【第三章 店長さん、学院で先生になる 】
無事に今月も投稿出来ました、今回はリヴルが学校で先生を始める話。新キャラがまた出ますが一旦ここで打ち止めです、よろしくお願いします!
【第三章 店長さん、学院で先生になる】
「着いた……って店から普通に歩いて行ける距離なのは助かるな、メーキオルさんに感謝しないと」
謁見から2週間程経った日の朝。一日店を休みにして、俺はある建物の前に立っていた。
まるで小さな城のようなその場所の名前は、【マナリィス魔道学院】俺が今日から教鞭を執ることになった場所だ。
まぁ学院の理事長と色々話し合いをさせてもらった結果、基本的には臨時講師扱いで、本業であるグリモアの仕事を優先させてもらう、という条件を付けさせて貰ったけど……学院的にはそれでも有難い話らしい。
万年の教員不足と、魔道の分野が広すぎるのもあってほんの少しの時間でも人手が確保できるだけで充分、そんなことを理事長は言っていた。
……確かに俺は魔術や魔法についての知識は一通り持ってはいる。だけどそれは、物心ついた時からからほぼ魔道一筋で、母さんという埒外の師匠が居たからこそ得ることが出来たものだ。
一般的には、数々の種類や属性の内、一種類に詳しいだけでも充分立派な魔術師と認められるし、この学院にはそんな人達がそこそこに在籍している。
しかしそれだけじゃ学院も回らないのが現実なんだろう。
「……思ったより大変なのかもな、人に何かを教えるって言うのは」
「あっ、いらっしゃいましたか! 貴方がリヴルゼン・クヴィールさんですね! 理事長からお話は伺っております!」
校門前で突っ立っていた俺を迎えてくれたのは、とんがり帽子と濃紺のローブを身に着けた、如何にも魔術師みたいな格好をした俺と同い年くらいの明るい女の子だった。
「私はメイ・カーリアンと申します!この学院では魔道理論を担当させていただいてる教師で、本日のリヴルゼンさんの案内を任されています!」
「あぁどうも、初めまして、リヴルゼン・クヴィールです。臨時扱いですけど、今日から講師としてここでお世話になる事になりました、よろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願いします……! まさかあのリヴルゼンさんと一緒に働けるなんて……!」
どうやらメイ先生は俺の事を知っているようで、少し感慨深そうな様子だった。
「いやいや、そんな大した人間じゃないですよ。
魔術書を作れても肝心の魔力が少ないんで、宝の持ち腐れです」
「そんな事ありません! リヴルゼンさんの作った魔術書は革命を起こしたんですから!
機械などの発展で使う人こそ少なくなってはしまっていますが、それでも私たちのような普通の魔術師にとっては素晴らしいものです!」
「……ありがとうございます。そこまで言って頂けると、こちらとしても嬉しいですね。改めて、今日はよろしくお願いします」
「はい! お任せ下さい!」
眩しい程の笑顔で返事をするメイ先生に、なんとなくエフィに近いものを感じる。俺はそのまま上機嫌なメイさんに、学院の中を案内されることになった。
【マナリィス魔道学院】は、この国では2番目に有名な魔道の教育施設だ。王都にある学院の次に出来た施設で、一般市民が魔道について学ぶ時はだいたいここに通うことになる。
裕福な人間や突出した才能を持つ人材は軒並み王都にある学院に通うため、人数で言えばこの学院はここが一番多いことになる。教員数が不足していると言う理由の一因でもあるだろう。
「……はい! これでだいたい案内出来ました!後は保健室とリヴルゼンさんの担当する教室のみです!先に保健室に行きますがここまで大丈夫でしたか?」
そんなこんなで、メイ先生による学院案内は意外と早く終わった。大きさこそあるものの構造自体は分かりやすく、これならすぐに覚えられそうだし、迷ったりせずに済みそうだなと心の中でほっと一息つく。
加えて、それなりに歴史の深い建物にも関わらず全体的に造りが新しかった。
気になって聞いてみたところ建築用魔術の実験台代わりになっているらしく、言うなれば無償でリフォームされている状態のようだった。
学院的にも生徒的にも学び舎が新しくなるのは嬉しいので普通に受け入れているらしい。
不思議な事もあるもんだな……と俺は内心一人で勝手に感心していた。
「はい、問題無しです。丁寧に教えて頂いたおかげで理解しやすくて助かりました」
「ま、まさかリヴルゼンさんにそう言ってもらえるなんて……本当に光栄です!あっ、着きましたよ、ここが保健室です!
主に実技で怪我をした生徒がお世話になるところですね、今の時間は養護教諭の先生と、リヴルゼンさんみたいに臨時のお手伝いさんがいらっしゃいますね、折角なので御挨拶していきましょう!」
「そうですね、これからお世話になると思うので是非とも」
そしてメイ先生が笑顔のまま扉を開けた。全体的に白で統一された部屋は、清楚感に溢れていて、まさに保健室と言った印象を受ける。
部屋を見渡していると、そんな白い空間の中で異様に目立つ青髪が目に入った。
…………ん、青髪?いやまさかそんな事は……というかつい最近似たようなことがあったような……でも俺の知り合いの中で青髪なんてあいつ以外見たことな──────────
「……む?おぉっ!? その姿は僕の永遠のライバル、リヴルじゃないか! 奇遇だな何故ここに貴様が居るんだ!」
「………………それはこっちの台詞だよバカ錬金術師」
自信に満ち溢れた尊大な態度と言動、一度見ただけで記憶から離れなくなるであろう明るい青い髪。俺と似た背格好をした、俺と同い年の男。
フーシオ・グレイビアド……俺にとって唯一友人と呼べる人間が、何故か学院の保健室に居た。まぁ、友人と言っても腐れ縁みたいなものだが。
「あれ? お2人はお知り合いなんですか?」
「知り合いも何も幼い頃からしのぎを削るライバルだ」
「平然と嘘ついてんじゃねぇ。お前が一方的に因縁付けてくるだけだろーが」
「何を言う! 天才錬金術師の僕と、魔術に関して特筆すべき才能を持った貴様! 互いに能力を高め合って来ただろう!」
「っていう風に張り合ってくる面倒な奴です。実際錬金術の腕もあるのがムカつく所ですけど」
「天才二人がご友人だなんて……! 世の中って、結構狭いんですね」
『錬金術』は一言で説明すると、魔力を利用して物質を変換する化学のようなものだ。まだまだ開拓が足りず、未知の部分が多い分野ではあるが、フーシオは小さい頃から錬金術に触れていて、ちゃんとした実績もそれなりに持っている。
「で、なんでお前がここに居るんだよ」
「正式な依頼に決まっているだろう? 主に傷薬の精製を頼まれている。魔道の制御に慣れない内はそれに伴う怪我も多い。貴様なら理解しているはずだ。
本来なら我が師への依頼だったのだが……師は今別件で忙しくてな、それで僕がしばらく代役をしているのだ。さぁ僕は話したぞ、次は貴様の番だリヴル」
「俺の方も仕事だよ、メーキオルさんに頼まれて臨時講師をすることになったんだ。
今ちょうどここの案内受けてたとこなんだよ」
「ふむ、なるほど。では僕達が出会ったのは本当に偶然ということか。ならば今日のところはお互い自分の成すべきことに専念した方が良さそうだ。
大方挨拶に来たのだろうが、生憎保健医の方は今外している。挨拶ならばまた後ほど来た方が良いぞ」
「そうなのか……てか、お前にしては妙に大人しいな、珍しい」
「仕事なのだから当たり前だろう。僕個人の感情で錬金術と師の看板に泥を塗るなどあってはならないからな! だが、事が落ち着いた暁にはまた貴様の店に行かせてもらうぞリヴル! それともし怪我をしたなら僕のところに来い、薬は出してやろう」
「へーへー好きにしろっての。すみませんメイさん一旦出ましょうか、ここにはまた後で個人的に挨拶に来るんで。んじゃあなフーシオ」
「えっ、あっはい!それではフーシオさん、失礼します!」
「あぁ、また会おうリヴル、メイ殿」
後ろ手にひらひらと手を振って、俺たちは保健室を出た。
あいつが居たことは俺にとって結構驚きで、部屋から出た瞬間何時もより一際大きいため息をついてしまう。まさかこんな所で知り合いに出会うなんて想像もしていなかった。
「お二人はとっても仲がいいんですね! やはり天才同士何かシンパシーを感じたりされるんですか?」
「仲がいいとかそんなんじゃないですよ、ただ子供の頃からの腐れ縁です。あの頃はお互い色んな意味で浮いてて、何時からかあいつが俺の事を一方的にライバル視するようになって……まぁある意味遠慮しなくていいんで楽っちゃ楽ですけどね」
「十分に素敵な関係じゃないですか! 私、ますますお二人のファンになりそうです!」
「あいつが聞いたら喜びそうなんでそういうのはあいつに言ってやって下さい。……とりあえず案内はこれで全部ですか?」
「そうですね、講堂や実践棟、資料室に職員室……他にも利用が多そうな所は案内しましたし……! あ、そうだ! もしリヴルゼンさんさえよろしければ、この後授業の方に出て頂けませんか?」
「えっ、この後ですか? 何も準備してませんけど大丈夫なんです?」
突拍子のない提案に普通に驚いてしまった。一応講師をすることが決まった段階で前もって色々と準備はしていたものの、ぶっつけ本番で上手くできる自信は正直ない。
「大丈夫です! 授業と言っても、簡単な自己紹介とプレ講義のようなものだけのつもりですから!
この前新しい先生が来るよって生徒の皆にお話したらかなり楽しみにしていましたし、きっと喜んでくれるはずですよ! リヴルゼンさんに雰囲気を掴んで貰いたい……と言うのもありますし……どうでしょうか?」
「そういう理由なら断りづらいですね、わかりました。ちょっと不安ですけどよろしくお願いします」
「やった! それでは準備しちゃいますね!しばらくの間応接室でお待ちしていただくことになりますが……なるべく早く済ませるので!」
「大丈夫です大丈夫です、こっちも心の準備したかったので。用意出来るまでは、のんびり本でも読みながら待っていますよ」
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少しの間読書で時間を潰していると、メイさんから呼び出しがかかった。教室に向かいながら、どんな事を話そうか必死に考えていると、メイさんが『そんなに気負わなくて大丈夫ですよ!』なんて声をかけてくれて、おかげで少しだけ気が楽になって、気が付くと既に教室の目の前にいた。
「はい! ここがこれからリヴルゼンさんに担当して頂くことになるクラスですね! 魔道の基礎についての講義が主になって来るのですが……結構、生徒の子達が元気なので、その……頑張りましょう!」
「? 元気なのはいい事だと思いますよ、よろしくお願いします」
「流石リヴルゼンさん……で、では……入りますね! よろしくお願いします!」
そう言ってメイさんが扉に手をかける。ちゃんとした場所で、正式に魔道のことを教えるのはこれが初めてなので流石に緊張するが、まぁ何とかなるだろう……多分。
「皆おはようございます! 今日は皆に新しい先生を紹介しますよー!」
扉が開かれるのと同時にメイさんは元気よく教室に入っていく。俺もそれに続いて部屋に入ると、一般的な広さをした教室の中には小学生くらいの生徒が20人程目に入った。男女比はまぁ半々くらいか。
……なるほど、確かにこれはメーキオルさんも気がかりになるわけだ。
俺は母さんに教えて貰っていたので普通の学校に通っていたが、確か10年前の魔道学院の1クラスあたりの平均生徒数は40人くらいだったはず……
ざっくり数えてその半分となると、嫌でも魔道が下火だと言うことを実感せざるを得ない。
「せんせー! その人せんせーのかれしー?」
「ふぇっ!? そそそ、そんな事あるわけないじゃないですか!? この方は私の何倍も凄い人なんですよ!?私がそんな……うぅ……!」
「……メイさん、小さい子の言葉なんですからそんな真に受けないで大丈夫だと思いますよ」
「そそ、そうですよね……すみません……では改めて、自己紹介をお願いします……!」
なんて事を言い出すんだ、などと思いながらも無垢な男子生徒の質問に顔を真っ赤にして動揺するメイさんをたしなめ、とりあえず一息ついた。
殆どの生徒から向けられる好奇の目線が気になるが、いつの間にか緊張は解れていた。うん、これなら大丈夫そうだ。
「あー、はじめまして。今日から時々学院に来て、皆の授業をさせてもらうことになりました、リヴルゼン・クヴィールです。
こういう形で誰かにちゃんと魔道のことを教えるのは初めてで少し不安もありますが、魔道はすごい技術で、楽しくて、希望に溢れたものだと言うことを皆に知ってもらうために頑張ります。よろしくお願いします」
簡単な挨拶と共に俺が頭を下げると、ぱちぱちぱちとまばらだが拍手の音が聞こえた。
歓迎されてないような雰囲気はしないし、教室に入った時は年齢層の低さに驚いたが、全体的に大人しそうなのでまずは一安心と言ったところか。
「ありがとうございますリヴルゼン先生!リヴルゼン先生はとっても魔道に詳しい方なので、分からないことがあればすぐに聞きましょうね!それではリヴルゼン先生、さっきの通り今から簡単な講義のようなものをお願い出来ますか?」
先生、か……呼ばれ慣れない呼称に少しむず痒さを覚えながらも、メイさんの言葉に頷きで返した。
「講義と言われても、まだちゃんとした準備が出来てないので本当に簡単なものになってしまいますが……魔道、皆が使うことになるのは主に魔術の方ですね。
魔術は、今の私たちの生活に深い関係のあるものだと言うのは皆知っていると思います。
最近は機械の発展で見かけることは少ないですが、お仕事や家事でお父さんやお母さんが使っているのを見た事があるって人は多いと思います」
俺の言葉にうんうんと頷く子、隣の席の子と顔を合わせて確認する子、確かに! と目を輝かせる子……よし、掴みは上々だな。これなら、前もって準備してたアレも気に入って貰えそうだ。
「ですが魔術はお仕事や家事だけじゃなくて、色々な事が出来たり、色々な事に利用できたりします。例えば……こんな事とか」
コートの内側にしまっていた1冊の魔術書を取り出してページを開き、綴られた魔法文字に指を走らせて魔力を流し込む。
そうすると、魔力が流し込まれた所からカラフルな幾つもの魔力の玉が浮かび上がり、俺の意思に合わせて宙にふわふわと飛んでいった。
「わ〜!とってもきれい! ようせいさんみたい!」
「すごい! どうなってるの!?」
「なにこれなにこれ! せんせーすげー!」
「これはオリジナルの魔術ですよ……ってこの喋り方もう良いか……小さい子供相手にあんまり堅苦しくしても話しづらいだろうし、俺が疲れる……ごほん」
最初は敬語を使って柔らかい雰囲気で話そうとしたものの、子供たちの雰囲気に触れてる内に慣れない話し方だと、上手く説明出来る気がしなくなってきたのであっさりと辞めてしまった。
後でシアに言ったら笑われそうだけど、俺としてと楽な方がいい。
「……魔術はこんな事も出来るんだ。でも魔術そのものの扱いはとっても難しくて危険も含んでる。
しかも才能のあるなしが明確に分かりやすい世界なんだ。だけど……勉強と努力をすれば、出来るようになる事だってある。
勉強も努力もあんまりしたくないって子もいるかもしれない。
そんな子達が楽しく魔術を学べて、立派な魔術士になれるように頑張って授業をしていこうと思うから……まぁのんびりやって行こう」
しゅっ、と指で縦に空を切ると、それに応じるように浮いていた魔力の玉が弾け、きらきらと雪のように教室中に降り注いだ。
初めて見る魔術に生徒の子達はすっかり釘付けになっていて、メイさんの方も感動した様子で降り注ぐ魔力の粒を眺めていた。初回でこれは大成功と言ってもいいだろう。
花火をイメージして余興代わりに作ってみた複合魔術だけど、思ったよりも綺麗に出来たし、皆の反応も良くてなによりだ。
「はい、じゃあこれで挨拶代わりの講義終わり、あとはメイさんに進行役を返して─────」
「せんせーすげー! これどうなってたの!? 教えて教えて!」
「わたし! わたしもききたい! きれいなやつ使いたい!」
「ねぇねぇせんせい! ぼくもできる!? ぼくにできるかなぁ!?」
「あ、あの……わたしも……」
俺が話を終えようとした瞬間、堰き止めていたものが決壊したかの如く子供たちが押し寄せてきた!好奇の気持ちでいっぱいだった視線は、すっかりすごいものを見た純心な輝きに変わっていて、そこに詰まった迫力に思わず驚いてしまう。
「うおぉっ!?ちょっ、ちょっと待ってくれそんな急に集まって来られても困るんだけど!? というかさっきも言ったけど教え慣れて無いから!
メ、メイ先生!助けて下さいちょっとこの子達をどうこうするのは俺にはまだ荷が重いです!」
「流石リヴルゼンさん……魔力のコントロールが完璧だった……一見簡単そうな術式に見えたけど多分一つ一つがとっても丁寧に作られてるんだ……術式を作れるのも凄いけど、あそこまで完成度が高いなんて……やっぱりリヴルゼンさんは凄い人なんだ……!」
肝心のメイさんは半分放心と言った感じでさっきの魔術の解析に夢中になっていた。いや魔術のこと褒めてくれるのは嬉しいけど、今は普通に助けて欲しいです、メイさん。
「あぁもう! わかった! 教える! 教えるよ! だから順番を守って1人1人質問して欲しいなぁ皆いい子だからさ!!」
最初は大人しそうだと思っていたが前言撤回。子供の好奇心の強さと元気を甘く見ていた。
これからこの子達の相手をしなきゃならないのか、大変だなこれは……なんて少しの不安を抱きながらも、俺の心は存外それを楽しみにしていることに気がついたのは、家に帰る途中の話だった。
【第三章 店長さん、学院で先生になる -終-】
お読み頂きありがとうございました!のんびり回のつもりで書いたので個人的にだいぶのんびりな回になりましたが、こう言うのが書きたいんだ私は……
次回はメイドちゃんことシアちゃんの回予定です!感想などなどお待ちしております!