第1章 食堂
医務室から寮の自分の部屋に戻ってきたナムチは、袋を持ってこっそりと食堂に向かった。
食堂はすでに閉まっていたが、慣れた手つきで入口の植木鉢に隠してある鍵を取り出すと、扉を開けて中に入った。
「なんか日持ちのする食いものが有れば良いんだけど」
ナムチはそう呟くとキッチンに入っていった。
キッチンのテーブルの上にはラップがかけられたおにぎりが4つ置かれており、メモが残されていた。
『おにぎりは梅干しと鮭、子どもらに持って行きな おばちゃんより♡』
メモにはそう書かれていた。
「♡マークっておばちゃん若いわ。 いつもありがとう」
ナムチはそう言って笑うと両手を合わせておばちゃんに感謝した。
さらにキッチンの床下にある貯蔵庫を開けて物色し始めた。
貯蔵庫の中にツナ缶やフルーツの缶詰、ペットボトルの水を見つけると、ナムチは持ってきた袋に入れた。
Pachinn!
「Whatz!?」
突然、キッチンの灯りが点き、ナムチが驚いて周囲を見回した。
「部屋にいないと思ったら、君は一体何をしてるんだい?」
いつの間にか食堂のキッチンに入ってきたスクナがナムチに声をかけた。
「なんだスクナか、びっくりさせるなよ」
「びっくりさせるなじゃないよ、夜中にこんなところで食べ物を盗んで、何をするつもり?」
「いやぁ~今日は晩飯が医務室の病院食だったから、ちょっと小腹が減っちゃって」
呆れた表情で尋ねるスクナに、ナムチが焦った様子で笑顔を浮かべながら応えた。
「じゃあ、そのおにぎり食べれば良いでしょ? 缶詰を袋に入れてどこに持って行くつもり?」
「それはその……えーっと」
ナムチはダラダラと冷や汗をかいて何か言い訳しようとした。
「缶切りは?」
「Whatz?」
「缶切りは入れたの? 缶詰あげても缶切りなくちゃ食べられないでしょ?」
「おぉ~そうだった」
ナムチはキッチンの引き出しを開けると缶切りを探し始めた。
「……難民の子たちを助けた責任を感じているのかい?」
ナムチは隠していたつもりだったようだが、孤児となったキマタとミイに、時折食べ物を持って行っていることをスクナは以前から気が付いていた。
「責任とかそんなんじゃないよ」
「じゃあなんで?」
「うーん、俺には記憶が無いから、親っていうのがよくわからないんだけど、あのとき必死にパパとママを呼んでいる姿を見ていたら、なんかこう助けてやりたくなってさ」
「……」
「俺にはわからない感情だけど、何とかしてやりたいと思ったんだよね」
黙ってナムチの話を聞いていたスクナがフッと笑うと、仕方がないといった様子で手伝い始めた。
「僕もそんな君に助けられたからね……止めはしないよ」
「えぇっ! 俺はスクナを助けたつもりなんてないけど? 最初に逢ったとき、面白そうなやつだと思っただけで」
「そうなのかな? 僕は関わり合いたくないと思っていたけどね」
「FuckYo!」
「YoFuckYoself!」
2人は顔を見合わせて楽しそうに笑った。
「孤児院に持って行くんでしょう? 早くしよう」
スクナはテーブルに置いてあったおにぎりの皿を持った。
「手伝ってくれるならこっちの袋を持って欲しいんだけど? 俺、病み上がりだし」
「NoThanks! それはナムチが責任持って運びなよ」
「なんだよぉ~ケチ!」
二人は楽しそうに話しながら食堂を出ると、基地の隣に併設された孤児院に向かった。
基地の出入り口には警備の兵たちがいるため、ナムチとスクナは外壁の壊れた穴から外に出た。
「こんなところに穴が空いているとはね」
スクナが驚いているとナムチが得意気に言った。
「だろ? 俺が空けたんだよ」
「Whatz? ナムチ、マーガレット師団長にバレたら大変だよ」
ナムチは心配いらないと笑った。
「警備兵のおっちゃんたちも気づいてると思うけど、食堂のおばちゃんが大目にみてくれって頼んでるから大丈夫だよ」
「君のその誰とでも仲良くなれるスキルには脱帽するよ」
2人が孤児院に向かって歩いていると、前方から何やら騒いでいる声が聞こえてきた。
「クソガキ共が!」
「さっさと食いものを寄こさないからこういうことになるんだ!」
「やめろ!」
複数の大人の男たちの声とキマタの叫びが聞こえた。
ナムチとスクナは顔を見合わせると、全力で走り出した。
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