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第8話 シオさんの挑戦状

まー、そんなわけで(第6、7話参照)1年生2人はその後もたっぷり絞られたわけです。

今日はずっとパート練なので常にビシビシと…。

最後にペットパート全員で基礎練して今日も終わり!と思ってたら…。


「あ、レイジとユリにプレゼントあるからちょっと待ってて!」


シオさんはそう言うと楽器庫の方に走っていった。

俺とユリは目を合わせて「プレゼント?新入部員歓迎の意味で?」「いやいや、そらないやろ」と会話を(心の中で俺はしているつもり)した。

そうしてるうちにシオリさんがパタパタと戻ってきて、


「はい、これあげる!」


渡されたのは何枚かの紙。

なぜか俺たち以外の先輩方(特にシオさんとカナさん)はニヤニヤしている。

「?」と思いつつ俺たちはその紙に目をやると…ん…なんかプリントしてある?

新しい曲の楽譜か…?


「ひっ…ひぁあああああああああああああああああ!!」


いきなりのユリの悲痛な叫びが聞こえびっくり。

ユリはなんだか口をパクパクさせて、「て…て…」と呟いている。

なんだこいつ頭おかしくなったんか?


「て…テヌート、テヌートぉ…テヌートの練習がいっぱいだよぉおおおおお!!!」


涙目のユリにさらにびっくりしながらも、俺もよくよく紙を見る。

するとそこには…


「ぎゃああああああああ!スタッカートとアクセントの練習がびっちりぃぃぃぃぃいいいい!!」


これは現実なのか?

コレハドウイウ意味デスカ?ワカリマセン。

お、おおおおおおおおおおおお…俺たちは低い声でこう唸るので精一杯。

…まぁつまりわかりやすく言うと、お互い最も苦手で嫌いな練習のためのプリントが配られたわけですね。


「ん~、思った以上の反応だけど…まぁそれがプレゼント。レイジは出だしが弱いから、スタッカートやアクセントの練習で出だしから響いてしっかりした発音で出せるように頑張ってね。ユリは出だしをキレイに、また響きを持続させるためにピアニッシモぐらいでテヌート練習ね。あ、もちろん2人ともメトロノームちゃんと使ってね!」


やけに明るいシオリさんと対照的に、沈みまくる1年生。

未だにあ…あう、あう…あお…おおお…と唸っている。


「別に発表みたいのはしないつもりだけど、たま~にウチらが急に「やってみて」っていうかもしれないからヨロシク」


「ユリしっかり練習しろよ~!ちゃんと「やってみて」って言うから!」


カナさんが悪戯っぽく言うけど、ユリは涙目でしょんぼり。


「テヌート…テヌートぉ…ピアニッシモで8拍テヌートぉぉぉ…。」


まじまじと楽譜を見ながらうわ言のように呟くばかり。


「レイジには、もちろん私がやさしく「やってみてね?」って言ってあげるからね!」


やけに張り切るシオさん。

俺も未だにしっかりした言葉がでてこない。

スタッカート…中学時代にも言われ続けた、あのスタッカート。

アクセント…中学時代にも「お前のアクセントは後押しぎみだ。まるで演歌のコブシだ」と言われ続けた、あのアクセント…。


「そーゆーことだから、ちゃ~んと練習してよ?改善が見られなかったら普通に怒るから!」


「「はぁい…」」


「もー、ちゃんと返事くらいしなさい!わかった!?」


「「は…はいっ!」」


シオさんは「よろしい。じゃあパート練は終わり。」と言ってニコッと笑った。

俺たちは意気消沈し、トボトボと部室に帰り始めた。


「あー、2人とも!言い忘れてたんだけど、ユリがやろうとしてることはレイジの得意分野で、レイジのやろうとしてることはユリの得意分野なの。だからわかんないとこは聞くなり、練習を聴いてもらうなりして、2人で協力して頑張ってね!」


シオさんの一言に俺たちは目を合わせる。


「そーそー!2人で愛の共同作業頑張ってね~~~!!!」


「「カ・ナ・さ・んんんんんんんんん!!!!!!!」」



レイジ「むーーー…」


翌日、俺は昨日もらった課題とにらめっこしていた。

目の前にはシオさんにもらったアクセントとスタッカートの練習譜。

カチカチ、とメトロノームは刻み続ける。

行き詰ってしまった。

頭をキレイにハッキリさせる意識は持ってるけど、どうも軽くてしかも音が割れぎみっぽい。

かといって意識を緩めると出だしよりちょっと後からしか鳴ってこない。

「んわーん!」って感じで。

昨日はそこそこ掴んだ気がしてたんだけど…。

キレイに音を響かせることと、音をハッキリ明確に鳴らすことの両立のなかなか難しいことよ…。

どうしよう…?


ユリ「むーーーーん…」


翌日、私は昨日もらった課題とにらめっこしていました。

目の前にはシオさんにもらった、テヌート系の練習譜。

カチカチ、とメトロノームは刻み続ける。

行き詰ってしまった。

頭をやさしく響かせる意識は持ってるけどどうも極端に弱々しくしかならない。

かといって意識を緩めると出だしが汚くなってしまう。

「ぺぇーん!」って感じで。

昨日はそこそこ掴んだ気がしてたんだけど…。

音をハッキリ明確に鳴らすことと、キレイに音を響かせることの両立のなかなか難しいことよ…。

どうしよう…?


シオリ「むっふふふふふふ」


悩め、悩めよ若者たち。

自分で考えて解決していくことも大切なんだよ。

わかんなかったら相談したり、協力することも良い。

でもまず一回立ち止まって自分で考えることも大切なのよ。

パートリーダーだからついつい口出ししたくなっちゃうけど、そこは我慢我慢っと。

私はチラチラ様子見ながら一先ず自分の練習しますかの。


カナ「むーーーーーーー…」


なかなか進展しないなぁ。

ここから見てる限り、音が変わったり誰かに聞いたりはまだないな。

でもちゃんと悩んでるし、いいこといいこと!

あわよくば2人がこれを機会に仲良くなって…!

ニヤニヤしてレイジとユリの様子を見ているとナツキがこっち来た。


「2人はどんな感じ?昨日シオさんとカナに色々言われて凹んでたけど」


「んー、大丈夫そうだよ?2人ともちゃんと考えて、悩んでるしね」


こんな具合で2人で話していると…

おや?レイジとユリの様子が…?

あ!レイジが…ユリの方に近づいていきます!

おお?あれはもしかして、ユリに質問でもしているのではないでしょうか?

レイジが身振り手振りで音の形を表現しながら「えっと、えーっと」と言いながら質問しております。

一方のユリは若干戸惑っているようですがなにやら一生懸命答えています!

若干顔が赤く、ツン状態に入っているかもしれませんが、ちゃんと「会話」をしております。

キャッキャと2人で様子をチラチラ見ていると、やっぱりシオさんとミズホさんもなんだかんだ気になってるようで、微笑ましく見ていました。

みんな、気をつけろよー。見られていることがバレると途端にユリが機嫌損ねて会話が止まってしまうから!


「ふふっ、どうやら2人で話し合いながら解決していけそうかな?」


「うん、あの2人、コレきっかけで仲良くなれそうだねぇ!」


「…ん…?」


「お…?」


「はぁ…カナは2人でしっかり問題解決できるかを見てたんじゃないの?」


「え…あ…で、でもさ、同パートの同学年が仲良くなるって大切じゃない?で、しかも異性だからあわよくばーって…なんてね、アハ、アハハ…」


「カナはすぐそういうので面白がる」


「むー、ちゃんと課題に取り組んでるかも見てたよ。ただ…ユリもレイジもかわいいじゃない?特にユリ、男子と話すときのぎこちなさが…ねぇ?だからつい」


呆れ顔のナツキと話しながら再びユリたちの方に目を向けると、2人はたどたどしいけどもマジメに話し合っていました。

んー、っとした表情で考え込んだり、意見を聞いたりして悩んでる様子。

レイジがB♭を吹いてみてそれをユリが意見したり、またその逆も。

そしてまた、んー、ってした表情。


悩め、悩め。

勉強じゃないから、こういうことはすぐに先輩や先生に正解を教えてもらうことのが正しいかもしれない。

でも、自分なりに論理的に考えて分析していくことで、自分の音について考えることも大事。

楽器のことだけじゃなくて、みんなでやっていくことや相手と話し合ったり悩んだりすることも大事。

まだまだ出会って日が浅いからぎこちないけど、ユリとレイジが仲良くなってくれたらやっぱり嬉しい。

まだ1年なんだから焦らないでいいんだよ。

わかんなかったら私達もいっしょに考えるから。

みんなでやっていこ!

頑張れよ。


んあ?

シオさんが「いつまでもニヤニヤ見てないで、おまえらも練習しろ!」って言いたそうにこっち見てる…。

苦笑しながら優しい気持ちで私達は練習に戻っていきました。

レイジもユリもがんばれー!

私もがんばる!


「よっしゃ!ナツキ!レイジとユリに負けじとウチらもラブラブでアチアチな感じ見せつけてやろうぜー!」


「…言葉のチョイスが…」


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