第1章 スクナ 其の一
Fワードなどを造語に変更、文章も一部書き直してアップしなおしています。2022年4月7日追記
出会った頃、スクナはたまたま寮で同室になっただけでしかないナムチと、一緒に行動する気もなければ、ましてや仲良くしようなどとは微塵も思っていなかった。
しかし、同じ神衣主の訓練生であり、同じ授業を受け、住むところも一緒なとなると、どうしても同じスケジュールで行動することになり、周りから見ればいつも一緒にいること思われていた。
良く言えば人懐っこく、誰とでも気安く気兼ねなく話す、悪く言えば無神経で空気の読めないナムチは、相手が嫌そうな態度とったとしてもそれに気が付くこともなく、誰とでもフレンドリー過ぎるほど親しく、馴れ馴れしく接していた。
そんなナムチの態度が、氏素性のわからない、どこの馬の骨とも知れない奴が身の程も弁えず生意気だと、プライドの高い貴族の子弟たちを苛立たせていた。
貴族の子弟たちから毛嫌いされることで、彼らの機嫌を損ねたくない他の訓練生たちからも無視され仲間外れにされるという悪循環が生まれていた。
スクナもヤマト貴族の中でも最も身分が高いとされる御巫三家の出身だったが、ナムチから話しかけられれば殊更に無視することもなく、極めて一般少なくとも他の訓練生たちのように敵対的な反応はしていなかったため、周囲からはナムチと親しい関係だと見られていた。
そもそもスクナは訓練生の中で目立ちたくないと考えていた。
だから態度に出してはいなかったが、心の奥では訓練生の中で悪い意味で目立っていたナムチに馴れ馴れしくしてほしくなかった。
拠無い事情で神衣主の訓練生になったスクナだったが、本心では神衣主になるつもりもなく、機会を見つけて目立たずひっそりとフェードアウトしたいと思っていた。
同室になってしまったナムチに対して嫌なそぶりを見せず、常に笑顔で接してきたのも、単にトラブルを起こして目立つことを避けたかっただけだった。
そのせいで逆に目立ってしまっているんじゃ、本末転倒なんだけど、最近のスクナはそんな風に思っており、そろそろナムチとも少しずつ距離を置いて、あまり目立たないタイミングで静かにフェードアウトする方法を考え始めていた。
このタイミングでのナムチからの「嘘笑い」の指摘に、スクナは内心ドキッとしていたが、そんなことはおくびにも出さないようにしながら、あくまで平静を装って応えた。
「ナムチ、それはどういう意味かな?」
「Huh? どういうってそのままの意味だよ! ほとんどの笑顔が嘘くさいっていうか、本当に笑ってないだろう?」
「YoFuxxinKiddinMe? そんなことないよ! 酷いよ、ナムチ」
スクナはいつものように優しく微笑んだ笑顔を見せながら、ナムチに応えた。
すると、ナムチは鬼の首を取ったような得意気な表情でスクナの顔を指差して言った。
「そう、それだよ!それ! その嘘くさいFuxxinSmile! 前から思っていたけど、それ気持ち悪いよ」
ナムチはスクナの「いつもの笑顔」を見て、偽りだと確信しているようだった。
スクナは、今まで誰にも、実の親にさえ気づかれたことはなかった「いつもの笑顔」を、ナムチに「嘘」だと指摘されて内心では驚いていた。
「ナムチ、嘘くさいFuxxinSmileはひどいな。 いつもやさしく微笑んでいるつもりだけど」
「DontFuxxwizMe! そんな仮面みたいな心のない笑顔が優しいわけないじゃん! 本当に笑ってないでしょう? わかるって!」
「……なんでそう思うの?」
「なんでって、見たらわかるよ! スクナがその顔で笑っているときって、なんかいつもつまらなそうなんだよな」
僕がいつもつまらなそうだって、それはそうかもしれない、だって生きていて楽しいことなんてないんだから、スクナはそう思いながらも表情は笑顔のままでナムチに答えた。
「例え嘘でも笑っていないともっとつまらなくなるよ。 そんなに嘘くさい僕の笑顔を見るのが嫌だったら、これ以上、僕に構うのはやめてくれないかな」
スクナにとって「いつもの笑顔」は本当の感情を隠すための仮面だった。
自分の本心を隠し、嫌なことも、悲しいことも、辛いことも、自分の心を殺して母親や周りの大人たちのご機嫌をとるために、心を偽るための「笑顔」の仮面だった。
美しい顔をしたスクナがニッコリと微笑んで頼めば、大抵の大人たちはちょっとしたお願いならすぐに聞いてくれた。
時には見返りに性的なことを求められることもあったが、それもスクナにとっては当たり前になっていた。
母親から育児放棄同然で育てられたスクナが、心を捨てて生き残るために身を付けたのが「笑顔」の仮面だったのだ。
それをナムチに「嘘」だと見破られた上、気持ち悪いとまで言われて、スクナは珍しく感情のコントロールを失っていた。
「そうだナムチ、寮の部屋も変えてもらおう。辞めていった訓練生もいるし、寮には空き部屋が出ているから、お互いに個室に移ろう」
スクナは捲し立てるようにナムチに部屋を変えようと言い出した。
あまりの剣幕に驚いた様子のナムチは、訝し気にスクナを見ると心配したようすで尋ねた。
「急に何を怒っているんだよ? 俺、なんか変なこと言ったか?」
「ナムチが僕の笑顔を気持ち悪いって言いだしたんだろう?」
「あぁ、確かにその仮面みたいな嘘笑いは気持ち悪いけど、時々見せる本当の笑顔は好きだぜ!」
「FuxxOff! ナムチ、君に本当の笑顔なんて見せたことないけど?」
訓練生になってから、いやそれ以前も、物心ついたころから数えても、スクナが心の底から本意気で笑ったことなどほとんどなかった。
たかだか知り合って数カ月のナムチに本心からの笑顔を見せたことないないと、スクナは断言していた。
しかし、それはナムチの記憶とは違っていた。
「えぇ、そうかな? 俺がヤソガミとやりあったあとの笑顔は本当に笑っていたと思ったけどな」
確かにあの時は、久しぶりに何のしがらみもなく、心の底から笑っていたかもしれなかったとスクナは思っていた。
だがその一方で、だから何なんだ、僕が本意気で笑おうと嘘の作り笑いをしていようと、そんなことはナムチには関係ないじゃないかという反発心から、さらに苛立ちを増していた。
「FuxxYo、ナムチ! 僕が心の底から笑おうと、偽りの笑顔を浮かべようと、君には関係ないだろ」
言ってしまってから、スクナは自分が「嘘」の笑顔でいることを認めてしまったことに気が付いたが、もう今さらそれを取り繕うつもりもなくなっていた。
苛立ちを隠せないスクナとは対照的に、ナムチは落ち着いた様子でゆっくりと首を左右に振ると、少し照れくさそうに微笑んでスクナの目をちらっと見ると、話を続けた。
「まぁ、関係ないといえばないんだけど、なんか気になるじゃん。 初めてできた友達だし」
「友達? 僕とナムチが? YoFuxxinKiddinMe?」
友達ということを否定されたナムチは、アハハと乾いた笑い声を立てて空を見上げるように目線を逸らすと左手で頭をポリポリとかいた。
「スクナが友達っていうのは、俺が勝手に思っているだけかもしれないけどな」
否定しても自分を友達だというナムチを見て、スクナはさらに言いようのない苛立ちを感じていた。
これまで友達顔をして近づいてきて、人を利用して騙そうとする奴らはたくさんいた。
そんな奴らをたくさん見てきたスクナは、いつしか誰に対しても心を開くことをやめ、本当に損得なしで友達といえる人間は、これまで母親も含めて一人もいなかった。
スクナはどうせナムチも他の連中と同じように、自分を利用しようとしているだけだと思っていた。
苛立って混乱したスクナは、自分の感情をうまくコントロールすることができなくなっていた。
普段の冷静な口調と打って変わって、吐き捨てるようにナムチに言い放った。
「ナムチ、何が欲しいんだよ? 友達だなんてそんな風に回りくどいことを言わなくても、やって欲しいことがあればするよ?」
「WhataFuxx? だからなんで怒ってんだよ! 別にスクナにやって欲しいことなんてないけど? さっきも言っただけ、俺はスクナを訓練生になって最初にできた友達だとおもってるから」
苛立ちを隠さず、怒りをぶつけてくるスクナに、ナムチも驚くと同時に苛立ちを覚えて強く言い返した。
「だらか、なんで友達だなんて言うんだよ! 僕には友達なんていないし必要もない! どうせ君だって僕を利用するために近づいてきたんだろ?」
「はぁ!? FuxxYo、スクナ! さっきからスクナを利用してやって欲しいことなんてないって言ってるだろ!」
「じゃあ、なんで友達なんて言うんだ……」
「YoYo! スクナ、友達なんて一緒にいて楽しいからなるんだろう? そんなこと記憶のない俺でも知っているぜ」
「そんな……」
メリットもなく人と付き合う、そんなことが許されるとは、スクナはこれまで思ったことすらなかった。
スクナのこれまでの人生では、他人はもちろん、血のつながった家族ですら、自分を利用しようとするか、あるいは自分が利用するための存在だった。
これまでに自分に無償で何かしてくれる人間は一人としていなかった。
スクナは他人はおろか家族ですら、誰一人として信じていなかった。
訓練生になったスクナが考えていたことは、寮生活ということを利用して、訓練で大きな怪我を負うことや、精神的に追い詰められて壊れてしまう前に、上手く神衣主になることから落第して、ここから逃げだすことだけだった。
そのためには、場合によってはナムチを利用することも考えていた。
スクナがこれまでナムチと親しく付き合っていたのは、調子を合わせながら同室になったことを利用し、うまく退校する機会を伺っていたのだった。
ようやく落ち着きを取り戻したスクナは、改めてナムチに尋ねた。
「ナムチ、僕は君の友達なのか?」
「だから、さっきからそう言ってるだろ! 俺はスクナは俺の初めてできた友達だと思ってるよ」
「僕が偽りの「笑顔」の仮面をかぶっていることを知っていても?」
「あの笑顔は確かに気味が悪いけど、だからって俺に悪いことしてたわけじゃないだろ?」
そういって屈託なく笑うナムチをみて、スクナは諦めたように溜め息をつくと、いつもの笑顔を消してなんの感情も見えない本当の顔で言った。
「君は僕が上辺だけあわせていたことに、いつから気が付いていたの?」
「上辺だけかどうかはわかんないけど、本心で笑ってないのは最初から何となく気がついていたかな」
「なんとなく……」
「顔は笑ってるのに、なんか寂しそうに見えたから」
「僕が寂しい?」
寂しいなんて本当に小さな、幼い子どもだったころ以来、感じたことは無いはずだった。
「僕はずっと一人で生きてきたんだ。 寂しくなんかないし、ナムチ、そもそも君に僕の何がわかるって言うんだ」
「えっ! 何がわかるのかはわかんないけど、スクナが優しい良い奴だってことは知っているよ」
「だから、何を根拠に……」
「だって俺のことを助けてくれただろ?」
確かにヤソガミたちとナムチが色々といざこざや問題をおこしたとき、スクナがそれとなく教官を連れてきたり、それとなく声をかけたりして助けたことは何度かあった。
しかしそれは、ナムチがヤソガミたちと問題を起こすこと自分も巻き込まれたり、連帯責任を問われたりすると面倒だと思ったからで、自分のために打算的に動いていただけに過ぎなかった。
「それは……それは自分のためにしたことで、ナムチ、君のためにしたわけじゃないから」
「そうなのか? ……だとしても俺が助かったのは確かだし! やっぱりスクナは優しい奴だと思うぜ!」
「だからはそれは自分のためで……」
「だって、俺以外の他の訓練生も助けていただろう?」
ヤマシロやイズモなど外からきた一般の訓練生が、ヤマト中央の貴族子弟の訓練生たちに嫌がらせやイジメを受けていたとき、近くにいたスクナが声をかけてさりげなく助けたことや、教官の理不尽な罵倒を受けた訓練生に、気にしないように慰めたことは確かにあった。
しかしそれもたまたま近くにいたからだったり、見ていて煩かったからだったりしただけで、別段、彼らを助けようとしたわけではなかった。
「それは偶然そうなっただけで、助けようとしたわけじゃ……」
「スクナ! 偶々、人を助ける奴なんていないよ。 お前が優しい奴だから、困っている人を放っておけないんだろ?」
「ThatzBullSxit! そんなことは……」
「スクナ、お前はいい奴だって! なんでいい奴だって褒めてんのに否定するんだよ? WhatFuxxizWrong?」
なぜだって?それは僕がお前のことを利用しようとしている汚い価値の無い人間だからだよ。
スクナは自分もこれまで自分の周りいた人間と同じで、嘘をつき、人を騙して利用する汚い奴らと同じだと思っていた。
物心ついたころから、唯一の肉親だった母親から愛されることなく、育児放棄同然で暮らしてきたスクナが生きていくためには、周りを利用して生きていくしかなかった。
しかしスクナはそれを心の中では悪いことのように感じていた。
「優しいだって? ナムチも僕がどんな人間かわかればそんなこと言えなくなるよ」
スクナはこれまで誰にも話したことがなかった、自分の生い立ちをナムチに話し始めた。
また、投稿する段階で読み直したら、書き直したくなってしまった!?
スクナくんは美少年設定だったんだけど、あんまり容姿について書けて無かったな…
これまでに投稿したところも、少し書き直そうか…
良かったら感想、ブックマークなどお待ちしてます。
2022年4月7日に再改稿しました。