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殺人日誌、一人目

 私が人を殺すのは己の存在証明のためである。

 それ以外に理由はない。

 快楽や好奇、義務や責務という有象無象な因果も関係ない。

 私は私であるがゆえに、人を殺す。

 私が生きていると実感するために殺すのだ。


 ホームセンターで盗んだサバイバルナイフを、懐深くに隠しながら最初の殺人対象を探す。

 殺しやすい者を殺すのだ。殺すことが目的であるので、難易度を高くする必要性はない。

 しかし殺しやすい人間がどこもかしこも居すぎて、目が散ってしまった。


 誰もが自分は死なないと思っている。

 交通事故を怖れて道路を歩かない人間はいない。

 不慮の事故を免れるために外を出歩かない者もいない。


 私のような殺人鬼と遭遇することも想定していない。

 夜道に一人きりで歩けるのも、自分だけは死なないと思いあがっているからだ。


 それに対して怒りは湧かない。喜びも感じない。

 目的は殺人なのだ。余計な考えなど思い浮かぶ余地など無い。


 既に真夜中と言ってもいい時刻。

 ちょうど中年の酔っ払いが目の前を横切ったので、跡をつけることにした。

 殺すかどうかはまだ決めない。この男の自宅が近場にある可能性もなくは無かった。


 繁華街を歩いていた男は、不意に路地に入った。

 電柱にもたれて、げえげえ吐いている。

 相当飲んだのだろう。飲み代が無駄になるほどの量の吐瀉物。


 私はすうっと路地に入る。

 そして丸まっている男を無理矢理真っ直ぐに立たせて、頚動脈を素早くかき切った。


 どしゃりと噴き出た血の上に倒れる男。

 吐瀉物と血溜まりが混ざり合って、酷い臭いが周囲を包む。


 やれやれ。最初にしては手早く済んだが、この臭いはたまらないな。

 膀胱に尿がたまっていたらしく、失禁もしている。

 前後不覚になるまで飲み続けたのだから当然とも言える。


 私はサバイバルナイフを地面に投げ捨てる。指紋は付着していない。

 路地を出て酔っ払ったサラリーマンや非行少年の群れに紛れ込む。

 死体が発見させるまで、少々時間はかかるだろう。


 帰り道に誰もいない公園を訪れた。

 がらんとした空間。昼間はさぞ子供や主婦で賑わっていたのだろう。

 今は私だけの場所だった。


 初めての殺人を終えても、心拍数や呼吸の乱れはない。

 精神状態も平常と変わらない。

 ただそうであるかのように、変わらない。


 当然だ。私は人を殺すために生まれたのだから。

 人を殺すのが当たり前なのだ。


 もちろん、私は人間ではない。

 化け物――殺人鬼だ。

 そうであるように生まれただけの存在である。


 ベンチに腰掛けて空を見上げる。

 太陽の光を反射している満月が見えた。

 私の身体を照らしている。


 興奮もしなければ鎮静もしない。

 ただそうあるように、私は生きている。


 これからもっと殺そう。

 私の存在を人々に知らしめるために。

 それこそが証明となるのだ。


 ただ私は生きたかった。

 生き続けていたかった。

 それ以外にするべきことなどない。

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