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第119話 私のベースとみんなのベース

ひとまず私とみんなの自己紹介が終わり、通常通りの練習を始めることとなった。

前任の井口先生が定期演奏会の曲を事前に結構決めてくれていて、練習も着手してるみたいなのでその点は凄くありがたい。

1年生入部、定演やコンクールとイベントはいっぱいあるけどもまずは明後日の入学式、「威風DoDo」の練習だ。

入学式度定番の「威風DoDo」なのでみんな曲調も知ってるし、結構練習してもらってるそうなので助かる。

みんな私の指揮で演奏するのは初めてなので、まずはこの曲でこの部の感じを掴んでお互いを知ってもらえれば今後やっていきやすいはず!

よっしゃ、まずは「威風DoDo」やったるぞ!

そう思いながら教員準備室に戻り雑務を始めると、みんなの練習の音が聴こえてきた。

凄く懐かしい感じ、まさに高校の部活の吹奏楽部って感じ。

みんな真面目に一生懸命楽しそうに練習してて、こういう雰囲気やっぱいいなぁ。

金管はアンコンでちょっと聴いたけど、木管や打楽器はこういう感じなんだ。

自分が経験してきた音楽の雰囲気とはちょっと違うところもあって楽しい!

さて、どうしようかな?




個人練習とパート練習が終わったのでみんなで音楽室に集合して全体練習。

再び指揮台に上ってみんなに視線をやると、私もそうだけどさっきより全然緊張してなくて穏やかな感じ。

初めての顧問としての練習と指揮、緊張するけどワクワクする。

どんな感じでみんなと進んでいけるのか。


「練習始める前にちょっとだけお話させてください。みなさんの個人練習聴いていて、この部活の音色はとても明るくて元気いっぱいで、真面目なところもありながら聴いていてとても楽しい、個々の個性が邪魔せずに生かしあっている、そういう印象を受けました。おそらくこれは長年福浦西高校吹奏楽部で受け継がれてきたものだと思うので、私はこの雰囲気を変えるのはあまりいいことだとは思ってません。私は福浦高校出身なので私の経験してきた音楽はみなさんの音楽とは少し違ってて、大人っぽい落ち着いた印象かと思います。もちろんこれはこれでいい面もありますが、今からこの方向を押し付けてしまうとみなさんの培ってきたいい面が消えてしまうと思うし、個性もつぶしてしまうと思います。みなさんが大事に練習してきたことを否定してしまうことになってしまうと思います。なので私は自分の経験に基づいた指導をするつもりですが、あくまで今の福浦西高校の音をベースにしていくつもりです。そういう進め方をしていきたいのですが、いいでしょうか?」


沈黙。

そりゃまぁいきなりこんなこと言われて即リアクションできないよなぁ。

でもこの雰囲気は大事にしていきたい。


「せんせー」


「はい、益田さん」


「今までを全部投げ捨てて福浦高校的な演奏に変えていくとしたら、やっぱ全国大会近づくんでしょうか?」


「一概には言えないと思います。おそらく「福浦高校的な演奏」は、コンクール受けはいいと思います。なのでちゃんとやればもしかしたら上の大会を目指せるかもしれない。でもこれは短時間でできるものではないです。上っ面だけマネしても破綻するだけです。時間が短すぎて確実に今年のコンクール、3年生は犠牲になると思います。長く時間をかけてやっていかなくてはならないことです。私だって高校生の時は全て一から作り上げてきたわけではなく、元々あった代々受け継がれてきた雰囲気やノウハウが土台に合って、それに乗っかって成長してきたわけです。それを今から新しくやろうとしたら大改革です。もちろんみなさんがそれでも今と違う音楽をしたいというのであれば私は頑張ります。でも私はみなさんの今持っているいい面を潰したくはありません。私にはできない、いい音楽です。こういう演奏ができて羨ましいです。それに今の「福浦西高校的な演奏」がコンクール的にダメなわけじゃないです。だって現に、益田さんアンコン東海越大会だって行ったでしょ?」


「でも…ここが限界なのかなぁというか、この方向性正解なのかなぁ、というか…」


「でも大絶賛してくれた審査員、たぶん何人かいたでしょ?」


「いました」


「だったら方向性間違ってないです。誰かに強烈にインパクトを残す演奏は貴重です。それに限界って言ってましたが、「ああすれば良かった」とかは全くないんですか?」


「いっぱいあります」


「じゃあまだ限界じゃないじゃないですか。益田さんのアンコンは終わりましたけど、益田さんの上乗せしたベースを2年生に引き継いでいけばいいじゃないですか。私は「福浦西高校的な演奏」に限界は感じていません。むしろ未知数でワクワクしてます。だから、この方針で進めたいです」


「…先生…」


「はい」


「なんかめっちゃアツいですね!!!最初の警戒心丸出しの子猫みたいな印象ガラッと変わりました!!!」


「こ、子猫…」


「私、先生と一緒に今までの土台を壊さずにまた新しい演奏作っていきたいです!みんなは、どう?」


「いいと思う!」


「確かに「福浦高校的な演奏」にちょっと憧れはあるけど、私も今の演奏好きだし楽しい。これは壊したくない」


「だって、先生。なので先生、その方針でよろしくお願いします」


「「「よろしくお願いします!」」」


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


方針が決まった。

この「福浦西高校的な演奏」に私の経験を伝えて、みんなと新しい音楽を作っていくのだ!

楽しみだ。


「じゃあ方針も決まったところで、さっそく全体練習始めましょう!…あ、ちなみになんですが、自分としてはよくわかってないんですが、よく「指揮棒持つと性格がガラッと変わる」って言われます。なので練習中失礼なことやっちゃったら言ってください。では始めます!」



よーし全体合奏だ。

先生との初めての全体合奏、どんな感じか楽しみだなー。

それにしても先生、結構アツいところあるねぇ。

私の思いもちゃんと受け止めてくれて、すごく嬉しかった。

最初は挙動不審な子猫ちゃんかと思ってたけど、思ったよりしっかり私たちのこと考えてくれるいい先生みたい。

一緒に練習できるの楽しみだ。

いったいどんな指揮するのかな?

生徒指揮としてちゃんと見ておかなくては!

「指揮棒持つと性格がガラッと変わる」って言ってたけど、私と同じじゃん!

私もよく指揮棒持つとドSになるって言われるからな~。

あ、指揮棒持った。

なんか周りの空気が変わった。

いきなりピリッとした。

顔を上げた先生の目はさっきまでの優しい目ではなく、めちゃめちゃキリっとした鋭い目。

あ、これドSとかじゃなくて、めっちゃ厳しいモードになるタイプやんけ。


「じゃ、音階練習から行きます」


声まで鋭いイケボになっとるやんけーーー!!!



練習終了。

先生は音階練習から各パートの的確な指摘をクールな感じで淡々と説明し、特にペットパートは経験者だからかちょっと厳しめに痛いところを的確に突いてきた。

ユリもレイジもちょっと涙目。

レイジは痛いところを的確に突かれすぎて若干興奮しているんじゃないか、という有様。

変な扉開いてないかちょっと心配。

「威風DoDo」も、入学式の入場曲なのにめちゃめちゃ真面目に厳しく的確に指摘してきた。

本当に、指揮棒持つと変わりすぎだ!

で、指揮棒置くといきなり目が優しくなって、「でもみなさんホント真面目に練習しているのが伝わってきます!私も皆さんに負けないように頑張ります!」とか無邪気に言う。

「高低差ありすぎて耳キーンなるわ」「温度差ありすぎて風邪引くわ」的なヤツだ!

練習終了後はみんな先生の高低差で話題は持ち切り。

厳しいけど言ってることは全て的確、で指揮棒置くとめっちゃ可愛い。

一生懸命なのが伝わってきて、一緒にやっていけそうてな感じ。

で、みんなの相違としては…面白れー先生!!!



はぁぁぁあああ、とりあえず今日一日終わった。

みんな「指揮棒持つと本当に変わりますね!」って言ってたけど、変なこと言ってなかっただろうか?

でも練習終了後みんなニコニコしながら寄ってきてくれたから、たぶん大丈夫か。

みんなの演奏、ホント良かった。

粗削りな面や個性が出すぎてる面もあるけど、いい面もいっぱいあって指揮しててすごく楽しかった。

部活以外にも新人教師としてやることはいっぱいあるけど、まずは良かった。

明日からまたみんなと一緒に頑張ろう!


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