第1章 帰還
「カガミノ! カガミノ!」
「……んん、スクナ?」
スクナから声をかけられたカガミノが意識を取り戻すと、そこはイズモ師団の神衣格納庫だった。
「目が覚めたんだね! 良かった」
そう言うとスクナは思わずカガミノを強く抱きしめた。
カガミノはスクナの態度を内心では好ましく思っていたが、強く抱きしめられたことを嫌がるようにして言った。
「……スクナ、ちょっと痛いかしら」
「あぁっ!? ごめん」
スクナは慌ててカガミノを離すと、照れ臭そうに顔を赤くした。
「ふっふんっ!?」
カガミノも恥ずかしさを隠すように、スクナから顔を背けた。
数分前、神衣の前でスクナと作金者らが様子を見ていると、突然地震のように神衣が震え出した。
「カガミノ! カガミノ!!」
驚いたスクナが声をかけたが、神衣の震えは更に大きくなり、作金者たちも慌て出した。
GaGaGaGaaaahhhhhh!!!
「カガミノ! WhatafuckisGoingon?」
スクナは振り返って作金者たちを見たが、モニタリングしていた彼らにも何が起きているのかわからないようだった。
「Shit!!!」
スクナは神衣に近づくと右手で殴りつけた。
「カガミノとナムチを返せ!!!」
神衣の震えは益々激しくなると、突然、眩しいばかりに輝いた。
Bashaaaahhhhhnnnn!?
「うわっ!?」
激しい光を目の前で浴びたスクナは、思わず顔を背けて目を閉じてしまった。
しばらくして光が消えて目を開くと、スクナの前にはナムチとカガミノを両手に抱えたハクトが立っていた。
「ハクト! ナムチとカガミノは!?」
「2人とも大丈夫よ」
ハクトはそう言うとカガミノを駆け寄ってきたスクナに手渡した。
「カガミノ……」
スクナは意識のないカガミノを受け取ると、ギュッと抱きしめた。
ハクトはスクナたちを横目に作金者たちの前に出ると、彼らが持ってきた担架にナムチを寝かした。
「大丈夫だと思うけど、医務室でチェックしてあげて」
作金者たちは黙って頷くとナムチを師団本部の医務室に運んでいった。
スクナの腕の中で目を覚ましたカガミノは、意識がはっきりしてくるとともに、一体何があったのか思い出そうとした。
「そう……わたしはナムチを助けるためにハクト様の神衣に入って……何か大きな……ぃっつ!」
何があったか思い出そうとしたカガミノを、突然激しい頭痛が襲った。
「カガミノ! 無理をしないで!」
突然苦しみ出したカガミノを心配したスクナが、再び声を上げた。
「うぅ……ハクト様とナムチは……」
痛みに耐えながら、カガミノは2人の安否を確認した。
「ナムチは目覚めたハクトが外に出してくれた。 もう作金者たちが本部の医務室に連れて行ったよ」
「それは……良かったかしら……」
カガミノはこめかみを抑えながら返事をすると、顔を上げてスクナを見上げた。
「……ハクト……様?」
スクナの後ろにはハクトが立っていて、ジッとカガミノのことを見つめていた。
カガミノはこちらを見つめるハクトを、とても恐ろしいと感じて、悲鳴をあげそうになり口を抑えた。
カガミノにとってハクトは特別な存在であり、母親のように慕っていたはずなのに、今は恐ろしさが勝っていた。
ハクトは、カガミノの内心には気がついていない様子で、安心したような屈託ない笑顔を見せていた。
「カガミノ、目が覚めたのね。 良かったわ! あなたが私の中に入って起こしてくれたのね」
「あの……そのつもりでしたが……一体何が……っつ!?」
カガミノは一体何があったのか記憶を辿ろうとしたが、再び頭に激しい痛みが襲ってきて何も思い出すことができなかった。
「いっ……っつ!?」
御霊は記憶を記録して、データとしても保存しているため、思い出せないということはとても珍しいことだった。
「カガミノ、無理はしないで」
「えぇ……大丈夫かしら」
スクナが再び苦しみだしたカガミノを気遣った。
苦しそうなカガミノの様子を見て、ハクトは一緒複雑な表情を見せたが、すぐに笑顔を見せてカガミノに話かけた。
「カガミノ、スクナの言う通り無理はいけないわ。 でも一言だけお礼を言わせてちょうだい。 あなたのお陰でナムチを助けられたわ。 ありがとう」
「とんでもありませんわ、ハクト様」
カガミノは頭の痛みに耐えながら、なんとか笑顔を返した。
「スクナ、早くカガミノを神衣に連れて行ってあげて。 御霊にとって一番休まる場所はあそこだから」
「わかった、ハクト。 ナムチが目覚めたらハクトにもすぐに伝えるよ」
「ありがとう」
スクナは頭を抑えて呻いているカガミノを抱き抱えると、自分たちの神衣まで連れて行った。
連れて行かれるカガミノを見送りながら、ハクトは小さな声で呟いた。
「……カガミノ、思い出さなくて良いこともあるのよ」
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