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背負うもの  作者: ボールペン
第二話 空野有利砂
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旧友の噂話

 悟史は、中学生時代の“黒い眼光”としての悪名があまりにも有名だったが故に、高校生となった今もなお彼を畏怖し、近づこうとしない者がほとんどだった。


 一部を除いては。


「よっ、ガット!

 ひっさしぶりぃ!」


 不意に後ろから声をかけられ振り向くと、そこには髪を綺麗に金髪に染めた、背の低い、如何にも頭の悪そうな男子生徒が立っていた。


 学ランは前のボタンが全て解放され、下に着ている深緑色のパーカーは一切隠匿の気を見せない。耳にはそれぞれ三、四個のピアスがごてごてと着けられており、髪も整髪料によって逆立ったような形に固められていた。


「・・・・??」


「あれ、忘れたん?

 俺や、俺!




 “にしき”やって!」




 その名を耳にし、悟史の脳裏にはまるで走馬灯のようにかつての記憶が舞い戻ってきた。


 彼は小学生の頃、特に仲の良い友人のグループを七人ほどで作っていたのだ。目の前の男が“にしき”と言ったのも、悟史のことを“ガット”と呼んだのも、確か当時の呼び名だった気がする。


「ああ――――、にしきか」


「なんやぁ、えらい冷めた反応やんなぁ!」


 彼は、そう言って笑いながら悟史の背中に掌を張った。


「小学校以来の再会やぞ? もーちょい嬉しそうにしてくれてもええやんけ」


「言うてたった三年ちょいやろ?

 そんな久々でもないやんけ」


 にしき――――“川西 和樹”とは、中学校進学と共に別れてしまい、それ以来の間柄だった。互いにそれからの三年間など知るはずもなく、本来なら久々の再会に歓喜するところなのだろうが、先程の梨花の話が気になりそれどころではなかった。


「まあまあ、そう言わんと、ね?」


 しかし、それでも悟史の悪評は耳にしていないはずがなかったのだが、彼の態度を見る限りどうやら本当に知らないようだった。




「そういや、お前知っとるか?

 黒坂で一番の美人っち噂の先輩の話」


「さあ? 全然聞いた事ねーわ」


 川西との会話は、やがて思い出話から最近の話題へと転換した。


「え⁉ 知らんのん、お前⁉

 うわっ、もったいねえ‼」


 川西は頭を抱えながら、嘆くようにそう言った。


「そりゃそうやろ。お前、まだ入学して一週間くらいしか経っとらんやんけ」


「いやいやいや、そうやとしても噂くらい聞いたことあるやろ!

 確かに俺も実物はまだ見とらんけど、相当らしいばい」


 段々と思い出してきたが、彼は昔からこういった俗っぽい噂話の好きな奴だった。仲の良かった連中の中でも特に女好きで、手当たり次第の女友達に告白をしては振られるというのを繰り返していたものだった。


「割と入学前から有名な話やけどなぁ」


「・・・ふ~ん。

 ま、俺には関係の無い話やわ」


 しかし、そうは言うものの、悟史もいち男子高校生である。それがイケメンな男だとか、そういった同性の話ならともかく、やはり美人と評判の異性の話となると、多少なりとも気になるものである。


「ホンマに言ってんの?

 マジで美人らしいばい? その先輩」


「お前、ちょっと好みの女やったら誰も彼も可愛い可愛いっち言うやんけ」


 それでも、そもそも女好きの言う“美人”や“可愛い”という評価は、往々にして信用ならないものである。


「えぇ・・・。いや、まあ俺も又聞きやけん保証は出来んけどさぁ・・・。

 でも、マジでなしてスカウトとかテレビとかと無縁なんか分からんレベルなんやっちさ」


 なんにせよ、百聞は一見に如かずである。今ここでこの女たらしに、どれだけ情報を訊き出したところで、あくまで脳内で創り出した虚像が膨らむだけであった。


「・・・で?

 その美人の先輩とやらは、なんちいうん?」


「あ? 名前?


 なんや、結局ガットも気になっとるやんけ!」


「ええけ教ええや」


 催促する悟史に対しにやにやしながらも、川西は顎に手を当て、視線を彼の頭上に移して小さく唸った。


「確か――――、





 ――――“空野 有利砂”っち言ったかな」


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