第1章 嘘
ハクトはいつになく真剣な表情でナムチに語りかけた。
「ナムチ、あたしはアンタに嘘をついていることがある」
「うん、そうなのか」
ナムチは特に驚くこともなく、にっこりと笑っていた。
「ちょっとリアクション薄くない? あたしはアンタに嘘をついてたんだよ?」
「嘘ついてたって言っても、今からちゃんと教えてくれるんだろ? なら別に良いよ」
「そういう問題? もうちょっと怒るとか……なんか想像してたのと違う」
「アハハ! なんだそれ?」
想像と異なるナムチの反応に、ハクトは覚悟を決めて話し始めた自分が馬鹿馬鹿しくなっていた。
「それでハクト、嘘ってなんなん?」
ハクトは屈託なく笑顔で聞き返してくるナムチに呆れながらも、いつもと変わらぬ態度に少し安心して話を始めた。
「よく聞いて、ナムチ。 あたしの本当の名前はハクトじゃない」
「へっ? 名前?」
「そう名前、あたしの本当の真名はハクトじゃない」
神衣主と御霊はお互い正しい名前を告げることで誓約を交わしていた。
そのため偽名では誓約は交わすことはできない筈だった。
「えっ!? それじゃあ俺とハクトの誓約は……」
「それは大丈夫、誓約は正しく結ばれている」
「そうなのか?」
ハクトは流石にショックを受けているナムチに説明を始めた。
「そもそも今のあたしには名前が無いんだよ。 だからナムチと会って目覚めた私は自分で名前を付けたんだ」
「名前が無い?」
「正解には奪われたって言った方が近いかもしれないけど……」
「名前を奪われた? ハクト、意味わかんないよ?」
ナムチはハクトの説明で余計に混乱しているようだった。
ハクトはナムチにもわかるように簡単に説明することにした。
「あたしには奪われたモノがあるんだ。 その所為で名前も失った。 それを取り戻すために、あたしはナムチを神衣主として選んだのよ」
「じゃあ、俺は奪われたモノを取り返す手伝いをすればいいんだな?」
ナムチはなんの躊躇も見せずに言い切った。
ハクトはそんなナムチの態度に、嬉しいような腹立たしいような複雑な気分になっていた。
「あのね、ナムチ、こういう話をされたら普通はそれは何なの、何を取り戻したいの、とか聞くんだよ」
「そうなん? でもハクトから何か奪ったんだから悪い奴なんだろ? 理由や誰かなんて聞いても聞かなくてもやることは一緒だよ」
ナムチは一度信頼した相手には是非もなく従ってしまう、それは美徳かもしれないけど欠点でもあるわ、ハクトはなんの疑いも持たずに自分を受け入れて信じてくれるナムチを嬉しく思いながらも少し心配になっていた。
「ナムチ、あなたはどうしてそこまで私を信じてくれるの?」
「それはハクトが俺の御霊だからさ」
ナムチは何の迷いももなくそう言い切った。
「それだけなの?」
「えっ!? 他に何か理由いる?」
確かに神衣主と御霊は誓約を交わし、心を通じ併せることで神衣を動かしている。
しかし、それだけでそこまで御霊を信じられるものなのか、ハクトは驚きを隠せなかった。
「神衣主になる最終試験のとき、ハクトは俺のことを選んでくれただろう? 俺は訓練生になってから1年間、ウザがられたりすることはたくさんあったけど、誰かに選ばれたのは初めてだったんだ」
「そんなことで!?」
「しょうがないだろ、初めてだったんだから! だから誰に何を言われても、俺を選んでくれたハクトを信じるよ」
ハクトはナムチの言い方に引っ掛かりを覚えた。
「ちょっと待って。 ナムチ、誰かにあたしを信じるなって言われたの?」
「えっ? あぁ、偉そうなおっさんがこの前失神しているときに夢に出てきて、「お前の御霊を信じるな、決して忘れるな」みたいなことを言ってきたけど、あんな胡散臭いおっさんなんて信じないって」
ナムチはそう言って笑っていた。
一方で、自分が意識を失っている間に神衣の中まで入ってきたのはカガミノだけじゃなかったと気付かされたハクトは悔しそうに爪を噛んだ。
「偉そうなおっさんって、ナムチに神衣主になれって言った人よね?」
「そうそう! どっかで見たよう気がするんだけど、思い出せないんだよなぁー」
ナムチを研究所から神衣主にする為に連れ出した奴が接触してきたことに、ハクトは警戒心を高めていた。
「ナムチ、その偉そうなおっさんが誰だかわからないけど、アタシのことを知ってたのね?」
「あぁ、名前は違うけど知ってるみたいなことを言ってたかな?」
間違いない、偉そうなおっさんが何者かはわからないけど、少なくともあたしの秘密を知ってると考えて間違いないわね、ハクトはそう考えていた。
しかし、その目的がわからなかった。
「神衣主になって何かしろとは言われてないの?」
「そういうのは無いな……夢でおっさんが出てきたのは1回だけだし」
ナムチは偉そうなおっさんの事をあまり深く考えていないようだった。
ハクトはこれ以上はナムチに聞いても意味はないと考えて、警告だけ伝えることにした。
「もし、偉そうなおっさんがまた出てきたら、必ずあたしに教えて、出来る?」
「おっさんが出てきたらハクトに言えば良いんたな! OK!」
あまり深く考えずにナムチは答えているようで、ハクトは不安になったがニコニコと笑っているナムチを見ていたら、それ以上は何も言えなかった。
「あっ!?」
ナムチが何かに気がついたように声を上げた。
「ナムチ、どうしたの?」
「名前が嘘だったなら、ハクトを何て呼んだら良いの?」
確かにハクトという名前は最終試験のときに思い付いただけの仮の名前だったが、真名は取り戻せてない現状では、他に名乗る名前は無かった。
「奪われたモノを取り戻すまではハクトと呼んで、全てを取り戻したら、その時は本当の名前をナムチに教えるわ」
「わかったぜ、ハクト! とりあえずその取られたモノを取り戻そうぜ!」
「ありがとう、ナムチ」
ナムチとハクトはお互いに屈託なく笑いあった。
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