第8話『原稿校正作業進行中&動画撮影中』
なろう作家『カレーちゃん』とは一体何者なのか? 属性が過積載されているもんぺ姿の金髪美少女はネットで様々な憶測を呼んだ。
カレーちゃん自身はあまりSNSを見ないしエゴサもしない。なんなら動画や小説の感想も放置したりしているのでさっぱり世間の噂にはついていけないのだが、密かにカレーちゃんの小説のPV数が上がったりする宣伝効果もあるようだった。(彼女はPV数を確認したことが無いが)
それはさておき、ドリルジンギスカンとドリルタンブラー、更にドリルカクテルシェーカーによる実演、宴によって気分も晴れた翌日。
朝は死んだように眠り、昼になってようやく起き出したカレーちゃんはひとまず朝食を取った。カップ麺のカレーうどんである。うどんは消化にいいしカレーは二日酔いに効く。
またカレーちゃんは吸血鬼である。血を吸って生気を得る生き物だ。血とは水分・タンパク質・脂質・塩分などが主に含まれていて、これらはカレーと成分が似通っているので吸血鬼はカレーを食べると元気になるのだ。
「ふぅー……たまには乙女の血が飲みたいのう」
嘘だ。実際は血よりもカレーの方が好きだった。
たまにはそういうスタンスを口に出して確認していないと、自分が吸血鬼だということを忘れそうになるのである。
忘れるとどうなるものではないが、これでも二十年に一度ぐらいは吸血鬼ハンターや退魔師に狙われることもあるので、忘れていると不意を打たれる。今どきはむしろマスコミか不老の研究者に狙われそうな気もしていたが。
「さて、意識もしゃんとしたし、小説の仕事じゃ」
カレーちゃんはパソコンを起ち上げる。まだきっと自分よりも酒に弱いドリル子は部屋で寝ているだろうし、散らかっている。夜になって自発的に彼女が部屋の掃除をしてからではないとドリル子の部屋へ行く気がしなかった。
校正原稿をテーブルに置きながらフォルダを開く。そこには『原稿・1b』から『原稿・13b』までのWordファイル、それにJPEGの表紙画像が保存されている。役目を終えたテキストファイルはフォルダに纏めておいた。
手始めに『原稿・1b』を開いて、紙の校正原稿の最初のページから赤ペンで訂正されているところをWord内のデータに反映させていく。
校正原稿には数多くの修正がペン入れされていて、カレーちゃん・ドリル子・槍鎮・高雄・国語教師の五人分の文字があちこちに書き込まれている。
「ふむふむ……こうして見ると……修正箇所にも特徴があるのう」
カレーちゃんは三度の物理書籍化で大雑把に修正するべき部分を捉えて、全体の半分以上は自分の書き込みである。
次に書き込みの多いのは国語教師の八馬だ。文法や表現に厳しく目をつけ、一文まるまる修正して正しい例文を隣に書き込んだりしている。
その次が高雄。彼は意外に歴史や物語に詳しいのか、作中の登場人物の名前の誤字、時代考証などで但し書きをしていた。
次に槍鎮。地味ーに細かいところを見ていて、誤変換らしきところに「誤?」と赤ペンを入れていた。誤変換はまったくの無意識にやるミスで、読み返しても送り仮名がしっかりしてれば脳内で補正されるのか見逃すことが多いためありがたい。
最後にドリル子。赤ペン数が少ない。読み込むのが苦手なのだろう。
「修正修正また修正……一番役に立つのは高雄のじゃな……うわ思いっきり人名間違っとる。こういうのは文法ミスより致命的じゃしなあ……」
WEB掲載なら指摘されたときに直せばいいが、販売となると責任が大きくなる。購入作品で間違いに気づいた読者は下手をすればレビューなどで「ここミスってた」などと指摘されて販売数が落ちる可能性もあった。
自分で出版する電子書籍なのでなんなら簡単に修正できそうにも思えるが、とカレーちゃんも考えたのであったがそうは問屋が卸さない。
単純に言えばKDP(Kindle Direct Publishing)の規約にて「誤字修正や挿絵修正などの単純な間違い訂正で何度も変更するな」というものがあるのだ。
いやまあ、実際は変更してもいいのかもしれない。変更したからといって罰金を課せられるわけではない。ただ審査されて「微修正だから駄目」と反映されないこともあり得るのだ。
修正が通らない、というわけではないがなるべく修正しないように校正段階で間違いは消していきたいところだった。
「一番げんなりするのは国語教師の修正じゃな。正しいのかもしれんがやる気がモリモリ削られていく……」
生徒に指導するように多く修正されている国語教師、矢原八馬の修正はとにかくうるさい。
正しい日本語。正しい表現。正しい活用法。正しい文章構成。
確かにそう指摘するのは、ある意味ありがたいのかもしれない。
「これを如何に必要か不必要か見極めるか……ストレスになるのう……」
カレーちゃんは胃のあたりを押さえながらWordで適度に修正箇所をスルーしつつ打ち込んでいく。
小論文のごとき正しい日本語が必ずしも面白い小説には繋がらない。
四角四面に形式通りに書かれた完全無欠の文章は、確かに間違いの指摘やツッコミを受けないだろう。そう書かれている小説が多数派でもあるかもしれない。
だがカレーちゃんのようなトンチキなアイデア勝負の三文小説家は下手に真面目くさった文章を書いていると、設定やキャラの珍妙さが浮くような気がするのだ。
お硬い大人が難しい顔をしながら読む小説ではなく、ライトノベルの中でも更に軽いネット小説なのだ。多少地の文が乱れていようとも、軽妙に読めればそれでいい。書き手の癖を直すのではなく味付けとして残しておく。
実際、校正会社に出してもそういった癖のような日本語表現の部分は修正の対象外になったりする。
なので国語教師の日本語矯正とでも言うべき修正は、正しくともカレーちゃんはそのまま従う必要を感じなかった。もちろん明らかに誤表現などのところは修正していくが。
「うーんうーん、しんどいのう……っていうか儂が二回もじっくり推敲した後なのに赤ペン多すぎて病む……儂、仮にもプロの小説家なのにこんなに赤だらけの原稿になるってことあるかのう……」
原稿に修正されている部分をWordに打ち込んでいくだけ。
新卒の事務員でもやれそうな作業だというのに、自分の文章力を否定され続けているようで、作家にはひたすらストレスになる。
こういう時に原稿ファイルを1から13まで小分けしていると作業の区切りが付けやすい。人間には集中力の限界というものがあるので、よほど切羽詰まってなければ一日で全て修正しようとせずに適度に休憩を取ってやった方が見逃しも減る。(ただし熱意があるうちにやらねば作業時間がひたすら伸びていく)
焦る必要はない。そう自分を落ち着かせる。
なにせ時間を急かす編集者は居ないのだ。
カレーちゃんはかつて、三冊目の本を出す際にどういうわけか校正がギリギリになって「あと30分で最終稿を上げないといけませんから、今から一気に目を通して修正箇所を読み上げるんですぐ手元のパソコンで修正してくださいね!」と電話口で言われたことがある。カレーちゃんが原稿を出したのが遅れたわけでもないのに。半泣きでやらされながら、どういうスケジュール組んでるんだと思った。
「はぁ……はぁ……儂の小説じゃ……口出しはさせんぞぉ……」
しんどい思いをしながら校正をしていると息も上がってくる。心を強く持つために独り言を言いながら国語教師の辛辣な訂正をスルーしていく。
誤字修正。誤表現修正。文字足らず、改行ミス、脈絡のない意味不明なネタの削除。
曾我時致が突然ブルーゲイル涙払うシーンとか権利的に危うい部分も消す。カレーちゃんが脳内で閃いたフレーズが適当に散りばめられているだけで、決して必要ではない。
結局この自作出版というのは究極的に自分にしか迷惑を掛けないのでどんな文章でも好きに書いて出してもいいのだが、出版社シールドが無いという点には注意が必要でもある。
とはいえ誰に規制されているわけでもない。
作業時間は掛かっているが、今回は制作にお金も掛かっていない。
どんな文章だろうと、編集者が投げ出すような一般受けしなそうなネタだろうと、出版して損はしないのだ。自由にやってもいい。
ただ最低限に、読めるものに仕上げれば。読者の評価はさておき。
自分が好きな文章。自分が思いついた展開。自分が創造した世界。
他人に邪魔されることなく、それを発表して読者を喜ばせる。それだけでなくお金まで入ってくるのだ。素晴らしいことだと自分に言い聞かせてカレーちゃんは校正を進める。
限りなく趣味に近い仕事だ。
普通の仕事は納期や条件が発生するが、自作出版は殆どそれらは無い。
自分が働き、自分が出した結果に、他者からの評価がそのまま報酬となる。
ストリートパフォーマーのようなものだ。あるいはYouTuberも似たようなものかもしれない。自作電子書籍出版は文学的YouTuberだ。殆ど精神的な疲れで意味不明なことがカレーちゃんの脳裏に浮かんできた。
そして、どうにか『原稿・6c』まで終わったあたりでカレーちゃんは限界が来た。
「うげー! もう駄目じゃー! ストレスで死ぬー! 終わり終わり! 今日は終わり!」
とりあえず半分ほどでこの日の作業を終了する。一日で全部終わらせた場合、間違いなく見落としが出るので翌日に二周目をするハメになったりするため、休憩は重要だ。
「よし、儂頑張ったから酒でも飲むか……もう夕方じゃな。うん。儂頑張った」
昼頃に起きてから夕方まで校正をしていた計算になる。数時間もひたすら原稿に向かえば流石に集中力も限界だ。原稿自体は本一冊分、カレーちゃんなら一時間半もあれば読み終える程度の文量なのだから、それほど確認と修正には時間が掛かるものだ。
「言っちゃ何じゃが、仕事とはいえ毎日フルタイムで8時間ぐらい、なろう小説を読んで校正作業しておる編集とか校正会社の人とか大変じゃのう。気が狂わんのじゃろうか。他人のことは言えんが、中には文章がアレな作品もあるじゃろうに」
趣味で毎日なろう小説を読んでいる人はそれなりに居るだろうが、仕事で細々としたところまで読み込み、誤字脱字誤表現を探す校正をするとなると、カレーちゃんは自分の作品だけでも大変だというのに他人の作品をしかも毎日毎日やらねばならないとなると大変だろうと想像しかできなかった。
例えばカレーちゃんの担当になっていた編集者はなろう小説を6作品ぐらい担当していたらしい話も聞いた。途中で音信不通になって蒸発するのわからなくもない。
「ま、とにかく気分転換じゃな。ドリル子さんの部屋で飲もうっと。つまみぐらいあるじゃろ」
カレーちゃんは紙パックの麦焼酎(甲乙混和)を手に、ドリル子の部屋へと向かった。
*****
「来てますわ来てますわ……ドリルの時代が!」
カタカタとパソコンを操作しながら血走った目を爛々と光らせているドリル子が部屋にはいた。
カレーちゃんは若干引いたものの、年の功でそっとしておこうと判断し、焼酎を割る用の炭酸水とレモンを冷蔵庫から拝借した。ドリルタイプの果汁絞り器でレモンを潰してチューハイを作る。
「くぴくぴ。あー美味い。最近は脳が疲れると糖分ではなくアルコールや酢を求めるのう」
「カレーちゃん! 来ましたの! 今日はどんな動画を撮りましょう?」
「なんじゃ、毎日やらんでもよかろう。面倒じゃし。休憩ってもんが必要じゃろ」
「でもでも、チャンネル登録者数がこの3日ぐらいで3万人に増えましたのよ!? 凄い上昇ですわ! 動画再生数も合計40万突破ですわ!」
「知らんが……まあ凄い数の人が見とるのだろうのう?」
これまでの動画、「カレーちゃんとドリルハンバーグ作り」「カレーちゃんとドリルビリヤニ作り」「カレーちゃんとドリルジンギスカン」の三本で一気にバズって、謎のドリル女とロリババアがやってるチャンネルとしてネットで知れ渡ったのだ。
それ以前は殆どドリル子の顔すら動画に出ていなかったので、凡百のドリル動画(YouTubeにはドリル系動画は無数にある)でしかなかったのだが。
そこまで歌やピアノが上手でない動画主でもエロいコスプレした女の子だったら再生回数が上昇するアレみたいなものである。この二人の場合は日本人離れした容姿でアホなことやってるのも受けた原因だ。
自分のTwitterなどフォロワー数は1500ぐらいしか居なかったはずなのに、どうしてそんなに盛り上がるのだろうかとカレーちゃんは首を傾げた。ひょっとして動画を切り抜かれてホモビデオと組み合わされたMADでも出回っているのだろうか。
若干気になったがふとドリル子に尋ねてみる。
「それで幾らぐらい金が入るのじゃ? ユーチューバーというものは」
「ええと……動画一回あたりの広告費が0.05円ぐらいとしたら……40万再生で、2万円ぐらいかしら」
「多いのか少ないのかわからんのう」
「一つの動画で約10万再生ぐらいですわね。つまり5000円……10本アップしたら5万円。20本アップしたら10万円の収入になりますわよ!」
「そんなに撮るネタがないじゃろ……」
カレーちゃんも小説を書いているのだが、せいぜいアップできるのは週に1本、1万字から2万字ぐらいだ。
書くものの方針が決まっていて凄くやる気に満ちていたら、1週間で13万字の一冊分書けたのであるが、それぐらい頑張ってしまうとしばらくは書くネタも無くなってしまう。
だがドリル子は動画の盛況に酔ったように「うふふ」と笑いながら言う。
「別に動画のネタなんて軽いのでいいんですわ。見てみなさい。世の中には別にネタすら仕込んでいないペットの動画を撮影してアップし続けているだけのチャンネルが登録者数何万とか稼いでいる世の中ですわ。一日数分でも継続していればそこそこ暇な方が見てくれるのですわ。カレーちゃんがドリルで戯れる日常でも撮影しとけばバッチグーですわ」
「そんなもんかのう。儂はさっぱりYouTuberの動画なんぞ見ないから知らんのじゃが」
「というわけで軽く数分でもいいですからカレーちゃんを今日も撮影ですわ! 今日のアイテムはこれ……『ドリルプレッシャーパンツ』を履いてみた!ですわ!」
「淫具を出すでない!」
股間にドリルのついた女性用下着を取り出したドリル子の手を叩いて落とさせる。床に落ちるとスイッチが入ったのかドリル部分がヂューンと回転し、ドドドドドと振動が響いた。
「こんなもん年寄りの腰につけたら一発でいわすわ! そもそも下品じゃ! ドリルチンコみたいじゃろ!」
「下品な発言しないでくださいませ! 広告を消されますわ!」
「ちょっと待て!? 撮影しとるのか!?」
「しっ……してませんわー」
「どこにカメラを仕込んでおるのじゃ!?」
そう。部屋に隠されているのはドリル子製の『ドリルカメラ』。本来は穿孔した先を撮影する機能だったのだが、ビデオカメラの性能を上げたことでiPhone並の撮影が可能になったものだ。見た目は完全にドリルで部屋中に散らばっているので、一目にはどこにカメラがあるかわからない。
カレーちゃんが部屋にやってきてからチューハイを勝手に作るシーンもしっかり撮影済みである。
「まあまあカレーちゃん。今日もお料理作っていいですから。ドリルで!」
「料理作るもなにも、お主の冷蔵庫なんも入っておらんぞ……」
「……昨日、ジンギスカンで使い過ぎましたわね。今日は買い物に出かけてませんし」
「食べれるドリルとか作っておらぬのか」
カレーちゃんの皮肉にドリル子は腕を組みながら考える。
「難しいですわよね……砂糖細工などで作るとドリルとして使ったときに崩れますし。あ、ルビーよりも硬い鰹節をドリルの刃に使えばドリルとしての機能も維持しつつ、使ったら削り節になりませんかしら。今度工場に発注掛けておきますわ」
「作る工場があるのか。そんなバカみたいな道具を」
「松戸ドリル工場って会社なんですけれどね。わたくしが実家から縁を切られてもまだ付き合いがあるのですわ」
ドリル子が無理を言って変態ドリルを大量に生産させた会社なのだが。
一応は彼女が動画内で宣伝したドリルを売る際には、その工場にある不良在庫から引き取って販売することになっている。しかしながら今だに怪しげな新ドリルの開発をやらされているという。
「なにか残り物でつまみを作れんかのう……もうレトルトカレーだけで飲んでもいい気がしてきたのう……」
「レトルトカレーのどこにドリルを介入させますの」
「ホットドリルでお湯沸かせばよかろう」
「安易ですわ!」
「仕方ないのう……お。引っ越し蕎麦があった……ってこれ槍鎮が持ってきたやつじゃないか? 去年の」
「……そういえば置きっぱなしでしたわね」
「なんか一年放置されてたら食う気がせんのう……」
ごそごそと台所の食品棚を漁るカレーちゃん。他の部屋と違ってこの大家のところだけ台所はちゃんとスペースが取られ、IHのクッキングヒーターがついている。
「儂の部屋の炊事場なんぞ、公衆便所の手洗いみたいな大きさの流しと、シアーハートアタックが突っ込んできそうなしょぼい電熱調理器しか付いておらんのに……」
「仕方ありませんわ。安いんですもの。カレーちゃんなら特別に、改装したければやってもいいですわよ。カレーちゃんの自費で」
「料理するときはお主の部屋の台所使うようにしよう」
「それをわたくしが撮影すればWin-Winですわね!」
「撮影料に食材ぐらい欲しいものじゃが……仕方ない。この湿気を吸って不味そうな蕎麦を使ってみよう。本日のカレークッキング、ネパールカレーのお供『ディロ』じゃ」
カレーちゃんはエプロンを着て台所に立つ。
「まず欲しいのは蕎麦粉じゃが、蕎麦があるのでこれをドリルでバキバキの粉末にする」
「買ったほうが早いですわよね」
「お主がドリル使えって言っとるんじゃろーが! 普通にやるなら蕎麦粉に小麦粉、お好みでトウモロコシ粉やキビ・粟なんかの雑穀粉を用意するのじゃ。蕎麦麺の場合は最初から蕎麦粉と小麦粉が混ざっておるからのう。粉っぽくなったら塩少々に熱湯を入れてドリルで撹拌。吸水するまでひたすら混ぜて、ネチッとした団子みたいにする」
「蕎麦掻きみたいですわね」
「完成じゃ」
「え」
皿に盛られる、灰色の塊が二人分。
手で千切ってもちゃ……もちゃ……と咀嚼する。ドリル子が思わず真顔になるような、見た目そのままの素朴な味だった。
「……」
「これをカレーにディップしたり」
「そ、そうですわね」
レトルトカレーを皿に移して、千切ったディロをカレーに浸して再びもちゃ……もちゃ……と噛む。
カレー味がディロに染み込むような、全然染み込まないような。いや、馴染んでいない。ナンや米、チャパティなどに比べて合うか合わないかで言えばまあ合わない。有り体に言ってもちゃもちゃした蕎麦掻きを食べているだけにすぎない。
「……せめて、こう……焼いてガレットみたいにしませんこと? この蕎麦掻き」
「それじゃあディロじゃないしのう」
「あんまり美味しくありませんわ……」
「まあ凄く旨いというものでもないが、次のブームで来るかもしれんじゃろ」
「ブーム?」
ドリル子の懐疑的な声にカレーちゃんは頷く。
「世間のカレー通では『今どきナンとかもう古いでしょ』とか言っておるじゃろ? そんで次にカレーに合わせるものとしてプチブーム来たのがチャパティやビリヤニじゃ」
「いや全然知りませんわ」
「そこから更に進んで『チャパティとかありがたがるなんて貧乏人』とか『ビリヤニはカレーじゃない』とか色々言われとるから、次辺り南インドのドーサとか、ネパールのディロとかが持て囃されると思うのじゃが」
「蕎麦掻きが持て囃される時代は来ないと思いますわ……ドーサってのはなんですの?」
「ナンじゃないぞ。ドーサじゃ」
「だからなんなのか聞いているのですけれど」
「じゃからナンじゃないと言っておるのじゃ」
もちゃもちゃと蕎麦掻きを咀嚼しながら駄弁るだけの動画だったが、まあそこそこ再生数は伸びたという。
自作電子書籍化作業進展状況。
1:下書きをメモ帳で作る CLEAR!
2:下書きをWordに移して推敲・校正して初稿を作る CLEAR!
3:初稿を更に校正・他人に確認して貰う CLEAR!
4:表紙を描く CLEAR!
5:KDPアカウントに登録 CLEAR!
6:振込先の口座を作る CLEAR!
7:返ってきた校正初稿をWordファイルに反映させる 進行中
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────『彼』は『小説家になろう』にアクセスして、ある作者の作品を読んでいた。
最初は斜め読みに、ざっと全体を流し見して「こんなものか」と思った。
蔑み、侮り、見下し、軽んじた。
鼻で笑い、高を括り、取るに足らないと思った。
見くびり、安く踏み、嘲るようなつまらないものだった。
そうして安心した。
やがて『彼』は気づいた。
小馬鹿にするような内容で、面白さの笑いよりも嘲笑が浮かぶような作品だというのに、苛々しながら延々と読みふけっている自分に。
他者の感想を見るが、概ね楽しんでいるものばかりで、自分が感じるような作品の幼稚さを指摘し、こき下ろすようなものは少ない。
それもその筈だ。所詮は無料のネット小説。面白くない、合わないと思えばブラウザを閉じて別の作品を探す。酷評を態々感想に書くのは逆に熱心な読者である。
だが自分がつまらないと思っている作品が他者に評価されていると、どうしても気に食わない感情が浮かんでくる。
なぜこんなに雑な文章が。荒唐無稽な話が。他人を侮辱しているような物語がなんでこんなに受けているのか。曲がりなりにも、書籍化などされたのか。
『彼』は苛立ちながら、分析するようにその作者の作品を隅々まで読み続ける。何かを見つけるためのように。何かの秘密を暴くように。
いかにプロ編集とはいえなろう小説6作品同時校正はヤバいと思う




