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魔術と本と何でも屋さん   作者: 小鷺川 雛
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【第五章 お母さん、帰ってくる】

第五章です!今月は次の展開に繋げるためのお話。悩みながらもとりあえずやってみようをモットーにこのお話は進んでおります、難しいですけどね!


よろしくお願いします!

【第五章 お母さん、帰ってくる】



-マナリィス郊外-



青空の下、蹄鉄と車輪の音を響かせながら一台の馬車が慌ただしく道路を走る。

車両の中では、一人の女性がすやすやと寝息を立てているところだった。



「ほらお客さん!もうそろそろ着くから起きな!」


「んぁ……?あそこからマナリィスまで、そんなに近かったけ……?」


「あんたがなるべく急いでくれって言ったんだろう?なんでも久々に息子に会うからとかなんとか言ってたじゃないか!」


「ふわぁ……はははっ、悪いねぇ御者さん。長いこと冒険してると色々あってね、時間の感覚が変になってくるのさ、許しておくれ」


「……ったく、変わったモンを乗せちまったよ。髪も滅多に見ない珍しい色だしな、天然か?それ」


「あ〜これ?よく言われるけど天然だよ、おかげでまぁ目立つ目立つ。びっくりさせようとお忍びで帰ってきたけど、もしかしたらもう知ってるかもねぇ……」



起き上がった女性が前髪を指で弄りながら呟く。馬車の振動でまるで陽炎のように揺れるその髪の色は、美しい真紅の輝きを放っていた。



「さて、一年ぶり……かな?この街に帰ってくるのは。

くくっ、リヴル達が元気でやってるといいんだけどねぇ」




────────────────────


-グリモア店内-



「あぁ、平和だ……」



カウンターの安楽椅子に深くもたれ、読書に勤しむ平日の昼時。エフィは『ちょっと用事があるんですよ〜』とか言って今日は来ておらず、そのせいか尚更この穏やかな時間が愛おしく感じる。



「お客様が来ていない事を平和と呼んでよろしいのでしたら、確かに平和かもしれませんね」


「別にいいだろ〜?最近は臨時講師の仕事もあってそこそこ忙しくなってたし。前に王都行ってからドタバタしっぱなしだったから久々なんだよこんなゆっくりするの」


「悪いという訳ではありませんが……そうですね。最近はかなり頑張っていましたし、たまにはゆっくりする日があってもよろしいかもしれませんね」


「だろ〜〜〜?あ〜ダメだ、もうダメ、なんか眠くなってきた、奥で仮眠取りたい。

シア、誰か来たら起こしてくれ。いや俺が必要なら起こしてくれ。ちょっとの間任せた」


「まったく、気を抜くとすぐにだらけるんですから……少しだけですよ」


「たまにはって事でよろしく頼む……ふわぁ」



本に栞を挟み、欠伸をしながら立ち上がってふらふらと奥の自室に足を運ぶ。

既にやる気のスイッチがオフになりかけていたせいか、俺の意識はベッドに倒れ込んでからすぐに眠りに落ち始めたのだった。



……………………………………………………




「……るじ様……主様……!」



沈んでいた意識を浮上させたのは、珍しく焦ったようなシアの声だった。

しかし眠りが深かったのか思考が上手く回らない。




「んぁ……お客さんかぁ……?」


「い、いえ……それが、その……」


「お客さんじゃないなら……もう少し、寝かせてくれ……」


「あ、主様、ですが……ま、マリィ様が……」


「その嘘にはもう……引っかからねぇ、ぞ……」


「ふゥん、このアタシを目の前に眠りこけるなんて、しかも嘘扱いとは……この子も相当偉くなったって事かね」



………………………………………………ん?



「さ、最近はかなり忙しかったのでその反動かと……」


「あんたは相変わらず優しいねぇ、大丈夫かい?相当迷惑と心配をかけてるんじゃないかって気にしてたんだよ」



聞き間違えるはずのないその声、寝ぼけ眼でもしっかり認識できる燃えるような紅色をした髪。

その持ち主は、俺の知る限りただ一人しかいない──────────



「か、母さ……ん……!?」


「お、ようやく起きたね愛しの我が息子が。久しぶり、元気にしてたかい?リヴル」



マーセリィ・クヴィール……俺の実の母親が、俺の前に立って不敵な笑みを浮かべていた。


自由で明朗快活、そして知的好奇心が形を為したような人で、様々な分野で多彩な才能を発揮している。その活躍ぶりから、髪色にちなんで『赫灼』なんて呼ばれるくらいには世界的に有名な存在だ。


この世界でメジャーな職業である『冒険者』。その中でも確かな実績があり、魔道は勿論、錬金術、薬学、歴史などなど幅広い知見を持っている。


そしてその実力は、当時の王国軍の中でもかなりの実力者だった親父をあっさり負かしてしまう程……らしい。


確かに母さんは俺にとっても魔道の師匠だが、今現在軍のトップを務めている親父の姿しか知らない俺からすると、にわかには信じ難い話だ。

と言っても、この人が負ける姿も想像出来ないんだけど。



「帰ってくるなら連絡くらい寄こしてくれよ!急に来られたら心臓に悪いって!」


「サプライズの方が面白いと思ってねぇ。抜き打ちで来た方があんたの素も見れそうだったし。

あ、ちなみにオーディには連絡しといたよ。どうせあれは『ちょうど皆で食事がしたくてな』とか考えながらも、面と向かって言えないタイプだからね。立場的にも忙しいだろうからたまには息抜きになるだろうからね」


「〜〜〜ッ、マジかよ勘弁してくれ……いい性格してるよホントに……」


「くくくっ、褒め言葉として受け取っとくよ。あ、そうだアイシャ。『セルフィター』の調子はどうだい?上手いこと扱えてるかい?」



項垂れる俺をよそ目に母さんはシアに質問を呼びかけた。

『セルフィター』と言うのはシアの愛用する篭手と足甲型の魔具のことで、肉体を保護しつつ、彼女の持つ高い身体能力を存分に活かすために調整が施されているという逸品だ。


しかも平時は指輪とシンプルな靴の形で、必要に応じて魔力を流し込むことで装甲を展開させられるという機能まで付いている。

今の魔具製造技術の最先端を行く、規格外のモノ……それの基礎設計を母さんが行い、知り合いに作らせて完成したものを『メイド認定祝い』としてプレゼントしたのだ。


王都にいる職人達からすれば、喉から手が出る程に触ってみたい代物だろう。



「はい、不慮の戦闘時にはよく頼らせて頂いております。改めて感謝致します、奥様」


「奥様はやめてってば、マリィで良いって言ってんでしょ。まぁ気に入ってくれてるなら何よりだよ。

……で、リヴルの方はどうなんだい?

仕事の調子は?オーディとは上手くやれてんのかい?アタシがあげたやつ使ってんの?リリスとは連絡取ってる?」


「あーっ!そんないっぺんに聞かないでくれ!店はそこそこ!リリスは半年に1回手紙が来るか来ないかだし、親父とも殆ど会ってない!てか会いたくねぇ!

そんでコレも……使ってないよ、そもそも使う機会なんて無いしな」



まくし立てるような質問を、負けじとまくし立てるように返しながら腰に携えた短剣に手をやる。



「やれやれ、あんたも相変わらずだねぇ。リリスとオーディについてはまぁ仕方ないとして、折角イイモノをあげたってのに使わないなんて勿体ない」


「シアが居るんだから今の俺にコレの使い所なんてないっての。戦うことになったとしても魔術で充分事足りてるし」


「ですが主様、奥さ……マリィ様の言うことにも一理ございます。最近は学院での講義もありますので、私もずっとご一緒できるとは限りませんから」


「んな事言われてもなぁ……」



小さい頃親父にある程度仕込まれたとは言っても、俺自身あまり戦闘が得意ではないしそもそも好きでもないので出来ることなら目を背けていたいのだ。



「よしっ!なら手合わせしよう!リヴル、アイシャ、外に行くよ!久々にあんた達の成長も見たいしね!」


「はぁ!?いや流石に急だろ……って首根っこ掴まないでくれ!しかも魔法で身動きまで……っ!?ちょ、シア!?」


「……申し訳ありませんが、私一人でどうこう出来るお方ではありませんので……諦めて下さい、主様」


「離せよぉ〜〜〜〜!!」


………………………………………………………………



-マナリィスの町外れ-



「…………最悪だ、なんでこんなことに」


「ほらほらさっさとやるよ〜、2人とも準備しな〜?」


「主様、先程も言いましたが諦めるしかありません。マリィ様は冗談でこんな事を言い出す方ではありませんからね。覚悟を決めましょう……!」


「分かってるけど……はぁ……しょうがないか……!」



シアの両手足が青白い輝きを放ちながら徐々に漆黒の装甲に覆われて行くのを横目に、嫌々と言った感じでリヴルも鞘から短剣を抜く。

ちなみにリヴルの持っていた魔術書はさっき没収されたので、残念な事に今彼はろくに魔術を行使することが出来ない、残念な事に。



「シア、さっき言った通りに行くぞ」


「かしこまりました。では、参りますっ……!」



シアが地面を踏み抜き、凄まじい速度でマリィに迫る。土煙を目くらまし代わりにしながら、リヴルも全力で走りだして後に続いた。



「おーおー、前よりもまた速くなったね」


「お覚悟を……!」



勢いを乗せた、深く抉り込むような貫手。常人では捉えることすら出来ない速さでの一撃がマリィの腹部に襲いかかり、衝撃が弾ける─────────!



「……うん、『セルフィター』も上手く動いてるね。結構結構」



しかし、その手はマリィには届いていなかった。

いや正確には──────────



「……あっそれ俺の魔術書の『魔力障壁』《マナシールド》じゃ卑怯だろそれは!」



薄い橙色をした壁のようなものが三枚重なり合い、その手を阻む。

使用者の魔力によってその硬度が決まる単純故に強力な魔術、『魔力障壁』。

手に持った魔術書を利用して三枚重ねで発動し、シアによる一撃を防いでいたのだ。



「卑怯じゃないよ、あんたの作った魔術書の質も確かめたかったってだけだから。

それにしてもいい感じに仕上がってるじゃないか、侮ってたわけじやないけど、もう少しで割れるんじゃないかとヒヤヒヤしたよ」


「ご冗談を……!」



左手を腰だめにし、シアは次の一手を繰り出そうとする。『セルフィターは』魔力を推進剤のように噴出し、更にその攻撃力を上乗せすることが出来る。マリィの防御を打ち破るため、シアは意識を左手に集中する。



「あえて崩す方で来るかい、英断だね。

でも……実戦じゃあそう簡単には上手くいかないよ、こんな風にね」


「ぐうッ……!?」


刹那、シアの身体は突然後方に吹き飛ばされた。

自分を襲った衝撃に驚きながらも彼女は冷静に受身を取り、体勢を立て直した。



「今のは……私の攻撃……?」


「そ、衝撃を吸収して跳ね返す『魔法』さ。この前術式を組んでみたんだけど……反射は及第点として発動の遅さがやっぱり課題だね。でももっかい構築練り返すのは面倒だなぁ……」


「片手間で研究とか余裕かよ……っ!」



側面に回り込んだリヴルが、跳び掛りながら逆手に持った短剣を振りかぶってマリィへと肉薄する。

シアには当然劣るものの、魔術士としては充分に素早い攻撃、その勢いは彼女を刺し殺さんとせんばかりのものだったが……



「そりゃあ余裕だよ、手合わせで本気出すほど大人気ない人間じゃないからねアタシは」



そう呟きながらマリィは一瞥もせずにひらりと攻撃を躱し、目標から外れた一閃は虚しく空を斬った。


「まぁでも今の攻撃は良かったよ。

その靴も魔具だろう?跳ぶ時に一瞬魔力を感じたし。なんだかんだ言いながら全力で来てんじゃないか」


「こっちが本気で行かねーといつも怒るだろ!?こうでもしないと凡人はトンデモスペックに追いつけねーんだぞ!?」


「まぁ、アタシが本気出したらシアはともかくとしてあんたは秒殺だろうしねぇ……」


「い、言ったな!?これでも結構気にしてるってのに!ちくしょう、こうなったら意地でも対抗してやる……!」



素早く距離を取ったリヴルが短剣に手を添えると、彼の意思に呼応するかのように刀身が白く淡い輝きを放ち始める。

それに合わせて大気の流れが変わったのを、シアとマリィは肌で感じとった。



(マリィ様が主様に贈ったあの短剣は、確か……)


(空気中の魔力を刀身に取り込める……!さて、どれで来るかな)



「まずはこいつでっ……!」



片手で構えた体勢からの一突き、一見何の変哲もないその攻撃。

しかし剣先は僅かに輝き──────



「はぁぁーーッ!」



その輝きの中から、閃光が放たれる!

それは魔術ではなく『魔法』……その中でも基礎の基礎である、純粋な魔力の奔流を放つというものだった。光の渦が彼女に迫る中、僅かに彼女の口角が上がる──────────



「やれば出来るじゃないの。まぁ初歩の初歩だけど、ちゃんと使えるっちゃあ使えるみたいで母さんは嬉しいよ」



安心したような声色を漏らしながら、彼女は手のひらを正面に向け……



「でもまだまだ魔力の乗せ方が甘いね。及第点ギリギリだよ」



同じように魔力の光を放ち、目の前まで迫ったその光を相殺した。



「んなっ……!?」


「前に教えたろ?魔力を放つだけの術式は基礎だけど、だからこそ丁寧に構築しろって。冒険も魔道も戦闘も基本は冷静であることが大切なんだよ。

あんたに渡したそれは確かにアタシから見てもまだまだ謎の多い、とんでもない代物だ。だからこそ、そいつを使いこなせるようになるってことは経験と知識の増強にもなるってワケ。ちゃんと使ってるかって聞いたのはそれもあるんだよ」


「い、言われなくても分かってるけどさ……!」







「……………………そこまでだ、マリィ、リヴル、アイシャ」



「げっ、この声は……!?」



突如リヴルの反論を遮り、三人の『手合わせ』を静止する声が響く。三人が聞き違えるはずのない、その声の主は──────────


「旦那様……!」


「あら、案外速かったねぇ。仕事はもういいのかい?」


「帰ってくると連絡を寄越した日に、国王陛下とヘイムズに予定を擦り合わせてもらったからな。先程ちょうど引き継ぎを終え、ここに来たのだ」



リヴルの父であり、マリィの夫。王国軍の実質的なトップである『将軍』……オーディがいつも通りの厳格な雰囲気を漂わせながら立っていた。



「しかしリヴルよ、げっ……とはなんだ。声を聞いただけでその反応とは、流石の私でも少し傷付くぞ」


「そ、そんなこと言われても急に親父が来たら驚くに決まってんだろ……!」


「まーまー、親に苦手意識持ってんのはしゃーないよ。多感な時期だからねこの子も」


「ふむ、まぁいい。しかしマリィ、帰ってきて早々手合わせとは精が出るな」


「大事な我が子と娘同然の子の成長が気になるのは当たり前だろう?それとも何かい?『羨ましかったの』かい?自分もやり合いたくてウズウズしてるとかそういう感じ?何だかんだまだ勝ったことないもんね?」



マリィが煽るような口調でその言葉を発した瞬間、オーディの周囲の空気が一変した。表情は何も変わっていないはずなのに発せられるその威圧感は、シアとリヴルが今までで感じた事のないようなものだった。

命の危機を覚えるようなそのやり取りに、二人は思わず息を飲んでしまう。



「ふっ、当然だろう。私はお前と再会する度に『手合わせ』を望んでいるのだからな。叶う事ならば今すぐにでも一戦交えたい程だ。

……しかし、今回はやめておこう。ここで始めてしまっては危険すぎるし、何よりも時間が足りない」


「くくっ、それに今日は食事に来たんだもんね。

それじゃあ今日はこれで終わり!ほら、二人とも身体綺麗にしに行くよ!オーディは店でちょっと待ってなね」


「あぁ、その間に手配をすませておこう」



張り詰めていた糸が緩むように、二人の緊張の糸が解けた。リヴルは倒れ込むように、シアは体勢こそ崩さなかったが、『セルフィター』の展開を解きながら安堵の息を吐いた。



「…………今の一瞬、マジで死ぬんじゃねぇかと思った」


「…………情けない話ですが、私も久々に死を覚悟致しました。もっと強くならねばなりませんね」


「俺はそういうの求めてないんだけどなぁ……」



────────────────────


-マナリィスにあるレストラン-



「……そうか、なら明日にはまた出発するのだな」


「まぁね、依頼で近場に戻ってきたから顔出しに来たって感じだし。これから暫くは依頼も受けずにのんびりとした冒険に戻るよ」


「……よろしかったのでしょうか、私までご馳走になってしまって」


「当たり前だろ、シアを連れて行かないなら俺は来る気無かったしな。……お、この魚料理かなり美味しいぞ」



四人はそれぞれ運ばれてきた食事を食べながら、会話に花を咲かせていた。最も、リヴルとオーディの間には深い溝があったのだが。



「にしても、あんたらはもっとこう譲り合いというかなんというか、そういうの無いのかい」


「んな事言われても……」


「譲る譲らないはともかくとして、私この食事を楽しみたいと思っているぞ。そうだな、例の話は今日は置いておくとして、最近はどうだ。国王陛下から仕事を頼まれたと聞いているが」


「……楽しくさせてもらってるよ。メーキオルさんが色々都合つけてくれてるのもあるけど、学院の先生も生徒も皆優しいから」


「……そうか。それは良い事だ。私の方からもあいつに礼を言っておかねばな」



たどたどしい会話が交わされ、二人の間に何とも言えない空気が流れる。

その不器用なやり取りは、見た人に彼らが親子だと言うのを感じさせるのには充分なものだった。



「やれやれ、見てらんないね。もっと楽しい話題は無いのかい?ねぇアイシャ?」


「私は一介のメイドですから、ご家族の話を邪魔する訳には……」


「何を今更!とっくの昔から家族みたいなもんじゃないの!というか、アイシャの方はどうなのさ?ちゃんとリヴルとは上手いこと……」


「ま、マリィ様、それとこれとはまた……!」


「ん〜?普通に日常生活の話だけど〜?」



女性陣は女性陣で会話に花を咲かせている。

しかしシアの様子はいつもより何処か落ち着きが無さそうだったが。


「シア、どうしたんだそんなに焦って」


「な、何でもございません。それより主様、早く食事をお食べになっては?美味しいのでしたら尚更」


「ん、あぁ確かに。冷めたら勿体ないしな!せっかくだし今日は沢山食べないとな!」



今度はシアとリヴルにとっていつも通りのやり取りが交わされる。彼らが幼少期の頃から幾度となく繰り広げられた光景を、懐かしむようにマリィとオーディは眺めていた。



「…………相も変わらず鈍いな」


「こりゃあ父親譲りの鈍さだね、これは。昔のアンタもこんなんだったよ、くくくっ」


「褒められても嬉しくない所が似てしまったか。しかし、おかげで懐かしい気分になれたし、リヴルとも話すことが出来た。

ありがとうマリィ。やはり今日の食事は正解だった」


「いーよ別に。礼なんかよりは、あんた達がもう少し仲良くしてくれる方がよっぽど嬉しいんだけどね」


「……私もリヴルも、お互いに譲れないものがあると言うだけだ。しかし……善処はしよう」



そうして、四人の和気藹々とした時間はゆっくりと流れていった。


………………………………………………………………




「あー食った食った。シアの料理が一番とは言っても、たまにはこういう店も良いなぁうん」


「私も、料理についての知見が広がりました。重ねてになりますが、本当にありがとうございます、マリィ様」


「いいのいいの、あんた達が頑張ってたのは知ってたし。で、今日はあっちのアタシ家に帰るけど……どうすんの?」



食事を満喫した後、火急の用が入ったと王城に向かった親父はさておいてそろそろ夜も更けて来たことだし、帰るのはそりゃ勿論帰るんだけど……正直言って少し迷っていた。

俺の家は、現在の拠点であるこのマナリィスの街と王城にある親父の持つ家の二つがある。


戻りたくないというわけでは無いのだが、親父と顔を合わせると気まずい雰囲気になってしまうため帰りづらい。でも母さんがいるなら色々聞きたいこととあるし……と躊躇してしまう。



「あー分かった分かった、顔があんま乗り気じゃ無さそうだしやめとこう。ったく、そういう所はアタシに似て素直だね。めんどくさい部分が似ちゃってまぁ……」


「……ごめん」


「珍しく今日は主様が素直ですね、明日は雪でしょうか?」


「急になんてこと言うんだ!?俺だってたまには素直に謝るさ!相手が相手なんだから!」


「くくっ、シアの前じゃ型なしだね。まぁ細かい事は気にしなくていいさ。


あんたももう大人なんだ、どうせアタシにまだまだ教わりたい事があるんだろうけど、大なり小なり自分で考える事の方が大事だよ。


前にも同じ事を言ったけどね、リヴルはリヴル、『将軍』にも、『赫灼』にもならなくて良いから、自分がやりたいようにやんな」



普段冒険者として俺の前を離れていても、この人は時々こうやって俺の欲しい言葉をくれる。

こういう母親らしい言葉を掛けてくれるのが昔から妙に嬉しくて……それは今も、俺にとって変わらずに胸に響くものだった。



「母さん……」


「ま、今のあんたじゃ逆立ちしたってアタシにゃなれないけどね!くっくっくっ!」


「ま、またそうやって……!!」




「あれ?店長にアイシャさんじゃないですか!お疲れ様です〜!」



ふと、耳に聞き覚えのある声が響き、目の前に馴染みのある姿が見える。

夜でも眩く煌めく金髪に、能天気で明るさに溢れた声。それがいったい誰なのかは、考えるまでもなかった。


「あら、エフィさん。こんばんは」


「エフィ?お前確か今日は用事で」





──────────それは、一秒にすら満たないほんの一瞬のまばたき。

その瞬間に、俺の隣に居たはずの母さんは何故かエフィのすぐ目の前、ゼロ距離までに迫っていた。



「えっわっひゃあ!?だっ、誰!?

誰ですかあなた!?まさか不審者っ!?男の人呼びますよ!?て言うかこわい、こわいです!

助けて下さいてんちょ〜〜〜〜〜!?!?」


「ちょっ……!?母さん急に何を……!」


「マリィ様……!?」


「……………………………………この子、あんたの知り合いかい?」



普段滅多に見せることの無い真剣な表情。

その表情は、決まって何か思案に耽る時の合図。

そんな顔をしながら、今日一番真面目な雰囲気で、母さんは俺に問い掛けてきた。



「知り合いってか、うちの従業員、だけど」



母さんが何をそこまで気にしているのかが全く理解出来ず、ついしどろもどろした端的な返事を返してしまう。

ちらっとシアの方を見ると、彼女も事態が呑み込めてない様子だった。



「ふゥん、成程……ね。…………やー!ごめんごめん驚かせて!大丈夫かい?立てる?」


「な、ななっ、何なんですか〜!?」



スっ……と、僅かな逡巡を見せたかと思いきや、気付いた時にはいつもの母さんに戻っていた。

エフィもエフィで突然の出来事に驚きを隠せなかった……というか相当怖かったのか、腰を抜かして涙声で喚いていた。



「いやぁ飲みすぎちゃったのかもねぇ、ちょっと見間違いしちゃったよ。ごめんねお嬢ちゃん」


「ちょ、ちょっと!?ホントに何なんですかっ!?責任と説明をもとめますっ!」


「説明つっても……この人は俺の母親だ。でもなんでこんなことをしたのかは俺にもわからん、

悪いけど諦めてくれ」


「情報量が多すぎますよ〜っ!」


「んー、アイシャ。ちょっとその子お願い。リヴルはこっちにおいで」



何か言いたいことがある、と言ったように手招きをする母さん。

エフィの事も心配だったが、それよりも母さんのことが気になる。俺はシアに目配せをして、少し離れた所まで母さんと移動した。



「どうしたんだよさっきから、エフィと会ってから母さんらしくないけど」


「……あんた、この世界における髪色の伝承は覚えてるかい?」



髪色の伝承……それは俺たちの国に伝わるおとぎ話のようなもので、それぞれの髪色によってその人間の得手不得手がわかる。


というようなものだが……



「えっ、あぁ……まぁ一応……でもアレって確か参考というか、占いというか、迷信に近いんだろ?赤神は万能とか、銀だとちょっと特殊な血統とか、青は頭脳とか。

俺の身近だとよく当たってるけど……」


「そう、迷信みたいなもんなんだけどね。ちなみに金色は?」


「ん〜っと、魔法に長けてる、だっけ。でもあいつ魔術排斥主義の村出身らしいしなぁ。

それに魔法使えるなら見た瞬間から俺が一発でわかるだろうし」


「…………わかった。ならいいや。悪かったね、貴重な従業員に。てか、あんたも最初から紹介しなよ!言われなきゃあ気付くわけないじゃないか!」


「今日会うとは思ってなかったしなぁ……まぁそうだな、言っときゃ良かったかも」


「さてさて、それじゃ一緒にあの子に謝りに行くよ!ほらちゃんと落ち着かせて説明してきな!」


「わっ、と、押さないでくれよ!元はと言えば母さんのせいだろ!?う、うわぁっ!?」


「…………………私の杞憂で済めば良いんだけどね。やれやれ、また面倒そうなもんを抱え込んでるねぇ、あの子は」



慌ただしく始まった一日の最後に起こった少し不思議な、これまた慌ただしい出来事。


この時の俺とシアは、全くもって考えもしてなかったし、知る由もなかったし……気付きもしなかった。


何故初対面のはずのエフィに対してあんな行動をしたのか。

何故髪色の伝承について突然尋ねてきたのか。


エフィに隠されていたある秘密と共に、俺たちはそれを知る事となり──────────

それと同時に、あの大きな事件の……始まりでもあったのだった。



【第五章 お母さん、帰ってくる -終-】

読了頂きありがとうございました!次回の更新は10月予定!

ちょっとシリアス……かもしれない!必死に頑張ります!

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