第1章 餃子
ハクトとの話を終えたナムチは寮に戻ってきた。
「ただいまー! って誰もいないじゃん」
部屋にはキマタもミイもスクナもいなかった。
「どこに行ったんだ?」
時刻はちょうど夕食時だった。
ナムチは食堂に行ってみることにした。
「ほら、美味そうだろ?」
「えっ!? ちょっと入れ過ぎじゃない?」
「こら! 勝手に醤油を入れたらダメだよ!?」
「大丈夫だって! 絶対美味いから」
ナムチが食堂に近づくと、3人の楽しそうな声が外にも響いてきた。
「何を作ってんだ?」
ナムチは食堂に入って声を掛けると、車椅子に座ったミイがテーブルの上に丸い皮を並べ、キマタはボールに挽肉や細かく刻んで野菜と調味料を入れて混ぜていた。
「あっ!? ナムチ兄ちゃん、お帰り!」
「おかえりなさい、ナムチ兄ちゃん」
ナムチに気がついたキマタとミイが嬉しそうに返事をした。
「ただいま、キマタ、ミイ」
ナムチは料理を作っているテーブルに近づくと、キマタたちの頭をワシワシと撫でた。
「それで何作ってんだ?」
「餃子だよ。 ひき肉と野菜があったからね」
キッチンからエプロンを付けたスクナが出てきて、ナムチの背後から返事をした。
振り返ってスクナを見たナムチは、ニヤニヤと笑って答えた。
「スクナはエプロンがよく似合うな」
「Shutup、ナムチ! 馬鹿にするなよ」
ここからはナムチも参加してキマタとミイと一緒に餃子をつくることになった。
ナムチとキマタは包むときに餡を多く入れすぎて、具がはみ出した不格好な餃子を作ってミイに笑われていた。
一方でミイは逆に餡が少な過ぎて小さな一口餃子のようになっていた。
スクナは相変わらず器用に綺麗な餃子を包んで、キマタとミイから羨望の眼差しで見られていた。
皆で包んだ餃子をスクナが食堂の大きなフライパンで一気に焼き上げた。
「なんかぁ~美味そうなもん作ってんなぁ~」
「あたしたちの分は?」
丁度、餃子が焼き上がった頃、狙ってきたかのようにコトシロとミナカタが食堂にやってきた。
現在も寮に残っているのは4人の神衣主とキマタとミイの6人だけだった。
「材料をあるだけ使って餃子にしましたから、皆さんの分もありますよ」
スクナがコトシロとミナカタも夕食に誘うと、ナムチが不満そうに声を上げた。
「えぇ~! 何もつくるの手伝ってないのに食べるのかよ?」
「あぁ~ん!? アンタらの代わり色々と手続きしてやった恩を忘れたの?」
昨夜、キマタとミイを受け入れるため、面倒な手続きを肩代わりしたことを持ち出して、ミナカタは食事を寄こすように要求した。
「ミナカタ先輩は良いんですよ、色々とお世話になっているし、問題は……」
ナムチがコトシロを見ると、ナムチのことは無視して、いつもの調子でミイに話しかけていた。
「僕はぁ~コトシロお兄さんだよぉ~宜しくねぇ~」
「えっ!? はい……」
「ちょっと、おじさん! 妹に近づかないでくれますか?」
気さくに声をかけてきたコトシロにミイが少し怯えた様子で返事をすると、怪しんだキマタが立ちふさがって拒絶した。
「えぇっ!? 挨拶しただけだよぉ~? そんな不審者みたいな……」
さすがにちょっと凹んだコトシロががっくりしていると、可哀想に思ったスクナがフォローを入れた。
「ちょっと変な話し方をするけど、コトシロ先輩は副師団長で怪しい人ではないから!」
「そうそう、ボキは怪しくないよぉ~! それとぉ~お兄さんだからねぇ~」
「うーん……でも、なんか怪しい」
説明を受けてもキマタから不信感を完全に取り除くことはできなかった。
「……なんかぁ~扱いがひどくなぁ~い?」
悲しそうにつぶやくコトシロを見て、みんなが笑った。
このメンバーで寮で過ごす最後の夜を、たくさんの餃子をみんなで一緒に食べて楽しく過ごした。
綺麗な形でも、不恰好な形でも、皆んなで食べる餃子は、何だかいつもより美味しいような気が、ナムチはしていた。
この時、こうして皆んなで一緒に過ごすことはもう2度とこないとは、誰も思っていなかった。
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