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<第二十話>姫子登場

 薫は、無事に別荘から外に出る事が出来た。



 別荘を出た直後は、入り口に待機していた警察官が自分の事を見ているような気がして、少しでも落ち着いた雰囲気をだそうとゆっくりと歩くようにしていた。





 しかし、薫はいつの間にか小走りになっていた。


 昨日の姫子と楽しい時間を過ごした事が、もうずっと前の出来事のような気がしていた。





 (もしかしたら姫子と話していたあの時間は、夢だったのかもしれない。)


 朝から起きた事件のショックが大きすぎて、薫は、現実の世界が今どうなっているのが本当なのかが分からなくなってきていた。


 


 薫は、姫子が泊っている別荘の前に着いた。


 そして別荘が建っている姿を見て、ようやく薫は、昨日会った姫子が現実に存在するのだと、少しだけホッとしていた。





 薫は、玄関の呼び鈴を押した。


 そして、玄関先にゆっくりと出てきた姫子の姿を見るなり、薫は姫子に駆け寄っていた。




 「姫子さん、どうかあなたの力を貸して下さい。」


 薫は、せきを切ったように姫子に言った。






 「おはようございます、薫さん。




  どうなさったのですか?何かありましたか?」


 薫の慌てた様子を見ても、姫子は、笑顔を崩さなかった。


 そして焦っている薫を落ち着かせるように、ゆっくりと話しかけながら、姫子は薫から話を聞き始めた。










 「そうですか…。お父様の巌さんが今朝亡くなられてしまったのですね。




 それは、突然の悲しい出来事でしたね。








 薫さん、分かる範囲で教えてください。


 別荘には、誰かが外部から侵入してきた形跡はあったのでしょうか?」




 姫子は、巌の亡くなった話を聞き、その当時の状況の確認を始めていた。






 「警察の方のお話では、戸締りがしっかりとされていて、何処からも外部の人間が侵入した形跡は、発見できなかったという事でした。





 ですから、家族の誰かが犯人なのではないかと警察の方は考えているようなのです。







 ・・・そして今、兄の悠馬が取り調べを受けているのです。






 ですが、もしかして姫子さんが調べて下さったら、何か新しいことが分かって、犯人が外部から侵入してきた誰かになるかもしれないですよね。」




 薫が希望的観測を言った。








 「今のお話を伺った限りで申し上げますが、警察が外部から侵入した形跡を見つけられなかったのならば、そのような可能性は、かなり低いと思います。






 いいですか、薫さん。




 たとえ私が一緒にそちらに伺ったとしても、あなたが望むような外部の方の犯行というような結果にはならないかもしれません。




 その結果が、今調べている警察の方と同じものになるかもしれませんし、その他の結果になるかもしれません。


 





 それでも、たとえどのような結果になったとしても、私が調べ出した真実を薫さんが知りたいと言うのであれば、私もこれから一緒にお伺いしたいと思います。






 薫さん、どうしますか?」




 姫子は、薫の目を見ながらゆっくりと聞いた。





 薫は、姫子が見つめるその瞳をジッと見つめ返していた。


 そして、コクリと一つ頷いた。





 「姫子さん、どうか私と一緒に来て、父の死の真実を調べて下さい。





 姫子さんに出会って一緒に過ごした時間が、今の私をここまで来させたのです。


 昨日姫子さんと出会って、迷子の男の子やお父様の悩みをあっという間に見抜いてしまった姫子さんの洞察力は、本当に素晴らしいものでした。





 だから私は、姫子さんが調べて下さった事ならば、例えどんな結果になったとしても、それが真実であるとちゃんと受け入れる事が出来ると思います。




もちろん私は、兄の無実も信じていますけれどね。」




 薫は、姫子に事件の解明を懇願した。






 「分かりました。




  それでは薫さんと一緒に、真実を探しに参りましょう。






  そうですね、まずお伺いする前に少しばかり準備をする必要がありそうですね。




  ちょっと電話をかけてもよろしいでしょうか。


  この事件を担当されているのは、長野県警の大野刑事とおっしゃいましたね。」




  姫子が薫に確認をした。




 


  薫が、なぜ大野刑事の事を聞くのかと不思議そうな表情を浮かべているのも気にせず、姫子は一本の電話を掛け始めていた。





 「おはようございます。お忙しい所にすみませんが、黒川刑事にお願いしたいことが出来ました。」




 姫子が電話を掛けた先は、警視庁捜査一課の刑事黒川の所であった。






 黒川とは、今まで幾つかの事件を姫子と一緒に解決してきた捜査一課の敏腕刑事である。




 姫子は、彼にこれから向かおうとしている事件の話をした。








 「今朝、軽井沢の自身の別荘で亡くなった男性の名前が、剣持巌。




 長野県警が管轄の事件で、担当の刑事の名前は、大野ですね。





 姫子さん、また事件に顔を出す事にしたのですか。




 了解しました。





 それでは、この件を上の者に報告して、またすぐに折り返します。」




 黒川は、姫子から事件の話を聞くと、すぐに電話を切った。





 「姫子さん、今の電話は、一体?」


 姫子と黒川の電話が終わると、薫は状況が分からず、姫子に話しかけていた。





 「説明もせずに、ごめんなさいね。


  薫さん、警察の組織と言うものは、上下関係がしっかりと決まった巨大な組織なのです。その組織の中で、突然外部の私が動こうとするには、それなりの準備が必要になるんですよ。




  黒川刑事は、私が警察の事件のお手伝いをする時のパートナーなのです。


 ですから私が動く時には、必ず連絡を取っている方なんですよ。




  ちょっと待っていて下さい。


  きっと黒川刑事が私達の為に、今大忙しで動いてくれていますから。」




  姫子が、嬉しそうな笑顔を浮かべながら話していた。





  そして二人は、姫子に促されるままに姫子の別荘の中で、お茶を沸かして一息ついていた。





  すると、姫子の電話の呼び鈴が鳴った。


  「掛かってきました。黒川刑事からです。」





   姫子は、薫の方をみて微笑むと、電話を取った。






 「姫子さん、黒川です。 先程の件、長野県警と調整がつきました。






  これから姫子さんが現場に向かっても、ちゃんと中に入れるようになっているはずです。




 それでは事件の解決をよろしくお願いします。」






 驚くほどの速さで、黒川は姫子が現場に入る為の調整を終えてくれた。






 「ありがとうございました、黒川刑事。




 お手数をお掛けしてしまったようで、申し訳ありませんでした。」




 姫子が黒川に、急いで調整をしてくれた礼を伝えた。








 「いえ、大丈夫です。






  姫子さんが事件の捜査を希望する事を伝えたら、上がすぐに動いてくれたので、ご心配は無用です。」




 そして黒川は、いつものように用件だけを短く答え、電話を切っていった。








 こうして、捜査開始への準備も整い、姫子は薫と共に剣持の別荘へと向かった。



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