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第1章 孤児院

「離せクソガキが!」


「やめろよ!?」


 大人の男の怒鳴り声とキマタの叫びが孤児院の方から聞こえた。


 ナムチとスクナが駆け付けると、そこには頭から血を流して倒れているミイと、ミイを庇うように抱き抱えて叫んでいるキマタがいた。


 その周りには鉄パイプや角材などを持った複数の男たちがミイとキマタを取り囲んでいた。

 男たちは2人を蹴りつけながら、キマタが持っている食料の入った袋を奪い取ろうとしているようだった。


「お前ら何してやがる! TakeyoFuckinHandsOff!!!」


 ナムチが叫びながら走りよると、袋を奪おうとしていた男がギョッとして手を離した。


「な、なんだお前ら!」


「おっお前たち関係ないだろ!?」


 ナムチはギャーギャーと騒いでいる男たちを無言で押しのけると、キマタとミイに近づいて声をかけた。


「ミイ、キマタ、大丈夫か?」


「……ナムチ?」


 キマタが痛みで顔を歪めながらナムチを見て言った。


「うぅっ……食べ物を取られそうになって……ミイが殴られて……ひっぐぅ……俺、守ろうとしたんだけど……それでミイが倒れて起きなくて……」


 キマタは涙で顔をグシャグシャにしながらミイを抱きしめていた。

 ナムチは隣にしゃがんで安心させるようにキマタの頭を撫でた。


「わかったキマタ、もう大丈夫だから!」


「だから、なんなんだお前は!」


 キマタと話すナムチの後ろにひとりの男が近づくと、叫びながらいきなり鉄パイプで殴りつけてきた。


 しかし鉄パイプがナムチに当ることはなかった。


 何故なら鉄パイプが当たる前に、スクナが男を後ろから思いっきり蹴り付けていたからだった。


「何をしているのかな? ModdaFucker!」


 スクナは無様に倒れ込んだ男の眼前に、腰から抜き払った軍刀は突き付けた。


「ひいぃっ!?」


 男は腰を抜かしたように座り込んだまま、情けない叫び声を上げた。


「スクナ、そんなクズは放っておいていいから、ミイを診てやってくれ」


「了解」


 スクナは男をギロリと睨みつけると、軍刀を鞘に戻した。

そしてナムチの横にしゃがみ込むと、キマタに優しく微笑みかけた。


 キマタは突然現れた美しい顔立ちの人に驚いていた。


「キマタ、こいつは俺の親友のスクナだ。 医者の知識もあるからミイを診せてやってくれ」


 スクナもキマタの顔を見て、笑顔のまま黙って頷いてみせた。

 キマタはコクンと頷くとスクナを見て言った。


「お姉ちゃん、ミイを診てやってくれ」


「おっおねっお姉ちゃん!?」


 キマタに女性と見間違えられ驚くスクナに、ナムチが笑いを堪えながら言った。


「プクッ! スクナ、今は早くミイを!」


「頼むよ、姉ちゃん!」


「……プププッ……スクナ、早く!」


「クッ! ナムチ、後で覚えておけよ」


 そう言うとスクナはキマタからミイを受け取り、小さな体を軽々と胸に抱えて、柔らかい草の生えた地面に寝かせた。


「うぅ……お姉ちゃん、ミイは大丈夫?」


「心配しないで、今から手当てするからね」


 心配してまた泣き出したキマタに、スクナは安心するように伝えると、呼吸と脈を確かめ、傷口を水筒の水で洗っての頭の負傷の程度を確認した。


 怪我の具合を診ているスクナを、キマタが心配そうにじっと見つめていた。


「大丈夫だよ」


 視線に気がついたスクナは、キマタを安心させるようにそう伝えると、3人を守るように後ろに立っているナムチに向かって言った。


「血は止まっているし、呼吸も安定している……とはいえ、なるべく早く医者に診てもらいたいかな」


 ここでは頭の中まではわからないから早く医者に連れて行きたい、スクナはキマタを不安にさせないように、言外にそういう意味を込めてナムチに伝えた。


「そうか……スクナ、ちょっとだけ待ってくれ」


「なるべく早く済ませてくれよ」


 スクナは上着を脱いでミイにかけると、携帯用の治療キットで傷の応急手当しながら呟いた。


「ナムチ、怒っているのは君だけじゃないよ」


 2人のやりとりを遠巻きに見ていた男たちが、手に鉄パイプや木の棒を持ってジリジリと近づいてきていた


「なんだてめぇら! 邪魔するんじゃねぇよ」


 男たちは全部で5人いた。

 いずれもボロボロの服を着て痩せこけていた。


「なんでお前らキマタとミイを襲ったんだ?」


「キマタとミイ? そこの異民のガキ共のことか?」


 ナムチの質問に先頭に立っていた鉄パイプを持った男が応えた。


「ああ、そうだ」


「俺たちが満足に飯も食えずにいるのに、なんで異民の孤児どもが食料をもらってんだよ? おかしいだろ?」


 今回の避難命令で師団本部のシェルターへ入ることを認められたのは、師団職員の家族やイズモで正式に商売をおこなっている人たちなど、ヤマトの国民として居住権を正式に持っている人たちだけだった。


 旧時代の廃墟などに不法滞在している人たちやその家族は、シェルターに入ることは許されなかった。


 同様に、正式に居住権が認められている訳ではなかった孤児院の子どもたちも、シェルターに入ることは許されなかった。

 しかし一度は保護しておいて何もせずにそのまま放置するのは、人道的にも問題があるとミナカタが強く主張し、なんとか自力で逃げれるように子どもたちには数日分の食料が渡されたのだった。


 男たちは孤児院から逃げた子どもから話を聞いて、まだ施設に残っている孤児たちから食料を奪いにきたのだった。


「異民のクソガキ共に食料を配るくらいなら、日本人の俺たちに寄こせってんだ!?」


「お前たちが日本人だと?」


「そうだ、俺たちは他所から逃げてきた日本人だ。 ヤマトの役に立たないからって追い出されたけどな」


 日本人でも能力がなければヤマト中央に居住することは認められなかった。

 しかし、少なくともイズモなど四方の地域への居住は許されていたはずだった。


「お前たちは日本人なのに居住を許されなかったのか?」


「あぁ、難癖つけられて放り出されたんだよ」


「難癖?」


 ミイの手当てをしていたスクナが、何かに気がついてナムチに声をかけた。


「ナムチ、そいつらは犯罪者だよ」


「犯罪者?」


「日本人でも盗みや強盗をしたり、共同生活で問題を起こした犯罪者は居住区域から追放されるんだ。 でも、ヤマト中央のように壁があるわけではないから、戻ってきて勝手に周辺に住み着いているんだよ」


 死罪にするほどの罪では無いと判断された者たちを収容する、刑務所のような施設を運営する余裕はヤマトにはなかったため、犯罪者は国境の外側に追放されていた。

 しかし、運の良い犯罪者はヨモツから逃げ延びて帰ってきていた。


 スクナの説明を聞いていた男たちが反論するように叫び声を上げた。


「だ、誰が犯罪者だ! 俺たちだって食うために仕方無かったんだ!」


「そうだ! 食べ物を独り占めしてるから、俺たちが公平に貰ってやっただけだろ」


 男たちが身勝手な理屈で自分たちの行為を正当化ていした。


「貰った? 奪ったの間違いじゃない?」


「だ、黙れ! お前たちに何がわかる!」


 自分たちを正当化する男たちから、何も分かっていないと否定されたナムチは、ふと何かに気が付いたようにポンっと手を叩いた。


「なるほどね! 食い物が無ければ持っている誰かから奪えばいい、この世は弱肉強食だと?」


「そ、そ、そうだ! 強い者が弱い奴らから奪って何が悪い!」


 ナムチの問いかけに、男たちは生きていくため、食べるためには弱い者から奪って当然だと応えた。


「じゃあ、強い俺が弱いお前らから、食うために実力行使で食い物を奪っても文句はないよな?」


 ナムチは男たちを睨みつけると、不敵な笑みを浮かべた。

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