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第1章 提案

 ドアをノックする音に気づいてナムチたちが振り返ると、医務室の入り口にマーガレットが立っていた。


「お取込み中に悪いんだけど、ちょっといいかしら?」


「……マーガレット師団長、何の御用ですか?」


 スクナが警戒心を隠すことなく、マーガレットの正面に立って言った。


「あらら、スクナちゃんにも随分と嫌われちゃったみたいだね」


 苦笑いを浮かべて頬を掻くマーガレットだったが、スクナは返事をもせずにマーガレットの一挙手一投足を見逃すまいと油断なく睨みつけていた。


 マーガレットは両手を上げて敵意がないことを示しながら話を続けた。


「孤児院でのことはミナカタから報告をもらったよ。 怪我した子どものこともね」


「それでお見舞いにでも来たんですか?」


 スクナは相変わらず冷たい態度のまま応えた。


「こう見えて師団長なんだ。 ただ見舞いにくるほどあたしも暇じゃないよ」


「では、なんのために?」


「実は大事な話があるんだよ」


 マーガレットは普段無いような真面目な顔をして話を始めた。


「本部もきょうの夕方には撤収して職員たちにはシェルターに避難してもらうことになる。 そこで問題になるのがその子たちだ。 現状、シェルターに受け入れる余裕はない」


「BullShit!? こいつらは俺の家族になったんだ! だから問題ないだろう」


 ナムチが声を荒げてマーガレットを睨みつけた。


「ShutaFuckUp,Shorty! いきなりお前が『俺たちは家族だ!』とか言っても通じるわけないだろう⁉」


 マーガレットは呆れ気味にナムチの発言を窘めた。

 スクナも呆れたように深いため息をついた。


「はぁ……ナムチ、気持ちはわかるけど、そういうことはちゃんと手続きをしないとダメだよ」


「えーっ!でも、そうなったんだよ! なぁ、キマタ」


「うん、そうだよ! 僕たち家族になったんだ!」


 スクナから諭されても、ナムチとキマタは納得せずにマーガレットに訴え続けた。


「えっと、私は何も知らないんだけど……」


 そんな2人を見て、ミイが困ったようにポツリと呟いた。


「あぁっ!? まだ、ミイには伝えてなかった!」


「おおお落ち着いたらすぐに言うつもりだったんだよ!」


 ミイを置き去りにしていたことに気づいたナムチとキマタが焦って言い訳を始めた。


 そんな2人を見てミイは笑い出した。


「フフフ……別に嫌じゃないから、そんなに困らなくて大丈夫だよ」


 笑顔で話すミイを見て、ナムチたちはホッと胸を撫で下ろした。


「そろそろ話は終わったか?」


 ナムチたちのやりとりをぬるい目でみていたマーガレットが声をかけた。


「ああ、話は済んだよ。 それで何なんだ?」


 ナムチは恥ずかしそうにちょっと顔を赤らめながらマーガレットに応じた。


 スクナとミイはそんなナムチを可愛いと思いながら見ていた。


「イズモ師団本部はきょうの夕方にはほぼ閉鎖される。 この医務室も同様だ」


「キマタとナムチは俺が連れて行くよ」


 ナムチはそれが当然といった顔でマーガレットに宣言した。


「それは勝手にしたら良いけど、そのあとはどうするんだい?」


「そのあとも一緒にいればいいだろ!」


 さも当然とばかりに叫ぶナムチに、マーガレットは再び呆れた顔をみせて言った。


「だから明日にはお前は戦場だろうが! 神衣カムイで子どもを背負って戦うのか? YoStupide!!」


「あぁっ! そうだった!? スクナ、どうしたら良いんだ?」


 そんなことはできるわけがないと気が付いたナムチは助けを求めてスクナを見た。


「僕に聞かれてもね」


 スクナは肩をすくめて両手を広げてみせた。


「OhMyGa!? どうしたら良いんだ!!!」


 何もアイデアが浮かばないと、ナムチは頭を抱えて悩みだした。


「そこで、あたしからの提案だ」


 思い悩んでいるナムチを楽しそうに見ながら、マーガレットが満面の笑みを浮かべていた。


「その笑顔がより一層警戒心を煽ってくるのはなんでなんでしょうね?」


 スクナは油断ならないとマーガレットを警戒していることを隠さなかった。


「FuckYo、スクナ! 別に悪い話じゃないよ。 その子たちの面倒をビスマルク家で見ようって話さ」


「Whatz? なんでビスマルク家で?」


 ナムチがマーガレットからの突然の申し出に驚いて声を上げた。


「うちはヤマトで唯一錬金術師を名乗ることが許されたビスマルク・フォン・アルベルトゥスを当主に頂く一族だ。 医術に関してもヤマトで最も進んでいる。 だからその子をうちで保護して、治療の面倒もみてやるって言ってんだよ」


 マーガレットはどうだ感謝しろ、と言わんばかりに鼻高々で自信満々に言ったが、ナムチとスクナは胡散臭いと怪訝な表情をした。


「なんで急にビスマルク家が出てくるんだ?」


「そんな都合の良い話は俄には信じられませんね」


 マーガレットは視線をナムチ達から外して、在らぬところを見ながら話始めた。


「べべべべ別に下心なんてないぞ。 ナムチに恩を着せてやろうと、ちょっとだけ思っているけどな」


「俺に恩を着せようとは思っているんだ」


「そりゃ、それでお前たちが心置きなく戦えるっていうなら、それに越したことはないだろ?」


 ナムチは驚いたように目を丸くした。


「そうなの? マーガレット師団長もやさしいとこあんだね」


「なんだよ、ナムチ。人を鬼みたいに」


「鬼みたいなもんじゃん? 俺、殺されそうになったし」


「「あははははは!」」


 ナムチとマーガレットは顔を見合わせて乾いた笑いを見せた。


「ナムチ、FuckinKillYo!」


 マーガレットが笑いながらナムチの胸倉をつかんで持ち上げた。


「放せよ! FuckinBitch!」


「きゃーナムチ!」


「やめろー!」


 ミイが悲鳴を上げ、キマタがマーガレットの腕に飛びついた。


「キマタもミイも落ち着いて、ナムチは大丈夫だから! マーガレット師団長もいい加減にして下さい!」


 やれやれと言った表情でスクナが全員に落ち着くように伝えた。


 マーガレットはナムチを放り出すと「あたしだけが悪者かよ」と呟いて口をとがらせていた。

 解放されたナムチは床に座り込んで咳き込んでいた。


「……それで本当の理由はなんなんです?」


 スクナは再びマーガレットを問いただした。


「お前もまだ疑っているのか? 孤児院の件はこっちにも落ち度があったと思っているから、せめてもの罪滅ぼしだ」


「……そうですか」


 スクナはマーガレットの言い分に納得していいなかったが、ここでこれ以上追及しても無駄だと感じて引き下がった。


 床で咳き込んでいたナムチが漸く立ち上がると、マーガレットを睨みつけた。


「……本当にキマタとミイの安全を保証してくれるんだな?」


「あぁ、ビスマルク家の名にかけて」


 ナムチは振り返ってキマタとミイに近づくと、2人を抱きしめた。


「ヨモツの奴らをブッ飛ばしたらすぐに迎えに行くから、それまであのおばちゃんのところで待っててくれるか?」


「……ナムチ兄ちゃん、本当に迎えに来てくれるの?」


 ミイが不安気に顔をナムチに押し付けてきた。


「当たり前だろ! 俺たちは家族になったんだぞ」


 ナムチは更に強く2人を抱きしめた。


「……早く迎えに来いよ!」


 キマタがナムチを強く抱きしめ返した。


「あぁ、わかってる」


 マーガレットのことを完全に信じた訳ではなかったが、ナムチたちには他に選択肢はなかった。


 とりあえず今日は、ミイの検査が終わったらキマタと一緒に寮に泊まることになった。

 寮も神衣主カムイムチや戦闘に関わる者以外は、今夜からシェルターに移るため、空き部屋や空きベッドは使い放題だった。


「家の者が明日の朝に迎えに行くように手配しておくよ」


 マーガレットの指示でビスマルク家の使いが、明日の朝、キマタとミイを寮まで迎えにくることになった。


「お話が済んだようでしたら、退院前にもう少し検査をしたいですが?」


 マーガレットに遠慮して遠巻きに見ていた医師が、おずおずと声をかけてきた。


「もう話は終わったよ」


 マーガレットに言われると医師はミイを検査のために連れ出した。

 キマタとナムチもミイの検査に付き添うため出て行くと、医務室にはマーガレットとスクナが残された。


「あら? スクナくんは一緒に行かないの?」


「家族水入らずを邪魔するほど野暮じゃないんですよ」


「ふーん、意外。 ナムチを取られるって嫉妬するかと思った」


「……それに聞きたいこともありましたから」


 スクナはマーガレットの正面に立って、表情を窺いながら訊ねた。


「本当の狙いは何です?」


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