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第98話 夢と勇気、憧れ、希望

橋本深川高校の人たちがホールからいなくなり、私達福浦西高校の練習の番になった。

カナさん達はステージの上、先生は客席のど真ん中に座り、私達サポートメンバーはちょっと後ろの方の端の席に座った。

ていうかさっきの橋本深川高校の雰囲気凄かったなぁ。

演奏もそうだけど佇まいもなんか余裕が感じられて、やっぱ常連校ってのはこういうもんなんかなぁ、と。

あとこれは福浦高校もおんなじ感じだったんだけど、すごく大人っぽかった。

私たちにとって東海越大会は未知の領域だけど、常連校は過去の経験が受け継がれているからなのかね、余裕を感じる。

経験、私たちもせっかく同行させてもらってるんだから、この空気感はここに来られなかったみんなにも伝えないと!

私達福浦西高校はというと、みんなどことなくソワソワしているというか緊張しているというか…私含め余裕がない感じ。

さっきカナさんが「よっしゃ!うちらはうちらの演奏するよ!いつも通り楽しんでやろうね!!!さぁいこう!!!」と言ったおかげか、ちょっとずつ笑顔が出てきてはいるんだけど、やっぱちょっと緊張気味。

ただ先生と2年生で1時間だけの練習が始まり、実際に楽器に息を吹き込見始めると緊張感は和らいできたみたい。

やっぱ楽器吹くのって腹式呼吸→深呼吸→落ち着くなのかね。

先生も2年生も緊張しながらもアツく一生懸命に練習が続く。

私たち1年生は端っこに座り、何かできることは無いかなーと思いながらも今は見ているだけしかできない。

みんなすごいな。

明後日未知の領域の東海越大会本番だってのにちゃんと演奏できている。

私だったら緊張でいつも通り吹けないかもしれない。

でも来年になったら私たちが2年生になって…カナさん達みたく東海越大会の舞台に立てるだろうか?

東海越大会に行けてカナさん達凄い!みんな凄い!福浦西高校凄い!ってなんか私まで凄いんじゃないかって思ったこともあったけど、やっぱカナさん達が凄いだけなんだろうか。

シオさん達やそれより前の先輩方の経験・積み重なった結果とカナさん達の力が合わさったことが今のこの状態なんだろうけど、私は来年の今頃これまでの積み重ねと今回の経験を生かせているだろうか。

「去年が特殊だったね」と言われるのは嫌だなぁ…。

…。

はっ!!!!!!!!!!!!!

いかんいかん、今は目の前のみんなの演奏に集中だ!

サポートメンバーが気落ちしていたらよくない!

雰囲気盛り上げるだけでも、やらないと!



練習時間1時間なんてあっという間に終わり、今日の練習は終了。

ホールから引き上げホテルに戻る。

部屋で少し休んだ後ホテルでご飯(ビュッフェとかそういう凄いのではない)食べて、そのあとみんな1部屋に集まって今日の演奏の録音を聴きながら楽譜とにらめっこしああだこうだと反省会。

緊張はしているけど、なんかみんな前を向いている。

本当にみんな凄いなぁ。

反省会が終わるとお風呂タイム。

お風呂は大好きなので楽しみだ。

高級ホテルとかではないからすごく綺麗な大浴場というわけではないけど、家のお風呂よりは当然大きいから嬉しい。

っていかんいかん、私が楽しんでどーすんだ!

私はあくまでサポートメンバーなのだから。


「ユリさぁ、なんか今日ずっと緊張というか気持ち張り詰めてない?」


お風呂に浸かっていると横に来たカナさんにそう声かけられた。


「せっかくなんだからもうちょい気楽に楽しもうよ」


「でも私サポートメンバーですから、みなさんのお役に…」


「あぁだから今日異様に優しいのか!いいよいいよ、普段通りで!そうじゃないとなんか調子狂うよ!」


「えー…」


「今みたいないつもと違う状況なのはわかるけど、せめてユリ達くらいはいつも通りにやってほしいよ。ていうかそんな肩肘張らずにいこうよぉ」


そう言ってカナさんは私の肩を揉んでくれた。

うーん、私がやらなきゃいけないことをやってもらっている。

申し訳ないし、カナさんはやっぱすごいや。

やっぱカナさん達が突然変異種なだけなんだろうか…。



「はぁ…」


「え!何ごめん。なんかダメだった?」


「あ、いえそうじゃなくて…そのぅ…」


「なぁに?」


「…演奏に集中してもらいたいのに、なんか逆に気を使わせてしまってすみません。なんか全然うまくいかないな…」


「いや全然、そんな謝るようなことじゃないし!なにかしたいっていう気持ちが嬉しいし!ていうか朝寝不足の私に付き添ってくれたじゃん!あれは最高だったぞ!みんなが冷めた目で見てた中あれは助かった!!!ありがとう!!!」


「…カナさんはすごいです。本番前なのにこんなに明るく前向きにみんなを引っ張って、私にまで気を使ってくれる。それでなお演奏はすごくしっかりしている。緊張してるでしょうけどそれを見せずにみんなの前に立っていて、なんかやっぱすごいです」


「うえー、やっぱユリ今日優しすぎるよぉ。なんか変なもんでも食べたの?いつもは私のことそんなに褒めてくれないじゃん」


「そんなことないですよ…」


「…なんか自信失った?」


「そんな感じかもしれないです。福浦西高校で東海越大会行けてみんなすごい!って思ってましたけど、すごいのはあくまでカナさん達なのに、自分もなんかちょっと凄いのでは?なんて思っちゃってました。ただ来年私が東海越大会まで来れるか、とかカナさんみたくできるか、って思うと自信ないです。経験させてもらいに一緒に連れてきてもらいましたけど、なんかその経験を活かせる自信がないです…ってあぁホントごめんなさい!今は演奏に集中しなきゃいけないのに後輩がぐちぐち言ってて余計なことを…」


「…ばーか!東海越大会で他校の演奏聴く前に身内で自信なくすなっつーの!」


「すみません」


「前も言ったでしょ。私はシオさんみたくできないってわかったから私なりのやり方でやってるって。ユリだってどうやったって私にはなれない。それを受け入れて自分なりのやり方を見つけてそのの中で経験を活かすしかないの。ユリにはユリの長所があるんだからそこを織り交ぜながらやってくしかないの。来年も東海越大会行くっていう目標はいいと思うけど、東海越大会行くことだけが目的になっちゃったら息苦しいしつまらないでしょ?こういうことになって来年のことでプレッシャーになっちゃってるんならごめん。でも今は今。来年は来年。今はとりあえず目の前のことだけ集中しようよ。来年のことは大会終わったら考えよう。一緒に考えるから」


「一緒に…」


「うむ!」


「…そうですね。今は目の前の大会に集中します」


「おう!応援とサポートよろしく!」


「はい!ありがとうございました!」


「じゃあお礼と言っちゃなんだが、触らせてくれよ。太もも」


「はああああああああ???」


「おっ!いつものユリじゃん。とうとう出たね。。。」


「いつもと違っても触らせませんよ!カナさんって本番前なのにほんといつも通りですね!逆にすごい」


「そうだよ!ずっとこうだよ!緊張なんか全然しないよ!」


嘘つき。

ほんとは緊張してるのに普段通りふるまうからあなたはすごいんですよ。


「私もユリと同じ普通の公立校の吹奏楽部の女子高生。私たちだけが突然変異種とかじゃないよ!だから特別とか特別じゃないとか気にすんな!」


ほんと…すごい人だわ。

私の心読めるんだろうか、憧れる。

あなたみたいになりたいけど、同じ中身にはなれない。

でも私もカナさんも同じ普通の公立校の吹奏楽部の女子高生だから、カナさんと同じように経験を活かして自分なりの方法見つけることはできるはず!

手足をぐーんと伸ばすと、なんか憑き物が落ちたように楽になった気がする。


「はい!ありがとうございました!」


「じゃあお礼と言っちゃなんだが…触らせろ」


「っ…!!カナさんっていつもそうですね…!私のことなんだと思ってるんですか!?」


「調子出てきたな!その調子で頼むぜ!!!」


「はい!」


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