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第1章 同期

「なんで外にいんの? 食堂の中に入って待ってたらいいのに」


 スクナを連れたナムチが押っ取り刀でやってくると、イヴァが食堂の入り口の前で一人寂しそうにポツンと立っていた。


「……鍵、閉まってるんだけど」


「あっ!? そうだったわ。 ごめんごめん」


 アハハと無邪気に笑うナムチを、イヴァは恨みがましい目で睨みつけた。


 時刻は午後10時を過ぎた頃だが、オオヒルメの塔に照らされたイズモは真昼のように明るく、日陰のない食堂の入り口で待ち続けていたイヴァは汗だくだった。


「謝るのならせめて冷たい飲み物くらいは出してもらえる?」


「えーっと、スクナ、なんかあるかな?」


「冷蔵庫に何かあったと思うよ」


「ちょっと待って、中に入ったらすぐ用意するわ!」


 ナムチが慣れた手つきで植木鉢の下に隠してあった鍵を取り出すと、いそいそと入り口のドアを開けた。


「……そんなところに鍵が……教えてくれたら……」



 鍵を開ける姿を見ていたイヴァが愕然とした表情を浮かべながらブツブツと文句を言っていたが、スクナは聞こえないフリをして食堂に入った。


 そもそも聞こえていなかったナムチは立ち尽くすイヴァに声をかけた。


「おい、イヴァ! 早く入れよ! 冷房入れるからドア閉めるぞ」


「くっ! ナムチ、相変わらずね、貴方という人は……」


「へ?  何が?」


「もうっ! 何でもないわ」


 イヴァは何事もなかったかのように食堂に入っていった。

 ナムチは灯りを点けると適当に座るようにスクナとイヴァに伝え、冷蔵に飲み物を取りに行った。


「イヴァ、コークとお茶とどっちが良い?」


「お茶でお願い」


「ナムチ、僕もお茶で」


「はいよ」


 ナムチは冷蔵庫からお茶のペットボトルを2人に投げて寄こした。


「ちょっと食べるものを投げないの!」


 礼儀作法にうるさいイヴァが苦情を言いながらお茶を受け取った。


「Thanks」


 スクナは投げられたペットを余裕で受け取ると、気にする素振りもなく飲み始めた。


「まぁ~いいじゃん、飲み物だし。 イヴァは相変わらずマジメだな」


 ナムチは訓練生時代から変わらず規律ルールに厳しいイヴァを宥めるように笑顔をみせた。


「相変わらずなのはナムチでしょう? もういいからこっちにきて」


 ナムチの満面の笑みを見て、イヴァは苦笑を浮かべながら告げた。

 ナムチは冷蔵庫からコークのペットボトルを取り出すと、「へいへーい」と答えながら食堂の厨房から出てきた。


「それでわざわざ寮までくるなんてどうしたの? 懐かしくて訓練生の同期に会いに来たわけじゃないんでしょう?」


 スクナがイヴァを見ながら尋ねた。


「そんなこと……」


「あっ!? そーいえばイヴァにブッ飛ばされて死にそうになったのは昨日だった!?」


 イヴァが答えようとすると、テーブルの近くまでやってきたナムチが思い出したように叫んだ。


「別にそのことを謝りにきたわけでもないわ。 あそこまでしなければ、マーガレット師団長を助けられないと判断しただけだから」


 イヴァは悪びれた様子もなく、ナムチを見ながら淡々と言い放った。


「それにナムチはあの程度では死なないでしょう?」


「へんっ!? こっちも謝って欲しいとは思ってないよ! でも、次は負けないからな!」


「あらそう? 次があるかは知らないけど、結果は一緒だと思うけど?」


「WhataFuck! こっちはいつでもやって……」


「はいはい、その話はもういいかな?」


 興奮し出したナムチを止めるようにスクナは2人の間に割って入った。


 ナムチはまだ「次は負けねえって」などとブツブツと言っていたが、「わかった、わかったから」とスクナが宥めた。


 スクナはナムチを落ち着かすとイヴァを見て訊ねた。


「それで本当になんの用なんだい?」


「一つはスクナ、あなたに辞令を伝えにきたの」


「辞令を?」


「そうよ、スクナ。 あなたがヤマト中央への帰還命令を受諾したので、明日付けで近衛師団所属になるわ」


「そうなるのか?」


 スクナは近衛師団に所属というのは、ヤマト中央に戻すための形だけの辞令だと思っていたが、タケミカヅチの考えは違うようだった。

 イヴァはスクナの疑問には答えず、そのまま話しを続けた。


「明日の夜、スクナには私とタケ・ミカヅチ近衛師団長と共に、イズモ領内にあるヤマト中央への入り口の警備をしてもらいます」


 やはり納得がいかないスクナはもう一度質問を繰り返した。


「帰還命令では、まずヤマト中央に戻って近衛師団所属になるのではなかったかな?」


「疑問があれば私ではなくタケミカヅチ近衛師団長かマーガレット師団長に聞いてください」


 疑問を口にするスクナだったが、イヴァには取り付く島もなかった


「なんだ、イヴァはただの伝書鳩か?」


 ただ言われたことを伝えるだけのイヴァを見て、ナムチが伝書鳩と揶揄った。

 イヴァはムッとした様子でナムチを睨みつけた。


「ShutFuckup、ナムチ! 別に私も来たくて来たわけじゃないから」


「じゃあ来なきゃ良かっただろ?」


「それは……」


 イヴァは珍しく言いよどんで俯いた。


「WhataFuck? なんだよ? 他にも理由があんのか」


「もうひとつは、タケミカヅチ師団長がたまには同期と会って息抜きをしてこいって……」


「「はぁ?」」


 ナムチとスクナが同時に驚きと呆れを併せて声を上げた・


「私も同期と言ってもそんなに親しいわけじゃないって伝えたのよ! でもタケミカヅチ師団長は人の話を聞かないから……」


「あぁ〜あのオッサンは人の話し聞きそうにないわな」


 ナムチは「であるか」と大声で叫んでいるタケミカヅチを思い浮かべていた。


「ちょっと、うちの師団長をオッサン呼ばわりしないで」


「なんでダメなん?」


「あなた達だってマーガレット師団長をオバサン呼ばわりされたら嫌でしょう?」


 ナムチの疑問にイヴァがさも当然とばかりに答えた。

 しかし横で聞いていたスクナが、苦笑を浮かべながら申し訳なさそうに言った。


「あぁーうちの場合はナムチがクソBBAババアって呼んでるから、皆んなあんまり気にしないかも」


「それはマーガレットの奴が俺のことをStupidナムチって馬鹿にするからだろ」


「なっ!? なんて師団なの? 規律や礼節は? 軍隊というものはもっときちんとしなければいけないでしょう!」


 規律や礼節を守ることについて、自分にも他人にも厳しいイヴァが信じられないという表情で叫んだ。


「はいはい、イヴァは相変わらず真面目な学級委員ちゃんだね」


「FuckYo! ナムチは相変わらず無頓着でいい加減」


 ナムチがイヴァを揶揄うと、すかさずイヴァが言い返した。


 スクナはそんな2人を見て、訓練生時代を懐かしく思い出していた。


 授業中の私語や遅刻など規則に従うことができなかったナムチに、教官も呆れて何も言わなくなってもイヴァだけはずっと注意を続けていた。


 ナムチは注意されれば素直に従っていたが、すぐにまた同じことを繰り返してイヴァに怒られていた。


 でも、どれだけ怒られていてもナムチはちょっと嬉しそうなんだよな、スクナは訓練生のときと同じように感じていた。


「相変わらず2人は仲が良いね」


「「違う!」」


 声を揃えて言い返してくるナムチとイヴァを見て、やっぱり仲が良いなとスクナは思った。


 最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

 なんとか連日投稿できました!

 しばらく不定期投稿になりますが、ご容赦ください。


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