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コルロルが「さあ行こう」と立ち上がり、手を差し出したのは、あたしの涙が収まったころだった。手を取り、立ち上がる。
「レーニス、感情が戻った感想は?」、とコルロルは半分振り返る。地面を引きずるほど長い髪を、誤って踏んでしまわないように、あたしは注意して歩いた。
「……最初は、最悪だった。コルロルが死んでしまったと思って、そうしたら、苦しくてたまらなかった。感情なんて、戻らなければいいと思った」
だけど、生きていると分かったとき、喜びの讃歌を聞いた気がする。それで気づいた。あたしが、あたしだけが、嫌な感情に支配され、体中を汚しまわって、目を曇らせ、すべてを汚く見せていたんだって。
「だけど、もう大丈夫」、あたしはコルロルの横に並び、彼を見上げた。「あたしはコルロルを愛してるから」
コルロルはぴたりと足を止め、一瞬硬直したが、すぐに顔を真っ赤にして一歩後ろへ下がった。尖った耳まで赤くなっている。
「レーニス、素晴らしいわ。本当に、愛が分かるのね」、リーススが小さな拍手と共に褒めてくれる。
「そうなの! よく伝わってないかもしれないけど、本当の本当のほんっとーーーに、すっごく大好きなの。コルロル、分かる? ちゃんと伝わってる?」
愛してると言ってみても、まだまだ心に想いが残っている気がして、すべてを届けられるよう、念入りに伝える。
「あのレーニスが……つんけんしてた頃が懐かしいよ」、ライアンは大げさに目じりに指をやっている。「だけどそろそろやめてやってくれ。コルロルの方がもたない」
気が付くと、コルロルはあたしに背を見せてしゃがみ込み、服の胸の辺りを両手で握っていた。気になったのか、リーススがどこからか紐を取り出し、ささっとコルロルの髪をひとつに縛った。
「まさか、レーニスがここまで率直とはね」、ライアンはバシバシと、強めにコルロルの肩を叩いた。「もちろん愛は素晴らしいけど、ひとつ確かに言えるのは、コルロルの言っていた通り、人の感情はバケモノだって、俺は思うよ。欲も含めてね」
コルロルはしゃがみこんだまま言った。
「でも、心のありようによっては、神にだってなれる。僕は今、世界の全部を手に入れた気分だよ」
2人は顔を合わせると、『ひゅーーー』っと口を鳴らした。そうして笑ったコルロルには、牙の名残のように、尖った八重歯が覗いていた。
「それにしても、コルロルの人間として人生が、こんな崖底から始まるなんてな」
あたしはそこから上を見た。切り立った崖がずっと上まで続き、頂上は見えない。
「そっか、もう翼はないんだ。ちょっと残念だったりする?」
冗談っぽく尋ねると、コルロルも「まあね」と笑う。
「でも今は、どこまでも歩きたい気分だ」
彼はあたしの手を取って歩きだす。そして、それが新しい翼であるように、コルロルはあるがままに両腕を広げた。
おわり★




