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<第三十二話>大野と姫子

 大野は扉を開けると、部屋の中に入るように姫子を促した。そして、二人が中に入ってから静かに扉を閉めた。


 この洋室は、先程まで悠馬に話を聞いていた部屋だった。





 大野は、先に部屋に入っていった姫子の方へその顔を向けると、




「いやぁ、純情さんの話術は実に巧みですね。


 皆さんから話を聞きだすのが非常に上手い。





 最初こちらの質問に答えるという会話形式だったものが、後半では自然に彼らが話し始めるという風にご家族の様子が変わっていきましたね。




 しかもそのおかげで、話している最中に話してはいけなかった事を言ってしまった者もいたようですな。」




 と姫子に嬉しそうに話しかけてきた。






「お褒め頂きどうもありがとうございます、大野刑事。




 ところで非常に細かい事で申し訳ないのですが、もしよろしければ私の事は、苗字ではなく名前の姫子の方で呼んでいただけませんでしょうか?」




 姫子が少し恥ずかしそうに言った。






「ああ、そうなんですか。これは失礼しました。




 ではこれからは、『姫子さん』とお呼びすればよろしいですか?」




 大野が少し慌てながら、すぐに『純情さん』と呼んでいた事を詫びてきた。






「はい、ありがとうございます。そうして下さい。


 


 大野刑事がそう呼んで下さると嬉しいです。


 私は長いこと名前で呼ばれる生活をしていて、それにすっかり慣れてしまっているのです。




 ですから苗字で自分の事を呼ばれると、今ではとても他人行儀な言い方に感じるようになってしまいました。」




 姫子は笑顔で呼び方を変えてくれた大野に礼を伝えた。






「そうでしたか。




 さすがに初対面の女性をいきなり名前でお呼びするなんて事は、ついぞ思いつきもしませんでしたが、そんなことならお安い御用です。





 いやぁ、それにしても姫子さんは面白い方ですな。」




 大野が朗らかな笑顔になって答えていた。







「呼び方を変えて欲しいというお願いをしてしまい、大切な話の腰を折ってしまってすみませんでした。





 ところで先程仰っていた『話していけなかった事』とは、どの話の事を言っていたのでしょうか?」




 姫子が笑顔から真面目な表情に戻って、大野にたずねていた。






「ああ、その事ですか。


 それは悠馬が話していた、風呂に入った時刻の事を言っていました。





 午前一時頃という時間は、ちょうど巌の死亡推定時刻に一致する時刻じゃないですか。






 実は、まだ剣持家の人間には、巌の遺体の状況から、我々が既に死亡推定時刻を割り出していることを話していないんですよ。




 だから悠馬は、我々がまだ殺害時刻を知らないであろう思っていて、その油断から、うっかり正確な時刻を正直に話してしまったのだと自分は考えています。






 いやぁ、目が覚めたから風呂に入ったなんて話していましたが、きっと彼は父親を殺害した後、自分の身体に付いた汚れを落とすために、その時刻に風呂に入ったんですよ。」




 大野が、やや興奮気味に話していた。








「大野刑事がおっしゃるように、体中の汚れを一度に落とすには、お風呂場は非常に便利な場所ですよね。私がもし自分が犯人だったならば、恐らく同じ行動を取ると思います。




 ですから鑑識官の方にお風呂場の検査もしていただくように、指示をお願い出来ますでしょうか。」




 姫子が大野の目を見ながら、大野の意見に頷くような仕草をしながらお願いをしていた。






「ええそれはもちろんです。私もそう思っていました。




 これからすぐに鑑識の者へ、その指示をしてきます。」




 そう言って大野が動き出そうとした時、姫子が大野を慌てて止めた。






「すみません大野刑事、ちょっとだけ指示を出すのを待って下さいませんか。


 私の話にもう少しお付き合いして頂きたいんです。




 実は、まだ大野刑事には、教えていただきたいことや、お願いしたいことが幾つかあるのです。」




 姫子の表情は、真剣だった。






「えっ?」


その表情を見た大野は、既に動き出し始めていた足を止め、姫子の方へと向き直った。


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