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第106話 MY FUNNY VALENTINE

よし、顔もちゃんと洗ったし歯もしっかり磨いた。

鼻毛も出てないし目ヤニもついてないし歯に青のりもついていない。

寝ぐせも直したし、ワックスも適度にいつも通りにナチュラルにつけた。

鏡の前で一度笑顔の練習をしてみる。

うん、多分自然な笑顔(実際はめちゃめちゃぎこちない)。

さぁいざ、学校へ!



「佐々木君、ほれ、バレンタインの"義理"チョコ」


「え、あ、どうも。きょ、今日そっか、バレンタインデーか。気づかなかったわ。なはは」


「とぼけるの下手くそすぎてウケる。で、いるのいらないの?」


「いりますいります。ありがとうごぜーます」


「ほれよ」


今日は2月14日。

そうだね、巷ではバレンタインデーだね。

いやー、全然気づかなかったわ。

なんか女子が紙袋持ってるなーくらいには感じてたけど、そっかー、今日バレンタインデーか~、そっかそっかー。

とりあえず今日の授業終了までの戦利品はチロルチョコ3個。

全部"義理"という言葉が強調されてついてきたけど、別に多くはないけどもらえないよりはいいよね。

"義理"チョコではなく"友"チョコ全盛期の現代においても、チョコをいただけるだけでありがたいのだ。

そもそもチョコレート大好物の俺にとってはもらえるだけですごく嬉しい。

よし、では次はいざ部活だ。

こっちで数を巻き返す!

あわよくば本命なんてあればいいななんて思ってるけど、思ってるけど!!!

約1年間の吹奏楽部生活、その成績表みたいなもんだ!!!

この1年間、そこまで悪くはなかったはず!地雷は踏んでないはず!

合宿のバス内でゲロ吐いた以外は大きな失態はしてないはず!

それ以外は無難にこなしてきたはず!

よっしゃ、バレンタインデーなんて何とも思ってませんよ感出しつつ、いざ部活へ!



「おー佐々木ー!」


さっそく声を掛けてきたのは1年生の中森さんと友杉さん。

2人ともアンコン一緒に練習した仲間だ。


「今日何の日か知ってるか~?」


ニヤニヤ嫌らしい顔をする中森さん。


「え…さぁ、何の日かな~ハハハ」


「しらばっくれてんじゃねーよwワックスいつもより気合入ってんじゃねーかw」


「嘘!?マジで?いつも通りにしたはずなのに」


「前髪やけに決まってるじゃねーかよwww」


うっわ、恥ずかしーーーーーー!!!!!

死にたい死にたい死にたい。


「あんまりいじめちゃ可哀そうだよ。はい、バレンタインデーのチョコ。アンコンお疲れ様。残念だったけどまた来年がんばろーね」


「は、はい!友杉さんありがとうございまっす!」


コンビニで売ってるバレンタイン用の小さい紙袋に入っているチョコ。

今までで一番特別感ある!!!

友杉さんありがとうございます!!!


「アイリは甘いのー。まぁしゃーない。ほれ私もあげるわ。欲しいかほれほれ」


手でひらひらさせているのは市販の板チョコ。

中森さんらしいっちゃらしいけどね。


「ありがとうございます」


「感謝しろよー」


上々の出だしじゃね?これ。

なんだか…いけそうな気がするー!



部活終了後。


「レージー!はいチョコあげるー!」


カナさんとナツキさんがやってきた。

キターーーーーーーーーーーーーー!!!

この声の掛け方からして義理チョコ以外にはないだろうけど嬉しい!


「どうせあんまりもらえてないでしょ?カナさんが恵んであげよう」


「ちょっとはもらってます!義理だけですけど」


「そりゃよかった!さすがに同じパートの後輩が1個ももらえてないとか残念すぎるし。じゃあ私とナツキも義理チョコだ!はいよ」


「いつもありがとう。義理チョコだけど、これ」


「ありがとうございますー!」


ナツキさんはコンビニで売ってる小さめのバレンタイン用チョコ。

カナさんは業務用板チョコレート(製菓用に溶かして使うようなアレ)。


「業務用…」


「いっぱい食べられて良かったね!!!!!」


「そりゃまぁそうなんですけど…手で割れないくらいぶ厚くないですかこれ」


「溶かして彼女に作ってもらえってことだよ!!!」


「なんて嫌な人だ…」


「お返しは三倍返しな!」


「業務用チョコ3枚持ってきます」


「いらねぇwww」


カナさんはケタケタ笑いながらナツキさんを見る。

さっそくこのやり取りに飽きたみたい。

相変わらず自由な人だ。


「ねぇナツキ、このあと藤原にこの数倍大きいチョコ渡すんでしょ?どんなシチュエーション考えてるの?どんなチョコなの?ねぇねぇ」


「うるさい!」


「いいじゃーん、付き合いだしてから初めてのバレンタインでしょ?甘々に過ごしてくださいよ」


「無視無視」


そういうとナツキさんは向こうへ行ってしまった。

「あーナツキ怒るなよー」と言いながらカナさんも追いかけていく。

去り際に「じゃーねレージ。本命もらえるといいね!また明日!」と手をひらひらさせて走っていった。

チョコもらえるってことは、嫌われてはないってことだよね。

トランペットパートに馴染んでいるってことだよね。

ちょっとホッとした。



その後も1年生アンコンメンバー中心にちょくちょく"義理"チョコをいただくことができた。

よかった、俺吹奏楽部で少なからず嫌われてはいないわ。

安堵してそろそろ帰ろうかとしたとき…


「さ、佐々木くん!」


「あ、藤原さん」


藤原さんが声をかけてきた。

藤原さんもアンコン一緒に練習した仲間。

義理チョコもらえるのか!うれしーな。


「あ、あのね、チョ…チョコ、あげたいんだけど…迷惑じゃなければ…」


「あ、バレンタインの?ありがとう」


「うん。佐々木くんと最初の頃はあんまり話したりしなかったけど、アンコンで一緒になって、いろいろ話せるようになって楽しかった。いろいろありがとう」


藤原さんは真っ赤の顔でニッコリ微笑んでチョコを渡してくれた。

「いえいえ」と言いながらチョコを受け取ると、ちょっと重めだった。

なんか今までで一番しっかりしてるかも。

ビニールでラッピングもちゃんとしてる。

いや、手作りか?ブランドは書かれていない。

友チョコの余りか?

え?え?


「来年も一緒に、アンコン練習できるといいな、なんて。これからも、よろしくね」


そういうと藤原さんはいそいそと走って帰ってしまった。

義理とも本命とも言ってない…でも本命ならそのあと告白とかあるよなぁ。

感謝の気持ちってことなのかな?

俺アンコンの練習中藤原さんに何かしてあげたっけ?

???



大漁大漁!ってほどじゃないけど、そこそこの収穫!

これで数日チョコには困らない!(考え方が最低)

チョコをバッグに入れて自転車を飛ばして帰る。

上り坂になったので自転車を降りて引いていると、後ろから声がした。


「レイジ!」


やれやれ、モテ男はツラいですなあ、こんな家の近くに差し掛かってまでチョコを渡しに来てくれる女子がいるとは…と思いながら振り向くと、ユリがいた。


「あ、なんだユリか」


「なによ、不満なの?」


「別に」


「あっそ」


ユリは家がそこそこ近くなので通学路が途中まで同じ。

なんだかわかんないけど2人無言のまま自転車を引いて歩く。

ユリは黙ってる。

なんのために声かけてきたんだか。


「じゃあ俺こっちだから」


「あ、う」


「また明日」


「ま、待って」


「?」


「ど、どーせあんまりチョコもらえてないでしょ!か、可哀そうだから余ったの恵んであげる!」


「残念でした。そこそこもらってます。全部義理だけど」


「ふーん…。じゃ、い、いらないのね」


「いりますいります」


受け取ったチョコはちゃんとラッピングされていた。

これみんなに配るって結構な労力だぞ。

意外とマメなのね。

いや、ユリって他の男子にチョコ配ってたか?

吹奏楽部の男子には配ってないような…クラスはわからんが。

あぁ友チョコか!?


「じゃ、じゃーね!」


ユリがそそくさと帰ろうとする。


「あ、待って」


「なによ」


「あ、ありがとう」


「~~~~~!!!…か、感謝しなさいよ!」


「うん」


「じゃーね!!!」


「うん、また明日」


ユリは走って帰ってしまった。

受け取ったチョコをバッグにしまおうとすると、ラッピングに付箋が貼ってあって「これからもよろしく」と書いてあった。

素直じゃないなー。

でも良かった。

いつもああだこうだ言い合ってるけど、俺別にユリに嫌われてるわけじゃなさそうだ。

それがわかっただけでもうれしい。

結局本命チョコは一個ももらえなかったけど、なんだか今日は嬉しい日になった。

ん、余ったのって言ってたよな?

全部にコメント書いてたの?

マメすぎね?

???


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