第1章 出会い
Fワードなどを造語に変更、文章も一部書き直してアップしなおしています。2022年3月25日追記
スクナがナムチと出会ったのは、訓練生として選ばれた20人が集められたときだった。
集められたのは15歳の少年と少女で、いずれも思念の強さや身体能力の高さなどで神衣主になる可能性があるとして選ばれた者たちだった。
「ついにキタ――!!」
緊張感が漂う訓練生たちの中で、ナムチは何が嬉しいのか、1人だけテンションを上げてしきりに周りに話しかけていた。
すでに知り合いの者たち同士で固まっており、全く知り合いがいないにも関わらず、妙に馴れ馴れしく話しかけてくるナムチは、残念なことに誰にも相手にされないどころか、逆に周りから冷たい目で見られて無視されるか、適当にあしらわれて逃げられていた。
特に貴族の中でも最も身分の高い御巫三家のひとつ、ミナカヌ氏の血族であるヤソガミは、どこの馬の骨ともわからない癖に馴れ馴れしく話しかけてきたナムチを毛嫌いして、「話しかけるな!」と怒鳴りつけていた。
スクナはヤソガミの態度を見て、そこまで毛嫌いすることはないのにと、エリート意識丸出しの貴族の子弟たちに嫌悪感を抱いたが、彼らと敵対してまでナムチと関わる必要も感じず、巻き込まれないように離れて見ているだけだった。
しかし、そんなスクナの思いとは裏腹に、ヤソガミに怒鳴られたナムチが、目ざとく様子をみていたスクナに気が付くと素早く近づいて話しかけてきた。
「YoYo! おれナムチ、お前は?」
気さくというには妙に高いテンションで馴れ馴れしく話しかけてきたナムチに、スクナは若干引いてはいたが、無視するのもヤソガミと同じようで嫌だなと思い、普通に挨拶を交わすことにした。
「僕はスクナだよ。ナムチくん、よろしく」
名前を教えてもらったことが嬉しかったのか、ナムチはスクナの肩をつかまんばかりに近づいてきた。
「くん付けなんて、余所余所しいなー!呼び捨てでいいよ、スクナ」
「余所余所しいって、僕たち初対面だよね?」
それに別に僕は呼び捨てしてくれとは言っていないけど、とスクナは思ったが、屈託なくニコニコと笑うナムチを見ていたら、まあどうでもいいかと思い直した。
「OK、ナムチ、よろしく」
「おう!」
楽しそうに話すナムチとスクナの様子を、ヤソガミとその取り巻き連中が忌々しげに睨んでいた。
スクナもヤソガミと同じ御巫三家のひとつカミムス氏の一族だったが、ある事情でこれまで貴族とは言えない生活をしていたため、彼らとは面識はなかった。
スクナはヤソガミたちの視線に気づいていた。
出来るだけトラブルを避けて目立たず過ごしたいと思っていたスクナは、貴族の子弟たちともめるのは面倒だなと思った。
しかし一方で、プライドの塊のような彼ら貴族たちと上辺だけでも親しく付き合っていくのは、もっと面倒臭いし疲れそうだ、とも思っていたので、これで彼らとの付き合いが減るなら良かったかと、へらへらと笑って話しているナムチに笑顔で応じながら思っていた。
まともに相手をしてもらえた事が嬉しかったのか、嬉々として話しかけてくるナムチに、適当に相槌を打ちながら、スクナは会場の様子を見ていた。
20人の訓練生たちの中では、すでにいくつかのグループができているようだった。
1つはヤソガミを中心とした、貴族の子弟のグループ。
これが最も人数が多く12人だった。
次に人数が多いのは貴族階級ではない、一般の商人や労働者などの旧日本人たちのグループ。
ヤマト建国後に入国を許され、その多くはヤマト中央ではなく、ヤマシロ・オウミ・イズモ・カワチと呼ばれる四方のエリアに住むことを許された人たちだ。
ヤマト国民のおよそ7割がこれにあたる。
5人が集まっていたが、チラチラと貴族グループの顔色を伺っているようだった。
そして、最後に1人。
周りから遠巻きに見られ、訓練生の誰からも声をかけられていないが、その事を気にする素振りも見せず、超然と佇んでいる金髪碧眼の美しい少女がいた。
訓練生の中で唯一の異国人の特徴を持っていたのは、ヤマトでは滅多に見られることがない金髪碧眼の少女・イヴァだった。
イヴァはその容姿もあって、入所式でも貴族グループのヤソガミたちに目をつけられていた。
無駄にテンションの高いナムチが落ち着きなくウロウロ歩き回り、誰彼構わず話しかけている裏で、ヤソガミとその取り巻き連中がイヴァに絡んでいた。
「おい、そこの金髪女! 何を澄ました顔でここにいるんだ? 俺たちのお零れで生きている異人は跪いて礼を示せよ」
イヴァは見下すように言ってきたヤソガミと、それをニヤニヤと笑ってみているフユヌキら取り巻きを、透き通るような青い瞳で見つめ返すと、小首をかしげて答えた。
「金髪女というのは私のこと?」
「ふんっ! 他に金髪がいるのか?」
「それもそうね。私はイヴァ、ヤマトの国民よ。あなたの名前は?」
「俺は御巫の三家がひとつ、ミナカヌ氏のヤソガミだ」
「そう。ではヤソガミさん。 あなたも私も同じヤマト国民なのに、なぜ私があなたに跪かなければならないの?」
「WhataFuck? 金髪のお前と俺が同じヤマト国民だと!?」
「だから私の名前はイヴァよ。 金髪でもお前でもないわ」
「何がイヴァだ! その名前こそが異人である証明ではないか! 生意気なことを言うな!!」
イヴァに冷静に言い返されたヤソガミは、貴族である自分が、身分の低い異人に対等に言い返されたことで激高していた。
しかし、顔を真っ赤にして怒りを露わにしたヤソガミを前にしても、イヴァの態度は変わらず冷静だった。
「名前が関係あるのかしら? さっきも言ったけれど、私はヤマトの国民よ。あなたが言う異人ではないわ」
「Fuckoff! 何がヤマトの国民だ! お前ら異人は俺たちがお情けで国に住まわしてやっているのを忘れたのか?」
ヤソガミは勝ち誇ったようにいうと、イヴァを見下すように鼻で笑った。
取り巻きのフユヌキたちも「そうだ! そうだ!」「かわいいからって調子にのるな!」などと周りから囃し立てた。
「ヤマトの法にそんなことは書かれていないし、人種に関係なく国民は皆平等とされているはずだわ」
イヴァは嘲笑や野次を気に留めることもなく答えた。
しかし、イヴァの話を聞いたヤソガミは、心底呆れた表情を顔に浮かべ憐れんだ口調で言った。
「法律なんてのは建前だけさ。今も異人や貴族でない奴らは、オオヒルメ様と我々貴族のお零れをもらって、なんとか生かしてもらっているじゃないか? オオヒルメ様の真の加護を頂いて安全に暮らす権利があるのは、俺たち貴族だけだ。その他の連中はお零れに縋る下等な劣等民だろう?」
ヤマト建国から20年余りが過ぎ、建国前から帝ホノ・ニニギに仕え、建国後には国の中枢を成す支配者階級となった貴族たちと、その他の国民たちとは大きな階級差が生まれていた。
表向きは全ての国民がオオヒルメ神の神光の下で平等とされていたが、実際には塔の近くに住むものは身分の高い貴族となり、塔から離れるほど卑しい身分とされていた。
さらにヤマト中央からはなれたヤマシロ・オウミ・イズモ・カワチに住まう人たちは、さらに下の身分とされており、旧日本人ではない人たちの多くは、これら4つのエリアに暮らすことを強制されていた。
しかし、世界各地からヤマトに入国を求める人たちは後を立たず、正規のヤマト国民として認められていない人たちも、イズモやヤマシロなどの周辺エリアで廃墟となった建物などで不法に暮らしていた。
一方で、入国を求める人たちの中で、ヤマトの為に必要な才能があると認められれば、オオヒルメの塔近くに暮らすことが許される者もいた。
しかし、多くのヤマトに暮らす人たちの多くは、特に貴族と呼ばれる人たちは、ヤマシロやイズモに暮らす人たちを見下し、特に旧日本人ではない、海外からやってきた特徴を持つ人たちに対して差別的な偏見を持っていた。
歪んだ偏見で凝り固まったヤソガミの言い分を聞くと、イヴァは小首を傾げてちょっと考えるようなそぶりをみせた。
イヴァの態度を見て、言葉に詰まっていると考えたヤソガミは調子づいて言った。
「なんだ、反論はないのか? 異人ごときが俺様に意見するなんて、百年早いんだよ」
イヴァは誇らしげに話を続けるヤソガミを、冷たい目で見つめ返した。
「貴族には貴族の、国を動かす大切なお勤めがあります。 だからオオヒルメ様の塔の近くに住む必要があります。 他の人々や外国から移ってきた人たちも、それぞれの立場でヤマトのために働いています。 全ての民に大切なお勤めがあり、そこに身分の上下はないと、私の父は言っていました」
「はぁ~? WhataFuxx?」
ヤソガミはイヴァの話を聞くと、現実とはかけ離れた理想論をならべたてるイヴァと、その父親を馬鹿にするように笑いながら言った。
「アハハハハ! SoFuxxinFunny! お前のクソオヤジが何を言おうが知ったこっちゃないんだよ! お前のオヤジは何様だよ? 帝か神祇伯かなんかかよ?」
ヤソガミと取り巻き連中は、イヴァは馬鹿にしていることを隠そうともせず、大きな声で嘲笑を浴びせかけた。
イヴァは嘲笑に怯むことなく、ヤソガミたちを見つめ返すと冷静な声で養父の名前を告げた。
「良くご存知ですね。私のお父さまはナカトミ・オミマロと言います」
「はぁ?……ナカトミ・オミマロ?」
どこかで聞いたような名前だなとヤソガミが思っていると、フユヌキが青い顔をしてヤソガミの袖を引っ張って耳打ちした。
「ナカトミ・オミマロ様は当代の神祇伯ですよ」
「……神祇伯って、帝を補佐する? ヤマトの政事のトップの?」
「そうです! 昔、神祇伯が異人の子を拾って育てたって噂があったでしょう。 きっとその子どもがイヴァですよ!」
ヤソガミは顔色を真っ青にしたフユヌキの話を聞くと、怒りで真っ赤にしていた顔を、フユヌキと同じように真っ青にしながら、イヴァの方に振り返って尋ねた。
「お前の父親は帝の補佐をされている神祇伯のナカトミ様か?」
「はい。父からそのように聞いております」
驚愕の表情を浮かべたヤソガミはしどろもどろになって言い訳をはじめた。
「なるほど、お前のお父上がそうおっしゃるならそうなのかもしれんな」
「私は父の言うことを信じております」
「そうか。では、おれから言うことは何もないので、失礼させていただく」
ヤソガミは早々に話を切り上げて退散しようとした。
「少しお待ちになっていただけますか?」
イヴァがそんなヤソガミを呼び止めた。
「ひとつだけよろしいでしょうか?」
「はい?」
立ち止まり、恐る恐ると言った様子で振り返って聞き返したヤソガミにイヴァはこう伝えた。
「先ほど「異人はお零れで生かされている」とおっしゃっていましたが、ビスマルク叔父様は外国から来られた方ですが、神衣をつくられヤマトに貢献された立派な方です。 神衣を整備される作金者の皆様も外国から来られた人たちが多くいます。 そして食糧や衣類など生活を支えるものをつくられている貴族ではない皆様も立派なヤマトの国民です。 そして貴族である私のお父様や他の皆様は自らを犠牲にしてヤマトの為に尽くしています。 そのことをヤソガミ様も、そちらの皆様も努々お忘れなきようお願致します」
イヴァは一気にこう伝えると制服のスカートの裾を持ち上げて一礼すると、ヤソガミに対して貴族が行う正式な形式で挨拶をしてみせた。
「ふんっ! そんなことはわかっているわ」
異人としては異例の地位にある錬金術師ビスマルク・フォン・アルベルトゥスの名前まで出された上、嫌味のように貴族として持つべきノブレス・オブリージュも匂わされたヤソガミは、不機嫌な様子で言い放つと、取り巻きを引き連れて会場を出ていった。
そのあとイヴァは会場でひとりポツンと取り残されていたが、先ほどの騒動をみていた他の訓練生や教官たちは誰もイヴァに近づいて話しかけようとはしなかった。
全く空気を読まないあの男を除いて……
「YoYo! おれナムチ。 イヴァ、あんたなんかスゴイな!」
さっきまでスクナにずっと話しかけていたナムチが、いつの間にかイヴァのところに行って初対面とは思えない馴れ馴れしさで話しかけた。
しかしイヴァは先ほどと表情を変えることもなく、驚いた様子も見せずにナムチをちらっと見ると、何事もなかったかのように応えた。
「ありがとう、ナムチ」
「イヴァ、俺は難しいことはよくわかんないけど、さっきのなんかカッコよかったよ! YoFuxxinCool!」
ナムチがニコニコと笑いながらほめると、イヴァは初めて一瞬驚いたような表情を浮かべたあと、少し微笑んでみせた。
「Thanks、ナムチ」
2人を遠くから見ていたスクナは、ナムチに微笑んだイヴァの笑顔を美しいと思いながら、近づくことも話しかけることしなかった。
とりあえず書き終えているところまでは、手直しをしながら毎日投稿していこうと思います。
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修正するにあたって各章の区切りも変更していきたいと思っています。
少しずつ直しいきますので、重複など読みにく部分が残っていたりするかと思いますが、ご了承下さい。2022年3月25日記