第1章 悪人
食べるためには他人から奪っても当然だと言う男たちに、ナムチは不敵な笑みを浮かべて応えた。
「じゃあ俺がお前らから実力行使で奪っても文句はないな?」
「この人数相手に勝てると思ってるのか?」
男たちは手に持った鉄パイプや角材を構えてナムチを威嚇していた。
「思ってるよ! ModdaFuckers!!!」
しかしナムチは男たちが殴りかかってくる前に、素早く飛び掛かって正面にいた男の股間を蹴りつけ、前屈みになったところを頭を持って顔面に膝蹴りを入れた。
男は鼻血を出してそのまま後ろに倒れ、呻きながら顔を両手で抱えて蹲った。
「はい。 一丁上がり」
ナムチは余裕で一言呟くと、逆上して鉄パイプで殴りかかってきた男を左にヒラリと躱して、右拳で顎をかすめるよに殴りつけた。
さらに持っていた角材で殴りかかってきた男も右に躱すと、今度は左拳で同様にあごを掠めるように殴りつけた。
殴られた2人の男たちは、顎の先端を打ち抜かれて脳を揺らされ、一瞬で意識を失って糸の切れた人形のように倒れこんだ。
「はいっ! 3丁あがり」
「くそっ! なんなんだお前は!?」
もう一人の男はナイフで上から切り付けてきたが、ナムチは右手でナイフを持った手首をつかんでひねり上げると、左腕を右腕の間接に押し当てて、肘を支点にして梃子のように押し上げ圧し折った。
「ぎゃあぁぁぁー!」
男は折れた腕をプランプランと揺らしながら絶叫した。
「よっと! 4丁上がり。 あとはお前だけだな」
ナムチは最後に残った1人を睨みつけると、ゆっくりと言った。
男は恐怖のあまり腰を抜かして尻餅をついていたが、それでも逃げようとズリズリと後ずさりながら言った。
「た、助けてくれ! 食いものは全部返すから」
ナムチは一瞬、男を見て呆れた表情を見せて言った。
「キマタも「ミイを助けて」って言っていたよね? その時、お前らはどうしたんだ?」
男は顔を青くして震えだした。
「いやっ……そ、それは……」
「なあ? どうしたか、聞いてんだけど?」
ナムチはもう一度、男の顔を睨みつけながら、ドスの聞いた声で尋ねた。
「……け、蹴りました」
男は目線を逸らせて顔を真っ青にして震えながら応えた。
「だよねー! YoModdaFucker!!!」
ナムチはそう言うと這いつくばっていた男の顔面を、サッカーボールキックのように蹴り上げた。
男は鉄板の入った軍靴で口を思いきり蹴り上げられ、無数の歯と血を飛び散らせながらもんどりをうって倒れた。
「あがっががっ……」
ナムチは呻きながら転がっている男たちを冷たい目で一瞥すると、男たちがキマタとミイから奪った食料を拾い集めた。
すると誰かがナムチに小石を投げつけてきた。
「痛っ!? なんだ?」
「父ちゃんをいじめるな!」
森の茂みから出てきた5歳くらいの男の子が、必死の形相でナムチに石を投げつけながら叫んでいた。
小さな石がナムチの頭に当って小さな傷ができた。
「痛ぇ~な! なんだお前?」
ナムチが傷口を手で触ると少し血が滲んでいた。
「ちょっと痛えからやめろよ」
ナムチが男の子に近づこうとすると、最初にナムチに蹴り倒された男が起き上がって叫んだ。
「ハヤト、逃げろ!」
「父ちゃん!」
そう叫ぶとハヤトと呼ばれた男の子は、男のところに駆け寄った。
「バカ野郎! 逃げろと言っているだろう」
「嫌だ! 父ちゃんと一緒に戦う」
男は駆け寄ってきた子どもを庇うように抱きとめると、ナムチを睨みつけた。
「くそったれ! 子どもに手を出すんじゃねぇぞ」
「……お前は平気でキマタとミイをぶん殴るけど、自分の子どもは殴るなってか?」
ナムチは冷たい目で男と子どもを睨みつけて言った。
「くっ! ああ、そうだ。 盗もうが奪おうが食いものは食いものだ。 俺は子どもを守るためなら鬼にだって悪魔にだってなると決めたんだ。 俺はどう言われたって、何をされたって構わない」
男はそう言うと子どもを自分の後ろに下がらせ、ナムチに向かって這いつくばって頭を下げた。
「だからハヤトには、子どもにだけは手を出さないでくれ」
ナムチは男から目を逸らすと、やり場のない怒りを抑えるように地面をけった。
「Fuck!」
男の後ろでは目に涙を浮かべた子どもがナムチを睨みつけていた。
「どっちが悪者なんだよ……」
ナムチは男にくるりと背を向けるて、ミイの治療をしているスクナとキマタのところに向かって歩き出した。
「……その食い物は勝手に持って行けよ」
ナムチは男たちを見向きもせずに、さっき回収した食いものを足元に置いた。
「……すまない」
男は一言そういうとナムチが置いていった食べ物を拾い、他の男たちを起こして立ち去っていった。
ナムチは何も言わず黙っていた。
「良かったの?」
スクナは戻ってきたナムチに声をかけた。
「ああ……一回、ぶっ飛ばしたしな! キマタもこれで勘弁してくれ」
「ナムチ、あんな奴らのことよりも、ミイのことを助けてくれよ」
キマタは襲ってきた男たちのことよりも、ミイの容態が気になって仕方が無いようだった。
「スクナ、ミイは大丈夫なのか?」
スクナはナムチを見上げて言った。
「ここでできる応急処置はしたよ。 あとは本部の医務室に連れていって診てもらおう」
「あぁ、そうだな」
ナムチは草の上に横たわっていたミイを、スクナの上着ごと胸に抱き抱えると、イズモ師団本部に向かって歩き出した。
キマタはナムチと一緒に師団本部について行こうとしたが、立ち止まって不安気な様子で尋ねた。
「……ナムチ、俺も一緒についていって大丈夫なのか?」
これまでにナムチが孤児院に食べ物を持ってくることはあったが、キマタとミイが師団本部の敷地に入ったことは、最初に保護された時以来なかった。
実は何度かミイにせがまれ、キマタたちは師団本部にナムチを訪ねていったことがあったが、警備兵に相手にされず追い返されていたのだった。
「俺たちがついているんだから、大丈夫だよ」
ナムチは自信満々にそう言った。
「神衣主が一緒でも、許可証の無い者を本部に入れることはできません」
キマタが心配した通り、ナムチがミイ達と一緒に本部に入ろうとすると、入り口で警備兵から入ることを拒否されてしまった。
明後日のヨモツ大侵攻の情報が市民にも伝わり、師団本部に侵入しようとする不法居住者が押し掛けたことで、警備が通常より厳重になっていたことも影響しているようだった。
「FuckYo! 俺の関係者だっていってんだろ! 女の子は怪我もしてるんだぞ!」
「そう言われてもダメなものはダメなんです!」
「この分からず屋が! 良いから早く入れろよ!」
ナムチがミイを抱き抱えたまま、中に入れろと警備兵を怒鳴り散らしたため、応援の警備兵も駆け付けてきて、入り口は大混乱となってしまった。
ナムチが警備兵と揉めている隙に、スクナは入り口の通信機で素早くミナカタに連絡をつけ、急いで臨時の入門許可証を準備してもらった。
「何を揉めている! 警備の者は持ち場に戻れ!」
ミナカタが警備隊長と一緒にやってきて揉めているナムチと兵達を一喝し、なんとか混乱を収めてくれた。
「ナムチ、事前に連絡くらいよこせ! あとはこちらで処理しておくから、その女の子を早く医務室に連れて行け!」
「ThankYo! ミナカタ先輩、助かったよ」
ナムチは軽い感じでミナカタに御礼を言って、ミイを医務室に連れて行くため走り出した。
入り口には、ミナカタと警備隊長に細かい事情を説明するため残ったスクナが、やれやれと苦笑していた。
少し落ち着きを取り戻したキマタが、ナムチの後ろを必死で追いかけながら呆れたように言った。
「……大丈夫だっていってたのに、ナムチは何も考えてないんだな?」
「えっ……ごめん……」
ミイを抱き抱えたナムチが医務室に走り込んでいくと、すでに当直の医師と看護師が既に待っていた。
「ミナカタ監察官から話は聞いている。 その子を早くこっちに」
ナムチがベットにミイを寝かせると、医師は素早く包帯を外して頭の傷を診察した。
「傷はそれほど深くないし、血は止まってるようだが、目を覚さないのが気になるね」
医師は念のためCTスキャンをして脳への影響を診ると言って、ミイをストレッチャーに乗せて連れて行った。
「検査の結果が出るのは明日の朝らしい。 キマタはどうする?」
ナムチはミイが連れて行かれて不安そうにしているキマタに向かっていった。
「ここで待ってちゃダメなの?」
「どうだろうな?」
誰も居なくなった医務室でナムチとキマタがどうしたら良いのか分からずに途方に暮れていると、ミナカタたちへの事情説明を終えたスクナがやってきた。
「ここで待っていても寝るところもないよ。 検査はしばらくかかるし、今日は一旦帰って寮で休んだら?」
スクナは検査の結果が分かったら、直ぐに連絡を貰えるように看護師さんに頼んでおくと言う。
「とりあえずキマタは俺と一緒に寮に行こう! 腹も減っただろ?」
そう言えば、スクナとナムチが食堂から持ってきたおにぎりや缶詰は、男たちとのどさくさでどこかに置いてきてしまった。
「お腹空いたってナムチ、こんな時間にどこで何を食べるつもりなの?」
「えっ! そこはスクナさんが用意してくれてるんでしょう?」
したり顔で見てくるナムチに、呆れた表情を浮かべたスクナが応えた。
「僕が何も準備してなかったらどうするつもりだったの?」
「スクナはそんなヘマしないでしょ」
「まあ……ね。 じゃあ、寮の食堂に行こうか」
スクナは満更でもない様子で言うと、キマタに言った。
「スクナ、俺も腹減ったよ」
「Fuckoff! 君の食事のことまでは知らないよ」
「ウソっ!?」
3人が寮の食堂に行くと、キマタだけではなくナムチとスクナの分も夜食のおにぎりとみそ汁が用意されていた。
食堂のおばちゃんからの「お残しは許しません!」という手紙がテーブルには置かれていた。
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