第1章 実戦訓練へ
ナムチとスクナも既にそれぞれの神衣に乗り込み、共に飛行しながら哨戒ポイント①を目指していた。
操縦席のナムチはハクトに話しかけた。
「ハクト、祝詞のこと色々と考えてみたんだけど、やっぱりわからなかったよ」
「ふーん……ナムチなりに色々と考えてみたわけね?」
「考えるより感じたほうがいいって言ってだけど、結局、何も感じないかったし……」
「ナムチは考えたり感じたりする前に、勝手に動いちゃう、お馬鹿さんだしね」
ハクトから馬鹿にされると、普段なら直ぐに怒り出すナムチだったが、今回は珍しく反論することも無く素直に認めた。
「確かに……だから、俺の祝詞は事前に唱えるようなものではないと思うんだ」
いつに無く真剣な様子のナムチに、ハクトも巫山戯るのはやめて真面目に応えることにした。
「ひとつでも気づけたなら、それは進歩じゃない」
「多分、俺の祝詞は神光を出す直前に唱えるタイプなんだと思う。これまでも照射の瞬間に叫んでたし……」
「八咫鏡は掌にあるんだから、打ち込んで爆発させる可能性もあるわよ」
「神光を打ち込んで爆発させるか……」
「ナムチの戦闘スタイルならそっちが近いかもね」
哨戒ポイント①へ移動しながらナムチとハクトが話をしていると、スクナから有線通信による連絡が入った。
「ナムチ、哨戒ポイント①に到着する前に打ち合わせをしよう」
「わかった。スクナ」
ナムチたちは哨戒ポイント①の1キロほど手前で、神衣を一旦地上に降ろした。
ナムチとスクナは神衣から降りずに、ハクトとカガミノにも聞こえるように、有線通信でお互いの神衣を繋いで打ち合わせを始めた。
「到着次第、すぐに訓練ってことは、マーガレット師団長は僕たちを見つけた瞬間に攻撃を仕掛けてくると思うんだ」
「じゃあ、こっちも見つけた瞬間にブン殴ればいいんだな」
「……」
「違うの?」
ナムチはいつものように何も考えていなかった。
一瞬の沈黙のあと、気を取り直してスクナが打ち合わせを続けた。
「続けよう。カガミノのデータベースにはマヒトツネについての記録はほとんどなかった」
「父親である錬金術師のビスマルク様から譲り受けた神衣ということぐらいしかわからないかしら」
「残念ながら性能や装備についてはよくわからない。ハクトは何か知らないか?」
スクナたちからの通信を聞いていたはずのハクトは、何故か返事をしなかった。
「……ハクト様?」
心配になったカガミノがハクトに声をかけた。
「あぁ、ごめんなさいカガミノ、大丈夫よ。ちょっと思い出そうとしていただけ」
「そうですか、良かったのです」
カガミノが安心したように返事をした。
「思い出すって何か知ってるのか?」
ナムチがハクトに尋ねた。
「マヒトツネなんて名前じゃなかったと思うけど、ビスマルクの神衣なら、何となく覚えがあるわ」
「おぉ! さすがハクト、伊達に年食ってるおばちゃんじゃないな」
「はあぁーっ!? 誰がおばちゃんだぁ!?」
通信を通しても伝わるほどの、ハクトの苛ついた怒声が操縦席に響いた。
「あれっ? 俺なんかマズイこと言った?」
なぜハクトが怒っているのか、ナムチは全く理解していなかった。
「ななっナムチ、なんてことを言うの!? ハクト様は年齢に比べてまだまだお若いかしら!」
「カガミノ、それフォローになってないよ」
「えぇっそんな!?」
カガミノのがナムチを叱り飛ばして、ハクトをフォローしようとしたが、火に油を注ぐ発言だった。
「……アンタたちが私のことをどう思っているかよくわかったわ」
「いや、僕は何も……」
「Shutup! スクナ、あんたも同罪よ」
「えぇっ!?」
スクナは怒り心頭のハクトをなんとか宥めようと声をかけた。
「ナムチは馬鹿だから、おばちゃんの意味を分からずに言ってるんじゃないかな」
「いや、おばちゃんの意味は知って……
「Shutup、馬鹿ナムチ! 少しは空気を読むかしら?」
「えぇっ! 馬鹿馬鹿ってちょっと言い過ぎじゃない?」
スクナとカガミノの言葉にナムチが凹んで涙目になっていた。
「もうっ! その話は後でいいわ! あたしの知ってることを教えてあげるから良く聞きなさい。あれは……」
ハクトは怒りながらも、思い出したビスマルクの神衣の特徴を3人に教えた。
哨戒ポイント①は、イズモエリアで旧淀川の河川が国境となっている、かつてコトシロが苔むしたヨモツと遭遇した地点だった。
オオヒルメの塔から届く神光の有効範囲ギリギリの地点で、人は誰も住んでいないエリアだった。
神衣としては珍しいモノアイの頭部に褐色の装甲をもった大型の機体が、巨大な鉄鎚を肩に乗せて、かつて淀川大橋と呼ばれた巨大な橋の残骸に腰かけていた。
「短小包茎のPeeweesは、足も短いから移動が遅いのかな?」
マーガレットが待ち草臥れたとばかりに、ナムチたちに声をかけてきた。
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