第1章 目覚め
いよいよ神衣同士の戦闘が始まります。
「短小包茎のPeeweesは足も短いから、移動が遅いのかな?」
ナムチとスクナの操縦席に、マーガレットから挑発的な軍用の無線を使った通信が入った。
「くそBitch! 相変わらず嫌みったらしい物言いだな」
「ナムチ、あれでも少しはサービスしてくれているんじゃない」
ナムチとスクナも、マーガレットに聞かれていることを分かった上で、同じ無線を使って話した。
「ああ、わかっているよ、スクナ。わざわざ自分の得物を見せてくれているんだろ」
「あの巨大な鉄鎚と僕の刺突剣だと、切り結ぶのは厳しいかな。鉄鎚を受けたらひん曲がりそうだ」
無線通信で話すナムチとスクナに、無線を切った状態のカガミノが割って入った。
「スピードを生かして鉄鎚を掻い潜り、刺突を繰り返すHit&Awayが最適な戦闘かしら」
一方、何の武器も装備していないナムチは、操縦席で御霊のハクトに助言を求めた。
「ハクト、あのバカでかい鉄槌を相手に、素手でどう戦う?」
「うーん……どうしよう? ぶん殴るとか?」
「はあ!?」
ハクトからは有用な助言は貰えないようだった。
「さあPeewees! 作戦はちゃんと考えてきたんだろう? この鉄槌にぶっ潰されたくなかったら張り切って避けんだよ」
マーガレットはビルから飛び降りると、巨大な鉄槌を振りかぶって叫んだ。
「ReadyGo!」
マーガレットは神衣を一気に加速させてナムチたちとの距離を詰め、鉄槌を前に立っていたスクナに振り下ろした。
大型なマーガレットの神衣だったが、見た目に反してかなりのスピードだった。
「Deam!? 早い」
予想外の加速だったが、スクナは素早く神衣を後退させ、飛び下がるようにしてマーガレットの鉄槌を躱した。
スクナのすぐ後ろにいたナムチは、逆に鉄槌が打ち下ろされた瞬間を狙って反撃しようと前に飛び出した。
「そこだぁー!」
振り下ろしきった巨大な鉄鎚を、再び持ち上げるときに隙ができると考えたからだった。
しかし、マーガレットはナムチの狙いを読んでいた。
「甘いんだよ! DamnBoy!」
地面に打ちつけた鉄槌は大地を砕き、巻き上げられた石礫や砂塵が突っ込んできたナムチに飛んできた。
「Shit!」
石礫程度では神衣に大したダメージは無かったが、視界を遮られてナムチは攻撃のタイミングを逃してしまった。
「Fuck⁉ 前が見えねぇ! ハクト、マーガレットはどこだ?」
「目の前にいる! くるよ!?」
マーガレットは振り下ろした鉄槌を支点にして前にでると、横殴りにこちらの動きが見えていないナムチを強襲した。
攻撃の出鼻をくじかれて一瞬動きの止まったナムチの横っ面に、マーガレットの鉄鎚が飛んできた。
砂塵で視界をふさがれて鉄鎚が見えていなかったナムチは、回避の態勢に入ることができていなかった。
「ナムチ、左から鉄槌がくるよ」
先に鉄鎚に気がついたのはハクトだった。
「Shit! ハクト、後ろに避けろ!」
ハクトの警告にナムチが焦って神衣を後退させようとしたが、バランスを崩してたまらず地面に座り込んだ。
BaGyuuuunnnn!?
ナムチの頭上ギリギリを鉄鎚が擦るようにして抜けて行った。
「ハハッ! 情けないね、ナムチ。大口を叩くわりに全然じゃないか」
無様に尻餅をついて倒れているナムチを見て、鉄槌をくるりと回して肩に担いだマーガレットが嘲笑を浴びせた。
「ケッ! まだまだ、これからだろ?」
尻餅を着いたまま減らず口を叩くナムチを見たマーガレットは、心底嫌そうな顔をした。
「自分のおかれた現状も理解できず、減らず口を叩くクソガキが。 お前はもう死んでいいよ」
マーガレットは、倒れているナムチの神衣の頭部をめがけて。巨大な鉄槌を大きく振りかぶって打ち下ろした。
「ナムチ、避けろ!」
一旦、マーガレットの攻撃を避けるため距離を取っていたスクナが、神衣を急発進させて刺突剣で鋭い突きを打ち込んだ。
しかし、マーガレットはスクナの攻撃など無視して、ナムチの頭部にめがけて巨大な鉄鎚を振り下ろした。
「アマツマーラ」
マーガレットが祝詞を唱えて打ち下ろした鉄槌には神光も込められており、激突すれば神衣の頭部を叩き潰して、操縦席にいるナムチも潰す勢いだった。
尻餅を突いた状態のナムチには避ける術が無かった。
「ナムチ、避けられない! 鉄鎚を防御して!!!」
ハクトが必死に叫んで操縦席のナムチに指示した。
巨大な鉄鎚が頭部に迫る中、ナムチは生まれて初めて死を覚悟した。
そして死の恐怖から、身体がすくんで動くことができなくなっていた。
俺はこのまま頭を潰されて死ぬのか……何も成さず、何も残さず、何も知らず……
(それでいいのか?)
ナムチの心の中で何者かが語り掛けてきた。
「嫌だ。嫌に決まっている」
(では、どうする? お前にはもう何もできない)
「じゃあ、お前なら何かできるのか?」
(お前が望むならば)
「俺は……俺はまだ死にたくない! もっと生きたい!」
記憶もなく、神衣主になるという目的だけを与えられたナムチは、死を目前にして、初めて心の底から「生きたい」という命への執着に目覚めた。
「ナムチ、早く防御を! もうダメ!?」
我に返ったナムチの耳に、ハクトの悲鳴に近い警告の叫びが聞こえた。
(ならば唱えよ)
「かくりょのおおかみ あわれみたまえ めぐみたまえ さきみたま くしみたま まもりたまえ さきはえたまえ」
祝詞を唱えながら、ナムチは尻餅をついていた神衣を背部の推進力を爆発させて正面に浮飛び出させると、その勢いのまま向かってくる鉄鎚に両手を掲げて突っ込んだ。
その両手は真っ赤に光り輝く神光を纏っていた。
GyaShaaaaahhhhhnnn!?
鉄槌と両手がぶつかった衝撃で、ナムチの神衣は押し戻され、両足が地面に減り込んだ。
だが、神光を発して燃え上がったナムチの神衣の両手は、シュウシュウと音を立てながら、マーガレットの鉄鎚に打ち砕かれることなくしっかりと受け止めていた。
「アハハ! あたしの渾身の一撃を素手で受け止めるか?」
マーガレットは操縦席で凶暴な笑い顔を見せながら叫んだ。
「ナムチから離れろ!」
神衣を急発進させていたスクナが、マーガレットの背後から刺突刀を突き立てた。
マーガレットはスクナの刺突剣を飛び上がって余裕で躱すと、ひらりと地面に降り立ち、鉄鎚を神衣の肩に担ぐように戻して言った。
「なかなかやるじゃないか、ナムチ!」
「……あの神衣の掌から発する神光が、鉄鎚を押し返した?」
「あいつの神光の出力があたしを上回ったっことかい?」
マーガレットもマヒトツネも、なぜ鉄鎚がナムチに押さえ込まれたのかはっきりわからないようだった。
ヤマトの歴史の中で、神衣同士での戦闘はこれまでにほとんどなかった。
神衣が発する神光と神光がぶつかったとき、何が起こるのかもよくわかっていなかった。
「あたしはそこまで神光を込めたつもりはなかったけど?」
「……だから向こうの神光に押し返されたのかも」
マーガレットとマヒトツネが、先ほどの状況を確認しあっていると、スクナから無線による通信が入った。
「マーガレット師団長、これは訓練なんですよね? 今、本気でナムチを殺そうとしてませんでしたか?」
「うん、もちろん訓練だよ」
「ですよね。ならば少し加減を……」
スクナがマーガレットに「やりすぎ」だと抗議しようとすると、それを遮ってマーガレットが答えた。
「でも、訓練で死んじゃうような神衣主なら、戦場でも生き残れないでしょう?」
「そんな!?」
「この訓練は生き残ったら合格だよ」
「それは訓練ではないしょう!?」
スクナは、命がけの訓練などありえないと、マーガレットにさらに抗議しようとした。
しかし、ナムチがそれを遮って答えた。
「おもしれえじゃん」
そう言ってマーガレットの正面に立ったナムチの神衣の両拳は、燃えさかる炎のように真っ赤に輝いていた。
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