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第1章 掃討作戦開始

GW投稿❶です。

ヨモツの大群に徐々に押されていくイズモ師団。

コトシロが立案した前代未聞のヨモツを一掃する作戦とは?

GW中にどこまで更新できるかな?

良かったら読んでください。

「だからぁ~ヨモツを一緒くたにしてぇ~、一気にぃ~首を刎ねたらぁ~いいじゃないですぅ~」

「はぁ? だから、それをどうやって……」

「そのモルゲンシュテルンの鎖はぁ~結構長いですよねぇ~?」


 コトシロはマーガレットが新調したモルゲンシュテルンについて尋ねた。


「……神光テラでコントルールすれば2キロまで伸ばせる」


 マヒトツネがマーガレットに代わってコトシロに応えた。

 モルゲンシュテルンは柄頭の星球を任意に飛ばすため、投げつける際の勢いや方向だけでなく、鎖そのものにも玉鋼タマハガネを融合することで、マーガレットやマヒトツネの意志でも伸び縮みする仕組みになっていた。


「ですよね。 だから……」


 コトシロは嫌そうな表情を浮かべて話を続けた。


「そのモルゲンシュテルンの鎖にぃ~俺の剣・天逆手アマノサカテをぉ~俺の血と一緒にぃ~取り込んで下さぁ~い」

「はぁ!? それに何の意味がある? WhataFuxxYoSay?」


 マーガレットは思わず聞き返したが、コトシロはマーガレットの質問にはこたえずに話を続けた。


「そのモルゲンシュテルンはぁ~柄頭のトゲトゲに神光テラを集中させているからぁ~、鎖自体に強い神光テラを纏わせるのはぁ~難しいでしょ~う?」

「んん? マヒトツネ?」

「……モルゲンシュテルンは神光テラを柄頭に集中させて爆発させる構造。 この戦闘に合わせて急遽、作成したから、鎖にはコントロールに必要な最低限の玉鋼タマハガネしか使っていない」

「……そうなのか……コトシロ、お前はなぜそれを?」


 マーガレットは自分も知らされていなかったモルゲンシュテルンの性能を、コトシロが知っていることに驚いていた。


「まぁ〜見てたらねぇ〜近距離でモルゲンシュテルンを振り回してぇ〜鎖ごとヨモツを薙ぎ倒せるのになぁ〜んでしないなかなぁ〜と思ったのでぇ〜」


 神衣主カムイムチ神衣カムイや装備品を操るためには、素材となる玉鋼タマハガネに自身の血液を一定量混ぜ合わせる必要があった。

 モルゲンシュテルンを作る際、マーガレットもかなりの量の血液を作金者カナダクミに渡していたが、それは星球部分にほとんど使われており、鎖には必要最低限の量しか使用していなかった。


「マヒトツネ、どういうことだ?」

「……モルゲンシュテルン制作時の血の量ではそれが限界」

「WhataFuxx! 鎖にもあたしの血と玉鋼タマハガネを使えば良かっただろう?」

「……それは無理。 あれ以上の血液を採ればマーガレットが戦えなくなった」


 ナムチ、スクナとの模擬戦闘でマーガレットの神衣カムイは大きな損傷を負っていた。

 その修理だけでも大量のマーガレットの血が必要となっていた。

 その上でモルゲンシュテルンを作ることになったため、マーガレットの体調を考慮して御霊ミタマのマヒトツネと作金者カナダクミたちが採血量を必要最低限にしていたのだった。

 マーガレットは自分のことを考えて、マヒトツネたちがやったことだと理解っていたため、苛立ちながらもそれ以上、追求することはなかった。


「Sxit! それでどうするんだ、コトシロ?」


 マーガレットは改めてコトシロに作戦の概要を訊ねた。


「まとめて浄化するにはぁ~ぐるぅ~っと一括りにしちゃってぇ〜一気に締め潰しちゃえばぁ〜いいんですよぉ~」


 コトシロの作戦はモルゲンシュテルンの鎖を使ってヨモツを十把一絡げに纏めて括り、神光テラを纏わせて一気に絞め潰して浄化するというものだった。


「でも鎖にぃ~ヨモツを浄化するほどの強い神光テラを纏わせるにはぁ~、改めて玉鋼タマハガネとぉ~神衣主カムイムチの血を加える必要があるですぅ~」

「それならアタシの血を……」

「マーガレット師団長はぁ〜すでに貧血状態ですよぉ〜! それに玉鋼タマハガネも無いでしょう?」


 神衣カムイの修復、モルゲンシュテルンの製造で、確かにマーガレットは手持ちの玉鋼タマハガネをほとんど使ってしまっていた。


「それでお前の血と玉鋼タマハガネか……」


 作金者カナダクミでもあるマーガレットは、そこまで説明されればコトシロがやろうとしていることを理解していた。

 コトシロの剣・天逆手アマノサカテ玉鋼タマハガネに戻し、コトシロの血と一緒に鎖に混ぜることでマーガレットとコトシロの2人が操り、神光テラを込めることができる鎖にしようとしていた。


「そもそもはミナカタちゃ〜んの刀美トミと融合させるつもりだったんですけどねぇ〜なんか刀美トミも行方不明みたいで……」

「アタシは二番手かよ!?」


 マーガレットはコトシロに文句を言いながらも、悪くない作戦だと思い始めていた。

 しかし、作戦を実行するにはヨモツを縛り上げるための長大な鎖に、一気に浄化殲滅できるだけの膨大な神光テラを纏わせる必要があった。

 そのために必要な血液はどれほどいるのだろうか?


「コトシロ、そのためには大量の血液が必要になるぞ」

「まぁ~1ℓくらいなんでぁ~全血液の20%くらいですかねぇ~?」

「……致死量ギリギリ」


 コトシロは生命の危険があることも十分に承知していたが、いつもと変わらないヘラヘラとした口調のまま続けた。


「まぁ~このまま待ってててもぉ~ジリ貧で死ぬだけですからぁ~、ワンチャン可能性あるみたいなんでぇ~やってみるだけですよぉ~」


 この戦いに今から増援がきて、戦力が劇的に回復する見込みがないことは、端からわかっていたことだった。

 ここで退勢を一気に挽回するためには大きな賭けに出る必要があった。


「コトシロ、あんたの生命を賭けさせてもらうよ!」

「っと、ちょっと待ったぁ~」

「WhataFuxx!? コトシロ、まだなんかあるのか?」

「鎖でぐぅ~るぐぅ~る巻きにするには、ヨモツ共を罠に追い立てるぅ~猟犬とぉ〜鎖を巻き付ける手が必要ですよぉ~」

「猟犬と手だと?」

「まぁ~手っていうよりもぉ〜嘴かもだけどねぇ~」

「あぁ~丁度、自分勝手に空をブンブン飛び回ってる神衣カムイが2匹いたな」


 マーガレットとコトシロは、イズモ師団の作戦行動には加わらず、各自の判断で空中からヨモツを排除しているトリフネとオオゲツヒを見上げた。


「おい! トリフネ、オオゲツヒ、ちょっと面かせや!」

「いやいやぁ~マーガレット師団長、どこのぉ~ヤンキーですかぁ~?」


 マーガレットのあんまりな呼びかけに、同じイズモ師団のコトシロが思わず突っ込んだ。


「……はい、こちら近衛師団副長のトリフネです。我々に何か御用ですか、マーガレット師団長」

「用があるから呼んだんだろ? さっさと返事しろよ」

「ああ、失礼。 しかし呼ぶときは敬称を付けて敬語でお願い頂けますか? トリフネ少将と」


 トリフネは嫌味ったらしく少将を強調しながら通信を返した。

 現在はイズモエリアでの戦闘のため、戦闘指揮権はマーガレットを頂点としたイズモ師団に与えられている。

 しかし通常の階級ではイズモ師団長であるマーガレット大佐よりも、近衛師団副長であるトリフネ少将の方が上位にあった。


「しるか、ModaFuxxer! 戦闘中に階級もクソもあるかよ! 文句があるならあとで軍令部にでも言うんだな!?」

「んん〜では、そうさせて頂きましょう! それで何か?」

「あぁ、トリフネ少将、きのうの約束を守ってもらうよ!」

「さて、約束とはなんでしたかな?」

「FuxxOff! とぼけるんじゃないよ! この作戦中、一度はあたしの命令を聞いてもらうよ!」

「んん……あ~あ、昨日の作戦会議でそんな話もありましたね……しかし、我々はタケ・ミカヅチ近衛師団長から、何をどうするかの判断は、現場にいる各自に全て任されていますので……」

「FuxxYo! てめぇ個人の判断なんかどうでもいいんだよ!!!」

「そう言われましても……」


 トリフネはのらりくらりとマーガレットからの命令を拒否しようとしていた。

 どうせ碌な命令じゃないでしょうし、イズモ師団に協力するつもりも様なかったトリフネは、適当に言い訳をして命令を拒否しようとしていると、別の神衣カムイからの通信が割って入ってきた。


「おい、トリフネ、相変わらずクソみたいなことするな? 神衣カムイも鳥みたいだから、脳みそも鳥並みなのか?」


 通信に入ってきたのはこれまで空を飛ぶトリフネの神衣カムイに乗って、特に何をすることもなく一緒に行動していた、同じ近衛師団に所属するオオゲツヒだった。


「ちょっとオオゲツヒ中佐、近衛師団の副長である、上官の私に失礼ですよ」

「自分に失礼って、本当にトリフネって何様なの?」

「ですから近衛師団副長で、ヤマト帝国軍の少将ですがなにか?」

「Hah……心の底からどうでもいいわね」


 呆れた表情を浮かべながらオオゲツヒがトリフネとの通信を続けた。


「ねぇ、昨日、イズモ師団本部でタケ・ミカヅチ近衛師団長も同席した上で、1度だけマーガレット師団長の命令に従うって約束したんだからさ、男らしくそこは守ろうよ? 超カッコ悪いわ」

「そう言われましてもね……近衛師団の我々がイズモ師団長の命令を受けるいわれも、無理難題にお付き合いしなきゃいけない理由も、そんなものはどこにもないのですよ」


 軽蔑を含んだオオゲツヒの非難の声にさらされても、トリフネは全く気にする様子もなく、さも当たり前といった様子でに応えた。

 

「おいおい、近衛師団の副長様は作戦本部で決めた約定を守る必要がないっていうのか?」

「ハハハ! マーガレット師団長、ただの口約束に法的に何かの拘束力でもあると?」

「なんだと!? お前のところの師団長も出席した作戦会議だぞ?」

「あの会議は正式な会議だとでも? 書記はおろか記録係さえもいない作戦会議などあり得ませんよ! そもそも我々、近衛師団がイズモエリアの異民たちを守ってやる義務もなければ、そんな義理すらもないのですよ? こうして手伝っているだけでも、どれだけ感謝されても足りないくらいなんですから! マーガレット、もっと私に感謝しなさい!!!」


 トリフネはマーガレットを馬鹿にしたように嘲笑って言い放った。


「はぁ~また法的にどうとか屁理屈を並べ立てて自分を正当化してんの? 本当にダサいわぁ〜」


 誰にともなくオオゲツヒが操縦席で呟いた。


「オオゲツヒ様、クズで最悪最低のトリフネ様に何を期待しているのですか?」


 オオゲツヒの呟きを聞いていた御霊ミタマアワがさも当然という口調でオオゲツヒに答えた。


「そうねアワ、期待するだけ無駄だったわね。 タケ・ミカヅチ近衛師団長、もう宜しいですか?」


 突然、オオゲツヒは後方で待機しているタケ・ミカヅチに呼びかけた。


「んん? オオゲツヒ、タケ・ミカヅチ師団長に何を?」


 トリフネが突然の通信を訝しむようにオオゲツヒに尋ねたが、オオゲツヒはそれに答えることなく、再びタケ・ミカヅチに呼びかけた。


「タケ・ミカヅチ師団長、よろしいですね」


 タケ・ミカヅチは神衣カムイの操縦席で固く目を瞑り、腕を組んだまま大きく息を吐くと、そのままの態勢でオオゲツヒに一言だけ告げた。


「……オオゲツヒ、任せたのである」

「んんん? オオゲツヒ中佐、タケ・ミカヅチ師団長と何を?」

「……」


 トリフネの質問にタケ・ミカヅチもオオゲツヒも応えることはなかった。

 代わりにオオゲツヒはマーガレットに通信を繋いだ。


「マーガレット師団長、この人間性が心底腐っている鳥頭チキンヘッドはもう無視していいよ。 あたしが責任持って一度だけ命令をきく」

「んんんん? オオゲツヒ中佐、何を勝手なことを」


 トリフネが勝手に話を進め始めたオオゲツヒを止めようと抗議の声を上げた。

 しかし、オオゲツヒはトリフネの言うことを無視して答えず、代わりにトリフネの御霊ミタマイハクスに直接指示を出した。


「イハクス、命令だ、その鳥頭チキンヘッドを黙らせろ」

「……オオゲツヒ様、通信を遮断いたします」

「んん! ちょっ! イハクス、あなたの神衣主カムイムチはわた……」


Buttu!?


 トリフネはまだしゃべっている途中だったが、御霊ミタマイハクスは強制的に通信を遮断した。


「オオゲツヒ様、黙らせました」

「イハクス、よくやった」

「ご命令のままに」

「あと、お前の神衣カムイのコントロールもあたしに寄こしな」

「承知致しました。 神衣カムイの操縦権をオオゲツヒ様に移譲します」


 御霊ミタマイハクスはトリフネに何一つ確認することもなく、オオゲツヒに神衣カムイをコントロールする権利を渡した。

 これでオオゲツヒは自身の御霊ミタマアワに加えて、トリフネの御霊ミタマだったイハクスもその指揮下に置くこととなった。

 そもそも巨大な鳥のようなフォルムを持つトリフネの神衣カムイは、他の神衣カムイ搭乗させて飛ぶことを想定された機体であり、搭乗した神衣カムイが機体を制御、コントロールできる装置が背部に設置されていた。

 しかし、その装置を使用するには神衣主カムイムチであるオオゲツヒと御霊(ミタマ)イハクスの了承が必要だった。

 ところが今回は神衣主カムイムチであるトリフネが了承していないにもかかわらず、御霊(ミタマ)イハクスが認めただけで、搭乗しているオオゲツヒにコントロール権を与えられていた。


「何を勝手にコントロール権を!? イハクス! イハクス!」

「……」


 操縦席でトリフネがイハクスの名前を何度も叫んでいたが、その声にイハクスが応えることはなかった。


「イハクスは私の御霊ミタマなのに……」


 トリフネが操縦席でブツブツと呟きながら神衣カムイの制御を取り戻そうとしていたが、すでにオオゲツヒによって外部から制御されており、自身の御霊ミタマであるイハクスさえも何一つ応えることはなかった。


「トリフネ、許すのである」


 後方で待機するタケ・ミカヅチが小さい声で呟いた。

 タケ・ミカヅチはトリフネの神衣主カムイムチとして戦闘能力の高さや、帝ホノ・ニニギへの忠誠心などを非常に高く買っていた。

 その評価は今も変わらないが、一方でトリフネのヤマト貴族以外の人間に対する選民思想や、その考えに基づく独断専行気味の行動が、近衛師団の他の神衣主カムイムチたちとの軋轢を産んでおり、そのことに頭を悩ませていた。

 特にイヴァが近衛師団に配属されてから、トリフネのイヴァに対する嫌がらせじみた対応に批判が集まっており、一部の師団員からトリフネ更迭を求める声も上がっていた。

 本来、師団長のタケ・ミカヅチがイズモエリアに帝の勅使として向かうのであれば、副長のトリフネはヤマト中央に残って留守を預かるべきだった。

 しかし、ヤマト中央に残った近衛師団員や神衣主カムイムチとの軋轢が、看過できない状態であると懸念されたためタケ・ミカヅチに従っていたのだった。

 今回の命令無視についても、トリフネは自分が間違っているとは欠片も思っていなかった。

 作戦会議でも全く興味すら示していなかったトリフネが、突然、話に入ってきたことから、嫌な予感がしていたタケ・ミカヅチが、事前にオオゲツヒとトリフネに対して、緊急時にはオオゲツヒの判断で指揮権並びに神衣カムイのコントロールをトリフネから奪うことを認める様に命令していた。

 御霊ミタマイハクスにもタケ・ミカヅチの許可の上で、マスターである神衣主カムイムチのトリフネよりも、オオゲツヒの命令を上位として従うように登録させていたのだった。


「マーガレット師団長、こちらの準備はできたよ」


 アワとイハクスを指揮下に収めたオオゲツヒが、マーガレットに準備が整ったことを伝えた。


「オオゲツヒ、お前、口は悪いが仁義は弁えてるじゃないか! しっかり働いてもらうよ!」

「ああ、一度だけは働いてやるよ! いくよアワ、イハクス!」


 オオゲツヒはそう言うとこ、自らの御霊ミタマアワと、トリフネの御霊ミタマイハクスに戦闘準備の指示を始めた。


「OK、オオゲツヒ! コトシロ、聞いてたか? そっちの準備は?」


 オオゲツヒの協力が得られることを確認したマーガレットは、コトシロに作戦の準備状況を確認した。


「はいはぁ~い、やってますよぉ~」


 コトシロはマーガレットに返事をしながら、神衣カムイの操縦席で御霊ミタマのタマクシに血液抜かれながら作戦の準備を進めていた。


「タマクシちゃぁ~ん、俺の血はぁ~がっつりいっちゃってるぅ~」

「コトシロ様、ギリギリ限界までいきます」

「いいよぉ~準備出来たら、速やかに天逆手アマノサカテとモルゲンシュテルンの鎖との融合を始めるからねぇ~」

「はい、承知致しました。 あの……コトシロ様」


 タマクシは言い難そうにコトシロに話しかけてきた。


「はい? タマクシちゃん、どうしたのぉ~?」

「あの……コトシロ様、死なないでくださいね!」

「ハハハ、俺もできればぁ~可愛いタマクシちゃ〜んを置いて失血死したくないからねぇ~そこはぁ〜ギリギリ死なない程度に頼むよぉ~」

「はい、主様マスター!」


 モルゲンシュテルンの鎖をベースにして、コトシロの天逆手アマノサカテと融合するためには、天逆手アマノサカテを一旦、玉鋼タマハガネに戻す必要があった。

 タマクシはコトシロから採取した血液を天逆手アマノサカテに流し込むと、自ら祝詞を唱えた。


「つみはやへことしろぬしのおおかみのまへに……」


 すると天逆手アマノサカテは呪縛を解かれたように粘性のぐにゃりとした玉鋼タマハガネへと姿を戻した。

 タマクシはマーガレットの御霊ミタママヒトツネに呼びかけた。


「マヒトツネ様、こちらの準備は終わりました」

「……了。モルゲンシュテルンの鎖につなげる」


 マヒトツネが神衣カムイをコントロールしてモルゲンシュテルンの鎖を差し出すと、タマクシはコトシロの血液と混じり合って溶けて粘性の玉鋼タマハガネと化した天逆手アマノサカテをモルゲンシュテルンの鎖に降りかけた。


「かげまくもあやにかこき つみはやへことしろぬしのおおかみのまへに づつみうやまひかしこみかいこみもうなてづきめきてまちくさ」


 タマクシが再び祝詞を唱えると、光輝いた玉鋼タマハガネはまるで意思のある生物のように細く細く伸びながら鎖と融合していった。

 無事に融合出来たことを確認すると、タマクシはコトシロに報告した。


「コトシロ様、天逆手アマノサカテとモルゲンシュテルンの鎖の融合を完了致しました」

「……」


 答えないコトシロに焦った様子でタマクシが何度も呼びかけた。


「コトシロ様? コトシロ様!?」

「……ごめんごめぇ〜ん。 ちょっとぉ~意識が落ちてたわぁ~でも、なんとか生きているみたいだねぇ~」


 大量の血を抜かれて青白い顔をしたコトシロが、心配そうに呼びかけるタマクシに億劫そうに応えた。


「コトシロ様、心配させないでください!」

「アハハ、タマクシちゃぁ~んは本当にかわいい子だねぇ~」


 そういうとコトシロは通信をマーガレットにつなぐようにタマクシに伝えた。


「マーガレット師団長、鎖にぃ~俺の神光テラを通す準備はぁ~できましたよお~」

「なんとか死なずにできたじゃないか?」

「アハハ……辛うじて生きていますけどぉ~そんなにはぁ〜持たないですよぉ~」

「それだけ喋れるなら十分だろ」

「もう少しぃ~褒めて下さいよぉ~」

「FuxxOff! この戦いを生き残ったら、お前が嫌というほど誉めてやるさ」

「それはぁ~死んだらもったいないですねぇ~」


 漸くヨモツを一網打尽するための武器をなんとか揃えることができたが、作戦の準備を進めている間にも黄泉大坂ヨモツオオサカからは大量のヨモツが這い出てきており、一旦押し返したイズモの市街地への侵入を再び許してしまっていた。

 ビルの残骸などが多く残っている市街地では、瓦礫などの障害物が多く、いくら強靭なモルゲンシュテルンの鎖でも一気に纏め上げるのは難しかった。

 もう一度、広がってしまったヨモツたちを黄泉大坂ヨモツオオサカまで押し返す必要があった。


「ミナカタ、ナムチ、ちょっとは休めたかい?」


 マーガレットは一旦、後方に下げたミナカタとナムチに声をかけた。


「WhoYoFuxxinTalkinto? いつでもいけるぜ!」

「こちらもいつでもいける」

「それは重畳だね! お前たち、ヨモツ共を市街地の外まで押し返すよ!」

「「YesMom!」」


 貧血状態で動けないコトシロを除いたイズモ師団が、今一度、イズモ市街の外までヨモツを押し返すために一斉に攻撃を開始した。


「あたしも手伝うよ。 いくよアワ、イハクス」


 トリフネの神衣カムイに搭乗したオオゲツヒも上空からヨモツに攻撃を仕掛けて援護に加わった。


「オラオラオラァ! サキミタマ! クシミタマ」


 ナムチは左右の拳をボクシングのコンビネーションのように繰り出し、周囲のヨモツ共を片っ端から押し返していた。

 衝撃で吹っ飛んでいくヨモツの中には浄化しきれていないものもいたが、一旦、イズモ市街まで押し返せればそれで良いとナムチとハクトは考えていた。


「ナムチ、息切れしないようにペース配分を考えるんだよ」

「わかってる! さっきみたいなヘマはしないって」


 先ほどの戦闘で飛ばし過ぎて疲労が蓄積し、一時撤退を余儀なくされたことから学んだのか、ナムチは今回はハクトの忠告をよく聞いているようだった。

 コトシロが欠けた穴をオオゲツヒが埋めてくれたお陰もあり、イズモ師団による一気呵成の攻撃で、なんとかヨモツの大群をイズモ市街の外まで押し返した。


「そろそろいい頃合いだね……マヒトツネ!」

「……ペギー、準備はできてる」

「Comeon、オオゲツヒ! ItzTimeforDaFuxxinShow!」


 マーガレットは押し返したヨモツたちの先頭から約100メートの位置まで移動すると、トリフネに乗ったオオゲツヒを呼び寄せた。


「OK! アワ、マーガレットの前に出る」

「オオゲツヒ様、承知しました。 イハクス、頼みます」

「はい、お姉様」


 トリフネの神衣カムイに搭乗したオオゲツヒはマーガレットの正面上空までやってくるとホバリングして制止した。

 マーガレットはモルゲンシュテルンの星球形の槌頭をトリフネに投げて寄こした。


「オオゲツヒ、その星球を持って、Fuxxinヨモツ共をぐるっと纏めてきてくれ!」

「OK、マーガレット師団長! 思いっきり引っ張ってやるからモルゲンシュテルンを放すなよ!」

「DontFuxxwizMe、オオゲツヒ! アタシがそんなヘマするわけないだろ!?」

「ならいいさ! あとはその鎖が途中で切れなきゃ大丈夫だろう」

「その鎖はぁ~おいらの血をぉ~たっぷりしみこませた玉鋼タマハガネを練り込んであ~るのでぇ~、神光テラを纏わせていればぁ~鎖が切れるこたぁ~ないよぉ~」


 鎖の強度を気にするオオゲツヒに、コトシロが通信に割って入って心配ないことを伝えた。


「WhataFuxxYoSay? えぇっ!? コトシロの血だって? ……それ大丈夫なのか? 変な病気が感染うつったりしない?」

「オオゲツヒ様、御霊ミタマのタマクシです。 コトシロ様の血液はすでにチェック済で、感染症などの陽性反応はありませんでしたので、その心配はありません」


 オオゲツヒの冗談混じりの疑問に、御霊ミタマタマクシが間髪入れずにコトシロの血液が安全であることを伝えた。


「ん? WaitaFuxxinMimutez!? タマクシちゃぁ~ん、どうしてそんなに直ぐに答えられるのかなぁ~?」

「コトシロ様、こうした懸念があることは予想の範囲内でしたので、事前に調べておきました」

「……あぁ~そうかぁ〜そうなんだぁ~ハハハ」

「??? コトシロ様、どうしましたか?」

 

 なんだか凹んでいるコトシロに対して、どうして落ち込んでしまったのかわからない御霊ミタマタマクシだった。


「アハハ! コトシロ、良く気がつく可愛い御霊ミタマじゃないか!」

「GetLost、マーガレット師団長!」


 通信を聞いていたマーガレットが御霊ミタマに病気持ちと疑われて落ち込んでいるコトシロに追い打ちをかけてきた。


「でもさータマクシちゃん。 そもそもDTのコトシロに変な病気の検査いるの?」

「……ペギー、そこは触れてはダメなところ」

「えっ!? コトシロ、お前Cherryなのか?」

「ぐはっ!?」

「コトシロ様、気を確かに!」


 血液不足でただでさえ死にかけていてコトシロが、マーガレット、御霊ミタママヒトツネ、オオゲツヒにDTくんであることを暴露され、操縦席で完全に昇天しかかっていた。


「おい、コトシロ! 死ぬのはこの戦いが終わってからにしろよ!」

「そうそう、DTのままじゃ死ねないだろう?」

「……FuxxinBitchs」

「「あぁ!?」」

「いえっなんでもぉ~ありましぇん!?」


 思わず小さな声で毒づいたコトシロだったが、耳聡いマーガレットとオオゲツヒの2人にドスの効いた声で揃って威嚇されて、すぐに背筋を伸ばしてビビっていた。

 どうやら神衣カムイ部隊の副長は、コトシロといい、トリフネといい、強い女性の尻の下に敷かれる運命にあるようだった。


「コトシロ、準備ができたなら、千切れないようにさっさと鎖に神光テラを流し込みな!」

「はいはぁ~い! うちの師団長はぁ~本当に人使いが荒いんだからねぇ~、いくよ、タマクシちゃぁ~ん」

「はい、コトシロ様。 いつでもいけます!」

「カゲマクモアヤニカコキ ツミハヤヘコトシロヌシノオオカミノオオマヘニ ヅーシミウヤマヒカシコミカイコミモウナテヅキメキテマチサク……」


 コトシロはゆっくりと祝詞を唱えて鎖に神光テラを送り込んでいった。

 マーガレットはモルゲンシュテルンの鎖が光を帯びていくのを確認すると、星球を掴んで上空で待機しているオオゲツヒに合図を送った。


「オオゲツヒ、タイミングを合わせるよ!」

「あいよ!」


 マーガレットとオオゲツヒが一緒にカウントダウンを始めた。


「「3、2、1、GO!」」

「YeeHaw! イハクス、ぶっちぎれ!」

「イハクス、行きます!」


 オゲツヒはホバリングしていた神衣カムイをロケットスタートで一気に発進させると、前方で押し返されてひしめき合っているヨモツをぐるりと取り囲むように猛スピードで飛翔を開始した。

読んでいただき、ありがとうございます。

良かったらブックマークや評価、いいねもお待ちしております。

執筆の励みになります。

近いうちにまた更新でき……したい……たぶん……きっと……(>人<;)

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