第1章 別れ
「ナムチ兄ちゃん……うえぇ~ん」
「ミイ、泣くなよ! またすぐに会えるからさ」
朝食を終えた頃、師団本部の寮の前でナムチたちはビスマルク家からの迎えを待っていた。
ミイは別れが寂しいのか迎えが来る前からすでに泣いていて、ナムチが必死に慰めていた。
「さっきの食べたトマトは俺の方が大きかったからな!」
「いや、俺の方が大きかったね!」
キマタも寂しさを紛らわすように、ナムチと朝食で食べたトマトがどちらが大きかった、というくだらないことで言い争いをしていた。
BrorolloVroom!
寮の前に旧時代の自動車が走ってきた。
現在ではヤマト中央でも旧時代の自動車を見ることは滅多になかった。
ましてやイズモではまず見ることがない代物だった。
車はナムチたちの前で派手なターンを決めて止まると、運転席から初老の男性が降りてきた。
「ミイ様、キマタ様、お迎えに上がりました」
降りてきた男性はビスマルク家の執事のセバスティアンと名乗ると、キマタとミイに恭しく頭を下げてあいさつした。
別れが嫌なミイはナムチの手をギュッと掴んだが、自動車が来たのを見たナムチはキマタと一緒になって目の色を変えて興奮し、ミイの手を離して車に駆け寄った。
「おぉ~! すげぇ~!? なんかまだ動いてるよ!」
「俺も動いてる車なんて初めて見た!」
アイドリング中の自動車を見てナムチもキマタも大喜びだった。
「ほほほ、ミイお嬢様にはお車の方が移動し易いと考えまして」
興奮しながら車を見ているナムチとキマタに、執事セバスティアンが車で来た理由を説明した。
「ちょっとナムチ兄ちゃん、キマタ兄ちゃん! もうお別れなんだよ!」
別れの寂しさはどこへやらといった2人に、先ほどまで泣いていたミイが怒って叫んだ。
「アハハ! 悪い悪い! でも、こんなすげえ車に乗れるなんてミイはすげえな!」
「もうっ! そういう事じゃないでしょ」
ナムチは振り返って見ると羨ましそうに笑いかけたが、ミイは怒って顔を背けた。
流石に興奮しすぎたと思ったナムチは、車椅子に座ったまま拗ねて横を向いているミイに近づいて頭を撫でた。
「ミイ、ごめんよ。 でも、またすぐに会えるからさ!」
「……ちゃんと迎えに来てくれるよね?」
「当たり前だろ! 直ぐに迎えに行くさ」
「ナムチ兄ちゃん、約束だよ!」
漸く機嫌を直したミイはナムチに向けて小指を出した。
ナムチもニッコリと笑うとミイの小指に自分の小指を絡めた。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます!」
ナムチとミイは声をあわせて約束を交わした。
「迎えに来なかったら針千本だからね!」
「流石に針千本飲んだら腹壊しそうだからな! ちゃんと約束を守るよ」
「絶対だからね!」
ナムチは機嫌を直したミイを車椅子から抱きかかえると、電動自動車の後部座席に連れて行った。
「あぁ、絶対だ」
執事のセバスティアンがタイミング良く後部座席のドアを開けて「どうぞ」と声をかけた。
「ありがとう、セバスチャン」
「いえいえ、ナムチ様。 それと私はセバスティアンに御座います」
「えっ!? あぁ……申し訳ない、セバスティアン」
「ありがとうございます」
ナムチは綺麗に片づけられた後部座席にミイを座らせた。
再び涙ぐんできたミイの目頭から涙を拭うと、ナムチは満面の笑顔を見せた。
「俺たちは家族だ! どこに居たって心はいつも一緒だろ」
ナムチはそう言って拳で胸を叩いた。
「そうだよ! 家族なんだからな」
反対側のドアから乗り込んできたキマタも、ミイの後ろから顔を出して笑顔を見せた。
「……うん! あたしたちは家族だもんね!」
涙を堪えながらミイは笑顔を浮かべた。
「では、そろそろ出発致します」
車椅子や衣類などの荷物をトランクに積み込んだセバスティアンがナムチに声をかけた。
少し離れて様子を見ていたスクナも車に近づいてキマタとミイに声をかけた。
「キマタ、ミイ、僕もすぐにヤマト中央に行くから待っていてね」
「うん、スクナ兄ちゃんもまたね」
「スクナ兄ちゃんも気を付けてな!」
ナムチは手を上げると一言だけ言った。
「いってらっしゃい!」
「「いってきます!」」
VroomBrorollo!
来た時と同じように電動自動車は去っていった。
ただ一つ、窓から顔を出したキマタとミイがずっと手を振っていたことと、車が見えなくなるまでナムチがずっと手を振り続けていたことだけが、来た時と違っていた。
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