壱:「開いてる」(5)
「そいつは!ダメの二乗ですわ!」
僕の朝食量が気に入らないのか、彼女は人差し指を左右に振ってノーをアピール。
「耕一君、いくつだね?」
「あなたと同じ十五ですけど」
振っていた人差し指を僕に向かって突きつける。
「十五歳の一日に摂取しなければならないカロリーは最低でも二千五百キロカロリー!バナナ一本のカロリーは八十キロカロリーなのだよ!わかるかね!?耕一君!」
健康番組か何かから取り入れたであろう情報をここぞとばかりに披露する。
「圧倒的に足りないのだよ!わかるかね!?耕一君!」
あまりに大声で周囲の視線は再び僕たちに向けられていた。
教師らしき人の熱い視線も焦げ付くほどに向けられて、今度は赤面して指を下げる。
「そういうわけだから、以後気を付けるように」
一通りのやり取りを終えて気づいたことは、彼女のオーバーな行動で自分のちっぽけな不安は取り除かれている。
彼女の犠牲に感謝しなければならないと思いながらも中庭へ向かった。
中庭には大多数の生徒達が群がっており、彼らの先には一年から三年までのクラス名簿が張り付けられた掲示板が立てられている。
「こんなことならもうちょっと寝られたじゃん」
バーゲンの主婦を連想させるような我先にと人混みをかき分けるほど強引に行く気もなく、人が空くのを待っている。
彼女にとって優先すべきは睡眠欲だった。
「夕子の睡眠の貪欲さを見習いたいよ」
「耕一も試してみなよ。長期睡眠は頭スッキリするよー」
スッキリしてもまだ寝ようとするのか。
「そんな事より、コウは私と同じクラスになれたら嬉しい?」
「え、あ」
唐突な質問に反応することが出来ず、機転の利かなさを呪う。
しかし、彼女は答えを急かす事なく待ってくれていた。
「腐れ縁だしね、何だかんだ一緒になったら面白いかなとは思う」
思ったよりも斜め下の答えを口に出してしまった。
本当ならば、『そうだね』で済む話だったのにも関わらずだ。
「コラー!青少年は素直に喜んだらどうやー!」
右手を握り拳にしながら叩こうとする真似を見せているが、笑みを浮かべているので冗談だとわかる。
主観ではあるが、細かい事を気にしない彼女の器はでかいと思う。
彼女とやり取りをしている間に自分のクラスを確認した生徒達が教室へ向かい、掲示板付近が空いたので僕達もさっそく確認作業に取り組んだ。