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背負うもの  作者: ボールペン
第三話 それぞれの生い立ち
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従姉の茶飯事

 午後二時半を回った頃。色々とぼやいていた梨花も結局友人とショッピングに出かけた後で、土曜課外授業を終えた従姉が帰宅した。


「ただいま・・・」


「おう、おかえり」


 朝も眠そうだったが、昼下がりになった今も、変わらず彼女は眠そうにしていた。半目気味でふらふらとリビングに着くなり、朝に悟史と梨花が散々惰眠を謳歌したソファの上に倒れ込み、そのまますやすやと寝息を立て始めたのだ。


「おい、優!

 飯くらいは食えよ!」


 既に昼ご飯の準備を終えていた悟史は慌てて、ご飯も食べずに眠りに入る従姉を何とかソファから助け起こし、食卓に着かせた。


「ぅううう・・・・、ねむい・・・」


「電車の中で寝りゃぁ良かったやんけ・・・」


 朝よりもぼんやりとしたまま、それでも行儀よく食べ物を口に運ぶ彼女に呆れながら、悟史は彼女のブレザーをハンガーに掛けた。


「でんしゃ・・・、ひと・・・、おおい・・・」


「あ~、わかったわかった。

 早う食ってようけ寝りいや」


 土曜日の昼下がり。恐らく、電車も満員で席に座れなかったのだろう。家ではこんなだが、外ヅラだけは一流の彼女である。どんなに眠くとも授業は真面目に受けるため、眠気を解消する機会が無かったらしい。普段はその利発さが滲み出たような難しい単語をつらつらと並べて梨花と会話しているのだが、悟史と話す時だけはとてものんびりした、ふにゃっとした語調になる。


 更に今は眠気に襲われているため、輪をかけてIQが下がってしまっているようだった。


「食べてからはいっぺん身体を動かせよ?

 すぐ寝たら牛になるばい」


 冗談を言っても、睡魔に飲まれているのか優は意識も絶え絶えに首をかくかくと動かすばかりだった。それでも食に対する認識は根強いようで、瞼も開かないのに咀嚼をし、首は絶えず上下左右へと倒れては起き上がりを繰り返しながらも、喉を詰まらせることもなく器用に飲み込んでいた。


 彼女は元来食べることが好きなようで、好きなものを好きなものだけ食べるのが夢だと常々語っていた。しかし運動部に所属していない現在、あまり食べすぎると太ってしまうからと、悟史の言うことも聞いて間食を控えていた。そんな彼女が、十五時前まで眠い中食事を我慢して学校から帰ってきたのである。眠ってしまいたい気持ちと、ご飯を食べたい気持ちとがぶつかり合い、その結果このような器用なことをしていた。


「ごちそうs」


 そして、テーブルに並べられた料理を余すことなく平らげると同時に、彼女は椅子の背もたれに寄りかかり、美しく伸びた真っ直ぐな黒髪を垂らし、項垂れるように夢の世界へと旅立ってしまった。


「おまえ、そんなになんかかっとったらコケるばい」


 全くもって世話の焼ける従姉である。呆れてため息をつきながらも、さぞかし幸せそうにすやすやと眠りこける彼女を抱きかかえると、悟史はそのまま二階の彼女の部屋まで運んでいった。




 優の部屋に足を踏み入れるのは、そんなに珍しいことでもなかった。あまりに寝覚めの悪い日には部屋に入り、彼女が抱きかかえている布団を引き剥がして、そのまま彼女を肩に担ぎあげリビングまで無理やり降ろすこともあった。優自身は結局ソファで二度寝を決め込むのだが。


 その時も、特に部屋の中をまじまじと眺めることはないし、そもそも他人のパーソナルスペースを犯すつもりもさらさら無かった。部屋に入ったら、真っ直ぐに優の元へと行き、叩き起こすだけ。この時も、彼女をベッドに寝かせ、布団を掛けたらすぐに出ていくつもりだった。


 しかし、ふと部屋の中で目に入ったものが悟史の足を止めた。


「・・・・?」


 それは、床に無造作に転がっていた。


「写真・・・?」


 何故床に転がっていたのか。恐らくは、今朝急いで家を飛び出したため、その準備の際に散らかしたウチの一つなのだろう。よく見ると、床には他にもいろいろと散らばっていた。


 しかしその中でも、特にその写真が悟史は気になってしまった。ゆっくりと拾い上げ、彼はそれを、まじまじと眺めた。





 それは、優の幼い頃の写真だった。


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