第1章 格納庫にて
格納庫では作金者たちが明日の夜の決戦に向けて、神衣の整備を進めていた。
特に破損のひどいマーガレットの神衣の改修が突貫工事で行われていた。
マーガレットは修理するついでに新装備もつけるように指示した。
そのため修理と新装備に使用する玉鋼を作るために、必要な血液を抜いてもらうために医務室に来ていたのだった。
ナムチは忙しく働き続ける作金者たちには声を掛けず、真っ直ぐに自分の神衣の側まで近づいていった。
「ハクト、出て来いよ」
ハクトはナムチが来ている事に気がついていたが、声をかけられるまで姿を見せなかった。
「聞こえてるんだろ? 早く出てこいよ!」
ハクトはナムチの目を避けるように、神衣の右脚の裏側に姿を現した。
「なんで隠れるんだよ?」
「……なんか恥ずかしい」
「WhataFuck? 何を言ってんだよ?」
ハクトはもじもじとしながら神衣の裏から出てきたが、俯いてナムチの顔を見ようとしなかった。
「なんだよ! どうしたんだ?」
「うぅ……あたしがミスしたせいで、ナムチが死にかかった」
「そりゃあお互い様じゃね? 俺がデカ神衣にぶっ飛ばされて、無様に失神しなきゃ問題なかったわけだし」
ハクトは悔しそうに下唇を噛んで黙り込んでしまった。
ハクトは、巨大な神衣の接近に全く気が付かず、ナムチに何の警告を与えることができなかった自分が許せなかった。
ナムチは、自分を責めるハクトの姿には敢えて気が付かないフリをして話を続けた。
「いやぁ〜あのデカ神衣が出てくるまでは、マーガレット師団長をあと1発でぶっ飛ばす寸前までいってたのにな! マジでおしかったなぁ〜 FuckinTooBad!」
そう言ってアハハと笑っているナムチを、ハクトは怒りと悔しさに目に涙をためてキッと睨み付けた。
「ナムチは悔しくないの? 不意打ちとはいえ、あそこまで無様に倒されて……」
「へっ?」
ハクトのあまりの剣幕に、ナムチは意味がわからないといった感じでキョトンとした表情を浮かべた。
そんなナムチの態度に更に苛立ちを覚えたハクトは、興奮して捲し立てた。
「何をヘラヘラと!? あそこまで無様にやられて、わたしはお前に合わす顔がないと……」
「えぇっ!? 何がそんなに無様なんだよ?」
「えっ?」
悔しさも怒りも感じていないようなナムチの態度に、ハクトは驚いて一瞬固まってしまった。
しかし、気を取り直してナムチを問い質した。
「ぶん殴られて、踏みつけられて、気絶して、悔しく無いのか?」
「うん、確かに見事にやられて負けて、情けなく気絶した」
「だから……」
「だから、それの何が悔しいんだよ? 俺たちはまだ生きているぜ!」
「えっ?」
ナムチは満面の笑顔を浮かべてハクトを見ていた。
「ここは戦場だろ? 死ななきゃ負けようが気絶しようが勝ちだ!」
「WhataFuck?」
ハクトはナムチが何を言っているのか、直ぐには理解出来なかった。
「だから、死ななきゃ勝ちだろ! そんで生き残ったら次はぶっ飛ばす! 百倍いや千倍返しだ! FuckinKillThemAll!」
屈託ない笑顔でめちゃくちゃな理論を掲げるナムチに、ハクトは驚いて呟いた。
「……ナムチ、YoCrazyModaFuker?」
「だから母親とはやってねぇって! そもそも母親のこと知らねぇーし」
「でも、そんな考え……死ななきゃ勝ちなんて……やっぱり変よ……」
混乱しておかしいと言い続けるハクトをナムチは恨めしそうな目で睨みつけた。
「ハクトまで俺をそうやってバカにするんだ……」
ハクトは慌てて否定した。
「違うわ! バカになんてしてない!」
ハクトは自分が求められてきた勝利とはもっと違うものだったと話し始めた。
「わたしの戦いはそうではなかった。 無様に勝ちを拾うくらいなは死を選べと教えられたわ。 生き様こそが大切で、死もその一つに過ぎないから……」
「ハクト、何を言ってるんだ? 死んだら終わりなんだから、生き残ったらそれで良いじゃん」
ナムチにはハクトの言っていることが全く理解出来なかった。
ハクトは諦めたようにクスリと笑った。
「フフッ……やっぱりナムチはCrazyだね。 でもその考えも嫌いじゃないよ」
「へへっ、死ないないことより重要なことなんてよくわかんないけど、CrazyはCoolってことでもあるんでしょ?」
ナムチはハクトの言っていることの意味はよく分からなかったが、馬鹿にされているわけではないということはわかって、嬉しそうにへへへと笑った。
「ナムチ、本当にお前はCoolだよ。 FuckinCrazyだ」
ハクトは笑顔で何か吹っ切れたように言った。
そして、真剣な表情でナムチに語りかけた。
「ナムチ、大事な話があるんだ」
「なんだよ、改まってどうしたん?」
「あたしはあんたに嘘をついてることがある」
「はぁ? なんだよ藪から棒に」
ハクトはこれまでに誰にも話したことがなかった秘密を、ナムチに話し始めた。
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