第1章 前夜
「今日で貴様らPeweesとPussyとの訓練は終わりとなる。 明日は待ちに待った最終試験だ。 各自、0900(マルキューマルマル)にオオヒルメの塔の正門に集合しろ。 解散」
過酷な訓練は教官の一言で終わりを迎えた。
ここまで生き残った訓練生はたったの5人。
成績優秀、眉目秀麗を絵に描いたような金髪美少女・イヴァ。
美しさならイヴァにも負けていないといわれる冷静沈着で才色兼備の美少年・スクナ。
ただの脳筋プライド野郎かと思いきや、実は頭脳も
明晰だった貴族界のプリンス・ヤソガミ。
まさに天才と馬鹿は紙一重か、傍若無人の天然素材・ナムチ。
そして最後は、こいつは泣いてからが怖いタイプとナムチに言わしめた男、ただの腰巾着ではなかった男・フユヌキだった。
最終試験までは各々、自由に過ごすことが許された。
ヤソガミやフユヌキはさっさと寮を引き払って出て行った。
イヴァもナカトミ家からお迎えが来ていたようで、ナムチとスクナに「また明日」と伝えると、寮を後にした。
スクナにもカミムス家からお迎えが来たが「帰らない」と伝えて、ナムチと一緒に寮に残っていた。
2人だけで夕食を食べ終わると、ナムチとスクナは早目に就寝しようと部屋に戻ってきた。
「カミムスの家からお迎え来てたんだろう? 帰らなくていいのか」
「Fuckoff! あんな家には2度と帰らないよ」
スクナはそれが当然だろうと、今更、そんなことを聞くナムチを呆れ顔で見た。
「それならいいんだけどさ。 みんな帰って行くから、ちょっと気になっちゃって」
「変な気を使うなよ。 俺たちは2人で神衣主になるんだろう」
「そうだな!」
ナムチはそう言ってスクナに笑顔を見せた。
あすの最終試験に合格してもしなくても、2人がこの部屋に帰ってくることはもうない。
ナムチは少しそのことを寂しく思っていた。
ナムチはベッドに寝転んだ状態で、隣で寝ているスクナに話しかけた。
「起きてるんだろ?
」
「なんだよ、ナムチも寝れないの?」
ナムチの予想通り、スクナもまだ起きていた。
「なぁナムチ、僕たちは神衣主になれるのかな?」
「WhataFuck? なれるに決まってんだろ!」
「その割には眠れないみたいだけど! その自信はどこから?」
「自信? そんなもんねぇーよ」
「無いのかよ!?」
ナムチの無茶苦茶な話にスクナは思わず笑いだした。
「俺のことを笑ってるけど、お前は自信あるのか?」
「自信なんてそんなものがあったら、今頃ぐっすり寝ているよ」
「そりゃそうだな」
2人は顔を見合わせて笑いあった。
ひとしきり笑うと、ナムチは自分に言い聞かせるように言った。
「自信なんてねぇけど、俺は神衣主になる。 ならなきゃいけないんだ」
「そうか……」
スクナはナムチを見て、自分はやっぱりそこまで強く神衣主になりたいとは思ってないなと思っていた。
ナムチはスクナがそんな風に思っていることを知ってか知らずか、スクナの方に顔をむけると真剣な眼差しでこう言った。
「だからスクナも一緒になるんだ」
「なんでいつもそこで僕が出てくるの?」
「この1年、訓練生として一緒だったんだから、神衣主になってからも一緒だろ?」
「そんなことわからないでしょ?」
「いや! 俺にはわかるね!」
スクナはまたナムチが根拠のないことを言い出したと思った。
「だって俺はスクナと一緒に神衣主になるって約束したんだから」
「なんだそれ!?」
「約束は守るものだろう」
「ナムチ、普段から約束守ってたっけ」
「そういう約束とは違うんだって!」
スクナは「随分と都合の良い約束だね」と笑ったが、確かにあのときナムチと約束をしたから、ここまでやってこれたのかもしれないと思っていた。
「それに俺とスクナは一心同体だろ?」
「……男と一心同体なんて嫌なんだけど」
「そうか?」
「そりゃあそうだよ」
「うーん……俺はスクナなら悪くないかな?」
と言って、ナムチはじっとスクナを見つめた。
「ちょっとやめてくれ……寒気がしてくる」
本気で怯えた表情をみせたスクナを見ると、ナムチは「冗談に決まってるだろ」と笑った。
寮の同じ部屋で過ごす最後の夜、深夜まで馬鹿話を続けていた2人だったが、いつしか眠りについていた。
翌朝、ナムチとスクナは遅刻をすることもなく、最終試験が行われるオオヒルメの塔に来ていた。
文字通りヤマトの中心に聳え立つオオヒルメの塔は、帝ニニギが住まう場所であり、ヤマトを動かす政治、軍事など全ての中心でもあった。
最終試験の会場はオオヒルメの塔の地下にあった。
教官がカギのかかった巨大な扉を開くと、十数体の石像が無造作に立ち並んだ、大きなフロアが広がっていた。
「うひょーここが試験会場か。 広いなぁーFuckinCool」
「こら! 勝手に入るんじゃない!」
相変わらず緊張感のないナムチが、フロアの中に勝手に入ってウロウロと歩き回ろうとして、早速、教官に怒られていた。
教官に続いて中に入ったナムチ以外のスクナ、イヴァ、ヤソガミ、フユヌキは、流石に緊張した面持ちだった。
ナムチの首根っこを掴まえてスクナたちの列に戻すと、教官はいつも以上に厳しい顔をして宣言した。
「これより神衣主の最終試験を始める! お前たちPeeWeesとPussyは厳しい訓練に耐えてここまできた。 俺が教えることはもう何もない。 あとは選ばれるだけだ!」
選ばれるとは一体どういうことなのか、ナムチたちは教官の言葉を理解できず、怪訝な表情を浮かべた。
「教官、選ばれるとはどういう意味ですか?」
イヴァが戸惑っているナムチたちを尻目に、落ち着いた口調で教官に質問した。
「そのままの意味だ。 ここにある十数体の神衣の中で眠る御霊を目覚めさせ、誓約を交わすことができれば合格だ」
「それってここに並んでる石像が全て神衣ってことか」
「そうだ。 どの神衣と交渉するかは、自分たちで決めろ」
フロアに設置されている十数体の神衣は、大きさも形もそれぞれ違っていた。
どの神衣が自分を主としてくれるのか、訓練生たちは真剣な眼差しで石像を見つめた。
スクナもやや緊張した面持ちで、静かに眠っている神衣たちを観察していた。
「スクナ、いよいよだな!」
ナムチはいつものように、さほど緊張した様子もなく、楽しそうにスクナに声をかけた。
「ナムチ、君は緊張することはないのかい?」
「緊張っていうか、もうドキドキが止まらない感じかな」
遠足を前にした子どもみたいなものか、とスクナは緊張感のないナムチを少し羨ましく思った。
「どの神衣と交渉するのか、もうきめたのか」
「うーん、どの子でもいいんだけど、もうちょっと近くに行って決めようかな。 ここからじゃ顔も見えないし」
「神衣の顔が関係あるの?」
「あるよ! みんな女の子なんだから」
「女の子? ナムチに何を言って……」
スクナが聞き返そうとしたとき、教官が試験の開始を伝えた。
「では、始めよう」
教官は最初に試験に挑む訓練生を指名した。
「まず最初に試験に挑むのは、訓練生主席のヤソガミだ」
ヤソガミは自信満々の表情で前に出た。
いよいよ神衣主になるための最終試験が始まった。
冒頭の訓練生を紹介している部分は、ちょっと巫山戯過ぎたかな(^^;)
先日、総合格闘技をちょっとだけテレビで見て、昔のプロレスとかPRIDEの選手紹介を思い出して、そんなノリで書き足してしまった。
プロレスラーは無理だけど、リングアナウンサーになりたいと思ったことあったなぁー




