第1章 救出
スクナたちが、ナムチとハクトを神衣ごとイズモ師団の格納庫まで運ぶと、早速、作金者たちが機体のチェックを始めた。
作金者たちが呼びかけても、ナムチやハクトからの反応はなかったが、中にいるナムチが無事に生ていることは確認できた。
しかし、作金者たちでも、2人のどちらかが目覚めなければ、中にいるナムチを外に出すことはできないという。
コトシロとミナカタはしばらくその様子を見守っていたが、マーガレット師団長からすぐにイズモ師団本部の師団長室にくるよう呼び出され、げんなりした表情を浮かべて去っていった。
スクナは神衣に手を触れてナムチに呼びかけた。
「ナムチ、聞こえる? 目を覚まして? ナムチ!?」
「……」
ナムチが呼びかけに応じる気配は全くなかった。
「Shit! どうすればいいんだ……」
「スクナ、ちょっといいかしら?」
「カガミノ?」
必死になってナムチに呼びかけていたスクナの後ろには、いつの間にか御霊のカガミノが立っていた。
「わたくしがハクト様に呼びかけるかしら」
「カガミノが?」
「はい。 その神衣に入って、直接、ハクト様に呼びかけてみるのよ」
「Whatz!? そんなことができるの?」
驚いてカガミノの肩を掴んだスクナが叫んだ。
カガミノはスクナの目を優しく見つめると、しっかりと頷いた。
「ハクト様の意識がない今なら可能かしら」
「意識がない今なら?」
「御霊が覚醒していない神衣は空き家みたいなものだから、侵入するのは難しくないかしら」
「そうなのか……ってちょっと待って! ハクトが目覚めたら、中にいる君はどうなる?」
「……すぐに脱出するから大丈夫かしら」
カガミノは安全だとスクナに伝えたが、実際には神衣の中に別の御霊が入ったという記録はこれまでになく、どんな危険があるのかすらわかってはいなかった。
しかし、漆黒の神衣から激しい攻撃を受け、御霊ですら意識を失って連絡も途絶えた状況で、中にいるナムチが本当に大丈夫なのか早急に確認する必要があった。
このままハクトが目覚めない可能性も否定できず、もしそうなればナムチが神衣から出てくることは不可能となってしまう。
かつてヤマト建国前に起きた第1次ヨモツ大戦では、御霊と共に神衣の中に取り残され、戻ってこなかった神衣主もいたという。
「……カガミノ、無理はしないで」
「ふんっ! 無理なんてしてないかしら」
カガミノはスクナに不安を悟られないように、いつものように強がってみせた。
スクナは不安を押し隠しているカガミノに気が付いていたが、その事には触れることなく、作金者たちに声をかけた。
「今からナムチのサルベージを行うため、御霊カガミノが神衣に侵入する。 作金者たちもフォローを頼む」
スクナからの指示に作金者たちは黙ってうなずいた。
「カガミノ、本当に良いんだね」
念を押すようにスクナは尋ねた。
「もうっ! さっきから大丈夫と言ってるかしら」
強がって大丈夫と答えたカガミノだったが、その手は小さく震えていた。
そんなカガミノを見て、スクナは一瞬怯んだ表情を浮かべたが、何も言えず黙って頷くしたがなかった。
神衣に向かって歩いて行くカガミノの後ろ姿を見ながら、僕は君の安全よりナムチの救出を選んだんだ……カガミノ、ごめんねと、スクナは心の中で謝っていた。
カガミノは神衣に近づくと、両手で機体の胸に触れた。
「ハクト様、そのお心に触れます……」
カガミノの身体が激しく輝くと、一瞬にしてその姿が消えた。
「カガミノ、頼む」
スクナはカガミノの消え去った空間を見つめて言った。
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