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第110話 後輩怖い


「おーう、カナ達!元気にしとるかねー?」


「あ!シオさん!ミズホさんも!つうかシオさんは数日前に会ったばっかじゃないですかw」


「まぁそう言うなよ!今日で最後なんだから」


「そっすね!でもお二人とも袴とってもいい感じですね!ミズホさんはとっても大人っぽくて艶やかです」


「ありがとう。嬉しい」


「シオさんは背伸びした子供って感じで可愛いっす!若干メスガキ感もアップしてて良き」


「はああああああ!!!???」


袴姿のシオさんとミズホさんが部室にやってきた。

手にはもちろん卒業証書の入ったあの筒が握られている。

あぁ、やっぱ今日で卒業するんだなー、ついに来ちゃったなー、と実感。


「あー、今日で本当にお別れですかー」


「ざぁ~こ♥先輩卒業するからってメンタルよっわ~い♥」


「やっぱメスガキじゃないっすかwでもさすがに寂しいですね…」


「さすがにってなんだよ!普通に寂しいだろ!」


「まぁでもシオさん達引退してもそれなりにやれてますしね!」


「最後まで変わらねーなw」


「知ってるくせに~」


と言ってわちゃわちゃしあうシオさんとカナさん、それをニコニコしながら見守るミズホさんとナツキさん、といういつもの懐かしい風景。

久々だなーと思うと同時にこれも今日で最後なんだな、と思うとさすがに寂しい。

シオさんにもミズホさんにもいろいろ教わったからなぁ。


「そーいえばミズホさん!進路決まったんですか?」


「相変わらず聞きづらいことずけずけと聞くなぁw」


「やだなぁ、シオさん。そこが私のいいとこじゃないですか!」


「欠点でもあるけどなw」


「ひっでぇwwwで、ミズホさん!」


「今小坂大学教育学部の合格発表待ちだよ。来週結果出るんだよ」


「あー、そりゃ気が気でないですなぁ。でもミズホさんなら大丈夫でしょ!そんな気がする!根拠はないけど」


「ふふ、ありがと」


「そんなので感謝できるお前はすごいよ」


「あー、ミズホさんの教師!ヤバイでしょ!小学校すか?中学校?専門教科は!?」


「えっと…目指してるのは一応高校教諭で、専門教科は国語だね」


「うおー!高校!思春期の男子高校生はたまんないですねぇ!ヤバイでしょ?」


「相変わらず語彙力乏しいな!!!てかお前は先生をなんだと思ってるんだ…」


「もしかしたら将来ミズホさんが福浦西高校に赴任してきて、吹奏楽部の顧問になったりして!?エモい!」


「可能性は無いことはないけどさすがに顧問は音楽の先生じゃないかなぁ」


「そっかー、でも副顧問として帰ってきてくださいよ!はぁ~、教師にナース、今年度の吹奏楽部ペットパート3年生は卒業後も属性が付きまくりですな!」


「おまえパートリーダーになっても全然変わんないな…」


「やだなぁ、シオさん。そこが私のいいとこじゃないですか!」


「欠点でもあるけどなw」


「ひっでぇwww」


なんかしつこいくらい聞いたこのお決まりパターンも懐かしい。

その裏でミズホさんがナツキさんに「最近藤原君となかよくやってる?」と聞き、ナツキさんがあわあわしながらそっと頷く。

それを見てニッコニコで喜ぶミズホさん。

ほんといつもの空気感、これが今年度の吹奏楽部ペットパートなんだなぁ。

その後も各自思い出話や世間話をしていった。

俺もシオさんとミズホさんと少し話せた。


「レイジもさー、入部当時はこいつふにゃふにゃしてて大丈夫かよ?って思ってたなぁw」


「ふ、ふにゃふにゃ?」


「ふにゃふにゃ!でもまぁ少しずつこのパートに慣れてきたからか、大会辺りは結構堂々とし始めてたよな!態度も音も」


「そうだね、だんだんしっかりしてきたね」


「もうすぐ後輩できるんだからしっかりしなきゃだめだぞ。「も~、先輩!しっかりしてください!」みたいに言われないようにしなきゃな!」


「う、うす…態度はともかくとして、音は、まだふにゃふにゃしてますかね…?」


「いやー、アンコンの校内選考の時なんか結構しっかりしてきたな、と思ったぞ」


「レイジ君の音、優しくてきれいだから、そのまま音磨いていったほうがいいよ」


「そうだな、音は今のままの方向性であとはもっと堂々と自信持てよな!」


「心配しなくても大丈夫だよ。この1年間ですっごく上手になったと思うよ」


「うん、私もそう思う。だんだん個性も出てきたし」


「!!!あ、ありがとうございます!」


思いがけずテンション上がってしまって大きな声出てしまった。

でもすっごく嬉しかった。

2人に認めてもらった、そしてこの1年は無駄じゃなかった!

もちろんお世辞も入ってるかもしれないけど、そう言ってもらえてすごく嬉しかった。

さっき言われたけど、もうすぐ後輩ができるしもっとしっかりしなきゃな。


「そーだ、音色もそうだけど…ユリともっと仲良くしなさいよ?」


「へ?」


「別にいがみ合ってるわけじゃないんだろうけどさ、もっとお互い素直になって、協力し合えるところは協力していかないとだめだぞ?どっちかがパートリーダーになるまであと1年もないんだぞ?」


「仲悪いわけじゃないんだろうけどね。なんというかもう少し距離近くてもいいのかも」


「そうそう!別に付き合えっていってるわけじゃないぞ?もっと、仲間として頼りあえよってこと。今後2人でペットパート回していくんだから、お互いの意見をちゃんと言えるような関係性は築けよ?」


うーん、確かに俺とユリのどっちかがパートリーダーになるまであと1年ない。

カナさんとナツキさんもずっと一緒にいるわけじゃないし、早くて半年後には俺たちの学年がトランペットパートを引っ張っていかなきゃいけないわけだ。

頼りあえ、か。

確かに別にユリといがみ合ってるわけじゃない。

普通に会話するし、パート練習だってする。

ただお互い距離感の取り方に困っている感は感じているのかもしれない。

うーん、どうしていっていいのやら…?

考えているとシオさんとミズホさんはユリの方に行ってしまった。

距離感ねぇ…今も楽っちゃ楽だけど…確かに腹を割って話せてるとまではいかないのかもね。

現状お互いに楽な距離感かもしれないし、無理に近づく必要もないのかもしれない。

ただ半年後に最高学年になっていったとき、これだけではいけないような気もする。

でも…ユリとそんなこと話せるのかなぁ…?

とその時。


「シオさん!ミズホさん!私どうしていったらいいでしょうかぁあああああ!!!!」


ユリが涙流しながら大声で叫んだ。

みんなびっくりしてユリに視線が集まる。

でもユリはそんなことお構いなしに、さすがに少し声は小さくなったけど、話を続ける。


「私このまま後輩できても不安です。私なんか何も教えられることないです。自信ないですぅ。私が2年生になって、後輩できて、後輩に質問されても、うまく答えられる自信ないです…私、どうしたらいいでしょうか!!!後輩にバカにされちゃいます!私より上手い後輩入ってきたら…うわあああああ!」


そう言ってユリはシオさんにしがみつく。

シオさんとミズホさんは苦笑いしながらヤレヤレ顔でユリの頭を撫でた。

ユリもユリで意外といろいろ考えてるんだな。

確かに俺も「そろそろ後輩できるんだな~」くらいは考えてたけど、そんな、うまく答えられるかとか、後輩にバカにされるとか、そんなことまで考えてなかった。

なんとなく相変わらず俺は深くいろいろ考えてないのね、楽観的なのね、とちょっと自己嫌悪。

ユリはユリでいろいろ考えすぎな気がするけど…。

そう思いながら俺はさらに3人の会話に耳を傾ける。

聞いといたほうが良さそう、今後のために。


「相変わらずユリは心配性だなぁ。責任感強くて、ホント真面目だね。いいことだよ。そこがユリのいいとこだよ」


「でも、でも…」


「そりゃ後輩できるんだもん。しっかりしなきゃって思うよな。自分より上手い子入ってきたらどうしよう、って思うよな。でもそれはみんな思うことだよ。私だってそうだし、カナやナツキだってそう思ってたさ」


「シオさんも?」


「おぉそうだよ?ちょうど2年前のこのくらいの時期にビクビクしてたもん」


「カナさんとナツキさんもですか?」


「そうそう、1年前にこいつら毎日アワアワしてたもん。よく「シオすわぁ~ん、1年生がめっちゃ上手くてしかも私のこと下に見てくるような嫌なヤツだったらどうしよぅ~」ってピーピー言ってたわ。」


「あーひどいその言い方!ていうかそんな口調じゃないっす!」


「わりーわりーwでも珍しく怯えてたじゃん?」


「まぁ多少は。結果ユリとレイジが素直で従順でよかったっす」


「従順って言葉!…でもまぁそんな感じで、みんな多少は思うことだよ。ただそこまでガチガチに悩まなくてもいいと思う。もうちょいどっしり構えて迎えればいいと思うよ。実際ヤバイやつが来たらそれはその時考えればいい。でもユリはこの1年間頑張ってきたのは知ってるから、やっぱ堂々としてればいいんだよ」


「そうだよユリちゃん。そういえば…2年前の私がまさにそんな感じだった」


「あー、そうだったね!ミズホもこんな感じで常にオロオロしてたよね」


「ミズホさんも?」


「うん、ちょうど2年前。そうだ!参考になるかわかんないけどせっかくだしその時のことちょっと話そうか。私もいよいよ後輩できるって時のことだったんだけど…」


俺はさらに食い入るように耳を傾ける。

若干気持ち悪いくらいに。


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