第1章 最終試験③
黒髪で白い肌、真っ赤な瞳の美女ハクトさんが久しぶりに登場です!
カガミノと誓約を交わし、神衣主となったスクナは、早速、神衣に乗り込んだ。
神衣の操縦席はシンプルだった。
座席の左右に球体のような操縦桿があり、神衣主はそれを握って思念を飛ばして、思ったように神衣を動かすことができた。
視界は神衣と共有されるが、通常は見えないところも、御霊の補助で知覚することができた。
しかし、自在に動かせるようになるには、慣れが必要だった。
「スクナ、乗り心地はどうかしら?」
「うーん……何だか不思議な感覚だね。自分の体が自分のものじゃないような」
「みんな最初はそんな感じらしいわ。しばらくすれば慣れるかしら」
「心配してくれるの?ありがとう」
「べべ別に心配なんてしてないわよ!ふんっ」
スクナはふらふらとしていたが、なんとか神衣を動かして、ナムチたちがいる入り口付近まで移動することができた。
足元には近くまでやってきたナムチとイヴァが、物珍しそうにスクナの乗った神衣を見上げていた。
「FuckinCool!スクナ、すげぇーな」
「こんなに間近で動く神衣を見たのは初めてだわ」
「イヴァは神衣見たことあるの?」
「ええ、小さい頃に帝ホノ・ニニギ様の式典で、お父様と遠くから金色に輝く神衣を見たことがあるわ」
「金色に輝いてんの! すっげぇな」
ナムチとイヴァは神衣の話しで盛り上がっていた。
ヤマト建国から20年が過ぎ、国内ではほとんどヨモツとの戦闘が無くなったため、特にヤマト中央では動く神衣を見ることはあまり無くなっていた。
「しかし、この地下にあるフロアからどうやって外に出るんだ?」
ナムチが神衣を見ながら、素朴な疑問を口にした。
「確かに僕たちが降りてきた階段は、いくら小さいとはいえこの神衣で上るのは無理だね」
ナムチの声を聞いたスクナも神衣の中で呟いた。
「カガミノは出口わかる?」
「さあ、知らないかしら」
そもそもどうやって神衣をここに運んできたのだろう、入り口の巨大な扉でフロアから出入りすることはできるが、重機などを使って運び込むには狭すぎるのではないか、スクナがそんなことを考えていると、教官が声をかけてきた。
「スクナ、合格おめでとう。残りの試験が終わるまで、ここでしばらく待機してくれ。神衣専用の出口は別にあるから心配するな」
「なんだ、建物壊して出なきゃいけないのかと思ったよ」
ナムチが教官の話を聞いてに物騒なことを言い出した。
教官はニヤリと笑ってナムチを見た。
「ほう? 大した自信だな、ナムチ」
「えっ!? 何が?」
「神衣主にならなきゃ、建物は壊せないぞ」
「そりゃ俺は神衣主になるからな」
ナムチは満面の笑みを浮かべて、自信満々に言った。
「では、次は自信満々のナムチに行ってもらおう」
「OhYea! 待ちくたびれたぜ」
教官はそんなナムチを一瞥するとこう言った。
「貴様くらい勉強ができなくても、神衣主になるチャンスはあるかもしれんしな」
「WhatZ!? 勉強出来ないとなれないの」
「さっさと行ってこい!」
急に不安になったナムチに、教官は怒声を浴びせて送り出した。
「なんだよ。 そっちが勉強とか言ってきたんだろ……」
ナムチはぶつぶつと文句を言いながら、神衣たちが立ち並ぶフロアに足を踏み入れた。
ナムチは十数体ある神衣を、近い順から1体ずつ確かめるように見ながら、何か一言二言語りかけていた。
「よっ! 元気してる?」
「その服、可愛いね」
スクナには、ナムチが声をかける度に神衣が薄らと輝いているように見えた。
「なんで光ってるんだ……」
「久しぶりに声をかけて貰って、御霊たちが喜んでるかしら」
「御霊が喜んでる?ナムチにはあそこにいる神衣たちの御霊が見えているの?」
「……ちょっと特別なのかしら、あの方は….…」
「特別?」
「……」
カガミノはそれ以上何も応えてくれなかった。
ナムチはこのフロアで最も大きい、ヤソガミが最初に声をかけた神衣の前にやってきた。
しかし、他の神衣のように、ナムチ気さくに声をかけることはせずに、ちょっと小首を傾げた。
「あれ?なんか怒ってるのか?」
「……」
巨大な神衣は他の神衣のように薄らと輝くこともなく沈黙したままだった。
「うーん……おーい! 出てこーい!」
ナムチは納得いかない様子でさらに話しかけたが、全くなんの反応もなかった。
ナムチは仕方なく諦めて次の神衣に向かった。
結局ナムチは、すべての神衣に一言ずつ挨拶をしてまわり、最後にフロアの最も奥に鎮座していた、古びた傷だらけの神衣の前に立った。
カガミノが後ろに隠れるようにしていた神衣だった。
ナムチは神衣の顔をしばらくジッと見つめると、笑顔を見せて語り掛けた。
「お前寝てるのか? 起きろよ! FuckinWakeUp!」
すると、傷だらけの神衣はその声に応えるように一瞬その身を震わした。
そしてゆっくりと立ち上がると、古く黒ずんだ傷だらけの装甲がパラパラと落ちていった。
立ち上がった神衣は、古い装甲が剥がれ落ち真っ白く輝いていた。
「なんだこれ!? FuckinCool!」
ナムチが光り輝く神衣を見上げて感嘆の声を上げた。
「それは、どうもありがとう。 ThanksBoy」
その声のする方を見ると、神々しく光る神衣の足元に、漆黒の黒髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ妙齢の美しい女性が立っていた。
女性は巫女のような質素な白い装束を纏っていたが、神々しいばかりの美しさを放っていた。
その姿を見たスクナや教官が、思わず息をのむほどだった。
そんな周囲の反応を気にするそぶりも見せず、女性はゆったりとした足取りでナムチの前にやってきた。
「LittleBoy、お前の名前は?」
美しく声でナムチに聞いた。
「俺はナムチだ。 お前も神衣と同じくらいFuckinCoolだな」
ナムチは美しい女性に全く臆することもなく、屈託なくニッコリと笑って名前を告げた。
女性はナムチの名前を聞くと、一瞬、何か驚いた様子を見せた。
「ナ・ムチとは面白い名前」
「そうなのか?お前の名前も教えてくれよ」
ナムチは女性の指摘を特に気にした様子もなく、名前を尋ねた。
「そうね……私は……」
女性はそう言うとき、後ろにある真っ白な神衣を見て何か考えるような素振りを見せた。
そして何かを思いついたように答えた。
「ハクト……そうハクトよ」
「ハクトか! 名前もCoolだな! よろしく、ハクト」
お互いに名前を告げたことで、御霊ハクトとナムチの誓約はあっさりと完了した。
ハクトの後ろに佇む光る神衣が、喜びを表すようにさらに眩しく輝いた。
「……様……おめでとうございます……」
カガミノが感極まった様子でつぶやいた。
「カガミノ?」
「なんでもないかしら!」
スクナが驚いて尋ねたが、カガミノは怒ったように言うと黙ってしまった。
すると、フロアに置かれていた、まだ主の決まっていない動くはずのない神衣たちが、ゆっくりと動き出し、ナムチとハクトの方を向いて恭しく頭を下げた。
それはまるで、ナムチとハクトが誓約を交わしたことを祝福しているかのようだった。
「OhMyGod! こんなことは初めてだ! WhataFuckisGoinon!?」
動くはずのない神衣が動きだし、これまでに何度も最終試練に立ち会ってきた教官が、驚きの声を上げた。
神衣のほとんど全てがナムチとハクトに傅いている中、一体だけ全く動かずに沈黙したままの神衣があった。
それは、ナムチの問いかけを無視した漆黒の最も大きな神衣だった。
そして、巨大な神衣の前には、金髪碧眼の少女イヴァが立っていた。
仕事が忙しくて投稿が遅くなりました。
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