第1章 共闘
マーガレットは装甲に覆われた神衣の両拳を互いに打ち付けると、右掌をナムチに向けてかかってこいとばかりに手招きした。
「スクナ、いくぜ!」
「ナムチ、油断するなよ!」
ナムチはスクナとの通信を切ると、猛ダッシュでマーガレットの神衣に飛び掛かると右拳で殴りかかった。
スクナは一旦下がってマーガレットと一定の距離を取ると、周囲を旋回しつつ一撃必殺のチャンス狙って刺突剣を構えた。
「ComeOnDamnBoys!!」
マーガレットは巨大な拳を振りかぶり、突撃してくるナムチを迎え撃った。
GAKKeeeeeN!!!
ナムチとマーガレット、お互いの右拳が激突した。
単純なパワーではマーガレットのほうがやや上だったが、勝敗を分けるのは力ではなく神光にあった。
「……マーガレット、ダメ! 神光の密度が桁違い」
「Fuck! こっちも神光の出力を上げるよ!」
「……違う。 マーガレットの神光は付与……向こうは掌の八咫鏡から直接出力……質量が違う」
ナックルのような装甲がついているマーガレットの右拳も神光を纏っていたが、八咫鏡を掌に装備しているナムチの神光とは一瞬の出力量が違っていた。
「サキミタマ!」
「神光圧縮!」
ナムチの祝詞とともに爆発的にあがった神光の出力を、ハクトが限界まで圧縮して掌の中に抑え込んだ。
「はあぁーっ!!!」
そして拳をぶつけあっているマーガレットの右拳に向けて、手を開くと同時に圧縮していた神光を爆発させた。
Gadbooommmmm!!!
凄まじい爆音とともに爆発した神光が、マーガレットの右腕を装甲ごと肘まで引き裂いて吹き飛ばした。
「Fuuuuuuuck! アタシの腕が!?」
「……痛覚を切……」
「勝手に切るな、マヒトツネ!!! あたしはまだ戦える!」
「……マーガレット、無理」
神衣の右腕を引き裂かれた激痛に耐えながら、マーガレットは痛覚を切断することを拒否した。
「クッ! ま……まだ戦える……まだだ!!」
マーガレットの右腕を吹き飛ばしたナムチは、無傷の右拳を引いて、さらに腰を落とすと左に重心をためた。
「ナムチ、あなたの武器はサキミタマだけだったかしら?」
「わかっているよ、ハクト」
さらにナムチは神光を込めて、真っ赤に燃え上がった左拳をマーガレットの顔面に左から振り抜くように打ち込んだ。
「クシミタマ!」
「Shit! 当たるかよ」
マーガレットは左拳が当たる直前に頭を後ろにスウェイさせて避けた。
「くうぅっ!!」
ジリジリとした熱気がマーガレットの鼻面を掠めていった。
「まだまだいくぜ!」
ナムチは神衣をいったんしゃがませると、立ち上がりざまに右拳でアッパーカットのようにマヒトツネの頭部にパンチを放った。
「サキミタマ!」
「しつこいんだよ!」
マーガレットは神衣を素早く右に移動させると、ナムチの右拳を避けると同時に、残った左拳に神光をのせて横殴りに打ち付けた。
「アマツマーラ!」
アッパーカットで伸び切ったナムチの横っ腹に、マーガレットは左拳で鋭い一撃が迫った。
「ハクト!」
「無理よ、避けられない。 腹筋に力を入れて気合で耐えなさい」
「Fuck!」
マーガレットの神光を込めた渾身の一撃は、神衣の操縦席にも近く、攻撃を貫通させれば中にいるナムチに致命傷を与えられる場所を狙っていた。
ここまできて終わってたまるか、ナムチが覚悟を決めて腹筋に力を込め気合いを入れた。
ナムチの神衣の正に攻撃を受けようとしている腹部が神光を帯びて薄らと輝いた。
「……良い気合ね。 でも、大丈夫そうよ」
ハクトが呟くと、小さな神衣が猛スピードで突っ込んできていた。
「……かしこみ まをす! ナムチ、下がれ!」
飛び掛かってきたスクナに気がついたマーガレットが叫んだ。
「スクナ! YoFuckinShorty!?」
「はあぁーっ!!!」
加速して飛び込んできたスクナが、先端に神光を込めた刺突刀でマーガレットの左拳を装甲ごと刺し貫いた。
BaGooonnnnn!!!
スクナが刺突剣を引き抜くと、マーガレットの左拳が爆発して吹き飛んだ。
「ぐあぁーっ!」
「……マーガレット、一旦下がる」
右腕と左拳を失ったマーガレットは、一旦神衣を後退させた。
「はあはぁ……FuckinSonobabitch!!!」
「……マーガレット、もう戦闘は無理。 痛覚接続を遮断しないと……」
「NoFuckinWay! はぁっ……あたしは……まだやれるよ!」
マヒトツネが懇願するように戦闘をやめるように訴えたが、マーガレットは聞く耳を持たなかった。
そしてナムチとスクナに通信をつなぐように命じた。
「FuckinPeewees、はぁ……あたしをここまで追い詰めるとは、なかなかやるじゃないか」
マーガレットは両手を失った痛みに苦しんでいると思われないように虚勢を張って、ナムチやスクナと普段どおりに話そうとした。
「まだやるのか? マーガレット、もう終わりにしようぜ。 あんたも現実が見えていないガキは嫌いだって言ってただろ?」
ナムチは、平静を装ってはいるがマーガレットが実際にはかなりのダメージを受けていることを、その声を聴いて見抜いていた。
「マーガレット師団長、これ以上は意味がない。 訓練を終わりましょう」
スクナも戦闘継続は無意味だと、訓練の終了を申し出た。
「FuckYo! あたしを舐めるなよ……この程度の損傷でGiveUpするかよ!」
「……マーガレット」
「さあ、最高の、最後の一撃をくらいやがれ! マヒトツネ、アマツマーラ!」
マーガレットは神衣の頭部に装甲と神光を集中し、ナムチに向かってロケットのように頭から突っ込んできた。
「わからずやのクソババァが! スクナ、やるしかねぇ!」
「クッ! 全力でいくよ!」
マーガレットを倒す覚悟を決めたナムチとスクナは祝詞を唱えた。
「かくりょのおおかみ あわれみたまえ めぐみたまえ さきみたま くしみたま まもりたまえ さきはえたまえ」
「じんりき しんみょうの おほひなる いさをしを あつく うやまひ ふかくしんじて きなんを はらひのぞきて かしこみ かしこみ まをす」
ナムチの両拳は真っ赤に燃え上がり、スクナの刺突剣が金色に輝いた。
神光は人々の祈り、願い、思いを具現化して力としている。
それは未来を信じる者にこそ与えられる神からの力だった。
死を覚悟して最後の攻撃を仕掛けてきたマーガレットと、勝利のために祝詞を唱えたナムチとスクナでは、勝敗はすでに決まったも同然だった。
ナムチとスクナ、マーガレットが激突しようとしとした、その時!
「その勝負、そこまでである」
共通回線で傍受を強制して送られた通信が、その場にいる全ての神衣に送られた。
「この声は?」
スクナは通信から届いた声にどこか聞き覚えがあった。
しかし、祝詞を唱えて神光を発動させたナムチはそう簡単には止まれなかった。
「いきなり言われて止まれるかよ!?」
「ちょっと待って、ナムチ!」
「待てるかよ!」
スクナの静止も聞かず、ナムチはマーガレットに攻撃を仕掛けた。
止まるつもりが無いのはマーガレットも同様だった。
「邪魔をするな! くそジジイ!」
ナムチとマーガレットが静止を無視してぶつかり合おうとしたとき、巨大な黒い影が2人の間に立ちはだかった。
GuAaShaaaaaaaaN!?
巨大な漆黒の腕が、ものすごい勢いで攻撃態勢に入っていたナムチをぶん殴って吹き飛ばした。
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