第1章 キューちゃん
ナムチとスクナは、マーガレット師団長に命じられた通り一○○○(ヒトマルマルマル)時、つまり午前10時に神衣の格納庫に来ていた。
なぜか、そこには哨戒任務に当たるはずのコトシロとミナカタも待っていた。
「マーガレット師団長がぁ〜Kidsたちを直接調教、じゃなかった訓練するっていうからぁ~見学にきたぜぇ~」
コトシロはこの状況を面白がっているのか、普段の怠そうな雰囲気とは打って変わって楽しそうにしていた。
ミナカタもコトシロほどではないが、興味津々な様子を隠すことはなかった。
「あたしらもマーガレット師団長が、本意気で戦う姿は、ほとんど見たことないんだよね」
ナムチとスクナが配属してくるまで、哨戒任務はコトシロとミナカタのチームと、マーガレットの2班体制で行っていた。
その上、ナムチたちが配属されてくるまで、ヨモツが出現したことは2回しか無かったので、マーガレットが戦っているところを、コトシロもミナカタも一度も見たことが無かった。
「マーガレット師団長って師団のトップでしょ? 実際に戦闘するの?」
「イズモだけじゃなく、ヤマシロ、オウミ、カワチ師団もトップは神衣主よ。いずれも相当強いっていう話だけどね」
「へぇ〜そうなんだ」
ナムチとミナカタがそんな話をしていると、マーガレットが長身でスタイル抜群の女性を従えてやってきた。
マーガレットも180センチを超えており、女性では長身の部類に入るが、隣に立つ女性はさらに背が高かった。
そして特徴的だったのは、マーガレットとは反対側の右眼に、物語の海賊がつける様な黒い眼帯をつけていた。
マーガレットはナムチたちが集まっているのを見ると、満足気に笑みを浮かべた。
「ちゃんと揃っているようだね。感心感心」
「「「「おはようございます」」」」
ナムチ、スクナ、コトシロ、ミナカタの4人は、マーガレットの前に整列すると、声を揃えて挨拶した。
「朝から元気がいいね。 あたしはもうちょっと寝たかったよ」
「….…集合時間を決めたのはペギー」
「そうだっけ?」
マーガレットは敬礼を受けながら、隣の眼帯美女と親しげに話していた。
隣の美女に興味津々だったナムチが質問した。
「はいっはいっ! マーガレット師団長、お隣さんは誰ですか?」
「あぁ、お前らは会うの初めてか?」
「「はい」」
ナムチとスクナが同時に頷いた。
「んーとっ……じゃあ自己紹介して!」
「……面倒くさい」
「えぇーっ! あたしが紹介すんの? 面倒くさいんだけど」
「……じゃあしなければ良い」
「それじゃあこの子たちが困るでしょ」
「……私は別に困らない」
「いやいや、そういうことじゃないし」
「……じゃあ、どういうこと?」
急に言い合いを始めたマーガレットと謎の眼帯美人に、ナムチとスクナは驚いていた。
2人を放置したまま話し続けるマーガレットたちを見かねたミナカタが、ナムチにこっそりと耳打ちをした。
「あの人はマーガレット師団長の神衣の御霊マヒトツネさんよ。 あんまり姿を見せないんだけど、マーガレット師団長と現れるときはいつもあんな感じね」
「へぇ〜仲良いんだな」
結局、マーガレットとマヒトツネはじゃんけんで、どちらが紹介するか決めることにしたようだった。
「はい、じゃんけんぽん! あいこでしょ!」
負けたマーガレットが面倒くさそうにマヒトツネを紹介することになった。
「はぁ……こいつはあたしの神衣の御霊でマヒトツネだ。 綽名はキューちゃんだから、呼ぶときはキューちゃんって呼んでやって」
「はーい! よろしくキューちゃん」
ナムチがマーガレット紹介を聞いて、早速マヒトツネに話かけた。
「……私はキューちゃんでもキュウリでもないので、呼ばれても返事はしません」
マヒトツネはナムチに目を向けることもなく言い放つと、プイッとそっぽを向いた。
「へっ!?」
マヒトツネから冷たい態度をとられたナムチが驚いてマーガレットを見た。
するとマーガレットは、再びマヒトツネと言い合いを始めた。
「この!? キューちゃんでいいだろ! 親しみやすいし」
「……別に親しくしてほしいとは思ってない」
「そういうこと言わない!?」
「……どうして?」
「どうしても!」
再び始まった口喧嘩で一向に話が進まないことから、スクナが思わず声をかけた。
「マーガレット師団長、そろそろ訓練をお願いします」
「あぁ!? そうだったな、時間ももったいないしな」
あんたたちの話が長いからだろう、とマーガレット以外は全員が思っていたが、声に出してツッコミを入れる人はいなかった。
「では、第1種戦闘体制の装備にて各自、神衣に搭乗、哨戒ポイント①で実戦形式の戦闘訓練を行う。 コトシロ、ミナカタも見学したいなら付いてきな」
コトシロとミナカタはお互いに顔を合わせ、ニヤリと笑うと答えた。
「「Yes,Mom!」」
「実戦形式って本意気か……」
その隣でナムチが驚いた様子で呟いた。
スクナも緊張した面持ちでマーガレットを見ていた。
「哨戒ポイント①に到着次第、すぐに訓練に入るからな! そのつもりで準備して来いよ」
マーガレットは不敵な笑い顔を浮かべて、マヒトツネを引き連れて去っていった。
ナムチとスクナも覚悟を決めて、それぞれ自らの神衣に乗り込むため散っていった。
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