第1勝 最終試験④
新キャラ登場!
金髪美少女イヴァの相方となる御霊です
ナムチとハクトの誓約で、動くはずのない神衣が突然動き出したことで、最終試験は想定外の混乱状態となっていた。
そんな中、ヤソガミの呼びかけに全く反応しなかった最も大きな神衣の前に、試験を受ける最後の訓練生、金髪碧眼の美少女・イヴァが立っていた。
「私はイヴァ、Getup!LazyBomb」
「……うーん……なんだ? 五月蝿い小娘が俺を起こすのか?」
姿は見えなかったが、神衣から女性にしてはやや低い、だが男性にしてはやや高い、不思議な声が応えた。
「私はイヴァよ!小娘じゃないわ」
「小娘よ……その見目形……外からきた者か?」
イヴァの名乗りを聞いていないのか、敢えて無視しているのか、不思議な声は再び尋ねた。
「違うわ! 私はヤマトの人間よ!」
「お前が? どう見ても大和人とは姿形が違うだろう……」
「ヤマトの人間に姿や形は関係ないわ!」
見た目の違いを指摘してくる声を相手にしながら、イヴァはかつて父ナカトミ・オミマロから言われたことを思い出していた。
生まれたばかりのイヴァはオオヒルメの塔の入り口に捨てられていたという。
ヤマト国民でも選ばれた貴族しか近づくことが許されないオオヒルメの塔の入り口に、産まれたばかりの、それも金髪碧眼の赤子が捨てられていたため、警備兵はどう対応すべきか判断に困っていた。
「一体、何事だ?」
「ナカトミ様!?」
偶々通りかかった神祇伯ナカトミ・オミマロが、事情を聞くと、自ら引き取ると申し出た。
家族のいなかったナカトミ・オミマロは、旧時代の伝説にあった最初の女性の名前から赤子をイヴァと名付け、オオヒルメの塔にある自室で、慣れない子育てに苦労しながらも慈しんで育てた。
「お父様、私はヤマトの人間じゃないの?」
「なんでそんなことを言うんだい」
物心ついたころ、イヴァは悲しげにナカトミに聞いてきた。
「男の子たちが、私は髪も金色で目も碧いから、異人だ、ヤマトの民じゃないって言うの」
「そうだね。確かにイヴァは私と目の色も違うし、髪の色も違うね」
「えっ!?」
父親から「そんなことないよ」と言って貰えると思っていたイヴァは、ショックを受けて泣き出してしまった。
オミマロはイヴァが突然泣き出したので驚いて言った。
「なぜ泣くんだい? 人は皆んな違うものだよ。 同じ人なんていないんだ」
「ぐすん…そうなのっ…わっ私だけ違うから……ぐすっ……ヤマトの人間ぢゃっ……ないっ……の……うぅっ……」
オミマロはしゃがみ込んで、泣いているイヴァの両頬を両手で包み込んだ。
「イヴァ、見た目がどれだけ違っていても、皆んな同じヤマトの人間だよ。 確かにヤマトには黒い髪で茶色や黒い瞳の人が多いけど、イヴァと同じ金色の髪の人や、茶色の髪の人、黒い肌の人もいる。 皆んな同じ人間だし、ヤマトの仲間たちだよ」
「そ、そうなの?……えぐっ……」
「私がイヴァに嘘をついたことがあったかい?」
「ううん!ぐすっぐすん……ないわ」
首を振って両手を振り解いたイヴァは、手で涙を拭うとナカトミの首に抱きついた。
オミマロは優しく微笑むとイヴァの頭を優しく撫でた。
「これからも同じように、イヴァにヤマトの国民、じゃないと言ってくる人がいるかもしれない。そんなときには私の言葉を思い出すんだよ」
「お父様?」
「イヴァ、私の愛する娘。髪も肌も瞳の色も、そんなものの違いは、同じ人間であることに変わりはないんだ。だからここで生まれ育ったイヴァは、私と同じヤマトの人間なんだよ」
「わかったわ、お父様」
「イヴァはいい子だね」
オミマロはイヴァを優しく抱きしめた。
イヴァは幼き日に聞いた、父ナカトミ・オミマロの言葉を心から信じていた。
だからもう一度、神衣に向かって静かに宣言した。
「私はナカトミ・イヴァ、金髪碧眼のヤマトの人間よ」
イヴァの呼びかけによって、神衣の中で十数年ぶりに目覚めた御霊は、「ヤマトの人間に姿形は関係ない」という言葉に興味をそそられていた。
「FuckinFunny! なかなか面白いことを言うな」
「別に面白くもなんともないわ。 ただの事実です」
「あれだけ血にこだわっていたのが、俺が寝ている間にそういうことになったのか」
「20年前にヤマトが建国されたときから、ここの国で生まれた者は皆んなヤマトの人間です」
「ふん! たった20年で……変われば変わるものだな」
GonkGonkGonkGonkGonk……
重い駆動音を響かせて、これまで全く動かなかった神衣がゆっくりと動き出した。
立ち上がるとその大きさがさらに際立つ。
周囲にある神衣の平均的な大きさはおよそ7メートル程度だが、イヴァの前で立ち上がった神衣はその倍近くの巨軀を持ち、フロアの天井に頭が届かんばかりだった。
「なんて、すごい大きさ……」
「ビビッたのか? FuckinChinkenOut?」
思わず呟いたイヴァに応えたのは、神衣の前に姿を現したのは、喪服のように真っ黒な着物を纏った麗人だった。
身長は180センチを超えており、黒髪で真っ黒な瞳の美しい顔立ちで、男性なのか女性なのか見た目では判断できなかった。
「驚いただけ。 別に恐れてはいないわ」
イヴァは長身の麗人を睨みつけるように見て言った。
長身の麗人はイヴァに近づくと、右手で顎を掴み顔を覗き込んだ。
「碧い瞳とは綺麗なもんだな」
「なっ!?」
顔を赤くしたイヴァは、驚いて手を振り払った。
「いきなり何を! 失礼でしょう」
「そうか? そりゃ悪かったな」
言葉とは裏腹に、長身の麗人は全く悪びれた様子を見せず、ニヤニヤと笑いながら言った。
「巫山戯た人ですね」
「アハハ! よく言われるよ」
「そうやっていつも人を馬鹿にした態度をとるんですか?」
「フフッ……そうかもな、LittleGirl」
苛立ちを抑えて努めて冷静に話そうとするイヴァとは対照的に、長身の麗人は人を揶揄うような態度のまま言った。
「あなたは御霊なのでしょう? 私は名前を告げました。 あなたも名前を教えてください」
「名前ね……その前に聞きたいことがある」
「なんでしょう」
「お前は神衣主になって何がしたいんだ?」
「何がしたい……?」
14歳になり、適性検査で神衣主になる可能性があることがわかったとき、イヴァは自ら強く希望して訓練生となった。
父のナカトミ・オミマロはイヴァから神衣主の訓練生になると聞いたとき、「イヴァがやりたいことを頑張りなさい」と特に止めることはなかった。
イヴァは血のつながりはなかったが、ヤマトで帝を補佐する神祇伯ナカトミ・オミマロに娘として育てられ、その美貌と才能も相まって、周囲からは、本人や父親の考えはさておき、安全なオオヒルメの塔で父親の元で働くと思われていた。
すでに高い身分にあるイヴァには、厳しい訓練を受けて、わざわざ危険な神衣主になる必要もなかった。
口さがない者は、神衣主という名誉さえ得られれば、最終試練に合格してもイヴァは戦場には出ないと噂していた。
なぜ、イヴァは地獄のような訓練を耐えてまで、神衣主になろうとしたのか、その答えを長身の麗人の黒い瞳をしっかりと見つめて言った。
「私は父の、私の愛するヤマトを、ヤマトの人たちをヨモツから守るわ」
「金髪碧眼のお前をヤマトの人間だと認めない奴らもか?」
何を知っているのか、権力者である神祇伯の養女とはいえ、その見た目から大小様々な嫌がらせを受けてきた、イヴァの心を試すように聞いた。
イヴァは昔の差別を受けて悲しかった出来事を思い出したが、その記憶には、常に悲しみを打ち消す父オミマロの笑顔があった。
「認めないなら、私が力ずくで認めさせるわ!」
イヴァは長身の麗人を睨みつけて、大きな声ではっきりと言い切った。
長身の麗人は目を見開き、驚いた様子で一瞬押し黙った。そして……
「フハハハハーッ! 金髪碧眼の小娘が、自分を認めぬヤマトの民を力ずくで認めさせると言うのか?」
とても楽しげに大声で笑い出した。
「何が可笑しいの? 私はヤマトで生まれ育って、この国を、人々を愛しているわ! 認めたくない奴らにだって認めさせるだけよ!」
イヴァは当たり前のことを言っているのに笑われて、すこしムッとして応えた。
「ふんっ! お前がどれだけ愛しても、相手も同じように愛してくれるとは限らんがな……まぁ良いわ」
イヴァの言い様を気にする様子も見せずにつぶやくと、顔に精悍な笑いを浮かべてこう言った。
「気に入ったぞ、小娘! 俺はヒルコだ」
イヴァはそんなヒルコを見返すと、臆することなくこう言った。
「ヒルコ、私はあなたがまだよくわからないけれど、嫌いではないわ。 それと私は小娘じゃないわ、イヴァよ」
「ふんっ! 生意気な小娘が」
「だからイヴァよ!」
「あぁー五月蝿い、わかったわかった、イブだな」
「違うわ、イヴァ!」
「何が違う? イブだろう?」
「イヴァ! よく聞いて、イヴァよ!」
「Damn! イ、イヴ、ヴァ? これでいいか?」
「まだちょっとおかしいけど、今日はそれでいいわ。練習しなさい」
ヒルコは自分に偉そうに練習しろと言ってきた小娘イヴァに驚きながら、毅然とした態度を好ましく思っていた。
「ぷっアハハハハっ! 生意気な小娘、いやイヴア、気に入ったぞ! アハハハハ」
立ち上がった巨大な神衣の真っ黒な巨軀が薄らと光り輝いていた。
御霊ヒルコがイヴァを神衣主として認め、誓約を交わしたのだった。
神衣主になったことに気がづいていないのか、イヴァは「お話ができない」と笑い続けるヒルコを困った様子で見ていた。
「何がそんなに可笑しいの? 変な人ね」
この日、新たに3人の神衣主が誕生した。
ちょっと仕事がバタバタで、休みも色々あった更新遅くなりました。
書き足してたら、半分くらい書き下ろしになってしまった!?
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