第113話 白昼夢
卒業式も終わり三月も中旬、今度は新入生の獲得に向けて入学式の後の部活紹介での発表の練習をしている。
と言っても部活紹介のために新規で曲を選ぶのではなくて、6月の定期演奏会でやる予定の曲+最近のポップスという感じ。
定期演奏会の曲目も徐々にだけど決まり始めてるし、3年生は卒業しちゃったけどまたすぐ慌ただしい日々が始まるのです。
ただそんな中部活以外のイベントとして三月中旬といえば、ホワイトデー。
女子の多い部活にいる俺はそれなりに、ほんとそれなりにだけどバレンタインデーの時にチョコレート(義理)をもらったのでお返しをしないといけない。
あ、ごめんなさい。
「しないといけない」って言い方だとイヤイヤやってるみたいに聞こえるわ。
そんなことない、そんなことない!マジで!!!!!
日頃お世話になっている方々への恩返しができるんだから嬉しいよね!!!!!
でも…でもさ…、本命は、無かったんだよなぁ…。
じゃあ配る必要あるか?…とかちょっと思っちゃうけども、そんな考えだから彼女ができないんだろうか…?
こういう時マメにやることで先が見えてくることもある!!!はず!!!
数だけで言うと吹奏楽部だとバレンタインデーの「女子同士のチョコプレゼントしあい(友チョコ)」のついでにくれることが結構多いので、義理チョコだけは結構な数になるんで、返す対象も多い。
つまりそこそこお金もかかるので…ブラック○ンダーとチロル〇ョコ最高!
しょうがないじゃん、普通の公立高校生のポケットマネーなんかあってないようなもんでしょ?
そこから義理チョコのお返し全部ちゃんと返すって言ってるんだからさ!!!
…こんなんだからモテないんかね?
…
まず日中はクラスの女子にチョコを無難に配り終えた。
放課後、次は中森さん達1年生金管八重奏メンバーとか、トランペットパートのメンバーとか、部活内のお返し。
いざ部室に入る。
義理チョコのお返しするだけなんだけどお返しするには女子にこっちから話しかけないといけない…どうやって話しかけるか、めっちゃ緊張。
童貞かっつーの!童貞だよ!!!誇り高きな!!!
部室に入るとちょうどユリと藤原さん以外の1年生金管八重奏メンバー5人が集まって話していた。
ラッキー!一回の声かけで一気にばらまける!
「あの…!」
「お、どうした佐々木!」
うわー、中森さんめっちゃニヤニヤしてる。
絶対これから俺が何しようとしているかわかってるだろ?
で、どう出てくるかを観察してニヤニヤしてるよ。
相変わらずの性格やで。
「トモは相変わらず性格悪いなぁ。で、佐々木君、トモのことは気にせずにお話続けてよ」
「なんだとアイリー!!!」
「友杉さんありがとう。その…今日ホワイトデーだから、バレンタインのお返しを…といっても大したもんじゃないんだけど…」
と言ってコンビニで売ってるいかにも義理チョコのお返しっぽいチョコレートを渡す。
「わぁありがとう!」
「ありがとう佐々木君」
なんだかんだ喜んで受け取ってくれたっぽい。
「えー、なにこれ」的な雰囲気にならなくて本当によかった。
「3倍返しじゃないけどまぁ許してやるぜ!」
「性格!!!」
…
5人の中に藤原さんとユリはいなかったので部室内をざっと探すけどまだ来てないみたい。
鞄を置いて楽器の準備をしようとするとカナさんとナツキさんが部室に入ってきたので、今度はこの2人に渡すことに。
「あの…!」
「お、どうしたレイジ!」
うわー、カナさんめっちゃニヤニヤしてる。
さっきの中森さんの3倍くらい性格悪いニヤニヤ顔。
絶対これから俺が何しようとしているかわかってるだろ?
で、どう出てくるかを観察してニヤニヤしてるよ。
相変わらずの性格やで。
「カナその顔やめろ。レイジがかわいそうだろ?」
「なんだとナツキー!!!」
「ナツキさんありがとうございます。その…今日ホワイトデーなので、バレンタインのお返しを…といっても大したもんじゃないんですけど…」
と言って里崎堂のホワイトデーギフトセット(500円くらい)を渡す。
まぁ同じパートの先輩だし、ちょっとはちゃんとしたものをね。
さっきの5人とかには内緒です。
「…マジ?これくれるの?」
「カナさんどうしたんですか?これじゃダメだったっすか?」
「いや…本当に業務用チョコレート3倍返しされるかと思ってた…」
「…さすがに先輩にそこまでしないですよ…ていうか業務用チョコ3倍返ししたら重たくて邪魔じゃないですか…」
「むしろ業務用チョコ3倍返ししろよ!いい後輩してんじゃねー!なんか私だけ性格悪いみたいじゃん!」
「性格悪いんだよ、お前」
「ナツキがひどいこと言うー!!!」
「ありがとうレイジ」
「いえいえ、これからもよろしくお願いします」
「そういやナツキは藤原からお返し貰ったの?」
「まだだよ」
「どんなだろうねぇ(ニヤニヤ)?楽しみだねぇ(ニヤニヤ)?期待しちゃうねぇ(ニヤニヤ)?「ホワイトデーのお返しは…俺だー!!!」「いや~ん」みたいとかどうよ?」
「(憐れむような軽蔑するような視線)」
「あ、はい。すみませんでした」
…
藤原さんとユリもこの後来たんだけど、部活始まる直前だったので部活が終わってから渡すこととした。
まずは藤原さん。
「藤原さん!」
「あ、佐々木君どうしたの?」
「あの、今日ホワイトデーだからさ、バレンタインのお返しをと思って」
1日中似たような声掛けしてるので段々慣れてきた。
「え!私に?あ、ありがとう」
「どうぞ」と言ってカナさん達と同じ里崎堂のホワイトデーギフトセット(500円くらい)を渡す。
バレンタインの時に手作りチョコを貰ったのでね…さっきの5人とかには内緒です。
「え、こんなちゃんとしたいいもの!嬉しいけど、なんか悪いよぉ」
「いやいや、バレンタインデーのとき手作りチョコ貰ったから、すごくおいしかったから」
「あ…ありがとう…」
頬を赤らめながら受け取ったホワイトデーギフトセットに視線を移す藤原さん。
はいあざとい。
「これ、里崎堂ってお店のだよね?確かユリちゃんが大絶賛してるところ」
「そう、俺の家の近くで昔から俺もよく食べてるんだ。結構おいしいよ」
「ありがとう!一回食べてみたかったんだ!大切に食べるね!」
ニコニコしながらホワイトデーギフトセットを抱え込む藤原さん。
はいあざとい。
「迷惑じゃなければまたなにかお菓子作ったら佐々木君の分も持ってくるね。なにか好きなものある?チョコレートだっけ?」
「チョコのお菓子好きだねぇ。ていうか全然迷惑とかじゃないけど、いいよいいよ大変でしょ?」
「みんなにもあげるし、お菓子作り趣味だから」
「でも…男子俺だけ?」
「お父さんとかお兄ちゃんにもあげてるよ?でもあげても大したリアクション無くてつまんないんだもん。その点佐々木君はちゃんと感想言ってくれるから、あげたくなっちゃう」
あげたくなっちゃう(エコー)、あげたくなっちゃう(エコー)、あげたくなっちゃう(エコー)
こうかはばつぐんだ
「あ…あううぅ…(悶絶)」
「ちゃんと感想教えてくれる人、好き」
好き(エコー)、好き(エコー)、好き(エコー)
きゅうしょにあたった
「すすすすっすsssっす好き?????」
「!!!!!!!!!!!!」
顔真っ赤にして走って逃げられた。
これデジャブじゃん。
デジャブ好きだな作者!
…
藤原さんとやり取りしている間にユリが帰りの準備をして部室から出て行ったので、急いでユリを追いかけ駐輪場で「ユリ!」と声かける。
「何よ」
今日もう何回言ったかなぁ?
何回目かの「あの、今日今日ホワイトデーだからさ、バレンタインのお返しをと思って」を口に出す。
今日これで最後だ。
「…そうなの?そりゃわざわざどうも」
若干顔を赤らめながら口を尖らすユリ。
相変わらず素直じゃないけど、里崎堂のホワイトデーギフトセットを取り出すと表情は一変した。
「わぁ!里崎堂のセット!」
「相変わらず里崎堂大好きだな」
「あそこは最高なの!わ、焼き菓子いっぱい入ってる!これホワイトデー限定のホワイトチョコクッキーじゃん」
ユリは目をキラキラさせてギフトセットを覗き込む。
まじでちょっと好きすぎだろ。
「じゃ、渡したからこれで」
「ちょっと待ってよ」
「何?」
「…あ~、あぁ~、そのぅ…あ、あり、ありがと…う…」
「どういたしまして。明日からもよろしくな」
「うん…」
こうして自分も帰る準備をしようと体の向きを変えたところ、
「ちょっと待ってよ」
「今度はなによ!」
「だから、そのー…私も、これからもよろしく」
「うん」
「もうすぐ後輩できると思うけど、レイジとも一緒に協力して、うまくやっていきたい。うまくできるかはわかんないけど、うまくできるように、努力したい。だから、一緒に頑張りたい」
シオさん達が卒業した日に言われたことを思い出した。
そういえばあの後うちら2人ではそのことについて話してなかったな。
いい機会だ。
「…俺も、そのつもり。相変わらずユリからしたら頼りないかもしれないけど、ちゃんと「先輩」できるように一緒に頑張ろうぜ」
「うん!頑張ろう!一緒に!」
「おう!」
俺も正直ちょっとまだ不安だけど、ユリもやっぱり不安に思ってたんだな。
短い会話だったけどお互いが同じ方向向いていることがわかって良かった。
もうすぐ2年生、学年が変わることで立場も環境も変わる。
その変化についていけるのか、相手は一緒になって歩いてくれるのか。
敢えて言葉にするほどでもない不安だったけど、意識が共有できてよかった。
こうやって2人で軽く話す機会ができて…ホワイトデーも悪くないもんだな!
彼女は全然できないけどさ!!!