第1章 目覚め
医務室に連れてこられたナムチはベッドに寝かされて検査を受けていた。
「ナムチ、早く目を覚ましてくれよ」
カガミノを神衣の中で休ませたスクナは、すぐにナムチのいる医務室に駆けつけた。
「外傷もなく、脳にも異常は見られないので、時期に目が覚めるだろう」
診察した医師はそう伝えると、忙しそうに部屋から出て行った。
「ケガはないってさ! ナムチ、早く起きろよ」
スクナは何度も呼びかけたが、ナムチはずっと眠ったまま答えることはなかった。
Baaaaahhhhhnnnn!!
「そろそろぉ~目は覚めたかなぁ~?」
ノックも無しに扉を勢いよく開いて、医務室にコトシロが大声を上げながらズカズカと入ってきた。
KnokKnok!
その後ろでミナカタが澄ました顔で開かれた扉をノックした。
「失礼しても良い?」
スクナは呆れた表情を浮かべながら応えた。
「今さらな質問ですけど、どうぞミナカタ先輩」
「あれぇ~? 俺はぁ〜歓迎されてないのかなぁ~?」
コトシロがわざらしく悲し気な顔をしながらスクナに尋ねた。
「ノックも無しに押し入ってきて、歓迎も何もないでしょう」
スクナはコトシロを睨みつけて言った。
「まぁ~愛しのナムチくんがぁ~目を覚まさないからってぇ~スクナくんこわぁ~い」
スクナは巫山戯続けるコトシロを怒ったように睨みつたが、それ以上は相手にせず、ミナカタの方を向いて尋ねた。
「二人そろってどうしたんですか? ナムチのお見舞いというわけでもないでしょう」
コトシロはスクナに睨みつけられて「怖ぁ〜い」などと泣き真似をしていたが、ミナカタもスクナも無視して話をつづけた。
「帝から詔勅が下されたのよ。 明後日の夜にヨモツが攻めてくるわ」
「ヨモツが攻めてくる?」
「黄泉大坂からの大侵攻よ、建国以来、初めての大規模侵攻となるわね」
黄泉大坂が現れたのはヤマト建国の少し前、第2次ヨモツ大戦だったと言われていた。
数万を数えるヨモツが建設中のオオヒルメの塔に向かって攻めてきたが、辛うじて完成した塔から神光を照射することで撃退できたという。
第2次ヨモツ大戦では神衣にも被害が出ており、神衣をも凌駕する巨大なヨモツも確認されていた。
黄泉大坂と聞いて、スクナは訓練生時代にも習った第2次ヨモツ大戦を思い出していた。
「第2次ヨモツ大戦クラスの化け物が攻めてくるんですか?」
「黄泉大坂の入り口はぁ~黄泉平坂のぉ~十数倍らしいからねぇ~どんなのが出てくるのやらぁ〜」
この中では最も歳上のコトシロですら17歳で、建国前のヨモツとの戦いを知る者はいなかった。
「あれでしょ? なんかものすごいヨモツの化け物が攻めてくるんじゃない?」
ミナカタも具体的にはよくわかっていないようだった。
スクナにとっても大戦の話は歴史の上の出来事でしかなく、正直、全く実感がわかなかった。
「……それでここの医者も看護師もバタバタしているんですね」
「あんまりぃ~驚かないんだねぇ~?」
「いえ、しっかり驚いてますよ。 ただ実感がないと言うか……」
「まぁ~俺たちはぁ~建国後に生まれた世代だらかねぇ~そう言われてもぉ~って感じだよなぁ〜」
スクナが視線を落として、ベッドで寝ているナムチを見ると、横に座ったコトシロが寝ているナムチの顔にいたずら書きをしようとしていた。
「FuckOff!」
スクナは容赦なく思いっきりコトシロを蹴りつけた。
ひょいっと身軽に蹴りを躱したコトシロは、わざとらしく焦った表情を見せながら言い訳を始めた。
「ちょちょちょちょっ待てよぉ~冗談だから」
「冗談? 全く面白くもないですね」
スクナはいつでもコトシロに攻撃を仕掛けられる態勢のまま答えた。
「わかった、わかったぁ〜。 悪かったよぉ~」
コトシロがマジックを机に置くと、ようやくスクナは構えを解いた。
両手を上げて何もしないという意思表示を見せながらコトシロは言った。
「明後日にはぁ~ヨモツがやってくるぅ~、こちらの戦力はぁ~マーガレット師団長を含めてぇ~神衣が4機しかないからぁ~ナムチにも起きてもらわないとぉ~困るのよねぇ~」
「近衛師団が応援に来たのではないんですか?」
スクナが尋ねると、ヘラヘラと笑い始めたコトシロに変わって、後ろにいたミナカタが応えた。
「残念ながら近衛師団はイズモを守るためには動かないわね」
「どういうことですか?」
「タケ・ミカヅチ近衛師団長はイズモにいる民の避難を「必要ない」と言ったわ。 中央に避難民を受け入れる余裕もないからって」
「なっ!?」
「表向きはイズモを守るために来たと言っていたけど、実際にはイズモから避難民が中央に流れ込むのを止めるために近衛の連中は来たのよ。 あたしたちを援護するために来たわけじゃない」
あまりのことに言葉を失ったスクナを尻目に、コトシロはふざけた口調を崩さずにいった。
「あらぁ~ヤマト中央の監察局にも所属するミナカタ監察官は、そんなこと言っちゃっていいのぉ~」
「今さら何を……ヤマト中央から私にはなんの連絡もないんだ。 私もここで死ねということなんだろう」
「まぁ~こっちも同じだから、そういうことだねぇ~……ハハハハ」
コトシロは面白くもなさそうに乾いた声で笑った。
「そんな!? 僕たちだけでイズモを守れって言うんですか? FuckinCrazy!!!」
スクナは諦めたように話すコトシロとミナカタに、それは無理だと訴えた。
「できるさ! 俺たちだけでイズモを守ったら良いんだろ?」
いつの間にか目を覚ましていたのか、ナムチがしっかりと応えた。
「ナムチ! 目が覚めたんだね」
「枕元であれだけ騒がれちゃな! 嫌でも起きるって!」
ナムチは嬉しそうに涙ぐむスクナに笑顔を見せた。
そして改めてコトシロとミナカタを見ると、もう一度力強い声で言った。
「ヨモツ大戦? 上等だよ! 俺たちでぶっ潰してやんよ!」
大見得を切ったナムチにコトシロはニヤニヤと笑いながら手を出した。
「簡単にぃ〜言ってくれるねぇ~」
「っていうか、コトシロパイセンもそのつもりでしょ?」
ナムチはそう応えながら、コトシロの手を叩いた。
「まあねぇ~イズモにきて2年ちょっとだけどぉ~見捨てちゃうってのはぁ~ちょっと寝覚めが悪いのよねぇ~」
ミナカタは話しているナムチとコトシロを見ながら、「勝利条件はバカのあんたたちでもわかるわよ」と状況を説明した。
「イズモの人たちには、中央との境にあるシェルターに避難してもらうわ。 そこにヨモツを寄せ付けず奴らを殲滅すればあたしたちの勝ちよ」
ミナカタはそう言ってにっこりと笑顔を浮かべた。
「いうのは簡単だけどねぇ~」
コトシロは心底疲れた嫌そうな表情を浮かべた。
「スクナはどうする?」
ベッドから身を起こしたナムチは、考え込んでいる様子のスクナに問いかけた。
「僕は……」
スクナはナムチを見て一瞬、何か答えようとしたが、何も言葉を発することができなかった。
そんなスクナを見ていたコトシロは、思い出したように話し始めた。
「あぁ~スクナくんにはぁ~中央への帰還命令が出てるよぉ~」
「Whatz?」
驚くスクナを尻目に、コトシロはいつもと変わらない口調で続けた。
「だからぁ〜スクナくんのぉ〜ヤマト中央への帰還命令だよぉ〜」
スクナは突然の帰還命令に絶句して言葉を失った。
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