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第1章 記憶

Fワードなどを造語に変更、文章も一部書き直してアップしなおしています。2022年3月26日追記

第1章 記憶


 入所から3カ月が過ぎ、20人いた訓練生はすでに16人に減っていた。

 身体を酷使する訓練ももちろん厳しかったが、最も訓練生たちを苦しめていたのは、教官からの理不尽な叱責や、理由もなく訓練生同士で殴りあうことを強制されることなど、精神的に追い詰められていくことだった。

 神衣主カムイムチになるためには非常に強い思念力が必要だとされている。

 訓練生を精神的に追い詰めるのは、憎悪であれ歓喜であれ、あるいは悲嘆であっても、より強い感情を喚起させることが目的だった。

 そのために教官は敢えて理不尽な命令をしたり、訓練生同士のいがみ合いやイジメも黙認して制止することはなかった。

 反抗するなり、受け流すなり、そういった問題を自身で解決できない訓練生では、結局、神衣主カムイムチにはなれないという考えだった。

 ナムチやスクナもお互いに殴り合うことを命令されたり、敢えて争うように教官から強要されることがあったが、ナムチは「嫌です」とにべもなく断っていたし、スクナも「はい」と従順に従う振りをしながら、教官からは殴ったように見えるように誤魔化していた。

 教官もスクナが誤魔化していることに気がついているようだったが、それを指摘して処分することもなかった。

 教官の嫌がらせのような理不尽な命令で追い詰められたとき、機転をきかせて乗り越えれればよく、あるいは強く反発してキレて反抗しても良いが、怯えて何もできなくなってしまう訓練生は落第とされていた。

 命令をあからさまに拒絶していたナムチは、落第にはならなかったが、教官に逆らったとして例の如く罰としてトイレ掃除を命じられていた。

 イヴァは些細なミスをした訓練生を罵倒するように教官に命令されたが、「罵倒することに何の意味があるのでしょうか? ミスがあったというのであえれば修正を指示すれば良いのでは」と冷静に指摘して、逆に教官を黙らせていた。

 もちろんイヴァが命令無視の罰を与えられることもなかった。


「Whynot? 命令無視だろ? イヴァにトイレ掃除は?」


 それを見ていたナムチが命令無視に罰が与えられないことを指摘して騒ぎ出し、「では、お前がトイレ掃除だ」と教官から追加で1週間のトイレ掃除を命じられたことは余談である。


 これまでに落第して退校していった4人は、いずれもヤソガミたち貴族グループの子弟たちだった。

 4人減ったとはいえ最大グループであることは変わらず、ナムチへの嫌がらせは変わらず続いていたが、他の訓練生たちはこうした状況に慣れてきたこともあり、敢えてナムチやスクナに関わろうとはしなかった。

 そのためナムチとスクナは2人で過ごす時間がかなり長くなっていた。

 いつもは遠慮のないナムチがズケズケとスクナに絡んでいくことがほとんどだったが、この日は珍しく夕食を終えて寮の部屋に帰ってきたナムチにスクナから声をかけた。


「ナムチ、これは僕のドリンクだろ。 前から勝手に飲まないでくれって言ってるよね?」

「えっ!そうだっけ? SorryMan」


 ナムチは大して悪いとは思っていないようで、ヘラヘラと笑いながら軽く誤った。

 これまでスクナは、ナムチが自分のものを勝手に使ったり食べたりしても、素直に謝ればそれでゆるしていた。

 しかし、この数カ月で何度も同じことが続き、何回注意しても直らないうえ、軽い調子で謝ってくるナムチに対して、この日ついにスクナの堪忍袋の緒が切れてしまった。


「DontFuxxwizMe! いつも君はそう言って謝るけど、また同じことを繰り返すでしょ? 養護施設では共有だったのかもしれないけど、寮には寮のルールがあるんだから! 僕のものを勝手に使わないでよ! DontTouchMyFuxxinThing!」


 かなり怒っているスクナを見ながら、ナムチは驚くことも無く不思議そうな顔をしていた。


「冷蔵庫や部屋にあるものはみんなのものじゃないの? それに養護施設? 俺、そんなところ行った事もないけど? 」

「えっ! だってナムチ、前に施設にいたって……」

「へ? 俺がいたのは養護施設ってところじゃない。 あそこは…そうだなぁ、なんかの研究施設? みたいな」


驚くスクナを尻目にナムチはあっけらかんとして言った。


「あそこでは部屋にあるものは何でも自由に使ってよかったんだ。 だからスクナは自分も使いたかったのに、俺が先に使っちゃったから怒ってるんだと思ってた」

「そんな……それって何の研究施設なの?」

「そんなのわかんないよ。 その施設にいたのも2週間くらいだったし」

「2週間!? じゃあ、その前はどこにいたのさ?」

「あぁーそれより前のことは、俺、何も覚えて無いんだよね」

「WhataFuck!? ナムチ、ちょっと待ってよ。 それどういう事?」


 記憶がないという事をあっけらかんと話すナムチに、スクナは驚いて詳しく話しを聞くことにした。


「詳しくって言われても、覚えてないからな」


ナムチによると気が付くと何もない真っ白い部屋のベッドで、何かを図るための機械に接続された状態で寝かされていたのだという。

 それが訓練生入所式のちょうど2週間前のことだったという。

そして、それ以前のことは何も覚えていないと言うのだった。


「だから俺、一応15歳って言われているけど、誕生日もわからないし、親とか家族とかも全く覚えてないんだよね」


 スクナに聞かれるまま話すナムチは、自分が記憶喪失であることを特に気にしていないようだった。


「君の破茶滅茶ぶりはこの何ヵ月かでわかった気になってたけど、僕の想像を遥かに超える無茶苦茶さだよ」

「俺、そんなにすげぇかな? SoCool!」

「いや、褒めてないから!」


 スクナはあまりの事実に対して、それを全く気にしていないナムチに驚きを通り越して、呆れ果ててしまった。

 一方で、これまでのナムチのおかしな行動、例えば人のものを勝手に使ったり、空気を読まずにやたらと周囲の人たちに話しかけたり、知っていて当たり前のようなことを知らずにしつこく質問したりしていたのは、記憶が無かったからだったのかと合点がいった。

 しかし、スクナには気になることがもう一つあった。

 神衣主カムイムチの訓練生になるためには、14歳になる年に適性検査を受け、合格する必要がある。

 たった2週間では、検査から訓練生になるまで短過ぎるし、検査を受けた後で記憶喪失になったとしても、そんな人間を治療もせず訓練生にすることはあるのだろうか。


「なあ、ナムチ、何も覚えていないのに君はなぜ神衣主カムイムチになろうとしているんだい?」

「それは「なれ」って言われたからだよ」

「言われた? 誰に?」

「目が覚めたときに偉そうなおっさん?おじいちゃん?がいて「お前は神衣主カムイムチなれ」って言われたんだよね」

「WhoDaFuxxizDat? 誰だよそれ?」

「うーん……どこかで見たような顔だった気がするんだけど、よくわからないんだよね。 とにかくこう立派な髭をはやしてて……あと、なんか偉そうだった」


 ナムチが言うには、立派な口ひげを生やして、偉そうに話しをする中年男性だったという。

その中年男性が去ったあとは、研究者のような人達がたくさんやってきて、ナムチに洋服や食べ物など必要な物を揃えたり、よくわからない様々な検査を受けさせられたり、なんだか意味のわからない話をされたりしながら過ごしていたという。

ナムチがそんな環境にもようやく慣れてきたころ、今度は訓練生として入所式に送られたのだった。

 入所式どころか施設からも初めて外に出たナムチは、見るもの聞くものすべてが珍しく、とても興奮していたのだという。

 だからあんなにテンションが高かったんだと、スクナはあの日のナムチの行動を漸く理解できた気がしていた。

 スクナはさらに記憶のことや髭を生やした中年男性のことを尋ねたが、それ以上のことはナムチにもわからないようだった。

 さらに、ナムチは記憶がないことや自分に神衣主カムイムチなれと命令してきた中年男性のことを、特に気にしていないようだった。


「まぁ~普通に会話はできるし、ここならご飯も食べさせてもらえるし、理由はわからないけど神衣主カムイムチになるっていう目的もあるし、とりあえず今はまあいいかって! NoFuxxinProblema」


 それはそれで無頓着で細かいことを気にしないナムチらしいな、とスクナは思っていた。

 スクナがしたり顔で一人納得していると、ナムチがふと何か思い出したように尋ねた。


「スクナ、俺も前から気になっていたことがあるんだよね」

「えっ?」

「なんでスクナはいつも嘘っぽい笑顔を浮かべているの? FakeFuxxinSmile!」


 そう聞かれたスクナはナムチを見つめ返すと、ニッコリと美しい笑顔を浮かべた。


読んでいただきありがとうございます。

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