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普通の男の普通の人生?
ベージュの紙の箱が規則正しく等しい間隔を空けてたくさん並んでくる。彼は始まったと思った。デカいコンクリート造の建屋の中に、広々とした空間がある。壁と天井は真っ白に塗装されているが、床はまるで作られたような緑だ。光沢があるせいで床の歪みが水の流れのようにして光っている。その中にブリキ色の骨組みで15のレーンが作られ、その先は一つのコンベアに集約されている。コンベアが沿わされている後ろの壁のど真ん中に丸い大きな時計がぶら下がっている。そして、その時計の真ん中にある温度計は5℃を指している。
「はい、小野さんは冷食の仕分けね」
面接を受けて、すぐに所長が彼を冷食の仕分け作業に配属させたのは、別段その仕事に学や素養が必要ないためにある。
倉庫の西側にあるその食堂は食堂と呼ばれているが、厨房はなく、あるのは自販機と長机と椅子である。その事務的なデザインに似合わずにあるのは食品系の自販機くらいで、中身は菓子パンやらスナック菓子程度である。
倉庫は複数の企業が利用しているが、彼とは別の企業でパートで雇われているのは女性ばかりだった。人妻ばかりなのであろうが、熟女ばかりというわけではなく、中にはその群れから外れた若い女の人がいる。彼はその人に気づかれない程度にしかしはっきり彼女を見ていた。
まず彼は彼女の裸を想像した。身長は高めで細身なので足や手も棒のようなイメージであった。しかしその所々に少しばかり女性的な膨らみを感じられるような柔らかさをイメージし、陰部を触ると体はどのように波打つのだろうかと想像した。胸は平均的だ。股の匂いを想像する。イジるとなにか感じ取るだろうか、それともマグロだろうか。髪は赤茶けている乾燥して不摂生な感じを思わせる。しかしながらその見た目から少しばかり不幸を感じ取ることのできる場合、彼の妄想にはとても都合が良かった。乳臭さを感じられない夏の干し草のような匂いがその女の人のイメージとともに湧いて出た。
やれやれ