外伝『カレーちゃんの現代ダンジョン考&目指せ書籍化!』
「次は現代ダンジョンモノが来るのじゃ!」
カレーちゃんの自信満々な言葉に、突然話を振られたドリル子は温泉掘削の作業を一時停止した。
カレーちゃんは野生のFランなろう作家である。
日がな一日、ゲームをしてカレーを食べて自堕落に生活している合間に書いた妙な小説を、なろうに投稿したり、同人誌として販売している。
生まれながらの吸血鬼なので、カスみたいな同人小説家という職業でもなんとか生存はできる美少女作家であった。
彼女の小説ジャンルは「トンチキな歴史」「怪しげな解釈をした宗教」「堕落したファンタジー」などの、どこに需要があるのか不明なモノであったが、なんかやけに買い支えてくれる少数のファンがいるおかげでどうにか活動している。
激しいボーリング音を止めてカレーちゃんに向き直ったのはドリル子。カレーちゃんの住むアパートの大家である、銀髪ドリルのお嬢様だ。アパートに温泉が欲しいので巨大なボーリングドリルで掘っているところであった。
ツナギの袖で汗を拭い、ドリル子は聞き返す。
「現代……ダンジョンモノですの? また新しい小説のジャンルかしら」
「うみゅ。現代ダンジョンには夢がある! 異世界ではなく、この世界での成り上がり! どことも知れん異世界ではなく地球世界で大金やスキルを得てチヤホヤされる快感! 流行りの配信ネタもスッと違和感なく導入できる。まったくオリジナルの異世界ダンジョンじゃと、その世界におけるダンジョンの成り立ち、国や組織、魔法設定などなど、読者に開示してうんざりされる長い説明を現代だからなあなあで済ますことができるのじゃ!」
「現代こそなあなあにできない気がしないでもありませんけれど……」
どうやらカレーちゃんが新しく書き出す小説のネタらしかったので、あまり強く否定してモチベーションを下げてもいけない。
カレーちゃんは常時、一発ネタのような短編小説を書き殴っているのだ。モチベが続かなかったら上手く連載できない。それでは商売のタネにならない。
同人小説を書いているとはいえ最低一冊十万字ぐらいのネタを書かねばならないのだ。
「もうちょっと詳しく説明してくださる? そもそも現代ダンジョンってなんですの?」
ドリル子は普段からカレーちゃんと付き合っているとはいえ、サブカルジャンルに詳しいわけではない。ドリルが出てくるアニメや漫画なら見るが、それ以外には疎かった。
それを説明するカレーちゃんも実のところ、真面目になろうの書籍化作品を追っているわけではないし、アニメも週に1か2つしか見ていない。最近はアプリで無料の漫画を読むのも若干億劫になり、新作ゲームは積んでいてもう既にクリア済みのゲームを何回もやって時間を潰している。そんな終わっている生活なのだがおばあちゃんだから仕方がない。こうなってはおしまいだ。オタクは加齢に弱い。
それでも一応は作家として広く浅くジャンルを嗜んでいるから雑な説明ぐらいはできた。
「現代ダンジョンモノというのは簡単に言えば、この現代社会にある日突然ダンジョンができてしまい、そのダンジョンを現代人の主人公が攻略するという現代舞台の異能怪奇モノに近いジャンルじゃな」
「ある日突然……ですの?」
「うみゅ。まあレアなケースとしては何百年も前からダンジョンが見つかっていて、現代社会そのものがダンジョンを前提とした社会になっておるとかはあるが、だいたいは突然できる」
「突然できるものですの? ダンジョンって」
「なんの理由もなく偶然発生する、異世界からの侵略ゲートを繋げられた、地球人が行ったSF的な科学実験の結果生まれるなど理由はあるが突然生まれるのじゃ」
ちなみにカレーちゃんは全部の現代ダンジョンモノを網羅しているとかそういうわけではないので、彼女の「こんなもんじゃろ」といった決めつけである。
「それで現代に生まれたダンジョンにはファンタジーの魔物がたっぷり! 不思議なお宝もどっさり! それを得るために主人公が潜るわけじゃな。主人公はたいてい高校生かブラック企業で疲れたリーマンじゃ」
「でも……現代が舞台だと国とか警察とかあるのでしょう?」
「そうじゃな。中にはダンジョンから溢れた魔物だとか魔力が影響して文明が崩壊しポストアポカリプスになってからスタートみたいなのもあるがのう」
「それなら魔物が溢れたり、お宝があったりするダンジョンって国が管理してしまうのではないかしら。危ないですし」
ドリル子の疑問にカレーちゃんは頷いた。
「だいたいだと国が間接的に管理して、民間に冒険者ライセンスみたいなのを発行して潜る許可を与える感じじゃな」
「魔物が出るところに行くのに、許可なんて出すかしら……?」
「そこも作品次第でどうとでもなる。入口がポコポコ発生し多すぎて管理しきれんとか、誰も魔物を倒さんと溢れるから害獣駆除業者として民間の冒険者を雇うとか」
「死んだら大問題にならなくて?」
「武装させた公務員を突っ込ませて死なせても大問題じゃろうし。補償も大変じゃ」
そもそも、とカレーちゃんが言う。
「資源があったり、駆除しなければ損害が出るし民間人が危ないから国が強い権限で絶対管理制限する! という確証はないのじゃ。もしそうなら日本の水産資源はもっとちゃんと管理されておるし、熊やイノシシやオオスズメバチを国がやっつけねばならんのじゃがそういうのはやっておらんじゃろ」
「まあ……そうですわね」
「資源があって危険な満州開発にも民間人を向かわせる国じゃぞここは。戦後でも南米あたりに国主導で棄民しおったし、黒部ダム作るのに民間人百人以上死なせたしのう。どうとでも危ないダンジョンに民間人を突っ込ませるリアリティはできる」
「国への不信感がひいおばあちゃんの年代ですわ……!」
ともあれ、ドリル子も現代にダンジョンができて、それを国がある程度容認しながらも民間人でも入れる状況を受け入れた。
もちろん中にはダンジョンが生まれて魔物が出てきてドタバタと、管理に至るまでの騒動を書いた作品もあるのだろうがここでは省く。
「それで現代人がダンジョンに挑むわけですわね。武器は? 銃とか使いますの?」
「意外とこのジャンルでは銃は役に立たんパターンが多い気がするのう」
「そうですの?」
「だって基本的に主人公は、多少なにかしら武芸をやっておるか、専門知識を持っておることはあるが一般人じゃ。それが銃ありでやるとどうしても銃を使い慣れておる専業軍人には戦闘力で勝てんじゃろう」
「どうして銃が役に立たなくなるんですの?」
「大きく分けると……
・魔物自体が硬すぎて小銃ぐらいは有効打にならない
・不思議なパワーで銃や火薬、近代兵器の類が威力大幅ダウンor使用不能になる
……って感じかのう。過激派だと不思議パワーで地球上すべての銃火器が消滅したりするやつもある」
ドリル子は内容を咀嚼して再び疑問の声を上げた。
「不思議パワーは仕方ありませんけれど……小銃を無効化する硬さの魔物をどう一般人が倒しますの?」
「ダンジョンで戦うことでステータスが増強されて超人になり剣の一撃が銃より遥かに高威力になるか、或いはダンジョン産のチートアイテムやチートスキルを主人公が偶然手に入れてそれで無双を始めるかじゃな」
「そういうのは普通の異世界モノと変わりませんのね」
「わかりやすいからのう。偶然手に入れる、或いは出現率が百億分の一みたいな低確率激レアアイテムというのがポイントじゃぞ。コツコツ努力して手に入れるのは他の人物に真似されてチートの優位性が減るからのう。或いは超難関ダンジョンを偶然クリアした特典でもいい」
転生して幼少時から鍛えるとか、世界に魔力が満ちていて鍛えれば鍛えた分だけ強くなるといったことはあまりできないジャンルなので、より外部強化の必要性が出てくるようだ。
「どうやって現代兵器や軍人を活躍させんかの理屈こそ重要じゃな。主人公が軍人や、国家総動員的な視点で進めるなら別じゃが」
「カレーちゃんはどういう設定で行きますの?」
「うーん……」
思い悩みだした。不思議なパワーで無効化される、ということにしたらそれはそれでアラが出そうで気になるのだ。火薬が爆発しなくなったら世界で燃焼がストップしたのかもしれないし、燃料の類が消えたらダンジョン潜るよりエネルギー危機に備えなくてはならない。単純に銃器がなくなったのなら製造される。銃器じゃなくて毒ガスを撒きながらダンジョン攻略する場合はどうなるのか。飛び道具が駄目なら弓矢も駄目なのか。などなど。
「現実的な場所で、銃が使えん状況ってどんなじゃろうな」
「真っ暗闇ならライトやスコープを使いますわね。サーモグラフィーなんかもありますし」
「火薬や燃料があちこちにあって発砲できんとか」
「魔物との戦闘で爆発しそうですわ。それに、一旦全部爆破処理するとかされそうで」
「やたら壁や敵が跳弾する材質」
「火炎放射器や爆弾がありますわ」
「……銃火器が効かないぐらいに魔物の防御力爆上げで、それを殴り倒せるぐらい人類の腕力なんかも爆上げ修正かのう?」
「世界中で鍛えた人類による争いが起きてダンジョンどころじゃなくなりませんこと?」
ちょっとやそっとの案では素人であるドリル子さんにすら、ぱっと思いつく設定上の脆さがある。
もはや、やっぱり魔法でなんかいい感じ、ということにした方が良いのではないか。そんなことをカレーちゃんが思っていると、
「魔法……そういえばとあるダンジョンRPGで便利な魔法が使えん厄介なフィールドがあったのう。あれは確か……水中ダンジョン。水中呼吸の術で潜れるのじゃが、喋れないから詠唱ができなくて魔法が使えない的なフレーバーだったかのう」
ゲーム的な難易度でいうとそこのダンジョンでは魔法使いがほぼ役立たずかアイテム係になる鬱陶しい場所であったが、
「そう! 水中ダンジョンじゃ! 水中なら銃火器も、無くはないが制限される。お宝やアイテムが出るのに軍人が潜らんのか問題じゃって、現実でわざわざ沈没船の財宝目当てに軍人が潜らんのと同じじゃ。魔物化した水生生物が大量にいる、海底のダンジョンということにしよう」
「潜水艦とか潜水艇が来るのではなくて?」
「デカいやつが縄張りに入ってきたら襲ってくる巨大鮫や巨大蛸が出ることにしよう。海じゃから幾らでも魔物を巨大にできるのじゃ」
大きな乗り物では近づけない海域なので、冒険者が人力で探索しなくてはならない。潜水艦の大きさは日本の『そうりゅう』型だと84メートル。それを齧り取るような巨大鮫ならば、人間ぐらいの小さいサイズは小魚みたいなもので視界に入らないという理屈である。
カレーちゃんは手元のタブレットで海に関することを調べながら頷いていく。
「海の中で使う銃もあるが、威力・連射力・射程・耐久性などは地上で使うものに比べればかなり劣るのじゃ。水の抵抗という壁があるから単純に大口径にするわけにもいかんので銃器の使用は制限される。一方で銛はなかなかの威力でクジラを仕留めることもあるからのう。メイン武装は銛とナイフじゃ!」
「渋いですわね……」
「そして公海という存在が便利じゃな。公海はどこの国の領土でもない、法律の及ばぬ場所じゃ。どっかの国が占有して管理することもできぬから、その海底にダンジョンがあって潜るだけの価値があるなら誰も止められぬ」
条約等で制限される流れはあるものの、基本的に公海は誰だろうと漁をしてもいいし、海底資源を掘り起こすのも問題はない。なんなら人工島を設置することさえ他者や他国が容喙すべきことではないのだ。普通、どこの賛成も得ずに公海で人工島を作るヤバい国は少ないだけで。
ただそれでも麻薬や奴隷の取引、海賊行為など世界中から敵視される行動もあるので完全な無法地帯というわけではない。
「公海に出現した高価なお宝や未知の魔物を手に入れるため集う、世界中からのならず者ダイバー! よし、舞台は整ってきたのじゃ」
「そんなに集うかしら……公海って陸地から200海里以上離れてますわよね」
「うみゅん」
「距離にしたら1海里が1852mですから、370.4km沖に行く必要がありますわ。それで、船の燃費は色々ありますけれど小型の漁船としてリッター1kmぐらいで計算すると、ダンジョンに行くのに必要なガソリンは往復で約740リットル。ガソリン価格がわかりやすく200円で計算すると、14万8000円も移動する燃料だけで掛かりますわ。生きるか死ぬかのリスクまであるダンジョンなのに。15万円も掛けて行きますの?」
「うぐっ!」
今どきのダンジョン攻略モノは、ダンジョン近くに町があるか、町中に入口があることが多い。古くはダンジョンまで馬車で遠征していたファンタジーが多かった気がするのだが、便利な世の中である。
近場ダンジョンの利点としては主人公パーティ以外に多くの冒険者が入りやすく、そこにドラマが生まれるというものだ。なんなら一つのダンジョンで延々と話を回せる。
「ならば公海上に冒険者たちの町、人工島が作られたということにするのじゃ。人工島はどっかの国ではなく暗黒メガコーポがダンジョン資源を集めるために作り、冒険者を呼び寄せた。暗黒メガコーポは暗黒金持ちが運営しておるから、冒険者を人工島へ運ぶ船代ぐらいどうにかできるじゃろ」
「魔物だらけの海に次々に冒険者を運ぶなんて邪悪な企業ですわね……」
「暗黒じゃからな。人権とか気にせん。大国とか国連にも賄賂を贈って誤魔化せるんじゃろ。よし、舞台は決まったのじゃ!」
公海にそびえる暗黒メガコーポが支配する人工島。
世界中から集められた命知らずの冒険者たちが、海底ダンジョンへとお宝を探して潜る──
「ところで潜水するのに、空気ボンベってどれぐらい持つのじゃ?」
「カレーちゃん知りませんの?」
「儂、ダイビングとかやったことないし。吸血鬼じゃから」
「えーと……調べると、深さによって変わるけれど30分から1時間ぐらいで海から上がるらしいですわね」
「そんだけ。ダンジョン探索するには短すぎぬか?」
「まあ……イオンモールも探索しきれない程度の時間ですわよね」
しかも水中なので移動は泳がねばならないが、基本的に泳ぐのは陸上移動より時間がかかるものだろう。
ダンジョン自体もあっさり攻略済みになるような規模では話が広がらないので、まだ誰も攻略できていない深淵の海底迷宮でなければならない。
30分か1時間ぐらいで攻略終了してはいかんのだ。
「仕方ないのう。ダンジョンから見つかった新素材を使ったハイテクボンベなら一日ぐらい軽く潜っていられることにしよう」
「一気に伸びましたわね……」
「更に新素材ダイバースーツなら深さ1万メートルとか潜れることにしよう」
「1万は行き過ぎじゃありませんこと!?」
「そんぐらい新素材を発見したら技術革新されるのなら、暗黒メガコーポだって本気になって資源回収するじゃろ」
「宇宙服とかにも応用できそうですわねえ。そんなに深いと海の中は真っ暗ですけれど、探索とかできますの?」
だいたい、水深が200mぐらいになると人間の目には真っ暗にしか見えなくなる。
ただ潜るだけならまだしもダンジョンを探索、お宝を発見するには過酷な環境だろう。ライトの類を持つにしても照らせる範囲には限界がある。
「うーむ、ダンジョン自体がやたら発光しておるとか」
「ゲームの古代都市みたいですわね」
「その海域だけ水の透明度が桁違いで日光を通す」
「前に透明化魔法で似たような話を書きましたわよね」
「冒険者たちはスキルや魔物を食べたことによる身体能力強化で、暗い中でも普通に見える」
「そういった説明がなくても割と光源のない迷宮なのにみんな見えてたりしますけれどもね」
「古き良きファンタジーの松明や光源魔法の代用として、投光器ドローンを近くに浮遊させてもいいかもしれんのう」
そんなことを話し合いながら物語の舞台を整えていった。
カレーちゃんはそこまでサクサクと案が出てくるタイプの作家じゃないので、ドリル子のようにツッコミ気味に反応してくれる方が設定が纏まるのだ。
ドリル子も居なかった頃はガチョウの人形に向けて独り言で相談しながら書いていたので、今はありがたかった。
「──よし! だいたいダンジョンの設定は纏まったのう! ではジャンル:ライトノベルで一番重要なのは……キャラクター!」
「納得ですわね」
ほとんどの読者というのは精緻な世界観だとか、矛盾のない設定だとか、息遣いすら感じるようなリアリティを求めて娯楽小説を買うわけではない、とカレーちゃんは思っている。偏見だろうか?
もちろんそういった要素も大事だろうが、まず物語に引き込まれるには魅力的なキャラクターが居ることだ。読者受けの良い主人公。読んでいて魅力を感じる女キャラ。
「極論、いい感じのメインキャラを動かせるのならば舞台はダンジョンでなくとも異世界でも現実でもなんでもいいのじゃ!」
「本当ですの?」
「いや……まあ……売れる売れないでいうと、某編集部の担当さんは『歴史モノは売れにくいし、多少売れてもハネないので止めときましょう』『現代の高校が舞台で青春ラブコメや変わった部活とかやるみたいなやつはもう新規だと自殺行為です』『悪役令嬢も今から長期的に売れだすのは修羅の道です』とかジャンル的にオススメできない話も聞いたが」
「具体的すぎますわ! ……売れてアニメになってるのもありますわよね?」
「業界の全体では知らんが、その上澄み以外は爆死しておるのかもしれん。それはさておきキャラクターじゃな」
カレーちゃんはしばし思い悩んで手をポンと打った。
「過去作のやつを流用しよう」
「なんでいきなり雑になりますの!?」
「雑とはなんじゃ、雑とは! スターシステムと言え! それにそのまま使うわけじゃないのじゃ! ベースをこれに、ちょっとこっちのキャラのチンピラっぽさを足して、こっちのキャラの軽口キャラも足していい感じに調整して……」
「ま、まあそれぐらいキメラすれば」
「名前はそのままでいいか……」
「なんでそこが雑ですの!?」
「色々作品書いてると今までにアレコレ出しすぎて、もはやユニークな主要キャラの特徴が浮かばんのじゃ! 語尾をゲスホロッホーにするとかよりマシじゃろ!」
「せめて名前ぐらい変えて別キャラと言い張りません?」
「ドリル子さんにはわからんのじゃ。名前をちょっと変えて出したら読者から『過去作のあのキャラみたいですよねw』と見透かされた感想を送られる気持ちが……」
「いやわかりませんけれど」
「キャラの引き出し少ないなと思われるぐらいなら同じキャラを出したほうがマシじゃ!」
謎のこだわりである。そもそも作者の引き出しが少ないのが悪い。ちゃんと真面目に創作するべきだ。
カレーちゃんはタブレットを操作して昔に投稿した自分の小説のページを開いた。
「とはいえ、該当のキャラやそのヒロインのことは名前と朧気な設定ぐらいしか覚えておらんのじゃ。読み返して確認してみようかのう」
「作者ですのに!?」
「もう書いたの何年も前じゃし……忘れてしもうた」
「忘れるものですの……?」
作者が作品について一番詳しい、というのは必ずしも該当しない。所詮作者など一回書いた程度の知識しかないのだ。しかもプロット決めずにその場のノリで書いていたらかなりあやふやになってくる。
カレーちゃんのその過去作がヒットしたわけではないが、ある程度は読者もいた。中には何度も読み返した人もいるかもしれない。その読者よりも現在のカレーちゃんは遥かに詳しくないだろう。駄目な作者である。
とりあえず自分の小説を読み始めたので、ドリル子も一旦作業に戻ることにした。アパートの庭に温泉を出そうとしているのだ。大丈夫。法的な許可はちゃんと取ってある。
暫くして。
「ほぎゃあ!」
カレーちゃんがのけぞって叫んだのでまたドリル子も作業を中断した。
「どうしましたのカレーちゃん」
「……む、昔に書いた小説を読み返しておったら……なんかエロ展開が混じっておった!」
「まあ……」
「自分が書いたエロ小説を不意打ちで読み返したときだけ負うダメージってのは絶対あるのじゃ……っていうかなにを考えておったのじゃ、七年前の儂。楽しくクラフトファンタジーからいきなりエロに舵を切っておるぞ。評価低かったから方針転換したのか……いや儂、あんまり評価とかPVとか見ないしのう。恐らく行き当たりばったりにエロ展開を書いたのじゃろうが……」
「カレーちゃん、別名義で普通にエロ一直線のノクターン小説も書いているじゃありませんこと」
「それはそれ! 性欲ヒャクパーで書いたのと、一般小説の気分でエロを混ぜたのは恥ずかしさの度合いが……ってドリル子さんや。頼むから友人のエロ小説アカウントをチェックせんでくれんかのう! ダメージが!」
様々な方向からメンタルダメージを負ったカレーちゃんは顔を青くしてタブレットを置き、深刻そうに呻いた。
「読み返すまではのう。主人公は軽薄だけどツンデレ気味の男で、ヒロイン1は少々アホだけど子犬系の懐く少女で、ヒロイン2は天然でクールビューティーぐらいに記憶しておったのじゃ」
「違いましたの?」
「主人公は風俗狂いの変態でヒロイン1はドマゾの変態でヒロイン2はヤンデレの変態じゃった」
「よくそんな設定にしましたわね……なに考えてましたの?」
「わからん……」
頭を抱えてカレーちゃんは呻く。本当になんでそんなキャラになったのか、まったく覚えがなかった。誰かアカウントをハックして書き換えてないかとすら疑った。
カレーちゃんは今でこそ執筆能力がダウンして、年に一冊出す程度の遅筆になっているのだがノリノリで連載していたころは脳内に浮かぶ話を大量に書き殴っていたので、キャラがブレたり唐突な下ネタが入ったりもはや続きが浮かばなくなったりといったことも日常茶飯事だったのである。
ドリル子が提案する。
「とりあえず新作のキャラは、そのカレーちゃんの脳内にあった架空のキャラ付けで行けばいいのではなくて?」
「そ、そうするしかないのう……途中で変態にならんようにキャラの性欲を排除していこうかのう……」
「カレーちゃん、エロ小説の性癖が若干アレだからスケベになるとおかしくなるのですわよね」
「あーあー」
耳を塞いで聞かなかったことにするカレーちゃんであった。
そんなこんなで苦労をしながらも、世の中の小説家は新たな物語を書き出していくのである! 頑張れカレーちゃん! 書籍化だカレーちゃん!
世の中の小説ネタなどというものは、ドリル子さんが掘っている温泉のようなものだ。
夢と希望を持って掘り続けるが、掘り当てたとしてもそれがカネになるかはわからないし、骨折り損になるかもしれない。
だが掘らねば日の目を見ないのだ。諦めずに出てくるまで掘っていくことが大事なのである。
「まあ……そもそも出版社から『こういうのうちで出しません?』って誘いがあったので書くのじゃが」
「あら! 今回は同人小説じゃなくてちゃんとした書籍になりますのね。おめでとうですわ!」
おめでとうカレーちゃん! そのうち投稿しようね! 宣伝は大事だよ!
https://gcnovels.jp/book/1926
アルト・ザ・ダイバー 1 異海ダンジョンに挑む冒険者と魔物握る寿司屋
現代ダンジョンモノで今度書籍化…書籍化でいいのか? とにかく新刊がGCノベルズから出ます!
そのうち宣伝としてアルトザダイバーの本編も投稿すると思いますが、どうぞよろしくです!




