第1章 誓い
「ナムチ、僕の話を聞いてた?」
「Fuckoff! ちゃんと聞いてたよ」
ナムチは怒りを隠さず、ムスッしたまま言い放った。
スクナは怒っているナムチ見て、騙されていたことに腹を立てているのだと思い、罪悪感と自己嫌悪でいっぱいになって俯いた。
「僕は君を利用しようとしていたんだから、怒るのは当たり前だよね。許してもらえないとは思うけど……ごめん」
「まだ何もしてないのに、なんで謝るんだ?」
「Whatz?」
「思ってただけなんだから、まだ誰にも何にもしていないだろう」
スクナはナムチの言っていることが理解できず顔を上げた。
「ナムチ、君は何を……」
「だから、さっきから騙してた騙してたって言ってるけど、騙してないだろう? 俺も、他の訓練生も、スクナに助けられただけで、まだ何も悪いことはされてない」
「それはあとで利用しようとしただけで……」
「だったら利用しなきゃいいだろう」
「WhataFuckYoSay? 何をバカなことを」
「Don'tFuckwithMe! バカはお前だろ、スクナ。 しようと思ってた、だから悪い奴なんだ、なんだよそれ!? だったらやらなかったら良いだろう! やらなきゃ悪い奴でもなんでもないだろう!」
「ナムチ、それはただの屁理屈だ」
「屁理屈だって理屈のうちだよ! それに俺が怒っているのはそんなことじゃない」
ナムチはスクナの胸ぐら掴んで引き寄せ、顔がぶつからんばかりに近づいて睨みつけた。
「スクナ、お前が過去に何をしてたかなんて、知ったこっちゃないんだよ! ここでお前と会って数カ月、俺はずっとお前を見てきて知ってるんだ! お前が優しいイイ奴だって!」
「だからそれは演技だって言ってるだろう。 たった数カ月見ただけで何がわかるんだよ」
「FuckYo! 数カ月を馬鹿にするなよ。今の俺の人生の全てだぞ」
確かに記憶のないナムチにとって、訓練生として過ごした数カ月の日々が人生の全てだった。
「だいたい過去のことなんて捨てちまえよ! キサカのババアなんて好きでもないんだろ? それより俺と出会ってから過ごした時間の方が楽しかっただろう! だから自分の好きにしろよ! やりたくないことなんてするなよ!」
ナムチが怒っていたのは、スクナが過去に囚われ、起きてもいない未来を悲観して、自分と過ごしている今を見ていないからだった。
「俺は何もわからない状態で訓練生になって、色んな奴に声をかけたけど、迷惑そうにして誰も相手にしてくれなかった。 スクナ、お前だけなんだよ、俺の相手をしてくれたのは」
「だから、それは……」
「それだけじゃない! 寮で同室になったけど、お前だったら部屋を替えてもらうことも出来ただろ?」
確かに、名ばかりとは言え御巫のカミムス氏に連なるスクナが、氏素性のわからないナムチとの同室を拒否すれば、教官たちも無碍に断ることはできなかったかもしれない。
しかし、スクナはそれをしなかった。
「他の訓練生たちだってお前に助けてもらっただけで、別に騙されても利用されてもいないだろう?」
「それは結果的にそうなっただで……」
「結果が全てだろう! お前がどう思ってたかなんてわからないし知ったこっちゃないけど、スクナのお陰で助かったと思っている奴は俺だけじゃない」
「でも、本当の僕はそんな良いやつじゃない」
「だったら、良い奴になっちまえよ! お前自身も嫌いな自分じゃなくて、俺やみんなが思ってる良い奴に!」
「そんな簡単にできるわけないだろう」
「できるさ! この何ヶ月かできたんだからできるだろう?」
無茶苦茶なことを言ってくるナムチにスクナは絶句していた。
そんなスクナを無視してナムチは話を続けた。
「それになスクナ、嘘でも演技でも、困ってる奴に気がついたのはお前自身だろう? それはお前が本当は優しい奴だからなんだよ」
「そんなことは……」
「あるんだよ!」
ナムチはスクナの肩をがっちりと掴むと、しっかりと瞳を見て言った。
「もう過去に縛られて自分を偽るのはやめろよ」
「……」
「ここにはお前に何かを強制する奴は誰もいない。 スクナのしたいように好きにしていいんだ」
「僕の好きに?」
スクナはこれまでの人生で、いつも誰かを気にして流されるままに生きてきた。
自分のやりたいことなんて出来なかったし、やろうとしたことすらなかった。
「そんなこと許される訳ない」
「誰に?お前の人生だろ? 決めるのはいつだって自分自身だろ」
「だって、そんな……」
愕然として何も言えなくなって考え込んでいるスクナに近づくと、ナムチは平手で思いっきり肩を叩いた。
BaSheeN!!!
「痛っ!? WhataFuck!?」
突然叩かれて驚き怒ったスクナが見ると、ナムチは満面の笑みを浮かべていた。
「スクナ、そんなに考えるなって! 好きなことを好きにすれば良いんだよ」
「好きなことをする?」
「そうだ!例えば、好きなときに食べ、好きなときに寝て、好きなときに遊ぶ、なんて良いだろう?」
「それは訓練生には無理だろう?」
あまりにも真面目なスクナの返事に、思わずナムチは溜め息をついた。
「本当にスクナは真面目ちゃんだよ! TooFuckinSerious! やりたいことも分からないのか?」
「Don'tMakeMeFuckinFool! 馬鹿にするなよ」
ナムチに呆れ果てたように言われると、スクナは不機嫌に言い返した。
確かにカミムスの家には帰りたくなかったし、母親の元に戻るのも嫌だった。
しかし、だからといって好きなことをしろといきなり言われても、自分が何をしたいのかスクナにはさっぱり分からなかった。
「14年も記憶があるのに、結局、俺と変わらないんだな」
「ナムチ、それどういう意味?」
「前に俺が、偉そうなおっさんに「神衣主になれ」って言われたからなるんだって言ったら、スクナは馬鹿にしたじゃん」
確かにそんなこともあったなと、スクナはほんの数カ月前のことを思い出した。
「数カ月しか記憶のない俺も、14年の人生に振り回されているスクナも、どっちも自分でやりたいことを決められないんだから一緒だろう」
「……確かにそうかもしれない」
偉そうにナムチを笑えないな、自嘲気味にスクナが思っていると、ナムチは何かを思いついたようで、スクナを見ながらニヤニヤと笑い出した。
「なんだよ、そのUglyFuckinSmileは?」
「スクナ、俺、良いこと思いついたよ」
「……嫌な予感しかしないけど」
「俺はスクナと一緒に神衣主になるって決めた!」
「WhataFuckaYoTalkinaBout?何を勝手に!?」
「別にいいじゃん。他にやりたいことないんでしょう」
「確かにないけど…」
「だったらいいじゃん!決まり!決定!NoProblema!」
ナムチは「もう決めた」と言って、スクナが否定しても聞く耳を持たなかった。
表向き嫌がってはいたが、心のうちでは、スクナもそれも悪くないかなと思っていた。
長いあいだ話し込んでいたナムチとスクナが気がつくと、すでに朝と呼んでも差し支えない時間になっていた。
常にオオヒルメの塔に照らされているヤマトには、旧時代のように夜は来ないが、時間の概念は当たり前のように存在する。
「Omen……スクナさん、今日の訓練は?」
「本日の訓練予定は、午前中は走り込みと腕立て、腹筋、懸垂、スクワットのいつもの地獄メニューだよ」
「午後は?」
「えーと、旧市街地で模擬戦闘訓練だね、ナムチさん」
ナムチとスクナは顔を見合わせてニヤリと笑った。
「サボるならここですな、スクナさん」
「ですな、ナムチさん。班分けはどうせ僕ら2人になりますし」
徹夜明けの妙なテンションで一睡もせずに訓練に向かったナムチとスクナは、模擬戦中に廃屋で爆睡しているところをフユヌキに発見され、ヤソガミたちに強襲され雨霰と模擬弾を浴びせられた。
そのうえ、寝ていたことも教官に報告され、2人仲良く寮のトイレ掃除を2週間命じられた。
ちょっとした書き直しくらいでは話の整合性がつかなくなって、ついに今回は完全書き下ろしになってしまった。
しかし、これで次は書き溜めてた話に戻れるはず!
でも、ちょっと間話を挟みたい気もしてきた…
そうするとまた書き下ろしか!?
どうしようかな……仕事もあるしな……今夜、作業する元気あったらしようかな……
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