近づくな」なんすか~…しどいですぅ」
「だーかーら後ろから抱き付いてくんなーてのぉ!」
「はふぅ、かぁーいいよぉ。抱き心地最高っすよシオさん」
「ミズホぉ~…助けてぇ~。あぁ~、なんでみんな向こう行っちゃうの?レージ何とかしなさい!って、え?もう初見合奏始まりますよって?あーもうそんな時間かよ!やだー、重たいよ~、イヤだよ~。こんな無意味でワケのわからんオチはイヤだよ~…」
しかもちゃんとオチてないよ…。