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第11話 生でするからイイんでしょう?

シオさんにぐいぐいと耳を引っ張られて、俺とカナさんはホールに入場。

リコピンさんも向こうのパートリーダー(?)の人に注意されながら行ってしまった。

時計を見ればももう開場は始まっており、開演まで15分。

周りは席に着き始め、パンフレットをパラパラとめくっているお客さんが多数。

「いつまでもゴチャゴチャうっさいんだよ、てめーら小学生か?あ?あー恥ずかしい。他の高校生や中学生に見られてると思うと私は恥ずかしいよ。わかってんの?あ?」っていう顔をしてるシオさんに、「すみません、すみません」とひたすら申し訳なさそうに小声で言う俺とカナさん。

ポイッっと席に着かせられ、見上げるとシオさんが微笑んでいた。

ドス黒く微笑んでいた。

引きつった笑みのまま、俺とカナさんはもう一度「すみません…」と呟くことしかできませんでした。

「フンッ(後で覚悟しとけよ?)」シオさんは自分の席に着きました。

嵐が去っていったところで、ふぅ、っとため息をつき、目の前のパンフレットに目を通す。

知ってるのは半分くらい、残りのもう半分は曲名だけ知ってる、あとは全然知らない。

あ!てか第三部「QP」やるんじゃん!やっべ!すげー楽しみ!

早く始まんないかな~。



ブザーが鳴り、暗転。

かすかに団員が入場する音、そしてチューニングB♭。

舞台が明るくなり、そこには凛とした団員と指揮者。

指揮者が指揮棒を振り始めた瞬間、凛とした音が響き渡る。

ホール全体を包み込むような一体感のある音達。

一瞬で音達に取り込まれた俺は、圧倒されていた。

正直福浦市吹の名前や評判は知っていたのだが、演奏を聴いたのは初めてだ。

うちの地区では中学校の部と一般の部が別の日だったし、定演を聴くも初めて。

プロの演奏を聴きに行った事はあったけど、よく考えれば高校受験だなんだでもう半年以上生の上手い演奏を聴いていなかった。

上手い。

これは上手い。

全国に数年に一度出場するだけのことはある(なぜか上目線)。

圧倒されたまま曲は進んでいく。

もう1曲終わってしまった。

時間が早く感じる。

たぶん今自分は興奮している。

それは福浦市吹の演奏を生で聴いているからというのもあるが恐らく一番の原因は「ライブ感」である。

やっぱり生は違う。

家で聴いているのとは感じ方が全然違う。

スピーカーから流れてくるのではなく、音自体が体を包み込む。

時間を共有しているという一体感、直に自分の体に突き抜けてくる金管の音色、温かく包み込む木管の音色、心地よく響き渡る打楽器群。

これら全てのライブ感は、CDや配信では得られない。

ここ1年くらい忘れかけていた感覚が、じわじわと戻ってくる。

あぁ、やっぱ俺は吹奏楽聴くのも好きなんだ。

当たり前のようだけど再認識。

やっぱ吹奏楽楽しいわ、好きだわ。

ひとつもどかしい事といえば、あの舞台に今自分がいないこと。

なんであそこにいないの?

俺トランペット吹けますよ?

仲間に入れて!一緒に吹かせて!


パチパチパチパチ…


え!?もう第一部終わり!?

物足りなさを感じながら、休憩。

右に居たユリになぜ自分があの舞台にいないのかを語ったら、


「もっとうまくなってからそういうこと言いなさいよ」


だって。

笑いながらもちょっと本気だった(う~、ちょっと傷ついたぞ…でもまぁその通り)。


「やー、でもその気持ちはわかるわ。あん中で吹けたらかなり気持ちいいだろーね」


左に居たカナさんも、さっき怒られて下がったテンションがどんどん上がっているのがわかりました。

ユリなんかは興奮のあまり鼻息フンフンいわせてる(そういうことでいちいち突っ込まないのが、ジェントルメンの第一歩なのです)。

やっぱりみんな、吹奏楽好きなんだなぁ。



第二部はスタジオブジリ特集。

子供達でも楽しめる曲目と、演出が盛りだくさんでとても楽しめた。

福浦市吹の演出は吹っ切れてて凄かった。

演じている方々から恥ずかしさとかは全く感じず、演奏も演出も本気で、演奏者も観客もみんな楽しそうで、演出の大切さや威力を感じた。

俺たちの定期演奏会の第二部もいくつか演出をするのだが、こんな風に観客を巻き込んで楽しんでもらえるといいな。


第三部は大曲、交響組曲第12番「QP」/作曲:夫野征道。

二部構成の曲で、総演奏時間40分近くにもなる大曲、特にラストの感動的なメロディは圧巻だ。

「QP」はちょっと前に全国の吹奏楽界で大ブームを巻き起こした夫野征道さんの代表曲で、実は俺の中での「是非とも一生のうちで一回は演奏してみたい曲No.1」の曲である。

しかもその曲をフルで演奏する!てんだから聴き逃せない!!!!!

静かで暗いメロディからゆっくり演奏が始まる。

次第にボリュームが上がり、楽器も重なり、途端にテンポがあがりスリルのある曲調に変わる。

この曲はアニメのサントラメドレーが基なので、曲調がコロコロ変わる。

次はまた静かになり優しいメロディ、また一気に暗くなる。

羨ましい。

すごく難しそう、でもすごく楽しそう。

俺もこの曲、ステージの上で吹きたい。

感動的で、不気味で、かっこよくて、綺麗で、速くて、遅くて、いろんな曲調のオンパレード。

曲の世界観に吸い込まれていく。



あっという間の40分。。

圧倒されっぱなしの40分。

「QP」が終わり、「ブラボー!」とともに拍手、鳴り止まない拍手。

こんな拍手もらったらさぞかし気持ちいいだろう…やっぱあの舞台に混ざりたい。

鳴り止まない拍手のなか指揮者が帰ってくる、アンコールだ。

ノリが良く、定番のマーチ「聖条旗は永遠だね!」が鳴り響く。

拍手は手拍子となり、正真正銘会場は一体となった。

とても、楽しかった。

すごい演奏会だった。



会場を出てもなお、興奮冷めやらぬ俺たち。

ユリはナツキさんやミズホさんに「すごい、すごかったです!」の連呼。

俺は「QP」の余韻に浸りながらぼうっとしながら、歩いていました。


「上手かったでしょ?明日からまたしっかり練習したくなったっしょ?また頑張ろうな!」


後ろから問いかけてくるシオさんに、俺は「はい!」と答える。


「カナさん!ナツキさん!来年の定演「QP」やりましょう!!!!!」


「あー、レイジあんた邦人曲マニアだったね~。でも「QP」かっこいいよね!!!」


「影響されまくってもう来年の定演の話してるよ…」


カナさんも興奮しているみたい。

ナツキさんは少し呆れながら微笑んでいる。


「つーか今年の定演、まだこれからなんですけどー」


シオさんが不満そうにこっちに近づいてくる。


「冗談ですよ~。よーし、明日から定演の曲、また頑張って練習するぞ!あと音の改善も頑張るぞ!」


「その前に明日はまず、さっきのお前ら2人の恥ずかしい行い(第10話参照)についての説教からだけどな」


あ…


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