第1章 3分
感情の高ぶりを抑えきれず暴走を始めたナムチを前に、スクナは3分でどうやって落ち着かせるか悩んでいた。
「カガミノ、どうしたらいい?」
「ナムチは通常では考えられないくらいの神光を出しているかしら。ハクト様がなんとか暴発しないように抑えているけれど、いつまで持つか……」
「神光を放出させれば、ハクトが神衣のコントロールを取り戻せる?」
「可能性はゼロではないかしら」
「それで行こう!」
小型なスクナの神衣が勝っているのは、圧倒的なスピードだった。
ナムチの神衣に勝るスピードを利用して、攻撃を避けながら一撃離脱を繰り返して神光を放出させることにした。
「刺突剣で突っ込む! Hit and Awayでいくよ」
「ふんっ! 向こうの攻撃が当たったら終わりかしら」
「なかなかスリリングだね」
スピード重視のスクナたちに比べ、ナムチの神衣はバランスの取れた仕様の機体だったが、今は暴走した神光を纏っており、一撃でも当たれば只ではすまなかった。
スクナは神衣の重心を少し後ろに下げ、加速して一気に前に出ると、刺突剣をナムチの神衣の腹に突き立てた。
「ナムチ! 目を覚ませ!」
「うぅ……あぁ!?」
操縦席ではナムチが頭を抑えながら、神衣をコントロールしていた。
思念で操る神衣は、死にたくないというナムチの無意識の激しい思念によって動かされていた。
神衣はゆらりと刺突剣の鋭い突きを躱すと、真っ赤に燃え上がった右拳をスクナに振り下ろした。
「左頭上から攻撃がくるかしら」
「ブーストでさらに加速!!!」
スクナは突っ込んだ勢いをさらに加速させ、振り下ろされた拳が当たる前にナムチの横をすり抜けた。
直撃は避けたが、溢れ出る神光の炎で神衣の操縦席にいるスクナにまで熱気が伝わってきた。
「スクナ……お前まで……俺を殺そうと……するのか……?」
「ナムチ、違う! 力や感情に溺れるな! 目を覚ませ!」
「やめろ……スクナ……敵は……殺す!!!」
激しい感情に飲み込まれたナムチは頭を抱えて錯乱状態だった。
しかし、それでも神衣は動きを止めることなく、神光もますます燃え盛っていた。
「ハクト様! コントロールを!」
「……」
カガミノも必死になってハクトに呼びかけるが返事はない。
「カガミノ、ナムチの神光は?」
「ほとんど変化はありません」
こんな攻撃を繰り返しても埒が明かない、スクナはこちらも対抗するために神光を展開することを決断した。
「カガミノ!こっちも神光を出す」
「承知したかしら」
スクナは両手を合わせて祝詞を唱えた。
「じんりき しんみょうの おほひなる いさをしを あつく うやまひ ふかくしんじて きなんを はらひのぞきて かしこみ かしこみ まをす」
祝詞に合わせて神衣を金色に輝く神光が包み込んだ。
「スクナ? 何をしてるかしら?」
スクナはいつものように神光を刺突剣に集めず、神衣の全身を包み込んだ。
「刺突剣ではナムチを止められない」
スクナはそういうと手に持っていた刺突剣を投げ捨てた。
カガミノが驚きの声を上げた。
「スクナ!?」
「スピードではこちらが早い! 神衣に纏った神光でナムチの神光の炎を防ぎながら戦う」
「かすっただけでも吹き飛ぶかしら」
「攻撃はかすりもさせない」
カガミノは大きな溜息をついて言った。
「スクナの好きにするかしら」
「ごめん、カガミノ」
「仕方がないわ。そんなあなたを選んだのだから」
「……いくよ」
スクナは手を正面に構えて、ボクシングのように左右に体を振るステップを踏んでナムチに近づいた。
「なかなか思い切ったことをするね」
「……無謀。かすっただけでもTheEND」
刺突剣を捨ててナムチに突っ込んでいくスクナを見て、マーガレットは思い切りの良さに驚いた声を上げた。
マヒトツネはあまりの大胆さを否定した。
「残り何分?」
「1分40秒」
スクナはナムチの正面に立つと、素早く右拳を打ち込んだ。
ナムチはスクナの拳を避ける様子も見せず、大ぶりな動きで豪快に打ち返してきた。
ナムチの打撃からは神光の炎が溢れ、先に攻撃を仕掛けていたスクナの拳にも浴びせ掛かった。
スクナはギリギリのタイミングで溢れ出る神光を避けながら、素早くナムチの脇腹や背中などに攻撃を叩き込んだ。
「ぐうぅ……邪魔するな! 殺すっ! 殺すっ!」
攻撃はそれほど効いていないようだったが、ちょこまかと動き回るスクナに、ナムチは苛立っていた。
「落ち着けナムチ! 僕だスクナだ!」
「あぁ……スクナっ……なんでっお前がぁ……」
全高4メートルほどのスクナの神衣に対して、全高7メートルのナムチの神衣、体格差は大人と子どもほどあったが、スピードを生かして紙一重で攻撃を避け続けた。
遂にナムチの苛立ちが頂点に達した。
「FuckYo! スクナあぁぁぁぁぁ!!!」
ナムチは雄叫びを上げて右腕を思いっきり振りかぶると、燃え上がる神光を右拳に集中させ、渾身の力をこめてスクナの頭に燃え上がった右拳を打ち付けた。
「……待っていたよ」
ナムチの燃え上がって倍以上に見える拳を、スクナは両手で受け止めるように手を伸ばした。
「スクナ、避けきれないわ!」
「行ける! カガミノ、神光を両手に集中して! きなんを はらひのぞきて かしこみ かしこみ まをす! はああっ!」
「神光を集中するかしら」
スクナはナムチが渾身の一撃を打ってくるこの一瞬を待っていた。
全身に張り巡らした神光を両手に集中させ、真っ赤に燃え上がったナムチの神光にぶつけた。
マーガレットの鉄鎚をナムチが受け止めたとき、神光が反発しあうのを見ていたスクナは、同じようにナムチの拳が纏う神光を自身の神光でも弾き返せると考えたのだ。
しかし、そのためには刺突剣では先端が細すぎて潰れてしまうと考え、あえて素手で受け止めたのだった。
GyagaaaaSShhhhhhaaannnn!!!
物理的な衝撃は、スクナが神衣の全身をバネのように縮めて受け止めて吸収した。
予想通りに神光が反発しあって、ナムチの燃えているかのような拳に触れることなく受け止めることに成功した。
「なんとか、いけたかしら?」
「よし!」
しかし攻撃を受け止められたナムチは激高していた。
「スクナ、なんでだ! 俺の邪魔をするな!」
ナムチは右腕にさらに神光を集中させた。
予想を超える神光が劫火のように燃え上がり、拳を受け止めているスクナの両手からあふれ出て飛び散った。
「きゃあっ!」
「ぐうぅ……カガミノ、大丈夫?」
飛び散った火の粉のような神光が神衣の腕や足を溶かしていた。
すでにスクナの神光は両手に集中させており、神衣の全身を守るものはない。
「痛覚接続を切断するかしら」
「ダメだ! それじゃあ神光を維持できない。
痛覚の接続を切れば痛みを感じなくなるが、神衣を自分自身のように動かすことも出来なくなる。
このままでは神衣もカガミノのももたない、スクナは再び賭けに出た。
「カガミノ、行くよ」
「……うん」
「はあぁっ!」
スクナは両手でナムチの拳を抑えながら、合気道のように神衣をゆらりと左に移動させた。
上から渾身の力で押し潰そうとする力のバランスを崩すと、ナムチは前につんのめるように態勢を崩した。
「Fuck!」
さらにスクナは体勢の崩れたナムチの右腕を掴んだ。
ジュジュっという音と共に、掴んだ手から焦げ臭い匂いがしたが、スクナは構わずにさらに手前に引いた。
すでに体勢を崩していたナムチは、腕を引かれ頭を前に出すようにたたらを踏んで倒れかかった。
神衣の頭部はちょうどスクナの眼の前に来ていた。
スクナは神衣の頭の顎に目掛けて神光纏った渾身の掌底を叩き込んだ。
「ナムチ! FuckYorself!」
神衣と感覚を一体化していたナムチは、顎を撃ち抜かれた衝撃で脳震盪を起こして、一瞬意識を失った。
神衣はだらりと腕を下げて動きを止めた。
意識を失えば神光を纏うことはできない、スクナはそう考えていた。
さらにカガミノがハクトに呼びかけた。
「ハクト様、今のうちに神衣のコントロールを!」
「……ダメ……まだ……神光が……」
神衣から再び神光が吹き出した。
「ナムチ! 目を覚まして! FuckinWakeup!!!」
「……」
スクナの必死の呼びかけにも、ナムチが反応することは無かった。
「クッ!? ナムチ! ナムチ!」
ナムチを呼び続けるスクナの神衣の背後に、いつの間にか大きな影が現れていた。
「スクナ、後ろかしら!」
「……3分だ」
その声に後ろを振り返ったスクナが見たのは、マーガレットの神衣が鉄鎚を振りかぶって立っている姿だった。
「FuckinTooBad! スクナ、時間切れだよ」
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