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第1章 詔勅

 オオヒルメの塔があるヤマト中央エリアの壁から、北西に広がるエリアがイズモと呼ばれていた。


 イズモ師団の本部基地は、中央への入り口に近い場所につくられており、市民たちが暮らす住居は基地を中心に扇形に広がる形で形成されていた。

 ナムチたちが暮らす師団寮も基地の中心、扇の要となる本部ビルの近くにあった。


 スクナが神衣カムイの中に閉じ込められたナムチを救出しようとしていた頃、イズモ師団本部ビルの会議室には師団長のマーガレット、コトシロ、ミナカタに加えて、タケ・ミカヅチ近衛師団長、イヴァの5人が集まっていた。


 マーガレットは苛立ちを隠すことなく、タケ・ミカヅチに詔詔ミコトノリについて問い質した。


「訓練の最中にいきなり乱入してきて、帝の詔勅ミコトノリとはどういうことだよ?」


「訓練中に無作法にも乱入したことはお詫びするのである。 しかし、詔勅ミコトノリが宣下された以上、至急に伝える必要があったのである。 許されよ、マーガレット師団長」


 タケ・ミカヅチは謝罪の言葉と共に、無表情のまま軽く頭を下げた。


「Fuck! これほど心の籠らない謝罪は聞いたことが無いね!」


 マーガレットはタケ・ミカヅチを睨みつけながら不機嫌に言い放った。


「お陰でウチの大事な神衣主カムイムチは意識不明で神衣カムイから出てこないんだけど?」


 マーガレットは自分がナムチたちを殺そうとしていた事を棚に上げて、タケ・ミカヅチたちを糾弾していた。


「ふむ! そうであるか。 しかし、あのタイミングで止めなければ、死んでいたのはマーガレット師団長であったのである」


「Whatafuck!? コトシロ、んなことねぇーよな?」


 タケ・ミカヅチの言葉を否定したマーガレットは、後ろに控えていたコトシロにナムチたちとの訓練の状況を尋ねた。


「えぇっ!? いやぁ〜死んでたかどうかはぁ〜わかりませんけどぉ〜ぶっちゃけぇ〜負けそうだったんじゃないですかねぇ〜」


「なっなんだと?」


 マーガレットはコトシロの言葉に驚き、同じく後ろに控えていたミナカタを見た。


「……」


 ミナカタはただ黙って目を逸らした。


「……では、さっそく本題に入らせていただくのである」


 タケ・ミカヅチはショックを受けて落ち込むマーガレットを放置して話を進める事にした。


 タケ・ミカヅチは後ろに立っていたイヴァを振り返ってみると頷いた。


「承知いたしました」


 イヴァはタケ・ミカヅチの前に跪き、懐から詔勅ミコトノリと書かれた封書を取り出すと、恭しく両手で掲げて差し出した。


「各々方、詔勅ミコトノリである。 控えられよ」


 マーガレット、コトシロ、ミナカタも跪いて頭を下げ畏まった。


 タケ・ミカヅチは封書を開くと、はっきりとした口調で厳かに読み上げた。


「イズモに不吉の兆しあり。 一夜二夜のうちにヨモツの大規模侵攻の恐れありて、タケ・ミカヅチは近衛らを引き連れ、イズモにてマーガレットらと共闘してこれに当るべし」


 タケ・ミカヅチは詔勅ミコトノリを読み上げるとマーガレットに手渡した。

 マーガレットは両手で恭しく受け取ると、確かめるように黙ってその文面を読んだ。 

 マーガレットは読み終わると顔を上げてタケ・ミカヅチに尋ねた。


「帝は他になんと?」


「ニニギ陛下は、近衛は私が指揮し、イズモ師団はマーガレットが指揮せよとおっしゃられたのである。 ヨモツらは黄泉大坂ヨモツオオサカから出現し、オオヒルメの塔を目指して攻めてくるのである」


「攻めてくるヨモツの数は?」


「かつて黄泉大坂ヨモツオオサカが出現したときは、大型種も含めて数万のヨモツによる侵攻であった。 今回も同規模と考えられるのである」


 ヤマト建国前のヨモツとの大規模な戦闘について、この場にいる人間で実際に経験しているのはタケ・ミカヅチしかいなかった。


 大型種など建国以来、一度も出現したことはなかったし、数万のヨモツと言われても、マーガレットですら想像がつかない、というのが正直なところだった。


 しかし、ヨモツの侵攻がイズモにとって脅威であることには変わりはなく、マーガレットにはタケ・ミカヅチに一つ確かめておきたいことがあった。


「イズモにいる民の避難はどうするんだ?」


 タケ・ミカヅチは表情を変えることもなく応えた。


「不要である」


「WhataFuck!? それはどういう……」


 タケ・ミカヅチの言葉に、マーガレットの後ろで跪いていたミナカタが驚きのあまり顔を上て抗議しようとした。

 マーガレットは振り返るとミナカタを手で制しながら叱責した。


「Shutup、ミナカタ! 誰が貴様に意見を聞いた?」


「くっ……申し訳ありません」


 ミナカタは納得していないようだったが、この場はマーガレットに任せて引き下がった。


 マーガレットは正面を向き直すと、タケ・ミカヅチを見据えて真剣な顔で尋ねた。


「イズモの民に避難は不要というのは帝のお言葉か?」


「然り。 避難を指示する必要はないのである」


「……それはイズモの民に死ねということか?」


「左様である」


 タケ・ミカヅチは躊躇なく言い切った。


 ミナカタが我慢できず再び声を上げようと顔を上げると、その目の前には、怒りを抑えるために握りしめた拳から血を滲ませたいるマーガレットがいた。


 マーガレットは怒りに満ちた表情を隠すことなく、再びタケ・ミカヅチに問い質した。


「それはなぜだ?」


「我らは陛下の臣民である。 陛下に死ねと言われれば死ぬのが道理」


「しかし……」


「そもそもイズモの民をどこに避難させるのであるか? お主にも、ヤマト中央に新たな住民を受け入れる余裕などないことはわかっておろう」


「だから民に死ねと!?」


 マーガレットは激昂して立ち上がった。

 タケ・ミカヅチの後ろに控えていたイヴァが、腰に帯びていた剣に手をかけ間に割って入った。


「マーガレット師団長、落ち着いてください」


 イヴァの動きに呼応するように、ミナカタも腰の太刀に手をかけてマーガレットを守るように前に出た。


「イヴァ、何のつもりだ?」


 ミナカタはイヴァを睨みつけなが言った。


「ちょちょちょっとちょっとぉ〜お前らやめなさいよぉ〜?」


 コトシロはいつもと変わらぬ、やる気の無さそうな様子でミナカタとイヴァを制止した。


 しかしイヴァは、ヘラヘラとした物言いとは裏腹に、コトシロがいつでも自分たちを攻撃できるように、立ち位置を変えていることに気がついていた。



「油断のならない人ですね」


「あららぁ〜美人の女の子に警戒されるのはぁ〜悲しいなぁ〜」


 会議室には一触即発の緊張した空気が流れていた。


「貴様たち、いい加減するのである!!!」


 タケ・ミカヅチの怒声が会議室の空気を打ち破った。


「我らは共にイズモを守るために来たのである! ここで互い争ってなんとするか!? イヴァも控えるのである!」


「ミナカタ、コトシロ、お前たちもやめろ!」


 マーガレットもコトシロたちに下がるように命じた。


「タケ・ミカヅチ師団長、マーガレット師団長、失礼致しました」


 イヴァはマーガレットに一礼するとタケ・ミカヅチの後ろに下がって跪いた。


「はいはぁ〜い。 ほらぁ〜ミナカタ、下がるよぉ〜」


「……うーん」


 コトシロは不満気なミナカタを引っ張って、マーガレットの後ろに引き下がった。


 タケ・ミカヅチはマーガレットやミナカタを落ち着かせるように話を始めた。


「我らがここに来たのは民を救うためである。 ここイズモでヨモツの侵攻を食い止め、共に民を守るために戦うのである」


「……あぁ、そうだな」

 

 落ち着きを取り戻したマーガレットが答えると、後ろに控えていたコトシロがおずおずと声をあげた。


「あのぉ~ヤマト中央への避難は無理でけどぉ~イズモエリア内で避難させる分には問題ありませんよねぇ~」


 タケ・ミカヅチは少し考える素振りをみせてから言った。


「フム、確かにそれは禁じられてはおらぬのである。 しかし、民に無用の混乱を呼ぶのではないか?」


「昨日も国境付近でヨモツの襲来がありましたし、念のための避難要請とすれば大きな混乱にはならないかと」


 タケ・ミカヅチの疑問に、ミナカタがすかさず対応を示した。


「なるほど……マーガレット師団長はいかがお考えであるか?」


 マーガレットはタケ・ミカヅチの質問には答えず、背後にいるコトシロとミナカタを見て言った。


「コトシロ、ミナカタ、本部の地下シェルターを開放して、希望するイズモの民を全て受け入れろ! ImeanFuckinAll! YouGot?」


「YesMom!」


 コトシロとミナカタはマーガレットの命令を受けると、会議室を飛び出していった。


 2人を見送ったマーガレットは、振り向いてタケ・ミカヅチを睨みつけた。


「それでヨモツはいつくるんだ? それもわかっているんだろう?」


「ニニギ陛下は中天に月の満ちる時とおっしゃられた」


「次の満月は明後日の夜になります」


 タケ・ミカヅチの言葉をイヴァがフォローした。


「夜のないこの国で、ヨモツの奴らは見えもしない月が満ちるときに攻めてくるのか……FuckinDead!」


 マーガレットは窓から外を見上げて吐き捨てるように言い放った。


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