壱:「開いてる」(2)
春の香りが漂う四月の頭。
朝の陽ざしが数多の桜花を照らし、天使の羽根を想像させるかのように美しく舞いながら、人々へと降り注ぐ。
車道を挟む両脇の歩道には桜の樹が並び、アーチを描くように続いている。
歩道の先には『赤坂高等学校』(赤校)を掲げた校舎が聳え立つ。
赤高は寮を完備した全生徒数が千を超える進学校。
特に秀でた分野はないが、自主性の高さが人気で競争率が高い。
黒の学ラン、紺のセーラーが基本であるが、崩した着方やパーカーを上に着用している生徒も中にはいる。
生徒の自主性を重んじているため、注意されることはない(ただし、逸脱しすぎると教師の判断で注意されることもある)。
赤高の入学式を迎えた僕も数多の生徒に混じりながら登校している。
名は神崎耕一、中学での成績は中の上、卓球部。
赤高を受けた理由は、家から十五分というシンプルなものだ。
そこに惹かれたのだが、登校中の見知った者がおらず期待よりも緊張と不安が勝っている。
何故なら、僕が内向的な性格で人に話しかけるのは苦手だからだ。
中学は小学からの地続きなので、付き合いのある人間がいて心配はなかった。
友人は卓球で有名な高校へと進学してしまった。
嘆息しながら門を通り過ぎようとした時、
「おーい、コウ!」
後方から恥ずかし気もない大きな声が僕を呼ぶ。
周囲の視線を集め、辱めを受けながらも振り返る。
肩にかけた紺のスクールバックとスカートを揺らし、綺麗なフォームで近づく。
三十センチ程度の距離で膝に手をつき、中腰で息を整えた。
「はあ、はあ、ん、置いて、くなよ。せっかくなんだし一緒に行こうよ!」
十五分の距離を休憩入れずに走ってきたのだろうか、心拍数が上がっているようだ。
僕を見上げる形で、ポニーテールの幼馴染が抗議の目を向けている。
元気な彼女は周囲の視線を気にしない。
僕とは違い明るく社交的、彼女の名は柏木夕子、幼馴染だ。