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第104話 IMPACT

アンサンブルコンテスト東海越大会の日程が全て終了し、会場からロビーに出ると泣いている人と喜んでいる人が入り混じっている大会後のいつもの独特の雰囲気が広がっていた。

東海越大会でもやっぱここは変わらないんだなぁ。

今回喜べる確率は2/26(26団体中全国大会にいけるのは2団体だけ)なので、圧倒的に泣いている人が多い。

全国大会に出場を決めた2校は初芝県立初芝高校サキソフォン四重奏と諸積大学附属堀高校打楽器四重奏。

小坂県の代表5校はどこも全国大会出場を果たすことはできなかった。

小坂県代表各団体の賞は以下の通り。


福浦高校金管八重奏:金賞

福浦高校打楽器五重奏:銀賞

橋本深川高校サキソフォン四重奏:金賞

橋本深川高校クラリネット四重奏:銀賞

福浦西高校金管八重奏:銀賞


5団体どこの演奏も県大会よりさらにパワーアップしていて本当に聴きごたえがあった。

特に福浦高校金管八重奏、多分東海越大会に出場した金管の中で一番上手だったんじゃないかと個人的には思ったし、全国大会出場でもいいんじゃないか!という演奏で、県大会でも圧倒されたけどさらに圧倒されたし聴き惚れた。

福浦高校金管八重奏この演奏でも全国大会行けないのか、と思うと上には上がいるんだな、とちょっとクラクラしてきた。

現地に来て演奏聴けて空気を感じられて…CDで音源聴くだけとはやっぱり臨場感が全然違う。

なんかものすごい場所でものすごい経験をさせてもらえたのだなぁ、と実感する。

本当にカナさん達に感謝だ。

福浦西高校金管八重奏だって演奏は負けていなかったはず。

確実に東海越大会の中でインパクトは残したと思うし、きっと誰かの心に響いただろう。

あの演奏後の拍手は嘘じゃない。

凄く魂を揺さぶられる、印象に残るいい演奏だった。

ただカナさん達のアンサンブルコンテストは今日ここで終了。

挑戦は終わったのだ…。

演奏は大満足だったけど、そう思うとものすごく寂しい。

もっとそばでこの演奏聴いていたかったです。

でもホントありがとうございました。

お疲れさまでした。



ロビーでカナさん達のところにみんなで向かうとみなさん泣いていた。

ナツキさんは涙はこぼれてないけど目は充血して静かに俯いていて、横には同じく涙目の藤原さんが寄り添っていた。

カナさんはワンワン泣きながらもみんなに声をかけていた。

そういうとこ凄いよなぁ、生粋のリーダー気質。


「カナさんナツキさん、お疲れ様でした」


「あ、ユリ。お疲れ」


カナさんとナツキさんはちょっと無理して笑う。

でもその後すぐにちょっとだけ表情が曇った。


「ダメだった。演奏は結構自信あったんだけどね。やっぱ全国大会行くような団体はすごいなぁ。全然追いつけないや。まだまだだ」


「そんなことないです!みなさんの演奏すごい良かったです!あの楽しいカンツォーネ、最高です!」


「いやでもやっぱさらに上に行くには、そもそもこの演奏の解釈は間違いだったのかもなぁ。コンテスト向きじゃないっつぅか…」


「そんなことないです。カナさん達はあの曲ちゃんと自分たちのものにしてました!間違ってなんかいません!会場全体の空気一変させましたって!確実にインパクト残してました!ていうかこの解釈で東海越大会まで来たんじゃないですか!自信持ってください!」


「でももっともっとこの8人で演奏したかったよ。私が今回実質リーダーとして進めてきたけど、なんだか最初からここが限界の解釈してたっていうか方向間違ってたのかも。なんかちょっとだけ自信なくしちゃった」


カナさんは俯く。

さっきまでテンション高めに周りをフォローしてたけど、今はちょっと弱気な感じで珍しく、すっごく珍しく落ち込んでいる気がする。

ちょっと意外。

リーダーとして責任を感じてるんだろうか。

カナさんの目からまた涙がこぼれる。

こんなカナさん初めて見た。

私に弱音を吐いてくれている。

そうやって私に本音を言って心開いてくれているのは凄くうれしい。

でもこんなの…カナさんじゃないでしょ!?


「…間違った音楽なんてありませんよ!」


「…」


急にあまりに大きな声を出してしまったので、周りのみんなも近くの他校の人も一瞬こっちに視線が集まった。

でも止まらない。


「間違った解釈の音楽なんてありません!その人たちが考えて、納得して解釈して演奏したならそれは間違ってなんていません。音楽はそんな堅苦しいものじゃありません。どんな解釈したって自由です。それが音楽です。そりゃマーチでテンポ崩したり楽譜に書かれてること全部取っ払ったり曲自体をぶっ壊すのは論外ですけど。カナさん達はあの曲をちゃんと理解したうえで「らしさ」を付け加えられたんです!そうじゃないと曲が破綻します!だから、カナさん達の音楽は間違ってなんかいません!」


「そう…かな?」


「そうです!カナさんの方針は間違っていません!もし審査員が「曲の解釈がそもそも間違っています」とか言ってたら、私が文句言ってきます!だから自信持ってください。こんなのカナさんらしくないです!」


「…んふ」


「な、なんですか」


「ありがと、ユリ。そーだよね、こんなん私らしくないよね」


「そうです!自信満々に笑いながらみんなを引っ張っていくのがカナさんです!そういうカナさんが私は好きです」


「ぶっ!」


「なんですか」


「告白されちゃったw」


「そういう意味じゃないです!!!」


「わかってるよ、ありがとユリ。うん、なんか元気出た。ね、ナツキ」


「うん、ユリありがとう」


ナツキさんも微笑んでいた。


「ユリってホントたまにこういうこと恥ずかしがらずにまっすぐな目で言うよね」


「う…」


自分の発言を思い出してなんか一気に恥ずかしくなってきた。

でも…


「だって…落ち込んでるカナさんなんて…らしくないですもん」


「そうだよね。そんな私が大好きなんだよね!ユリは!」


「もー!もー!忘れてください!」


「忘れなーい!よーしナツキも最近相手してくれないし、2人で付き合っちゃうか!」


「だからそういう意味じゃないですって!」


「付き合うといえばまずはこれだ!」


カナさんが私に抱きついてきて頭を撫でる。

そして耳元で小声で、


「ありがと、元気出た。さっきの言葉忘れないよ」


「カナさぁん」


「ユリぃ」


そして2人でわんわん大声で泣いた。

ナツキさんも私を撫でてくれた。

なんか今日ペットか?てくらい頭撫でられてばっかだな。

でもいつものカナさんとナツキさんが戻ってきた。

それは伝播して福浦西高校みんなで泣いた。

悲しさは悔しさに変わり、悔しさは次への活力に変わり、最後にはみんな前を向き始めた。

福浦西高校吹奏楽部はこの経験を生かしてまた次に向けて進み始めるのだ。



みんなちょっと落ち着いて楽器を片付け会場から出たとき、私はふと思い出した。


「あ、そーだ。そういえば審査員の講評まだ読んでなかった」


「え!まだ読んでなかったんですか?」


「うん、落ち込んでてそれどころじゃなかった。みんな審査員の講評読もーよ!「曲の解釈間違ってます」って書いてあったらユリが審査員のところ殴り込みに行ってくれるっていうから!」


「殴り込みません!」


みんなわらわら私のもとに集まってきた。


「じゃ、読みまーす!ユリが殴り込みに行くか、楽しみだね!」


「だからー!」


「えーっと一枚目…」


わくわくドキドキ。


「いきまーす。「とても元気で素晴らしい演奏でした。あんなにワクワクするカンツォーネは初めて聴きました。出だしからの和音は…」」


なんか読みながらまたちょっと泣けてきた。

でも私もみんなも笑いながら。

どの講評も真摯に私達の演奏を評価してくれており、1人は最高評価をつけてくれていた。


「私この審査員の人好きー!てかプロのトランペット奏者じゃん…あ!私この人のCD持ってるわ!」


「プロの金管奏者の人に認められたってことじゃないですか!すごいじゃないですか!」


「あー、この人ホントわかってるわ!もう1枚CD買っちゃおうかな!」


ユリや1年生の心には響いたみたいだし、審査員1人の心にも最高に響いたみたい。

それで十分だ!

ここで大会が終了してしまってみんなでこの演奏するのが終わりなのは寂しいけど、誰かの心にこの演奏が残ってくれたのなら満足だ!

苦しいこともあったけど楽しかった。

去年のゴタゴタがあったのにまた一緒に歩いてくれた金管八重奏7人、一緒にアンコン出場に向けて切磋琢磨した他の2年生のみんな、私たちのライバルとして本気でアンコン出場狙いにきてくれた1年生のみんな、ずっと指導してくれた先生、あとついでにリコピン。

本当にみんなありがとう!

みんなの想い、背負えてよかったよ!

最後にみんなで振り向いて夕日をバックにした初芝県文化会館に軽くお辞儀をした。

ここで凄くいい経験・挑戦ができた。

一生の思い出だ!ありがとう!



これで福浦西高校金管八重奏の今年のアンサンブルの挑戦は全て終了。

来年は私たちがアンコン絶対出場して、東海越大会出場するんだ!

そう決心してみんなで笑いながらホテルに戻った。

みんなで胸張って福浦西高校に帰りましょう!

吹奏楽はまだまだ続く。


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