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第111話 パイセンウインド


「みんな知ってる通り私は高校からトランペットを始めたの。だから1年目なんてコンプレックスの塊だったのね」


「そーだったなぁ!何かあれば「私は初心者だから」とか「私は下手だから」ばかりだったな!でも高校から吹奏楽部に初めて入るのってかなり度胸いるよなぁ。ミズホ結構根性あったよな!」


「まぁ入部してから「ヤバイかも」とは思ったけどね。で、ちょうど二年前の卒業式の時、私も今のユリちゃんと全く同じこと思ってた。卒業生は、キョウさんってほらたまに話題に出てたちょっと怖い人、だからユリちゃんみたいに直接は相談したりできなかったけどね。ただちょっとそういう雰囲気顔に出てたのかな。最後の最後、いざお別れって時に、キョウさんが私のところにやってきて一言「自分の音で勝負すればいい。やるべきことはやっていたから」って言ってくれたのね」


「へぇ~、って…はあああああああああああああああああああ!!!???キョウさんなに優しいこと言ってんの!?私はそんな優しいこと一言も言われたことないのに!!!あり得ないんだけど!やっぱあの人嫌いだ!!!てかその話初めて聞いたわ」


「まぁまぁ。でね、その時はポカーンとしてただけなんだけど、家帰って冷静に考えてみたら、やっぱりキョウさんて怖い人だけどちゃんと見てくれてたんだね。ちゃんとやってるから心配するなって。ぶっきらぼうだからなかなか伝わりづらかったんだけど、みんなをちゃんと見てたんだよ」


「私はもうちょっと言ってほしかったー…なんか卒業式に衝撃的な事実知っちゃった…」


「シオさんは何も言われなかったんすか?」


「一応「いろいろすまなかった」的なことは言われたけど…もっといろいろ言ってほしかったー!!!アドバイスでも叱責でもいいから、もっと言葉で伝えてほしかったー!!!会話したかったー!!!」


「もしかしてシオさん何気にそのキョウさんって人のこと、好きだったんじゃないんですか?」


「顔は良かったからねー、ってそうじゃねぇ!さすがにそれは無い!!!」


「まぁまぁ、そんなんでさ、私もシオちゃんも、ユリちゃんがちゃんとやってることは見てた。真面目に取り組んでるし、私なんかユリちゃんに怒られちゃったこともあったよね」


「べ、別に怒ってないですよぉ」


「そうだけど、それだけ真剣に取り組んでたんだよ。私は、ユリちゃんがちゃんとやってることは知ってる。だから大丈夫。真剣に取り組んでることはちゃんと誰かが見ててくれてる。すぐには伝わらなくてもいつか絶対伝わる。だから自信持って。胸張って後輩迎えてよ」


「ミズホさんは、カナさん達迎えるときは怖かったですか?」


「そりゃ怖かったよ。2人ともバリバリなんだもん」


「でもミズホさん練習真面目にしてるし音綺麗だったし!美人で胸も大きかったし!」


「ほら、すぐに仲良くなれたんだよ」


「そですか…」


「不安だろうけど、ユリちゃんだってやれることはやってるよ。それはみんな見てるし。もしちゃんとやってなかったらカナちゃんがとっくに怒ってるよ」


「そうそう!ビシーって怒るわ!」


「私も、ちゃんと先輩やれるでしょうか?」


「やれるよ!初心者の私にだってそれなりにできたんだし。普段の練習態度見てもらえば、きっとユリちゃんのこと尊敬してくれるよ。だから、あまり心配だ心配だって考えすぎないほうがいいよ。もっと肩の力抜いて「仲間ができるんだ」くらいの気持ちで」


「仲間、かぁ」


「そーだぞユリ。私たち2人がいなくなって寂しいだろ?頑張ってかわいい後輩仲間にしろよ?仲間は多いに越したことはない!」


「私みたいな!?」


「カナはかわいくない!」


「ひっでぇwww」


「ミズホさん、ちょっと考えすぎてたかもしれません。やってみます。…ありがとうございます!」


「頑張って!」


「頑張れよ!」


「はい!」


ユリはやっと笑顔になった。



「そんじゃ、そろそろ行くわ」


そう言うとシオさんとミズホさんが立ち上がった。

楽しい時間はあっという間、いよいよお別れだ。

ミズホさんが棚から自分のトランペットを降ろして荷物をまとめた。

この部室からシオさんとミズホさんの私物が無くなった。


「じゃあみんな、絶対定演聴きに来るから。しょぼくなってたら承知しないぞ!」


「「「「はい!」」」」


「楽しみながらやってね。私も定演楽しみにしてるから」


「「「「はい!」」」」


「じゃ、行くか!」


「あー!シオさん待って!最後にみんなで写真撮りましょうよー!写真ー!」


「お、いいね。撮ろう撮ろう♪」


近くにいた他のパートの人にお願いして俺達6人はスマホの前に集合した。

この6人で何かをするのは最後。

最後だけど、みんな笑っていた。

わちゃわちゃして写真はなかなか決まらなかった。

何回も取り直してそのたび爆笑。

最後の楽しい時間は、長いようで、短いようで。


「その写真後で絶対送れよー!」


「うーっす!」


「じゃあそろそろ行くわ。カナ、ナツキ、ユリ、レイジ、そしてミズホ…すーーーーーっげぇ、楽しかったぞーーー!!!」


「私もーーーーーー!!!」


「私だってーーー!!!」


「私も!」


「わ、私も!」


「俺も!」


「そっかそっか!じゃあ満足だ…じゃあな!!!」


「「「「お疲れさまでした!」」」」


シオさんとミズホさんは部室から去っていった。

福浦高校吹奏楽部トランペットパートは、また一つ時代が終わって新しい時代が始まるのだ。

みんなちょっと涙ぐんでいるけど、笑顔で見送った。

本当にいい先輩たちだった。

ありがとうございました。



「つーかよ、ミズホ」


「なぁに?」


「さっきのキョウさんの話、マジ?」


「マジだよ~」


「やっぱああいう人でも美人にはデレるのかなー…私はホントにそんな優しいこと言われたことなかったわ」


「美人云々は関係無いと思うけど…きっとシオちゃんのこともちゃんと見てたと思うよ。最後の言葉、見てないと言えないでしょ?」


「そっかなー?」


「あまりいろいろ言わなくてもシオちゃんは大丈夫って思ってたんじゃない?」


「うーん、でも私も一応レディだよ?もうちょい優しい言葉くらいかけて欲しかったわ。そうしてくれていれば私がキョウさんを必要以上に怖がることもなかっただろうし、もっと仲良くできたかもしれないなぁ。言ったほうがいいことまで言わないのが、あの人のもったいないところ!」


「そだねぇ、そこは否定できないかもw」


「でしょー!…ま、今となっちゃそれもそれでいい思い出かな」


「うん、ぜーんぶいい思い出」


「そうだな!…ねぇミズホ」


「なぁに?」


「3年間ありがとな!」


「私も、ありがとう!」


「おう!定演でまた会おうな!」


「うん!」


そういって私はミズホと笑顔で別れた。

ミズホに会えてホントに良かった。

あいつ、小坂大学受かるといいな。

まぁミズホのことだから大丈夫だろ!

振り返って校舎を見ていると向こうでミズホも同じように校舎を見ていた。

楽しかった大切な思い出であるミズホとの三年間は、これで終わるのだ。

寂しいけど、満足。

最後に先輩風吹かせまくって置いてこれるものは置いてきたつもり。

頑張れ、カナ、ナツキ、ユリ、レイジ。

そしてみんな、ありがとう。

またな!!!


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