第3話『校正作業を開始しよう』
なろう小説セルフ電子書籍化計画その一、原稿(下書き)作成。
カレーちゃんはひとまず下書きを完了させた。
缶詰で臭くなったのでドリル子さんの部屋にある風呂を借りて入ったあと、ついでに彼女の部屋にノートパソコンを持ち込んで作業再開することにした。カレーちゃんの部屋はカレー臭がこもっているから一旦換気中だ。
「……それで、原稿が完成しましたの? 読ませてくれるのかしら」
「まあ待つのじゃ。まず儂が作った下書きのファイルは現在テキストドキュメント……メモ帳で保存しておるわけじゃな」
カレーちゃんがパソコンの画面を見せながら解説をする。
『ゾン曾我・電書用』と名前を付けられたフォルダに、メモ帳が1から13まで、約1万字ごとに章分けされて保存されていた。
「なんで統合して一つのドキュメントに纏めず、小分けしていますの?」
「こっちの方が修正するとき区切りしやすいのじゃ。やってみればわかるが、一冊分を一つの文章ファイルに纏めると横のバーが長くなりすぎてパッとどのあたりの作業をするか選択するのが面倒になるし、先が長過ぎると集中力が途切れる。じゃから小分けにしたやつを最終的に統合する形がやりやすいと儂は思う。
それはそうと、まずはこのメモ帳に横書きで書かれた下書きをWordソフトにコピーして縦書きへと書式を変更する」
「どうして最初からメモ帳じゃなくてWord縦書きで文章を書きませんの?」
「……」
カレーちゃんは答えに窮して固まるが、ドリル子さんは首を傾げる。
「Wordならある程度は誤字修正とか段落修正とか自動でしてくれるから最初からWordで書いていれば楽なのではなくて?」
「そこは……ほら。なろうに投稿するのって基本的に横書きの作品ばっかりじゃろ?」
「Word横書きで書けばよろしくてよ。それにメモ帳だと使えないハートマークなんかの特殊文字もWordだと使えますし文字数カウントも楽ですし……」
「ええい! いいのじゃ! どうせメモ帳からWordに移しても最終形は同じじゃからどうでもいいのじゃ!」
カレーちゃんは怒鳴るようにして意見を封殺した。
元々WEBに投稿する用ではWordを使ってまで真面目に作品を書いていなかったとか、Wordは起動するのに微妙に時間が掛かるのがなんとなく嫌だとか、まあ言ってみれば「なんとなくメモ帳に書くのを続けている」としか言いようがない。
最初からWordで書いてれば楽だというのは百も承知だが、仕方ないのだ。
「それにしても、縦書きにするんですの? WEBで掲載されているのは横書きだから、読者も横書きが見やすいのではなくて?」
「時々誰かがやってるのを見かけたりするのう。横書きの電子書籍。でも流行らんあたり、多くの読者は縦書きを求めておるのじゃろう。多分」
彼女が売りたいのは画期的な手法の小説ではなく、普通に売れるやつなのだ。独特な作り方をしたら話題にはなるかもしれないが、読みにくいと思う読者の方が多いだろう。もし横書きは流行りだしたらそれに便乗すればいい。
カレーちゃんはパソコンを操作して、別のフォルダにあるWordファイルをコピーして『ゾン曾我』のフォルダに持ってくる。
「ここで取り出したるは『テンプレート・Wordファイル』じゃ」
「なんですの、それは」
「簡単に言えば以前儂の小説を書籍化した際に編集者から指示されたWordのページ設定じゃな。つまりそこの出版社の本の見開きサイズで文字数と行数が指定されておる」
文字数は縦に42文字、行数は34行である。文字サイズは極端に大きいか小さいかしなければどうでもいい。電子書籍なら自由に読み手で変えられる。
「へえ。そんな指定が……どういう理由で指定されてますの?」
「うみゅ。まあ文章のレイアウトなんかの問題があるのじゃな。例えばゾン曾我の文章で……
『曾我兄弟は激怒した。必ず邪智暴虐なる工藤祐経と源頼朝を討ち果たさねばならない。あれ? なんで自分は源頼朝も殺そうとしているのだっただろう
か。
そこへサングラスを掛けた北条時政が陽気な拍子で尺八を吹きつつ現れた。ぶおおおぉー。ぶぉおおー!』
こんな風に改行されたとしたら、『か。』の後はスカスカの空白になるじゃろ?
そしてそんな空白が沢山あったら全体がスカスカに見えるじゃろ?
だから本にしたときそうならんように、
『曾我祐成は激怒した。必ず邪智暴虐なる工藤祐経と源頼朝を討ち果たさねばならない。あれ? なんで自分は源頼朝も殺そうとしているのだろうか。』
こんな感じで削って一行に纏めてくれとか、あるいは付け足してスカスカ感を減らしてくれとかそういう指示をされるわけじゃな」
「あー……わたくし、小学校とか中学校の頃、作文の授業でその行の始めで文を終わらせて行数を稼ぐ手法使ってた覚えがありますわ」
「まあ、文字の大きさがスマホやらタブレットやら拡大縮小やら好きにできる電子書籍ならそこまでこだわらんでいいとは思うが、とにかく基本的なページレイアウトの設定として『縦書き、文字数42、34行』としておけば間違いはなかろう」
あくまで目安であるが、カレーちゃんとしても複数の出版社と関係を持ったわけでもないので他の会社のやり方は知らない。
だがまあ、下手に行数や文字の大きさで悩むよりはさっさと決めてしまったほうがいいだろう。カレーちゃんはテンプレートファイルを更にコピーして『原稿・1a』と名付ける。
「このaというのは?」
「とりあえずの目印じゃな。推敲や校正をするたびにb、cとアルファベットを変えておくと、あれこれ分割したファイルでどこまでチェックしてるか一目瞭然になる」
「なるほど」
そしてWordを開いてひとまずメモ帳からコピーしたものをそのまま貼り付ける。
「これで完成ですの?」
「ここから推敲と校正じゃ。読み返して間違えてる表現、誤字、てにをは修正なんかをする」
「最初から書くときに気をつけていれば……」
「不可能なことを言うでない! よいか、誤字誤表現をせん作家なぞこの世には存在せんのだ! どんだけお偉い賞持ち大作家様だろうが、アホみたいに間違えとるに決まっておる!」
「そこは願望なんですわね……」
必死そうな顔で言うカレーちゃんを哀れむドリル子だが、実際に誤字などは書いてる最中にはわからないものだ。
かつて昔、紙も印刷代も非常に高価だった時代の宗教的に注意が必要だった聖書の印刷も、現代でも凄まじく気をつけて何回も校正会社を通してコンピューターも使って誤字脱字を調べる辞書・辞典すらも時折誤字が見つかるほどだ。人類は誤字をするものだし、それを見逃すものだ。
「……はっ! そうじゃ。メモ帳からWordに転載して改めてWordで確認することで、最初からWordで書いていたら気づかなかったかもしれん誤字などを再発見できるのじゃ」
「今考えましたわよね」
「ふっ……だとすればどうだと言うんじゃ?」
「なんですのその自信は」
「とにかく、今からジッとWord画面とにらめっこして修正するのでな。頑張る儂に昼飯を作っておくれドリル子さん」
「図々しいですわね……」
「カレーでよいぞ」
「材料あったかしら……」
仕方無さそうにドリル子はため息をついた。大学時代からの友人で貧乏しているのだから、食事ぐらいは奢ってやる程度の関係ではある。
その間にカレーちゃんはパソコンのモニターを睨みつけて、文章の校正に入る。
手直しが必要ない、ということはあり得ないことをカレーちゃんは以前の書籍化作業で知っている。下手をすれば丸々書き直すようなところも出てくるだろう。
「例えば同じ言葉を近い位置で何度も使っておるようなところは変える……と」
例えば、二行続けて『例えば』などの言葉を使っていると明らかに変だ。だが書いている最中はあまり気づかない。
例えばこういう場合は他の単語に置き換えるか、いっそのこと『例えば』とか『多分』とか『おそらく』とか『あるいは』みたいな言葉は消しても文章の意味自体は通ることがあるだろう。
他にも文章末が同じ締めの言葉が繰り返されているのも、実際読んだときに著しくテンポが悪くなるだろう。
『だろう』とか『~なのだ』とか『である』といった言葉は少なくとも連続して繰り返さないようにした方がいいだろう。
こういうのも書いているときは全く気づかない。読み返して改めて気づくことが何箇所もある。できれば心の中でもいいから声に出して自分で書いた文章を読むことで改善されるだろう。
※上記は意図的に何度も使っている例なので誤字報告の必要はないだろう。
「ついでにルビも先に振っておこうかの。Wordのルビ機能を使うか」
出版社を通した書籍化の場合は、ルビを担当編集が付けてくれていたのだが自作ではそうもいかない。
「ルビって結構、本によって振る基準が違いますわよね」
台所から麦茶を持ってきたドリル子が何気なくそう聞く。
「難しい漢字が並びまくってるのにルビが振られていない本とか、逆に子供向けなのか常用漢字にすら振ってあるのも読んだことがある気がしますわ」
「そこら辺の基準は出版社によって違うのじゃろうな。まあ儂の場合は余程読みにくい漢字じゃなければルビはいらんが……日本が舞台じゃから、人名の漢字にはルビが必要じゃろう」
「そうなの?」
「うむ。人名が脳内で再生されるかどうかで物語の没入感が変わってくると思う。幾らキャラを魅力的に書いても『このキャラの名前なんて読むんだろう』って気になってるとイマイチじゃろ? そして案外、歴史モノでは読みづらい名前が多い。曾我兄弟にしても……これなんて読む?」
カレーちゃんがドリル子に見せたのは曾我兄弟の兄、『曾我祐成』という字だった。
ドリル子は若干答えにつまりながら口に出す。
「そが……そが……ゆうせい?」
「すけなり、と読むのじゃな」
「祐をスケって読みにくいですわ……」
「訓読みじゃと『たす-ける』じゃからな。人の助けではなく天や神の祐けという意味で使われる」
「あら? それだったら祐は『すけ』じゃなくて『たす』じゃありませんこと?」
「……」
「現代の人名でよく見るのだと祐介とか祐太郎とかですけど、どっちもユウって読むから全然スケって感じしませんわ」
「そ、そんなこと言われても、曾我兄弟の名前は決まっておるのじゃから仕方なかろう! とにかくこういうのが読みにくいと困るから、その人物の名前が最初に出てきたときに『曾我祐成』とルビを振っておくわけじゃ!」
カレーちゃんは勢いで通してWordにルビを振る。
「まったく、それにしても曾我祐成のイマイチ名前の知られとらんことよ……同じ仇討ちものでも『大石内蔵助』や『荒木又右衛門』じゃったらみんな名前知っておるのに」
「そうは言いますけれどわたくしも荒木又右衛門なんて、山田風太郎の『魔界転生』ぐらいでしか見たことありませんわ」
「最近の若いものは仇討ちに興味ないのかのう」
ぶつぶつ言いながらもルビを振る。人名や役職、土地名などが主にその対象になる。もちろん何の規則があるわけでもないので、必要だと思う部分は幾らでもルビを振ってよい。
しかしWord縦書きでルビを振ると、妙に行間が開いて見えた。
「うーむ? ……あ、ルビの設定でルビ自体を小さくできるのか」
ルビの大きさを5から4に変更。多少は行間が開くが、そこまで気にならない程度にはなる。
それから全体のレイアウトも修正しておく。WEB掲載時は見やすさを重視するため、地の文とセリフの間は一行空けて書くのがカレーちゃんのやり方である。他にも一行ごとに空けるとか、セリフを二行空けて強調して見せるなど様々な作品が投稿されているだろう。
だがそれは横書きにしたWEB上での見やすさ重視であり、縦書きで本として読まれるのを意識する場合は『普通の本』と同じように余計な改行が無い方がいい。パッと見開いたときに文章量スカスカな方が読みやすいという人もいるかもしれないが、情報量が少ないのにページ送り回数が増えてうんざりしてくることもある。
もちろん編集に指示されたり、出版社の規則に従って書かねばならない、というルールは無いため自分のオリジナリティを出しても自由だろう。少々懐かしいが効果音や叫びを大文字で強調しても構わない。
だがまあ、殆どのライトノベルでも一行ごとやセリフごとの改行はしていないので、ここはギュッと改行を消しておく。
「書籍用に書いたやつなのですから最初から改行しないように書いていれば……」
「シッ!」
ドリル子の指摘を再度振り払う。書くときというのは自分にも読みやすいように書かねば調子が出ないのである。
「ついでに『漢字にするか平仮名で表記するか問題』も最初のうちに決めておいた方がいい」
「なんですの? それ」
「簡単に言うと……そうじゃのう。ここの部分じゃ」
カレーちゃんはゾン曾我の一文を指で示す。
『曾我時致は己の体が醜いゾンビぃになっている事に狼狽えた。
「何っ!? 何だァ!?」 』
「……ここがどうおかしいのかしら?」
「まあそこまで拘らんでもいいって者もいるじゃろうが、このセリフどう読む?」
「『なにっ!? なんだぁ!?』じゃありませんこと?」
「じゃが漢字表記だと『なんっ!? なにだぁ!?』とも、読めなくもないじゃろ? なにだぁはともかく、『なんだ』って言葉が詰まって『なんっ』になっておるかもしれん」
「すると、ルビを振りますの?」
「いや、ここはこうする」
『「なにっ!? なんだぁ!?」』
つまり『何』の一文字で読ませるときは平仮名表記にするという手法じゃな。このセリフぐらいパッとわかる部分はいいが……
『「はァい曾我兄弟! お前らはゾンビぃになってしまったのでもう何も出来ませェーん!」』
といったセリフじゃと『なにもできません』なのか、それとも『なんもできません』と訛っているのか読み手によって脳内再生も変わってくるじゃろ。こういうのを平仮名に修正しておく」
「本当に意味ありますの?」
「知らんわ! 前の出版社の編集がそうしろって言っとったんじゃ! ……他にも『為』は『ため』、『其れ』などは普通に『それ』、『事』は『こと』など平仮名でいいかなって部分は誤読を避けるために変えておく。最初にどの漢字を平仮名にしておくか、メモ帳で対応表などを作ればいいかもしれんな」
カレーちゃんはテキストドキュメントを開いてひとまずメモしておく。
何→なに
事→こと
為→ため
其れ→それ
所、処→ところ
などなど、他にも色々あると思うので必要そうなのを探していこう。
「他にも漢字で『できる』を『出来る』と表記するのか平仮名で『できる』と表記するのかも、予めどこかにメモっておいて修正する。一つの本でバラバラに使っておったら見苦しいからのう」
あと統一しておいた方がいいのはアラビア数字と漢数字の問題である。これは縦書きの場合だと曾我兄弟が仇を打った日を作中で西暦表記すると、90度横方向に1193となってしまう。これを避けるには大文字で一文字ごと改行して
1
1
9
3
年
みたいにするか、あるいは漢数字で全て統一して『千百九十三年』あるいは『一一九三年』のようにした方がいいだろう。出版社でのやり方だ。
「あら? そういえばカレーちゃんの前に出した本だと、無駄に『いう』とか『いった』とかの文字が『云う』『云った』とかになってなかったかしら」
「カッコつけのためじゃ。確信犯で使う分にはまあええじゃろがい」
「そ、そう……」
時代小説風だったので以前の作品では味付け程度に、古めかしい表現などをあえて使っていたりもした。
結局の所読みやすいかどうかというのが問題であるのだが、重要なのは『作者的に読みやすい』ではなく、『初見の読者が読みやすい』という客観的な視点に切り替えて校正しなければならない。
なにせ作者は頭の中に情報の全てを持ったまま書いているので、描写不足でも難読漢字でもマイナーな歴史や登場人物でも、頭の中では理解できているのでどうしても『これぐらい読めるだろう……』という思考になりがちなのだ。
そこをグッと堪えて読み返すのだが、これが割としんどい作業ではある。自らの過ちに気づいては修正していくのだ。ついでに言えば、客観的な思考になるために最低でも書いてから一日後ぐらいに読み返すことを推奨する。できればもっと時間を空けると、作者視点という魔法が解けていく。
全文を十三個に分けたWordファイルなので、一つずつ片付けていく区切りとしては丁度いい。カレーちゃんは一時間ほど唸ったりしながら画面と格闘して、どうにか『原稿・1a』を『1b』に更新した。
疲れて彼女は両手両足を伸ばして床に倒れ込みながら息を吐いた。
「プハー! 疲れた! 自分の書いた文章を校正するの本当に嫌なのじゃ! 読者に誤字報告されることの十倍ぐらい嫌!」
本当に息が詰まるような、やっていてあまり面白くない作業なのである。
WEBに投稿した小説丸々一冊分を校正し直すのと、ゼロから一冊分書くののどちらが疲れるかというと、案外に前者かもしれない。
「普通、自分で添削するより読者に報告された方が嫌なのではなくて?」
「誤字報告は見ないし修正せんからどうでもいいのじゃ。しかしこれは修正せんわけにはいかんし」
「もっと読者に感謝してコミュ取りなさいな……」
「とりあえず一息つこう。胃が痛くてたまらん……お昼ご飯は?」
「仕方ありませんわね」
世話係のドリル子さんが台所からカレーライスの皿を持ってくる。
若干シャバシャバした茶色いルゥに浸った白いご飯。具はじゃがいもだけだ。ドリル子さんも不動産こそ持っているが、金銭的にあまり余裕が無い。
だが普段からレトルトカレーを水で伸ばしたようなものしか食べていないカレーちゃんは気にせずにスプーンを手にする。
「いただきますなのじゃ! おっ……このまろやかでコクのある味……具が少ないのにいい感じに出汁が出ておる気がする……大豆のような味わいが……ふむ! カレー博士の儂が見るに、チベットの豆のペーストを溶かし込んだ豆カレーの一種じゃな!」
したり顔で言うカレーちゃんだが、ドリル子さんは冷めた顔で告げる。
「朝ごはんの残りの、じゃがいものお味噌汁にカレー粉を入れただけですわ」
「カレーに対する冒涜じゃ!」
味噌はある意味豆のペーストかもしれないが。
だが、味噌汁はご飯に掛けると美味しい。カレーもご飯に掛けると美味しい。ならば味噌カレーがご飯に掛けて美味しくならないわけがない。
ガツガツと二人は貧乏人のカレーを胃に叩き込んだ。味噌の味わいのおかげか、そこまで悪くはない。決してちゃんとしたカレーほどではないが、雑な旨さという感じだ。お湯でカレー粉を溶かすよりはちゃんと味噌汁の出汁が出ているおかげだろう。隠し味でウスターソースを掛け回すと更に風味が増す。
「それはそうと、一部分とはいえアレで校正作業は完了ですの?」
「いや。あの後、紙に印刷して紙媒体でじっくり目視確認して修正する」
「紙もデータも書いてある文字は同じなのですからちゃんとWordで修正しておけば間違いは残らないはずではなくて?」
「のーこーるーの! どういうわけか知らんが、紙にして見直さんと絶対絶っっっ対ミスが残るように宇宙の法則で決まっとるんじゃ! 赤ペン持って誤字誤表現に二重線でチェック入れていく!」
「それをWordに入れ直して完成?」
「暫く寝かして後でまた印刷して確かめる」
「……何度も確かめなくても」
「必要なのー! 何度も見直さないとミスに気づけないようになっておるのじゃー!」
校正の道は長く、つらいのである。
自作電子書籍化で一番大変なのはなんといってもこの原稿を用意する段階である。幾らWEBに掲載していたものを使うとはいえ、修正に修正を重ねる。
これが出版社を通しての書籍化ならば、修正作業を担当編集、校正会社で分担してくれるので作者の作業量はかなり減る。個人的に自分で全部校正をやるとノーマル書籍化の5倍は疲れる。それだけ苦労しても誤字が残るのだからつらい。
「というわけでドリル子さんや。プリンター使わせて欲しいのじゃ」
カレーちゃんの部屋にはプリンターが存在しなかった。物理書籍化のときはデータ入稿であり、出版社の方で下書きを印刷して作者へと送ってくれてそれを修正していたので特にプリンターが必要な環境ではなかったのだ。
ドリル子から許可を得て、ひとまず先程完成した第一章を印刷する。
紙を整えてさて、作業をするかと再び机に向かったのだが。
チュイーン、バリバリバリ。ドドドドドド。けたたましい音がドリル子の部屋に響く。眉根を寄せてカレーちゃんが隣の部屋を見ると、ドリル子が裁縫中だった。服を縫っているところを動画で撮影している。
「……いくら宣伝しても、そのドリル型ミシンは売れんと思うのう」
「はい!? なにかおっしゃいました!?」
ドリル子が特許を持っている独特の形状をしたミシン、ドリルミシンである。どういう原理かはカレーちゃんも知らないが、ドリルを服に押し付けるような形で裁縫が可能という画期的かはわからないが奇抜な代物だった。ミシンとは思えない音と振動が発生する難点がある。どうやら安アパートだが大家の部屋だけは防音が利いているようだった。
それで服を作っているところを動画に撮影してYou Tubeにアップしているのだが。
「……これじゃ集中できんのう。夜までここで作業を粘って夕飯もたかろうかと思ったが……仕方ない、部屋に戻るか」
カレーちゃんは原稿とノートパソコンを抱えて自分の部屋に戻っていった。
作業を再開したのだが、10分後。
「……あ、そうじゃ。食料の買い出しとか行かぬとのーう」
集中力が切れて買い物に出かけることにした。こういった作業はとにかく集中力との勝負になるため、一人で作業をするときは気が散らないように注意が必要だ。
頑張れカレーちゃん。まだ校正作業は10分の1も終わっていないぞ!
自作電子書籍化作業進展状況。
1:下書きを作る CLEAR!
2:下書きを推敲・校正して初稿を作る 進行中
カレーちゃんは臭くないよ
よしんば臭いとしてもスパイス的な匂いがするよ